後輩攻めをさせてみたかった3


部活が休みの日、幸人は純也の家に来ていた。
以前あんなことをされておきながら、のこのこ家にやって来るなんて無防備にもほどがある。
けれど、これからのことを話し合いたいと言われ、純也の部屋で待機していた。
後輩の部屋だというのに、変に緊張してつい正座をしてしまう。
扉が開くと、反射的に体が強張った。

「お待たせしました。こんなもんしかありませんけど、くつろいでください」
ローテーブルに、普通のお茶とスナック菓子の盛り合わせが置かれる。
もてなしはありがたいけれど、今はそれどころではなかった。

「純也、それよりも・・・本題に入ってくれないか」
「せっかちですね。まあ、いいですけど」
純也が、幸人の隣に移動する。
やけに距離が近くて、幸人は余計に緊張した。


「先輩、オレの気持ちはもうわかってますよね」
「・・・まあ、な」
信じられなかったけれど、信じるしかない。
純也は見境なくあんな行為をする性格ではないと、幸人はわかっていた。

「オレは、先輩とああいうことしたいと思ってます。先輩はどうですか」
「ど、どう、って・・・」
「オレが前みたいなことしたら、受け入れてくれますか」
即答はできなくて、幸人は言葉に詰まる。
純也は部活や勉強のことでよく相談しに来て、部長そっちのけで頼りにしてくれていた。
そんな後輩に愛着がわくのは自然なことだし、大切にしたいと思っている。
けれど、前の行為は明らかに行き過ぎている。
純也のことは決して嫌いではないだけに、否定も肯定もできないでいた。


「やっぱ、こんなの難しいですよね」
「・・・そうだな。正直、戸惑ってる」
「じゃあ、せめてキスさせてくれませんか」
大胆な発言に、幸人は息を飲んだ。
ここでも、否定も肯定もできないで黙りこくる。
瞬時に嫌だという気持ちは湧いてこなかったし、両手を広げて受け入れることもできなかった。

「そうだ、ゲームしましょう。定番の、盛り上がるやつ」
突然話が切り替わり、幸人は目を丸くして純也を見る。
純也は、お菓子の盛り合わせからポッキーを取った。

「先輩、チョコレートの方咥えて下さい」
「じ、純也・・・」
何をする気なのか予測がついてしまい、幸人は身を引こうとする。
けれど、その前に純也の手が背に回され、逃れられなくなった。
口元にポッキーが押し付けられ、甘い匂いが鼻をくすぐる。
さらに、純也が真剣な眼差しを向けてきて、その迫力に押されてつい唇を開いてしまった。


チョコレートの切っ先が、口の中へ入り込む。
落ちないように歯で挟むと、純也はクッキー生地の方を咥えた。
すると、躊躇うことなく噛み進めてきて、とたんに距離が縮まっていく。
早い行動に驚き怯んだけれど、抵抗する間も無くポッキーは全て噛み砕かれていた。

「ん・・・!」
瞬く間に口を塞がれ、幸人はどうすることもできなくなる。
舌が差し入れられることはなかったが、それは強く重なっていて、柔い感触をはっきりと感じてしまう。
まるで、気持ちを押し付けられているような気がして、頬に熱が昇った。

純也が口を離し、菓子を咀嚼して飲み込む。
幸人が食べられたのは、ほんの一口分だけだった。
「もう一回しましょう、先輩。今度は先輩がクッキーの方咥えて下さい」
「純也、ちょっと、待・・・」
言葉を言おうとしたときに、有無を言わさずクッキー生地が入り込む。
チョコレートの方は純也が咥えたが、今度は進んで来ることなくじっとして、目を閉じていた。


もしかしたら、気持ちを推し量られているのだろうか。
この先輩は、どこまでのことを許してくれるのだろうかと。
そう考えると動くことができなくなって、幸人も同じく静止していた。

やがて、しびれを切らしたのか、純也が軽い音を立てて生地を砕く。
一口噛んだところで止まり、静寂が流れる。
それでも幸人が動けないでいると、純也はまた一口分噛み進めた。
さくり、と音がするたびに、お互いの距離が狭まる。
先のように早急なものではないのだから、抵抗する余裕は十分にあるはずなのに。
幸人は反射的に目を閉じ、体を強張らせたまま硬直していた。


