後輩攻めをさせてみたかった17


翌日、少し躊躇ったけれど防音室へ行く。
まだ輝は来ていないようだったので、アサのアルバムをセットして流しておいた。
独特なテンポに合わせてベースを弾くと、気が安らぐ。
ここに、輝のギターが加われば、安らぎは楽しさに変わる。
そう思っていた矢崎、防音室の扉が開いた。
そこにいた輝が、一瞬立ち止まる。

「もう、来てくれないかと思った」
「そんなわけ、ないよ。今日も演奏しよう」
扉を閉め、早く弾こうとせかす。
輝はほっとしたように溜息をつき、ギターを構えた。


演奏している間は、昨日の大それた台詞を気にしている余裕はなかった。
いつものように奏でて、アサの曲を満喫する。
今日は、アルバムが一周する前に輝がギターを置いて座り込んだ。
疲れているのか、すでに肩で息をしている。
曲を止めて、傍に寄り添う。

「輝、今日は本調子じゃないみたいだ」
「ちょっと・・・調べ物してて」
よく見ると、目の下に薄らとクマがある。
テスト前でもないのに、寝不足なのだろうか。

「調子が悪いなら、今日は終わりにしよう。早く帰って、ゆっくり寝た方がいいよ」
「・・・ごめん」
心配になって、眉根が下がる。
寝不足の理由を教えてはくれなかったけれど、翌日、自然と分かることになった。


放課後、校舎を出ようとしたところで、輝が校門前で待っていた。
「あれ、先に行ってくれててもよかったのに」
「今日行きたいのは、防音室じゃないんだ」
目の前に、チケットが差し出される。
また寄生虫展かと思ったけれど、その詳細はとてつもなく驚くべきものだった。

「こ、これ、どうして、どうやって・・・!」
目を見開いて、興奮を隠しきれなくなる。
黒塗りのチケットには、銀色の文字で、アサと書かれていた。

「ネットで探し回って、音楽教室の人たちにも聞きまわって、やっと見つけた。
結構遠いけど、そんなこと気にしないよね」
「し、しない、どこだって、飛行機使ったって行く」
「このチケットのためなら、どこへでも来てくれる」
間髪入れずに、頷く。

「このチケットはあげる。その代わり・・・オレの家に来てほしい」
「そんなことでいいんなら、今すぐにでも・・・」
はずみで答えて、はっと口を閉じる。
すかさず、手首を掴まれていた。

「行こう、瀬人さん」
「あ、あう、あ」
もう口が回らなくて、ひたすら引っ張られる。
道中に会話はなく、黙々と歩いて行った。




初めて、輝の家に招かれる。
誰も帰ってきていないのか、中はしんとしていた。
中に入っても、片時も腕が離されない。
階段を上り、輝の部屋に連れられた。
「瀬人さん、オレはすごく狡い奴なんだよ。もっと早くに、跳ね除けておけばよかったんだ」
「そんなこと・・・」
ベッドに座ったところで、やっと腕が離される。

「オレは、たぶん瀬人さんがアサのチケットを欲しがってるのと同じくらい、瀬人さんのことを欲しがってる。
だから、交換しよう?」
「・・・僕なんかが、チケットに吊り合うとは思えないけど」
「オレにとっては、チケット以上に価値のある相手だよ」
指先で耳の形を撫でられて、わずかに肩を震わせる。
チケットと引き換えに体を差し出させる、なんて、確かに狡いやり方だとは思う。
それでも、よっぽどの恩義を感じているのか、嫌だとは言えなかった。

「1時間だけ、瀬人さんを自由にさせてほしい」
即答はできない。
迷うように、床の一点を見詰める。
何をされてしまうのか、不安感がないわけではない。
なのに、やはり、突っぱねることができない。
沈黙している時間が、やけに重々しく、長く感じる。
そんな空気を取り払うように、小さな声で「いいよ」と言っていた。

