何とも平和な国11


誰でも子を宿せる薬が手に入ったことで、ノアとクラウツは結ばれた
しかし、すぐに子を作ろうとはしなかった
お互い、まだ親になるには早過ぎる
今は、ただ制約がなくなったことに満足していた
もう、触れ合うことに気を咎める必要はない
二人のときなら、いつだって望むことができる

だから、ノアはしばらく何も言わなかったのだが
やがて、とある思いがわいてきた
クラウツがこの身の全てに触れてくれたら、一体どんな感じがするのだろうと
頬や首筋に触れられるだけでも、とても幸せになる
それだけでも幸福感を覚えるのに、もっといろんな箇所に触れてくれたら、どれほどの幸せを感じるのだろうか

肌を見られることに、躊躇いはない
けれど、触れてほしいなんて、そんなことを堂々と頼むのは流石に羞恥心が疼く
そこで、ノアはとあることを企てていた
前のようにばれてしまうかもしれないけれど、この欲求を抱えたままでいるよりはいい
そう思ったノアの行動は早く、夜、クラウツを自室に呼んでいた


「クラウツ、僕、紅茶をいれるのが上手くなったんだ。もう遅いけど、味見してくれないか?」
クラウツの前には、淹れたての紅茶が置いてある
それには上等な葉を使い、少しでも美味しくなるよう温度調整もした
それを、どうしても飲んでほしかったから

「また、ずいぶんと急ですね。まあ、上達したのはいいことですが」
得に怪しむ様子は見せず、クラウツはカップを手に取る
思わず凝視しそうになったが、それこそ怪しまれてしまうので、ちらちらと見るだけにしておいた
カップに口をつける直前に、クラウツは一瞬動きを止める
ばれてしまったかとノアは緊張したが、香りを確かめただけだったのか、すぐに紅茶は飲み干された
あまり凝視してはいけないとわかっていても、どうしても気にしてしまう
気付けば、紅茶を飲み終えたクラウツをじっと見てしまっていた

「・・・何を、そんなに見ているのですか?」
強い視線を感じ、クラウツは不思議そうに尋ねる
「い、いや・・・ちょっと、な・・・」
詳しく説明するわけにはいかず、適当な言葉ではぐらかす
変だと思われてしまったとしても、紅茶を飲み終えた今となっては関係ない
後は、待つだけだった


「・・・まあ、いいでしょう。それで、紅茶のことですが・・・」
そう言いかけたところで、クラウツははっとしたように言葉を止め、ノアをじっと見る
これを機に、ノアはクラウツに駆け寄った
「王子・・・私、一旦、部屋に戻ります」
急に、クラウツはきびすを返し、部屋を出て行こうとする

「ちょ、ちょっと待ってくれ。まだ、紅茶の評価を聞いてない」
ここで帰られては、部屋に呼んだ意味がなくなってしまう
効果が出るまで、何としても引き止めなければならない
しかし、呼びかけも虚しく、歩みは止まらない
このままではいけないと、ノアは、クラウツの前に回り込んだ

「っ・・・」
そのとたん、クラウツはさっと顔を逸らした
そのとき、ノアは気付いた
もしかして、もしかすると、もう、効果が出ているのではないか
ネロから買った、あの薬の効果が

「クラウツ・・・」
ノアは、そっとクラウツに抱き着く
そうしたとたん、珍しくその体が強張るのがわかった
「・・・王子、離れて下さい」
肩に、手が置かれる
だが、無理矢理引き離されることはなかった


「・・・嫌だ。僕が望むこと、わかってないとは言わせないからな」
より強く、クラウツに腕をまわす
もう、引き下がりたくない
触れてほしいという思いは、もはやかなり強いものになっていたから

クラウツは、迷うようにそのまま制止していた
だが、やがて、ノアの頬に手を添えて上を向かせ、視線を合わせた
「・・・どうなっても知りませんよ。一服盛ったのは、王子の方ですからね」
その平静な表情の中には、揺らぎが見えていた
必死に理性を保っている一方で、本能が暴れているような、そんな感じがする
以前に、自分がそうなったときのように

「それを覚悟して薬を入れたんだ。・・・いいから、お前の望むようにしてくれ」
とどめをさすように、言葉を投げかける
むしろ、理性なんて捨てて、クラウツが望むように、この身に触れてほしかった
「・・・わかりました。私の部屋へ行きましょう。おそらく、ベッドが汚れてしまいますから」
「クラウツ・・・ありがとう」
了承してくれるのなら、別に自室でなくともいい
ノアは、期待と緊張を入り交じえつつ、クラウツの部屋へ向かった




