後輩攻めをさせてみたかった2


部屋の一室では、小さな鍋の中でいかにも怪しげな液体が沸騰していた。
ピンクの蛍光色をした液体は、とても飲み物とは思えない。
それを鉄の棒でかき混ぜている本人は、最後の材料を今か今かと待ち望んでいた。

「ソウヤ、取ってきたぞ」
ショウが部屋に入ると、怪しい匂いが外に漏れないようすぐに扉を閉める。
待ちわびていた相手が入ってきて、ソウヤは目を輝かせた。

「やっと来てくれたんだね、ばれたんじゃないかと冷や冷やしてたんだよ」
「僕はそんな間抜けじゃない」
ショウは、持ってきた不気味な植物を鍋の横に置く。
一見、普通の人参に見えるけれど、とても食用とは思えないほど暗い茶色をしている。

「そうそう、これがないと効果が薄れるんだよね」
ソウヤは果物ナイフを取り出し、植物を真っ二つに切った。
切り口から泥水のように茶色い液体が溢れ出し、細い根っこが生きているようにピクピクと動く。
不純物が混じった土のような鼻につく匂いに、ショウは眉をひそめるが、
一方で、ソウヤは意気揚々とした様子でその液体を鍋に入れた。
とたんに、ピンク色がどす黒い色に変わる。


「・・・これ、本当に飲めるんだろうな」
「大丈夫、これで誤魔化すから」
ソウヤが銀色の粉を取出し、液体に振り掛ける。
すると、おどろおどろしかった色は薄い桃色に変わり、きつかった匂いも中和され、ほとんど無臭になっていた。
液体が一煮立ちするとソウヤが火を消し、氷の塊を入れると一瞬で液体は常温になった。

「はい、できたよ。先輩のお望みのもの」
ソウヤは液体を小さな水筒に移し、ショウに手渡す。
これなら、怪しい液体とは思われない良いカモフラージュだった。

「それにしても、こんな簡易的な惚れ薬作らせるなんて、そんなに仮初の愛情に飢えてるんだ」
「・・・そんなこと、ソウヤには関係ないだろ」
ショウがそっけなく言うと、ソウヤは一瞬眼を鋭くさせる。
けれど、すぐに人懐こそうな笑顔を浮かべた。


「まあ、ショウ先輩はいつもいろんな材料を持ってきてくれるし、深くは聞かないことにするよ」
さっきの植物は様々な薬の原料になるが、本来なら教員しか使うことはできない。
だが、ショウはこっそりと、実験室から拝借してきていた。
それは今に限ったことではなく、今までに何回も同じことを繰り返していた。
盗みが好きなわけではなく、ただ、鍵空けの練習をしたいだけで、
そのついでに、後輩に少しずつ材料を提供していた。
少量ずつなのでばれてはいないが、知られてしまったら罰則は免れないだろう。

「持ちつ持たれつの関係だからな。じゃあ、僕はこれを渡して来るから」
ショウは上機嫌になっていて、まるで気づいていなかった。
自分の背を見つめる視線が、とても鋭くなっていることに。

部室を出た後、ショウは早速相手の女子を呼び出して水筒を渡す。
女子は満面の笑みを浮かべていて、遠目でも喜んでいる様子がよくわかる。
そして、ソウヤはここでも強い眼差しを向け続けていた。




翌日、ショウは部室へ呼び出されていた。
昨日の今日でまた素材を拝借することを頼まれるのだろうと、ショウは何の疑いもなく部室へ赴く。
部屋に入ると、昨日と似たような匂いがまだ残っていた。

「時間ぴったりだね、ショウ先輩」
何かを作り終わった後なのか、台の上に布のかかったトレイが乗せてある。
ショウはそれをちらと見たあと、ソウヤに向き直った。

「今度は何を取ってきてほしいんだ」
「今日はそういうつもりで呼んだんじゃないよ。ちょっと面白いもの作ったから、食べてみてほしくて」
ソウヤが、トレイの上の布を取る。
またおぞましいものがあるのだろうと思ったが、そこにあるのは普通のクッキーだった。
花や木の形でかわいらしく、色も狐色に焼けている。