「・・・寝る間も惜しんで探したかいがあった。今はちょうど2時だから、3時の合図が鳴るまで・・・」
肩に腕が回され、耳元へ吐息がかかる。
今回は指でなぞるのではなく、柔らかいものが耳朶を甘噛みした
「ひっ」
変な感触に、変な声が出る。
それは湿り気を帯びていて、耳の外側をなぞっていく。
指で触れられるときとはまるで違い、たまらずシーツを握った。
柔いものは、遠慮なく中へも侵食してくる。

「あ、あ」
独特な感覚に戸惑い、体が勝手に遠ざかろうとする。
けれど、肩がぐいと引き寄せられ、留められた。
液の音が、直接耳の奥まで届く。
いやらしい感触と音に侵されて、母音しか発せなくなっていた。
息を大きくついて堪えていると、すっと舌が抜かれる。


「瀬人さん・・・オレは瀬人さんが羨ましかった。
一人になっても、敬遠されても自分の趣味を隠さないでいて、ずっとアサの曲を聞き続けていた」
「あ、う・・・だって、それが、一番だったから」
「オレは上っ面だけ取り繕って、平凡に成り下がった。だから、特別な相手で補完したがってたんだ。
特別な相手と親しくなることで、自分も平凡から逸脱できるんじゃないか、って・・・」
「僕、みたいなのが、特別・・・?」
「そう。オレにとっては自分自身がマイナス、瀬人さんはプラスに成り得る存在だった。
言ったでしょ、違う特質だからこそ惹かれるんだって」
心音が、激しくなる。

僕は輝を羨ましく思っていて、輝も同じことを思っていた。
そのことに、たまならいくらい胸が躍る。
「あと50分・・・好きにさせてほしい」
肩を押され、体がゆっくりと後ろに倒れる。
約束したことなのだから、今更抵抗しなかった。

輝の体が、覆い被さってくる。
全面に感じる体温が心地よくて、少し安らいだ。
そんな安らぎもつかの間、今度は首元に息がかけられる。
そして、耳と同じ、柔くて湿ったものが首筋をなぞった。
「ひ、や」
寒気が背筋を走り、まともな声が出せなくなった。

鎖骨の辺りから、ゆっくりと、舌が上へ弄っていく。
「あ、う・・・」
シーツを掴む手に、力が入る。
ぞくぞくとした感覚は悪寒だろうか、それとも、高揚、だろうか。
首は執拗になぶられ、動脈に触れられると肩が震えた。
艶かしい感触が往復するたびに、体温が上がってゆくようで
首がしっとりと濡れた後は、だいぶ頬が熱かった。


「服、脱がせるから・・・」
「う、うん」
有無を言わさず上着が取られ、肌着も引っ張られて脱がされる。
上半身が露になったと思いきや、次はズボンに手がかけられていた。
金具が外されると、すぐに下ろされ、下着だけの姿になってしまう。
水泳のときだって同じ格好はする、なのにやたらと恥ずかしく思う。
輝にじっと見詰められ、心音はどうしようもないくらい強くなっていた。

「瀬人さんの肌、白いや。いつも倉庫の中にいるからかな?」
「確かに、インドア派ではあるけど・・・あんまり人と比べたことない」
そう言うと、輝も服を脱ぎ始める。
腕や足に目をやると、細身ながらしまっていて、ひ弱な自分とはまるで違った。

「・・・トレーニングでもしてるの」
「オレは動きが激しいから、筋力も体力がいるんだ。
瀬人さんは流れるように演奏するから、見惚れる」
見惚れると言われて、素直に嬉しいと感じる。
普段なら、そんなお世辞は受け付けられないと思うのに。
たくましさのある体つきを見ていると、ふいに輝が身を下ろしてくる。

「あ・・・」
そのまま体が重なり、前面がまた温かくなった。
服を隔てているときよりも体温が鮮明で、目を閉じたくなる。
一方で、素肌を重ね合わせていると、心音が直に伝わってきてどぎまぎする。
輝も高揚しているのだと思うと、少し、嬉しかった。

「ああ、ずっとこうしていたい・・・けど、あんまり時間がないんだ」
輝が少し身を上げ、口端に唇を寄せる。
反射的に目を閉じたけれど、唇に重なることはなかった。
その代わり、輝は胸部をゆっくりと弄り始める。

