後輩攻めをさせてみたかった8
(この小説には体は学生、脳内は幼児といった先輩が登場します。
不快感を覚えそうなお方はバックプリーズ)


約束した日の休日、亮は愁を迎えに行っていた。
楽しみで仕方がなくて、つい早足になる。
時間より少し早く家に着き、インターホンを押すと、愁が満面の笑みで飛び出してきた。

「りっくん、こんにちはー」
「こんにちは。早速行きましょうか」
「うん、いこうー」
愁は、ふいに亮の左手を握る。
亮は目を丸くしたけれど、軽く握り返してそのまま歩き始めた。


ほどなくして、手を繋いだまま自宅に到着する。
たまに人目が気になったけれど、離そうという気は微塵もわいてこなかった。
「どうぞ、上がって下さい」
「うん、おじゃましまーす」
母親は出かけているのか、室内はとても静かだった。
とりあえず自室へ通すと、愁はきょろきょろと辺りを見回した。

「ここがりっくんのおへやなんだー。あ、お花がある!」
ローテーブルの上に花瓶があるのを見つけると、愁はぱっと手を離してそこへ座る。
花を愛でる趣味は持ち合わせていなかったけれど、今日のために、リビングにあった花瓶を拝借してきた。
オレンジ色の大輪が気に入ったのか、愁はじっと花に見入っている。
その他にも、ローテーブルや小型のテレビも借りてきていて、全て愁を楽しませるために準備していた。


「一緒にアニメでも見ませんか?」
「うん!」
亮はさりげなく愁の隣に座り、二つのリモコンを操作する。
テレビの電源を入れ、デッキの電源も入れて再生すると、すぐにアニメが映し出された。

「あ!これ、ぼくもよく見てるよー。りっくんもすきなの?」
「ま、まあ、そうです」
正直に言うと、子供向けのアニメなんて全く見ない。
けれど、愁のうきうきとした様子を見ると、とても言えなかった。

画面では、猫とネズミが追いかけっこをして、家の中を走り回っている。
ネズミは捕まりそうになっても、食器を落としたり、洗剤を振りまいたりして巧みに猫をかわし。
猫は必死にネズミを追いかけ続ける、賑やかなアニメだった。

愁は心から楽しんでいるようで、猫が慌てる度に声を上げて笑っている。
今なら、もっと近づいてもいいかもしれないと、亮が近い距離をさらに詰め、腕を密着させた。
そのとき、ちょうどアニメが一区切り付き、軽やかなエンディングテーマが流れる。



「おもしろかったー」
「そ、そうですね」
離れようかと迷ったけれど、愁はあまり気にしていないようなのでそのままでいる。
腕が触れているだけでも、ほんのりと温かい。
ここには誰も邪魔は入らないのだから、もっと温度を感じたいと思う。
亮は、思い切って愁の肩へ腕を回そうとした。

その前に、アニメの次の話が始まってしまって、賑やかなオープニングテーマが流れる。
その音に驚いてしまって、さっと手を引っ込めていた。
「あ、あの、お菓子でも持ってきますね」
「はーい」
なぜか焦ってしまい、亮は部屋の外へ出る。
邪魔が入らないとわかると、緊張していた。
それは、自分に下心があるからだと自覚すると、またかすかな罪悪感が生まれていた。

皿にスナック菓子を盛り付け、一緒にオレンジジュースも入れて持って行く。
部屋に戻ると、愁はまだアニメに夢中になっていた。
亮は花瓶を隅に避けて、お菓子とジュースを置く。
「わーい、いただきまーす!」
愁は早速お菓子に手を伸ばし、嬉しそうに食べる。
さくさくとした音を聞くとそれだけでお腹が減ってくるようで、亮もつまんでいた。




アニメは4話分あり、終わった頃には結構な時間が経っていた。
アニメをあまり見ないからか、退屈することもあったけれど。
愁と腕を密着させていたからか、ずっとこの時間が続けばいいとも思っていた。

「おもしろかったし、おいしかったー」
お菓子もジュースも平らげ、愁は満足そうにしている。
「愁先輩の好みに合って良かったです」
亮がテレビとビデオの電源を切ると、部屋は静寂に包まれた。
ちら、と時計を見ると、もうすぐ5時になろうとしている。
そろそろ送らなければならないと思うと、とたんに物寂しくなった。