「たまには、怪しげなもの以外も作ってみたくなったんだ。好きなの食べてよ」
ソウヤがトレイを持ち、ショウに差し出す。
見た目はおいしそうな、市販で売っていてもおかしくなさそうなクッキーだが。
作ったのがソウヤだと思うと、その造形は逆に不気味に見えていた。
ショウが躊躇っていると、ソウヤはトレイを台の上に置いた。


「・・・やっぱり、食べたくないよね。いつも変な薬作ってる奴のお菓子なんて」
珍しく落ち込んでいる様子に、ショウは少し心苦しくなる。
ソウヤはいつも堂々としているだけに、クッキーを食べてもらえないだけで気を落としていることが意外だった。

「いや、貰うよ。折角ソウヤが作ったんだ」
ショウは花形の小さなクッキーを手に取り、思い切って口に放り込む。
一口噛むと、さくりとした軽い触感と、バターの香りが広がった。
味はいたって普通で、匂いも悪くなく危険物ではなさそうで。
安心して、2個3個と遠慮なく食べ進める。
その間、ソウヤは観察するようにじっとショウを見ていた。


何個か食べたところで、流石に飽きてきて手を止める。
「結構おいしかったよ。ソウヤが普通のお菓子を作れるなんて意外だった」
「そうだよね、意外すぎる。ボクが普通のつまらない物を作るなんて、ありえないことだよ」
最後の言葉に、ショウの脳裏に嫌な予感がよぎる。

「・・・僕、ちょっと用事を思い出したから」
そう言って、ショウはいそいそと部屋を出ようとする。
だが、ソウヤが扉の前にさっと立ちはだかり、後ろ手で鍵を閉めた。

「先輩、昨日は彼女とお楽しみだったんだよね。
薬使うなんて卑怯なことして、仮初の愛情を手に入れた気分はどう?」
ソウヤは口端に笑みを浮かべているが、それはどこか恐ろしいものに見える。
事情を詳しく説明することはなく、ショウは視線を逸らしたまま黙っていた。

「まあ、ずるいことするのはボクも同じだけど」
ソウヤがショウににじり寄り、間近に迫ろうとする。
本能が危険を察知して後ずさったが、すぐに背が壁についてしまった。

「逃げないでよ、先輩。昨日はこうして彼女に迫ったんでしょ?」
笑顔でいるソウヤが、奇妙に思えてならない。
目と鼻の距離まで近付き、体が重なる。
そのとき、ショウは何か感じるものがあった。
下半身が押し付けられると、体がやたら敏感になっていて反応しそうになる。
普通なら、こんなことで反応するはずはないのに。


「ソウヤ、まさか・・・」
「そのまさかだよ。匂いを消したり、風味を付けたりするの大変だったなぁ。
・・・ねえ、先輩、ボクを見て」
ソウヤがショウの後頭部に手を添え、下を向かせる。
視線が交差したとたん、ショウは引き込まれていた。
自分の意思に反して、目が逸らせなくなる。
そして、脳にとある感情が生み出されていく。
気持ちが高揚し、動悸がする。

「ボクに触りたくて仕方がなくなったでしょ」
「う・・・」
唇が触れそうになる距離で囁かれ、感じるものが強くなる。
けれど、その言葉はショウが思っていることと逆だった。



「・・・触りたいんじゃない」
予想外の言葉に、ソウヤは目を丸くする。
その後、すぐに眉根を下げて落胆を示した。
そんな姿を見ると胸が痛み、ショウは、ほとんど無意識の内に告げていた。

「触るんじゃなくて・・・逆、なんだ・・・」
また意外なことを言われて、ソウヤは一瞬だけ硬直する。
けれど、憂いの表情は消え、面白そうに笑った。

「あははっ、そうなんだ、先輩ってそっちなんだ。いいよ、触ってあげる」
ふいにソウヤが手を伸ばして、ショウの下肢の中心を軽く掴む。
「いっ・・・」
あられもない個所に触れられ、思わず肩が震える。
そのまま手が動かされると、服の上からにも関わらず熱が上っていくようだった。