「う、ぅ・・・」
滅多に触れられないところに這わされ、身震いする。
その感触はどんどん下がってゆき、腹部へと移動していく。
身をよじろうとすると、次は太股へ触れられ、それだけで制される。
脛を通り過ぎ、足首へ到達されると、思わず引っ込めようとしたけれど
すかさず掴まれ、足首を舌が一周した。

「ひ、う・・・」
か細い声を出すと、手が離される。
息を吐いて落ち着こうとしたが、もう片方の足も掴まれ、同じように這わされていく。
輝の舌が伝っていないところなんてなくなっていく。
いけないとわかっていても、体の反応が徐々に抑えきれなくなってきていた。
また体が上がってきて、口端に唇が触れる。


「・・・服ひっぺがしておいても、唇に触るのは躊躇うんだ」
「キスすると、相思相愛っていう感じがするから。オレが今してるのは強姦だよ」
男に使う言葉じゃないと内心つっこみつつ、無理強いされているとは思わない。
体の反応が、そう示していた。
「・・・アサのチケット、貰うんだから・・・何しても、いい、よ」
細々とした声で言うと、輝は一瞬目を丸くする。

「そんなこと言われると、もう抑えきれない・・・」
腕が持ち上げられ、輝の背に回すよう誘導される。
「怖くなったら、ベースの代わりにオレを抱いていて」
言葉を言い終えると同時に、唇が重なった。

今まで以上に柔らかなものを感じ、目を閉じる。
一時は安らいだものの、隙間を舌で割られてすぐに落ち着かなくなった。
自分から言い出したことなので、おずおずと口を薄く開く。
ほどなくして、自分の中に輝が入ってくる。

「ん、う・・・っ」
舌に触れられ、思わず声が漏れる。
舌先が窪みをなぞり、一気に熱が上がるようだった。
それは動きを止めずに、口内を縦横無尽に動き回る。
歯列をじっくりとなぞり、内側までもが弄られていく。
たまらず輝を抱く腕に力を込めると、舌が絡め取られた。

「は、あ・・・っ」
呼吸が、うまくできなくなる。
輝が動いて、撫でられる度に気分が高揚してしまう。
何度も何度も掻き回され、心音はとっくに落ち着きを無くしていた。
されるがままになっていると、徐々に動きがゆっくりとしてくる。
なだらかになった愛撫に、今度は心地いいものを感じてしまっていた。


やがて、口内にあったものが抜かれる。
輝の体温の余韻が残っていて、目はぼんやりと虚ろ気になっていた。

「瀬人さん、オレ、どうしようもなく興奮してる・・・」
それは、自分もとっくに同じだ。
隙間無く密接になっている今、お互いに体の反応を隠せなかった。
輝が少し身を浮かせて、下の方へ手を伸ばす。
とうとう、全て露にされると、そう覚悟した。
だが、その手が届く直前に、ピピッという電子音が鳴った。

「・・・時間だ」
輝が体を起こし、温もりが消える。
ベッドから下りたら、もう戻っては来ないだろう。
ベッドの上ではなく、自分の元へ。
反射的に、輝の腕を掴む。
輝は、目を丸くして以外な行動を見ていた。


「・・・アラーム、なんて・・・」
小声で呟いたが、羞恥心が口を閉じさせる。
けれど、羞恥以上に強い感覚が、続きを言わせた。
「アラームなんて、無視してもいい。・・・嫌、じゃないから、輝のこと」
アラームが、鳴り終わる。

「本当にいいの、もう、アサのチケットは瀬人さんのものなのに」
「・・・もう、チケットうんぬんじゃない。たぶん、そんなものなんてなくても・・・」
この気持ちは、本能的な欲望からかもしれない。
高まりきった感情を、解放させてほしいと。

輝の掌が、耳を撫でる。
安らぎを感じて目を細めると、輝は安心したように微笑んだ。
再び、手が下方へ伸ばされ、下着の中の中心へ触れた。
「あ、っ・・・」
起ちかけているものを包まれ、声が上がる。
下着がずらされ、とうとう全てをさらけ出された。