純也が目と鼻の先まで来たところで、幸人は目を開けていられなくなる。
そして、甘い香りと共にお互いが重なった。
性急なものではなく、やんわりと触れ合う。
一瞬離れた後も、まだ足りないと言わんばかりに再び重なって、それが何度も繰り返される。
一回ごとに羞恥が増していくようで、幸人は戸惑わずにはいられなかった。

何度目かわからない口付けが終わり、純也がやっと菓子を飲み込む。
幸人もひとかけらの生地を食べ、目を開いた。

「何で避けなかったんですか。だいぶ余裕は作ったつもりですけど」
「・・・動けなかった」
どんなに動作が遅くても、純也を目の前にすると体が固まっていた。
大切な後輩を跳ね除けて、嫌われたくないという思いはある。
だからといって、来るもの全てを拒まず受け入れるほどふしだらではない。
特別に懐いて、頼ってくれて、多くの時間を過ごしてきた純也だから突き放せなかった。
けれど、自分にも、純也が抱くような感情があるかどうかは疑問だった。


「動けないままでいいんですか。オレ、自重できなくなりますよ」
純也が幸人の肩を押し、後ろへ倒そうとする。
「ちょ、ちょっと」
流石に危機感を覚え、幸人は後ろ手をついて体を支える。
そのとき、正座が崩れ、一気に足の痺れが襲ってきた。

「い・・・!」
慣れない姿勢をしていたせいで、両足がじんじんとする。
はずみで手の力が抜けてしまい、仰向けに倒れて純也を見上げる形になった。
「・・・先輩、動けなかったのって、足が痺れてたからですか」
「・・・・・・ま、まあ、そうなんだ」
とっさに、言い逃れのような言葉が飛び出す。
動けなかったのは他の要因があるに違いなかったけれど、今は誤魔化してしまいたかった。

「そうですよね。自分の意思で、留まるわけないですよね」
純也が、ふっと目を伏せる。
そこには憂いが含まれているように見えて、幸人はとたんに心苦しくなった。
お互いは少しの間黙っていたが、やがて純也が身を下ろす。
そして、幸人の首元に顔を埋め、唇が触れるか触れないかのところで止まった。


「少しの間、こうさせて下さい。足の痺れが取れるまででいいですから・・・」
いつもの調子からは考えられないほどの弱い声に、幸人の胸が軋む。
肩に手が置かれ、息がかかってむずがゆかったけれど、跳ね除けることはしなかった。
足は痺れたまま、まだ動けない。
体重をかけないようにしているのか、純也が上に居ても全く重たくなかった。

何もしないでいると、首にかかる吐息が目立つ。
純也が呼吸をするたびに、温かなものを感じる。
ずっと一か所に吹き付けられているからか、やけに熱い気がした。


だんだんと血が巡り、足の痺れが取れてくる。
もう立ち上がれるくらいだったが、幸人はまだじっとしていた。
そうしていると、純也の息遣いが早くなってきていることに気付く。
重なっている体から伝わる心音も、平常より早い。

「純也、もしかして・・・興奮してるのか」
恐る恐る問うと、すぐに返事が返ってきた。
「当たり前です、先輩を押し倒してるんですよ。興奮しないはずない」
包み隠さない物言いに、幸人の心音も強くなる。
なすがままになってはいけないという警告と、このままでも構わないという享受の思いが錯綜する。
そうこうして考えていると、ふいに純也が体を起こして幸人を見下ろした。


「先輩、もしも、この状態が嫌じゃなかったら、オレとキスフレになってもらえませんか」
「キ、キスフレ?」
「セフレっているじゃないですか、そのキス版です」
とんでもないことを言い出され、幸人は呆ける。

「了承してもらえれば、それ以上のことは我慢します。でも、もし断られたら、オレは・・・」
言葉の続きは告げられなかったが、やんわりと脅されていると幸人は察した。
以前、あんな大それたことをされたのだから、もし断れば無理にでも行為に及ぶ可能性がある。
それなら、いっそのこと了承してしまったほうがいいのかもしれないと考えていた。