「う、動かすんじゃない・・・っ」
羞恥のあまり、矛盾した言葉が口から出てくる。
「ボクが大人しく言うこと聞くような後輩じゃないって、知ってるでしょ」
ソウヤは手を放すどころか、ズボンのチャックを開けて肌着にも触れる。

「あ、っ・・・」
感じるものが強くなり、思わず声を上げそうになって反射的に口をつぐむ。
突き飛ばしてもいいはずだったけれど、今はそんな考えが及ばないほど他の感覚に囚われていた。

「男に触られても感じるでしょ。もう抑えられなくなってるはずだよ」
ソウヤはさらに事を進めようと、肌着の中へも指を差し入れる。
そして、邪魔な布をずらし、熱くなっているショウのものを露わにした。

「や、やめろ・・・」
抗議するが、その声は弱弱しい。
言葉では拒否していても、体が意思に勝手に逆らっているようで。
少し触れられただけでも、異常と思えるほどに下肢が反応していた。

「もう固いね。このままにしておいたら、恥ずかしくて外に出られないなあ」
「っ・・・それなら、自分で処理する」
「へえ、後輩の目の前でするんだ。いいよ、横でじっと見ておいてあげるから」
ソウヤが手を放し、ショウを自由にする。
そのとたん、体の熱が逆流するようなもどかしさに襲われた。
下肢が脈打って疼き、触れられることを求めている。
ショウは自分で解消させようとしたが、ソウヤに凝視されると手が止まってしまった。


「・・・ソウヤ、向こうを向いていてくれ」
「嫌だよ。折角先輩の良い顔見られるんだから、瞬きするのも惜しいくらいなのに」
手を止めていると、体のもどかしさはさらに増していく。
とうとう堪え切れなくなって、ショウは自分のものに掌を添えた。

「っ、は・・・」
ただただ単調に、上下に擦る。
快感を覚えるはずの行為だが、ここが部室であることと、ソウヤの視線を感じていて全く落ち着かない。

「頼むから、見ないでくれ・・・」
ショウが懇願するように言うと、ソウヤはにやりと笑った。
「そんなに気になるんなら、いっそボクがしてあげる。
そうしたら、恥ずかしさなんて気にしてる余裕なくなるから」
ソウヤは再びショウに歩み寄り、膝立ちになる。
まさかと思った次の瞬間には、ソウヤが起立しているものに唇を押し付けていた。

「な・・・っ、ぁ・・・!」
自分の中心に柔いものが触れ、思わず声を上げてしまった。
柔らかな唇は一か所に留まることはなく、根元からだんだん上へと移動して行く。
それが先端に触れたとき、軽く吸い上げられ、背筋に快感の寒気が走った。

ショウは、下唇を噛んで声を抑えようとするけれど、
そこが口内に含まれ、やんわりと食まれると、声帯がしきりに震えた。
ソウヤは一旦顔を上げて、ショウの様子を見る。
頬を紅潮させ、必死に口をつぐんでいる様子は、見るだけで気分を高揚させた。


「薬使ってるのに声出さないなんて、案外堪え性があるんだね。でも、どこまで耐えられるかな」
意地悪そうに言うと、ソウヤはショウのものを一気に咥え込む。
「ああ・・・っ!」
全体が含まれてしまうと、とても声が抑えきれなくなった。
舌が這わされ、唇で食まれ、ぞくぞくとしたものがショウの背筋を走る。

口内のものは瞬く間に液でまみれ、淫猥な感触を与えていく。
一時も休む暇を与えぬよう、ソウヤは動きっぱなしだった。
触れていない個所などなくなるよう、根元から先端まで丹念に舌で愛撫し、唇を動かしてやんわりと食む。
時たま、大きく息をついて熱っぽい吐息を感じさせると、その身が脈打った。

「は、あ、ぁ・・・っ、は・・・」
それぞれ違う刺激を受け、ショウの息も熱を帯びてくる。
快感のあまり膝が震え、立っていられなくなりそうになったところで、ソウヤが口を離して立ち上がった。
ショウの頬に手を添え、その熱を確かめる。