「感じてるんだね、瀬人さん」
隔てるものがなくなり、輝の手が動きやすくなる。
「あぅ、う、んん・・・」
手が往復するたびに、熱を帯びた吐息が発される。
あられもないところを触られているのに、少しも、突っぱねようと思えない。
高まった感覚は、むしろもっと触れられることを望んでいた。

「ああ、瀬人さん、オレももう・・・」
一旦、輝の手が離される。
刺激がなくなったとたんに、体が疼いてしまう。
自分は案外ふしだらなのか、それとも、触れている相手が、輝からだろうか。
もどかしさを感じてるさなか、自分の中心に新たなものが重なる。
それは他の箇所よりも熱を帯びていて、固さがあった。

「あ、か、輝」
「一緒に気持ち良く鳴ろう、瀬人さん」
ぐ、と下半身が押し付けられる。
そして、その二つともが掌で包まれて、上下に擦られた。

「あっ、あぁ、や」
高揚しているものが擦れ合い、体がびくりと跳ねる。
「瀬人さん・・・っ、これで、オレは、瀬人さんにとって、特別な存在だ・・・」
肯定するように、輝の背を抱く。
すると、手の動きが不規則になり、指の腹が下から上へと撫でる。
そんな優しい愛撫にも体は敏感に反応し、往復するたびに喘がずにいられなかった。


体を震わせているさなか、下半身が、妙に粘液質な感触を感じ始める。
それが、輝の高揚を示すものだと思うと、心臓が強く跳ねた。
指の動きがさらに流暢になり、輝の液が、まとわりついていく。

「ああ、は、う・・・輝っ・・・」
もっと求めるように、ほとんど無意識の内に名前を呼んでしまう。
「瀬人さん・・・オレのものだ、瀬人さん・・・」
独占欲を目の当たりにし、下肢のものがかっと熱くなった。

自分のものからも先走った欲が零れ、輝の液と入り混じる。
先端がぬめりを帯びると、輝と交わっているのだと、はっきりと自覚して
高まりに高まった衝動は、抑えようがなかった。
「も、う、だめ、輝・・・っ」
「瀬人さん・・・っ、気持ちよくしてあげる・・・」
粘液質な潤滑剤が、卑猥な感触を助長する。
全体を何度も何度も愛撫され、擦られて、それが脈打った。

「は、や、ん・・・あ、あ・・・っ・・・!」
次の瞬間には、とめどない欲が溢れ出す。
あられもない声を上げ、輝の手で、達していた。
先走りよりもずっと多い白濁が、お互いのものにかかる。
液が絡み付くと、輝も体を震わせた。

「ああ、瀬人さん・・・っ」
輝が、熱っぽい吐息をつく。
そして、未だ触れ合っている下肢へ、さらに液が絡み付いていた。
強く脈打ち、最後の一滴まで欲を吐き出す。
肩で大きく息をして、輝は力無く横になった。

同じく息をつき、ぼんやりと、熱の余韻に浸る。
輝の手に、いつものように耳を撫でられると、思わず身を寄せていた。
「瀬人さん、オレだけの特別になってくれる・・・?」
告白じみた言葉。
行為を最後まで拒まなかった時点で、答えは明確だった。
自分も、輝の特別になりたい、と。

口では言わずに、輝に身を寄せる。
とたんに肩が引き寄せられ、熱を帯びた素肌が触れ合う。
そのとき、輝とこうして密接になることに、どうしようもない幸福感を覚えていた。


翌日、いつものように防音室へ集まる。
一線を越えた仲になったけれど、態度が特別変わることはなかった。
「瀬人さん、今度の文化祭でアサのアレンジ曲を演奏してみようよ。有志発表でさ」
「そ、そんな、全生徒の前でなんて・・・」
不安げに、手に力を込める。
そのとき握られているのは、ベースではなく、輝の手だった。

異質な曲を発表するなんて、気が引けて仕方ないこと。
だけれど、全生徒に異質なものを見る目で見られても、大丈夫かもしれない。
自分のことを認めてくれる相手が、すぐ傍にいるから。



―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
後輩攻めシリーズ一番の長さ。出会いから始めたんで、だいぶじんわり風味でお送りしました。
このシリーズは最終的にいかがわしくしてなんぼなので、書ききれてよかったです←