紅一点6


雛が不在のとき、常葉は祖父と向き合っていた。
こうして一対一で対面するのは久々で、部屋には緊迫した空気が流れている 。
「お前が儂を呼び出すなど初めてのことだな。よほど、重要な話か」
「はい、とても大切なことです」
祖父の緊張感に押され、声が擦れそうになる。
それでも、常葉は雛のことを思い浮かべ、声を振り絞った。

「雛のことで、相談したいことがあるんです」
常葉が言うと、祖父はやや落胆したように肩を落とした。
「何だ、雛のことか・・・あいつが何か粗相でもしたか」
次の言葉を発する前に、常葉は一旦息を吸い込んで気を落ち着けた。

「いいえ、そうではありません。
・・・単刀直入に言います、僕は雛が好きです。だから、雛を僕に下さい」
「何ぃ!?」
祖父は、とたんに常葉を睨む。
何を血迷った事を言っているのだと、そう訴えるような迫力がそこにはあった。
思わず目を逸らしそうになったが、常葉は自分の決心を示すように祖父を見据えていた。

「気でも違ったか、アイツはあんななりしててもだな・・・」
「わかっています。お祖父さんは反対するだろうと思っていました」
ただでは了承してもらえないことはわかっている。
だから、祖父に罵倒される前に、心を揺るがすことを告げた。

「僕、この組を継ぎます。だから、お願いします、雛とのことを認めて下さい」
常葉は一気に言い、深く頭を下げた。
そんな姿を見て、祖父は頭を抱えた。
「お前、あんだけ嫌だって言ってたっつうのに・・・」 。
今まで、絶対に継がないと言ってきた孫がその気になってくれている。
しかし、お目付け役との関係を許してしまっていいものか。
許せば、この組は暫く安泰になる。
それでも、先の事を考えると跡継ぎの問題が出てくる。


「・・・常葉、顔を上げろ」
声に憤りは感じられず、常葉はゆっくりと顔を上げる。
祖父は神妙な表情をしていたが、小さく溜息をついて答えた。
「・・・わかった。雛とのことはどうこう言わねえ。。
だが、この誓いを違えたら孫と言えども指詰めてもらうからな!」
常葉は一瞬目を見開いたが、すぐに笑顔になった。

「ありがとうございます・・・僕は、お祖父さんが望む若頭になれるよう、精進します」
祖父はまだ少し迷っているような雰囲気はあったが、撤回はしなかった。
そのときの常葉の笑顔は、今までに見たことがない程素直で純粋なものだったから。
雛が帰ってきたとき、常葉はすぐに玄関まで迎えに行った。




「雛、お帰り」
「あ、若。ただ今戻りました」
挨拶を交わすや否や、常葉はそっと雛の頬に触れた。
「え、わ、若、いけません、万が一お爺様に見られたら・・・」
慌てる雛に、常葉はくすりと笑った。

「お祖父さんにはもう認めてもらった。僕が家を継ぐことを条件にね」
信じられない発言に、雛は絶句する。
「で、でも、若は・・・」
常葉は言葉の続きを遮るように、雛に軽く口付けた。

「もう、誰にも咎められない・・・。好きだよ、雛」
「若・・・!」
雛は人目をはばからず、思い切り常葉に抱きついた 。
「雛は・・・一生、若にお仕えします!お慕いしております・・・!」
常葉は、雛をそっと抱き返した。




それから、二人の仲は認められたのだが、関係が急激に進展したわけではなかった。
身を寄せたり、軽く口付けたりはするものの、常葉はそれ以上雛に手を出すことはなかった。
祖父に了承され、安心しきっているからかもしれない。
雛も、最初は常葉と親密になれた幸福感噛みしめ、満足していた。
しかし、こう見えて純粋無垢な少女というわけではないので、だんだんともどかしさを感じてきていて。
そんなもどかしさがつのりつのった夜、雛は常葉の部屋を訪れていた。

「若、失礼します。あの、一緒に寝てもよろしいでしょうか」
「ああ、構わな・・・」
構わないと言おうとしたところで、常葉は言葉を止めた。
それというのも、雛の服装がやけにラフで、少し戸惑ってしまった。
透けているわけではないが、まるで羽衣の様に薄い。
女性的な艶めかしさを感じてしまい、常葉はとっさに視線を逸らした。

「では、失礼しますね」
常葉の隣に、雛が並んで横になる。
そのとき、常葉は不思議な緊張感を覚えずにはいられなかった。

「・・・そういえば、若とこうして一緒に寝るのは初めてですね」
「そ、そうだな」
ぎこちない返答の後、ふいに雛が常葉に擦り寄る。
薄い布を通して柔らかな肌の感触を感じると、やはり緊張してしまう。