「効果てきめんだね、先輩のこんなに乱れた顔が見られるなんて・・・」
面白がるように、はたまた見惚れるようにショウを見詰める。
自分が作った薬で、こうして相手を蹂躙できることは、快感以外の何物でもなかった。
一旦刺激が収まり、ショウは肩で息をする。
そうして放置されると、体の熱はますますくすぶるようだった。

「そろそろ膝が痛くなってきたから、座ってよ」
このまま言いなりになってはいけないという警告音がする。
けれど、ショウは膝が震えていたこともあり、その場に座り込んだ。
ソウヤが間近に迫り、もう逃げられなくなる。
反射的に膝を閉じたが、ソウヤは煩わしそうに足を開かせた。


「もう、ボクのことしか考えられなくしてあげるから」
「うう・・・」
ソウヤが身を下げると、すぐに勃ちきっているものが目に入る。
先端を舌先で弄ると、ショウは耐えるように手を握りしめた。
自身が再び口内へ含まれてゆき、寒気が脳にまで達し、理性を掻き消す。
下唇を噛んで声を抑え込もうとしても、鼻から抜けるような音が出てしまって、
抑制を消そうと、ソウヤは口内のものを深く咥え込んだ。

「あ、う、あぁ・・・っ」
まるで電流が走ったように体が痙攣し、強い感覚に襲われる。
舌の柔さも、液の粘りも、全てが快感に変わり、全身に熱が循環していく。
執拗に舌が這い、往復するたびに吐息と共に声が漏れてしまう。
本当に自分の声なのだろうかと疑いたくなるような上ずった音に、いくら羞恥を覚えても、
弱い個所をなぞられると、もう、駄目だった。

「っ、あ、・・・は、なして、くれ・・・っ」
さっきから刺激を受け続けていたものは限界が近くて、危機感が脳裏をよぎる。
そう訴えても、ソウヤはわずかに身を引いただけで口を離す様子はなく、
むしろ、欲を絞り出すよう、それを吸い上げて圧迫した。

「あ、や、やめ・・・っ・・・あ・・・!」
体が、一気に強まった感覚に驚くように跳ねる。
そして、その衝撃に耐えきれなくなったものは、欲を吐き出していた。
自身から白濁が流れ落ち、唾液とは違うものがまとわりつく。
止めようにもどうしようもなくて、それはそのままソウヤの口内へ注がれてしまった。


「う・・・ん・・・」
ソウヤは小さく呻き、口を離す。
何度か喉を鳴らしていたが、全て飲むのは辛いのか、残った分は掌に吐き出された。
その様子を、ショウはとても直視できなかった。

抑えようがなかったとはいえ、後輩にさせてしまった。
されてしまったと言った方が正しいのかもしれないけれど、
欲が解放されて冷静さを取り戻した今、何を言っていいかわからなかった。

「は・・・結構、ドロドロだね。これ使ったら、どんな効果の薬ができるかなあ」
「や、やめてくれ・・・」
まだ息も荒いまま抗議すると、ソウヤは子供っぽく笑った。

「あははっ、冗談だよ。先輩の液、他の誰かに飲ませるわけないし」
とんでもないことを言われても、何も言葉を返せない。
ソウヤは、自分の唾液とショウ自身の液で濡れているものをハンカチで拭う。
達したばかりの体は敏感になっていて、それだけでもまた気が昂りそうだった。
あらかた拭われると、ショウは急いで服の乱れを直す。
早々に立ち去りたかったけれど、まだ体がだるくて動けなかった。
ソウヤが隣に座り、ショウと腕を触れ合わせ、控えめに体重を預ける。

「もう少しだけ休んでいてよ。・・・お願いだから」
今更しおらしくなっている様子がどこかいじらしくて、ショウはそのままじっとしていた。
自分から手を伸ばすことはなかったけれど、引き離すこともしない。
ショウは複雑な思いを抱えて、ソウヤを支え続けていた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
後輩モノ2話目、今回はふしぎなくすりのまされて、な感じにしてみました。
唐突に思いついたとき続きを書くか、他の先輩後輩で書き溜めしたいです。