初めて訪れたクラウツの部屋は、とても殺風景だった
生活必需品以外は何もない、殺風景と言う表現意外思いつかないほどの、何の面白みもない
キングサイズよりは小振りのベッドへ足を進めると、ノアは自分からそこへ寝転がった

「王子・・・本当に、いいのですね」
上へ覆い被さりながらも、念を押すように問いかけられる
「よくなかったら、ここに来てない。・・・もう、あんまり恥ずかしいことを言わせるな」
自分からベッドに寝転がるだけでも、大胆なことをしているのに
これ以上、さらに大胆なことを言わせてほしくなかった

「・・・わかりました。では、その前に、これを・・・」
クラウツは、枕元に小さな小瓶を置く
中には、無色透明の液体が入っていた
「クラウツ、それは何だ?」
「後々、わかります」
詳細を教えることはせず、クラウツはノアに覆い被さった
これから行為が始まるのかと、覚悟と期待を込める
実のことを言うと、具体的にどんなことをするのかはわからない
ただ、この身の全てに触れてほしいと、そんな思いが先走っていた

クラウツがゆっくりと頭を下げ、ノアに近付いてゆく
ノアが目を閉じたとき、お互いの唇が重なった
何度交わしても、胸が温まる
その触れ合いを切欠に、心音が静かに強くなっていった


少し長い重ね合いの後、ノアの吐く息はすでにほんのりと熱を帯びていた
普段なら、口付けはここで終わっていたが、今日は様子が違った
ノアが息をついていると、クラウツは再び身を下ろし、もう一度、そこへ唇を重ねていた

「んっ・・・」
開いたままの唇を塞がれ、ノアは少しだけ驚く
そうして重なったとき、口の中に、何かが差し入れられるのを感じた
それは、感じたことのない、柔らかなもので
気付いたときには、初めて触れる何かに、舌が絡め取られていた

「っ、ふぁ・・・っぁ」
口内に何とも官能的な感触を覚えて、ノアは吐息を漏らす
自分の舌に触れられたことなんてなくて、頬に熱を感じずにはいられなくなる
お互いの液が混じり合うのがとてもいやらしく思えて、だんだんと頭がぼんやりとしていった


やがて絡まりが解かれ、名残惜しそうに唇が離れてゆく
そのとき、唇の間に細い糸が伝う
それは、お互いが混じり合ったものなのだとわかると、ノアはさらに頬を赤くした

「王子・・・嫌ではありませんでしたか?」
初めてのことに戸惑っただろうと、クラウツが問いかける
「・・・嫌なわけ、ないだろう。だって、お前がしてくれたことなんだから・・・」
頭がぼんやりとしているからか、本音がぽろりと零れる
その言葉を聞いて安心したのか、クラウツはそっとノアの頭を撫でる
髪をすいてゆく、なだらかな手つきが心地良くて、思わず目が細まった

ノアが一息つくと、クラウツは眼下にある服のボタンを外してゆく
これから、また、触れられたことのないところを愛撫される
そう思うと、やはり緊張感が生まれたが
それ以上に、どんな感覚を感じるのだろうかという期待の方が大きかった

服の前面が完全にはだけ、肌が露になる
クラウツは、ノアの白い肌をゆっくりと指先でなぞった
「っ、ん・・・」
胸部の辺りをなぞられたとたん、以前にも感じた寒気のような感覚を覚えて、ノアはかすかに声を発していた


その指先は、胸部を、腹部を、腰元を、滑るようになぞってゆく
そうして指先が移動してゆくたびに、ノアは何か新しい感覚を感じていた
そんな中、クラウツの指が胸部の中心に移動してゆき、そこにある小さな起伏に触れた

「ひぁっ」
起伏に触れられたとたん、ノアの体がびくりと震えた
そこに指先を感じただけで、変な声が出てしまう
ノアの反応に、クラウツはぴたと動きを止める
だが、その反応は自然なものだとわかっているのか、そのまま起伏を撫で続けた

「や、っ・・・ぁ、あ・・・」
そこに触れられると、何か、強い感覚が沸き上がってくる
ぞくぞくとしたものは増し、寒気のように思えるのに、なぜか逆に熱を覚える
それと同時に、下肢に、かすかな圧迫感を感じた
むずむずとして、身をよじる
そのとき、ノアの様子が変わったことに気付いたのか、クラウツは手を離した