「・・・な、なあ、雛」
「何ですか?」
「何で・・・今日は、そんな服装なんだ?特別暑いわけでもないのに」
緊張感に耐えかねて、ふとわいた疑問を投げかける。
すると、雛は目を丸くして驚いていた。
「若は、おわかりにならないのですか?雛がどうして、このような格好をしているのか・・・」
「そ、それは・・・その・・・」
常葉が言葉を濁していると、雛は痺れを切らしたように言った。


「・・・やっぱり、まだお子様ですね。わかりました、包み隠さず言います。。
雛は、若と愛し合いたいのです、軽い口付けだけでは足りないのです!」
今度は、常葉が目を見開く番だった。
「あ・・・え、えっと・・・つまり・・・・・・うん、わかった・・・」
雛が求めていることを頭では理解したものの、常葉の言葉はぎこちなくなる。
正直に言うと、してほしいと言われても、どうすればいいのかさっぱり見当がつかなかった。

「でも、僕・・・情けないこと言うけど、雛を満足させる方法がわからない」
「そうなのですか?でも、いいんです、雛が教えてさしあげますから・・・」
雛は色っぽい目つきをし、常葉に覆い被さる。
誘惑するような視線に捕らえられ、常葉はとたんに目を逸らせなくなっていた。

「若・・・若が、雛のためにお家を継ぐと言ってくださったとき、とても嬉しかったです。。
だから・・・今度は、雛が御恩返しをいたします」
雛はじっと常葉を見詰め、ゆっくりと体を下ろしてゆく。
抵抗するなら今の内だと、そう諭すように。
常葉は、まだ緊張してはいたものの、雛を拒むつもりはなかった。

そっと、唇が重なる。
普段交わしている軽いものではなく、長く、お互いを感じ合う。
心地良い感触に、常葉は静かに息をつく。
そうしていると、雛は小さく舌を出し、常葉の唇に触れ始めた。
少し湿ったものを感じ、思わず口が開く。
すると、雛はその隙間に自らを差し入れ、内側へも触れていった。

「は・・・」
くすぐったいような感覚に、ふいに、吐息が漏れ出す。
雛の行為はそれだけでは終わらず、開いた歯列の間を抜け、さらに自身を進めて行く。
そして、常葉のものを愛撫するように絡めた。
「ん・・・っ」
自分の中にあるものに驚き、常葉は一瞬だけ肩を震わせた。
唇よりも柔らかいものが触れ、絡め取ろうとしている。
同時に、お互いの液が交わっていることを感じると、自然と頬に熱が上ってゆくようだった。

雛はゆっくりと自身を動かし、常葉に触れ続ける。
舌を重ね合わせるだけではなく、歯列をなぞり、口内を余すとこなく堪能する。
相手が動く度に感じるものがあり、やがて、常葉からは熱を含んだ吐息が漏れ始めていた。
高揚しているのか、雛はうっとりとした目をして身を離す。
常葉が目を開くと、色っぽい目つきにまた視線を逸らせなくなった。


「はぁ・・・若、どうでしたか?・・・嫌じゃ、ありませんでしたか・・・?」
おずおずと、雛が尋ねる。
こういう関係になっても、長く続いた主従関係は簡単に消えないのだろう。
常葉は、雛の不安を消すよう、頬を撫でた。

「むしろ・・・心地良かった。雛が、柔らかくて、温かくて・・・」
「み、みなまで言わないで下さいっ。雛だって、結構、恥ずかしいんですから・・・」
照れている様子を目の当たりにすると、愛おしさが込み上げてくる。
思わず桃色の髪を撫でると、雛は嬉しそうに笑った。

「でも、まだこれだけじゃ物足りないですよね・・・もっと、ドキドキさせてさしあげますから」
雛は少し遠慮がちに、常葉の下肢へ手を伸ばす。
「ひ、雛っ」
今までされるがままになっていた常葉だが、流石にうろたえる。
「大丈夫ですよ、若、雛がちゃんと気持ちよくして差し上げますから・・・」
寝具の中に、細い指は楽に侵入してゆく。
そして、ひときわものを感じやすい部分に、やんわりと触れた。

「あっ・・・」
思った以上に体が反応し、反射的に声が発されてしまう。
雛は初々しい反応にくすりと笑い、常葉のものを優しく撫でた。
「んん・・・っ、雛・・・」
女性のようなしなやかな手に包まれると、気が昂らずにはいられない。
いつの間にか、頬は自分でもわかるほど熱くなり、紅潮していて。
寝具の中が窮屈になるのに、さほど時間はかからなかった。


「若・・・ここからは、一緒に感じ合いましょうね・・・失礼します」
雛は体を起こし、常葉へ馬乗りになる。
同時に、寝具を下ろして窮屈そうにしていた常葉のものを解放させていた。
「雛、何を・・・」
常葉も起き上がろうとしたが、雛に肩を押されて留められる。