「りっくん、きょうはありがとうー。ぼく、すっごくうれしかったよ」
「俺も、愁先輩が家に来てくれて嬉しかったです」
お互い至近距離で向き合うと、愁の口元にお菓子の欠片がついていることに気付く。
亮はそれを手で取ろうとしたが、途中で動きを止めた。
黙ったまま愁の顔を見ていると、また不思議そうに首をかしげる。
そんな動作を見ると、やはり惹かれてしまっていて。
昨日と同じように、顔を近づけていた。

「りっくん?」
目と鼻の距離で名前を呼ばれても、もう止まらない。
亮はそのまま近づき、口元の欠片に唇を触れさせ、それを取っていた。
一瞬で離れるのではなく、数秒ほど触れたままでいる。
愁はどうしていいのかわからないのか、じっとしていた。


やがて、亮が身を離すと、愁は目を丸くしていた。
「あの・・・口に、食べかすがついてたから・・・」
「そうなんだ、びっくりしたー」
苦し紛れの言い訳を信じているのか、調子はいつもと変わらない。
そこで、愁は立ち上がって大きく伸びをした。

「す、少し疲れましたか?」
「うーん、ちょっとだけ。あ、ベッドにねころがってもいい?」
「え・・・いい、ですけど」
そう許可すると、愁はベッドに仰向けに寝転がった。
ずっと座りっぱなしだったので、腰が疲れたのはわかる。
けれど、まさかベッドに寝転がりたいと言い出すとは思わず、亮はアニメの長さに感謝していた。

「りっくんのふとん、ふかふかだー」
愁は毛布に頬をすり寄せ、気持ちよさそうな表情を見せる。
そんな様子を目の当たりにするとたまらなくなり、亮は隣に寝転がっていた。
「りっくんも、ふかふかする?」
愁が亮の顔に毛布をかぶせようとして、身を寄せる。
腕も、体も、とたんに触れ合う面積が大きくなり、亮の理性は崩壊した。

「愁先輩・・・!」
思わず、毛布ごとその体を抱きしめる。
突然のことに驚いたのか、愁の肩が一瞬だけ跳ねた。
「りっくん、どうし・・・」
「俺、好きです。愁先輩のこと、好きなんです」
言葉を遮り、直球に言う。
何の飾り気もないけれど、素直な相手に、真っ直ぐな言葉で伝えたかった。


「ほんと?うれしいなー。ぼくも、りっくんのことすきだよー」
愁は無邪気に言うと、亮の首元へ擦り寄る。
その、「好き」は、きっと不特定多数に向けられるもの。
独り占めしたいなんて、おこがましいことだとわかっている。
それでも、自分の抱いている気持ちに少しでも気付かせたい。
亮は顔を下げ、愁の耳へ顔を近づける。
そして、すぐ傍にある耳朶へ舌先で触れていた。

「ひゃっ」
奇妙な感触に、愁はわずかに身をよじる。
亮は少しの間だけ動きを止めたけれど、そのまま耳の形をなぞっていった。
「ん、りっくん、くすぐったいよー」
まだこそばゆい感覚しかないのか、愁はくすくすと笑っている。
そのまま笑い続けていてほしいと思う一方で、変化をつけさせてみたいという思いも生まれていて。
外側だけでなく、内側へも舌を滑り込ませていた。

「ひゃ、ん」
くすぐったさ以外のものを感じたのか、笑い声がなくなる。
その代わりに発された音に背を押されて、もう、自重ができない。
ゆったりとした動きは徐々に大胆になり、余すとこなく耳を濡らしていく。
たまに耳朶を甘噛みすると、肩の震えが伝わってきて。
舌で丹念に内側を弄ると、か細い声が発された。

「ふゃ、ぁぅ、りっくん、りっくん・・・」
調子の違う声に、亮は一旦舌を離す。
愁の頬に手を添えると、自分の掌の温度より熱くなっていて。
そっと上を向かせると、その顔は真っ赤になっていた。
驚いて、戸惑って、どうしていいのか混乱していると一目でわかる。


「・・・ごめんなさい、気持ち悪かったですか?」
形だけの謝罪をすると、愁は首を小さく横に振った。
「よく、わかんないけど・・・どきどきしたよぅ」
恥ずかしいのか、愁は伏し目がちになって視線を逸らす。
申し訳なくも、そんな顔がかわいらしいと、亮はそう思っていた。
嫌がられていないのなら、もっと柔い個所を触れ合わせたい。
調子に乗った欲望が勢いを増し、愁が何かを言わないうちに、その口を塞いでいた。