「・・・本当に、キスだけなんだな」
「はい、約束します」
きっぱりと言い切られた嘘偽りない言葉に、幸人は決断した。
「わかった。それで純也の気が済むんなら・・・それでいい」
その瞬間、純也の表情がぱっと輝いた。
かわいい、と形容するのは失礼かもしれないけれど、そう感じる。

「先輩、ありがとうございます・・・!」
純也は、幸人の頬を両手で包み込む。
早々にする気なのか、少しずつ距離がなくなってくる。
鼻がぶつかりそうになったところで、幸人は身構えるように目を閉じていた。

すぐに、唇が塞がれる。
深く重なったものは、柔さと熱さを幸人に伝えていった。

「う、ん・・・」
躊躇いなく成される行為に、鼓動が強さを増す。
性急なことでも、嫌ではないというのが正直な気持ちで。
自分は、ふしだらな性格だっただろうかと自問した。
口付けのさなか、唇とは違う柔いものが隙間をなぞると。
幸人ははっとして、つい隙間を開いてしまった。
わずかな間をこじ開けるように、純也は自身のものを押し入れる。

「んん・・・っ」
独特な感触が口内に入り込み、幸人は思わず呻く。
それでも遠慮なくそれは動き、歯列をなぞり始めた。
口内の全てを把握するように、ゆっくりと這わされていく。
ぞくぞくとした感覚が幸人の背を走り、思考をおぼろげにさせる。
そして、周辺をなぞり終えると、純也は待ちわびていたように舌を触れさせた。

「は・・・っ」
湿ったものが表面を撫で、幸人は吐息を漏らす。
純也は縦横無尽に動き、しきりに求め、絡ませる。
もはや抑制が効かないのか、執拗に音を立て、液を交わらせていく。
卑猥な音と感触に蹂躙され、幸人の心音は落ち着きをなくしていった。


頬の熱さが増してきた頃、純也はようやく幸人を解放する。
拭いきれなかった液がお互いの間に伝い、幸人の唇を濡らした。
「先輩・・・柔らかい」
「そんなとこ、誰だって同じだ・・・」
羞恥がどっと湧き上がってきて、まだ目を開けられない。
なだからに頬を撫でられると、ますます熱が昇るようだった。

「今日はここまでにしておきます」
純也が退くと、幸人は体を起こしてやっと目を開いた。
まだ心音が落ち着かなくて、呼吸が深くなる。
「もう帰りますか、それともゲームでもしますか」
「い、いや、もう帰るよ」
ゲームという単語が健全なものには聞こえなくて、とっさに答えていた。

「わかりました。じゃあ、玄関まで見送ります」
部屋を出ると、幸人の後に純也が続く。
なぜか、後ろにつかれているだけで緊張する。
これは、もしかして、意識しているということなのだろうか。
けれど、事が終わったばかりなので、無理もないことのようにも思えた。


すぐに玄関口につき、幸人は靴を履く。
一応、招いてくれたお礼くらいは言っておいた方がいいかと振り向いた瞬間、両肩を掴まれた。
「純・・・」
目を閉じる間もないまま、口を塞がれる。
肩を掴む力はさほど強くなかったけれど、振り払うことができなかった。

数秒ほど重なっただけで、純也は身を離す。
視線を交わらせたまま静寂が流れ、幸人は必死に言葉を探した。
「じゃ、じゃあ・・・また、部活で」
「そうですね」
あっさりとした返事を最後に、幸人は家を出た。

扉を閉めると、高まった熱を解放させるよう大きく息を吐く。
後輩と、ここまで親密になってしまってもよかったのだろうか。
けれど、疎遠になってしまうよりはよっぽどいい。
そう考えるのは、純也が自分のことを一番頼ってくれた後輩だからに違いなかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
また発禁にしようかと思いましたが、一旦やんわりにさせてみました。
その方が、この先のことが考えやすくて・・・じわじわ関係が進むのが好きなのです。