「若は横になっていて下さい。どうか、雛に任せて・・・」
雛が少し腰を持ち上げ、頬を染める。
何をしているのかわからなかったが、桃色に染まる頬が色っぽくて、見入っていた。
それだけではなく、腹部にあたる雛の太股が柔らかくて、色欲を感じてしまう自分が恥ずかしくなった。
雛はまた腰を持ち上げ、少し下がる。
そして、自分が唯一相手を受け入れられる箇所を、常葉にあてがった。

「ん・・・若、雛を感じていて下さいね・・・」
雛は温かい吐息と共に告げ、ゆっくりと、自分の中へ常葉を入れていった。
「あ・・・!ひ、雛・・・」
指先で触れられていたときとは違う感覚に驚く。
熱を帯びている中へ自身が誘われてゆき、圧迫感を覚えるようになる。

「あぁっ・・・若・・・っ」
雛は官能的な声を発し、さらに常葉を受け入れてゆく。
少し腰を落とすだけで、お互いに快楽が行き渡るようだった。
「あ、あ・・・っ」
自身に感じる圧迫感じがどんどん強くなり、常葉も声を漏らす。
今、自分が雛を犯してしまっているのだと思うと、昂りが抑制できなくなってゆく。
自分を支えられなくなったのか、雛は常葉の上に座り込む形になった。

「は・・・っ、若とこうして交わえるなんて、嬉しいです・・・。
・・・雛を、若のものにして下さい・・・」
常葉を受け入れた雛は、少し息を荒げながらも満足そうに笑う。
そうして微笑みかけた後、雛は常磐にさらなる刺激を与えるよう、自らの体を揺さぶった。
「えっ、雛、あっ・・・!」
雛の中で自分のものが擦られ、とたんに声が上ずる。
少しでも動かされると、全身に快感を覚えるほどだった。

「ああ、ん・・・」
雛も感じているのか、甘い声が耳に届く。
その声を聞くと、まるで耳も犯されているような気分になる。
内部は、すでに滑らかに動かされるようになっていて。
絶え間なく伝わる熱と圧迫感に、うまく呼吸ができなくなってきていた。

「雛、もう、いいよ・・・っ、もう・・・!」
寝転がっているだけなのに、じっとりと汗をかくほど体が熱い。
熱を与えられ続けるものが、もう限界に近いと感じていた。
「雛で感じてくださって嬉しい・・・どうか、我慢しないで、雛に下さい・・・っ!」
雛が腰を深く落とし、常葉を最奥へと誘う。
その瞬間、余すとこなく含まれたものが脈打った。

「ひ、な・・・っ、あ、あぁっ・・・!」
一瞬、何も考えられなくなるほどの悦楽が常葉の体に走る。
それに耐えるように体が強張ったが、無駄な抵抗にすぎなくて。
ずっと溜め続けられていた熱は、白濁となって解放されていた。

「ああ、若・・・あ、ん、ぁあ・・・!」
雛から、ひときわ甘く、高い声が漏れる。
常葉を受け入れていた箇所は、たった今解放されたものを吸収するよう激しく収縮し、雛を快楽へと導いた。



ほとぼりがおさまると、雛は息を荒くして項垂れた。
そうして、常葉をあまり刺激しないよう、ゆっくりと身を上げる。
流石に疲れたのか、雛は倒れ込むようにして横になった。
「若・・・雛、とっても幸せでした。もちろん、今も・・・」
雛は、愛おしそうに常葉に寄り添う。
常葉も雛の方を向き、桃色の髪にそっと指をくぐらせた。

「僕、何もできなかったけど・・・雛が満足してくれたんなら、よかった・・・」
至近距離で見詰めあっていると、どうしようもない愛おしさが芽生えてきて。
どちらからともなく近付き、優しく口付けを交わした。






その後、雨竜組には新たな若頭が就いた。
その傍らには、桃色の髪をした、極道には相応しくないような相手がいつも付き添っていた。
その相手は若頭の愛人だと噂されている一方で、誰よりも恐ろしい用心棒だとも言われていた。

「若頭、他の組の奴らがでしゃばってきてますぜ!うちの若い衆がやられちまった」
「わかった、すぐ行く。・・・こういうとき、ヤキ入れに行くって言うんだったか」
「そうですよー。さあ、とっちめに行きましょう!」
雛はやる気に満ちているように、握り拳を作った。
「ああ。行くぞ、お前等!」
「へい、若頭!」




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
や、やっと、完結しました。就活中とは言え、期間が空きすぎてしまい申し訳ありません。
次の話の更新は、就活が終わっていない事もあり未定です。
では、短い話でしたが、お付き合いしていただきありがとうございました!。