「う・・・ん・・・」
亮はその感覚だけに集中するように目を閉じ、唇を押し付けた。
柔らかな感触に酔いしれる。
たまにかかる鼻息が熱を帯びているようで、自分の熱も上がっていく。
いけないことをしていると自覚しても、どうしても愁から離れられなかった。


心拍数が上がってきたところで、名残惜しそうに愁を解放する。
まだ距離が近い状態で愁が息を吐くと、また塞ぎたくなってしまう。
それはぐっと堪えて、亮は壁を見詰めた。

「いまのこと、らぶらぶなひとがすること、だよね・・・?」
何となく意味は理解しているのか、愁は控えめに問う。
「そう・・・ですね」
おどおどとしている様子に、拒否されたらどうしようかと、そんな不安感が押し寄せて来る。
いくら仲が良くても、それは友人同士がすることにしては行き過ぎていた。

「りっくん、ぼくと、らぶらぶなの?」
「そう、なりたいです」
口から、本音が零れる。
その言葉を止めるものは何もなく、反射的に告げられていて。
軽蔑されるだろうかと懸念したそのとき、愁はいつものように笑った。


「ぼくも、りっくんとらぶらぶだとうれしいなぁ。
だって、ぼく、りっくんのことだいすきだもん」
無垢な笑顔で告げられ、亮の心音は一気に高鳴った。
どこまで理解しているのかわからないけれど、拒まれないことが嬉しくて。
腕の中に居る相手を、愛おしいと感じずにはいられなかった。

亮は愁を離し、馬乗りになって見下ろす。
こんなに純粋な相手を、自分の欲望で染めてしまうことは、とても罪深いことのように思える。
それでも、真っ直ぐに見詰めて来る瞳を見ると、理性は本能に侵されてしまっていた。
亮は身を下ろし、再び愁に覆い被さり、口付ける。

「は、ん・・・」
愁が吐息を漏らすとわずかな隙間が空き、その中へ自信を差し入れる。
わずかな躊躇いはあったが、今更身を引くことは惜しくて奥まで入り込み。
柔らかいものに触れて、やんわりと絡めると愁が反射的に息を飲んだ。
そのまま、怯えさせないようにゆったりと撫でていく。

「ふぁ、あ、ん・・・」
ときたま漏れて来る声を聞くと、激しくして、もっと液を交わらせたいという衝動が湧き起こる。
けれど、やはり怖がらせたくなくて、なだらかな動きを続けていた。


あまり音を立てることもなく、静かなまま口付けが終わる。
愁の頬は完全に紅潮していて、肩で息をしていた。
「りっくん・・・ぼく、すっごく、どきどきするよぅ・・・」
「俺も同じです。愁先輩・・・」
このまま拒まれなければ、どこまでしてしまうのだろう。
それは、亮自身にも知り得ないことで、邪魔な布なんて取り払ってしまいたいとさえ思う。
そんなよこしまな考えがよぎった時、ふいに、玄関の扉が開く音が聞こえた。



「ただいまー。亮、帰ってるのー?」
母親の声に、亮は目を見開いてベッドから下りる。
足音が近づいてきたので、慌てて愁を起こし、愁をベッドに座らせたところで扉が開いた。

「あら、亮のお友達?」
「こんにちはー」
愁が人畜無害な笑顔を見せると、亮の母親もつられて頬を緩ませた。

「こんにちは。亮と仲良くしてあげてね」
「うん、なかよしだよー。だって、ぼくとりっくんはらぶら・・・」
「か、母さん!今、下で呼び鈴が鳴ったみたいだよ!」
愁の言葉をとっさに遮り、亮はつい声を荒げる。
「そう?見て来るわね」
母は疑うことなく下へ行ったので、亮は胸を撫で下ろした。

「あの、愁先輩・・・その、らぶらぶっていうのは、俺と先輩だけの秘密にしておいてくれませんか」
「うん、わかったー」
亮の心境は理解していなくとも、愁は素直な返事をする。
恋仲のような言葉も、愁にとってはたぶん友達の延長線上でしか使われていないと思う。
それでも、行き過ぎたことをしても拒まないでいてくれるだけで、喜ばしいことに違いなかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
純粋無垢な先輩を・・・その、感じさせてみたかったというか何というか趣味丸出しですみませんorz
かわいらしい先輩を書いてみたかったんです。