「王子・・・熱いですか?」
「う、うん・・・」
照れながらも、ノアは頷く
熱は、今や頬だけではなく、下肢の方にも伝わっていて
そんなところに感じた熱に、ノアは戸惑っていた

「それが、普通の反応なのですよ」
「そ、そうか」
戸惑いが顔に出てしまっていたのか、そう諭される


「王子・・・私に、委ねていただけますか?」
問い掛けながら、クラウツはノアの頬を優しく撫でる
そうされると、気が落ち着いていくようだった

「ああ・・・全部、任せる。お前に、触れてほしいから・・・」
その思いは、感じる熱と共に強くなっていった
返事を聞き、クラウツは頬から手を離す
そして、ノアの下肢の方へ手をやり、服を下ろしていった

「あ・・・」
下肢の寝具と肌着も取り払われ、身を覆っているものはなくなった
自分の全てが露になる
羞恥心がないわけではなかったけれど、隠そうとは思わなかった

抵抗しないのを確認すると、クラウツは手を伸ばし、ノアの熱へ指先で触れた
「あぁっ・・・」
胸部に触れられた以上の刺激を感じ、声が上がる
ものを敏感に感じ取るそこは、わずかに触れられただけでも反応していた
細い指は、その形をなぞるように、上から下へと愛撫してゆく

「あ、ぁ・・・っ、や、ぁ・・・」
数本の指を這わされると、もう昂りを抑え切れなくなって
高い声が出るたびに、体が細かに震えてしまう
でも、そんな震えを感じても、まだ触れてほしいと思っている
これが欲情するということなのかと、そう感じた瞬間だった


やがて、クラウツが愛撫をやめ、枕元に置いてあった子瓶を手に取る
ノアは熱っぽい眼差しを向けつつも、興味深そうにそれを見ていた
「何も、怪しい薬というわけではありません。
・・・これからすることの痛みを和らげるものです」
この先、熱だけではなく、痛みも伴うことになるのだろうか
けれど、恐怖心は少しも生まれなかった
この身を委ねると言っていたし、何より、クラウツを信頼していたから

「ん・・・わかった。覚悟しておく」
ノアが返事をすると同時に、小瓶の蓋が外される
そして、中の液体が、ノアの体に落ちていった
「ひゃっ」
意外と粘り気のある液体が、太股の間を滑り落ちてゆく
それは、下肢の最も下にある窪まりを濡らしていった

瓶の中の液がなくなると、クラウツは窪まった箇所へと指を添える
そして、ノアの体が強張らない内に、指をそっと埋めた
「ああ・・・っ!」
とたんに、ひときわ上ずった声が上がる
自分の中に、クラウツの指が入ってきている
ほんのわずかに指先が進んできただけだというのに、とても強い刺激を感じていた
自分に、こんなにもものを感じやすいところがあるなんて知らなかった
先端だけが埋まっていた指が、徐々に、奥へと進んでくる

「は・・・あっ、あぁ・・・」
粘液質な、さっきの液をまとった指が、深く、体の中へと入っていく
受け入れるのは初めてでも、潤滑剤のおかげか痛みは感じなかった
むしろ、それよりももっと強い感覚がノアにつのっていく


クラウツは、ゆっくりとノアを解し続ける
軽く指を曲げ、強張りを緩めようとするたびに、ノアから裏返ったような声が上がった
少しずつ、慎重に、自身の中が解されてゆき
クラウツの指を感じると、熱がどんどん昂ってゆく
それでもまだノアは満足できず、もっと奥底まで触れてほしいと、そんなことを思っていた
やがて、強張っている箇所をさらに解すよう、挿入する指が増やされる

「あっ、あぁ・・・っ」
細い指とはいえ、少し刺激が増えるだけでも、どうしても声が上がってしまう
この熱は、どこまで上ってゆくのだろう
ずっと、こうして触れていてほしいという思いもあるけれど
この、つのった熱を発散させてほしいという思いもあった

だんだん、指が動かされても、高い声が控えめになってくる
体が解されてきたのだと、そう感じた
そうして声が落ち着いてきたところで、ふいに指の感触がなくなる
抜かれた時にも刺激が走り、その箇所がわずかに収縮した


「王子、ここからが痛みを感じることだと思います。・・・苦しかったら、すぐに言って下さい」
警告されたが、やはり怖いとは思わなかった
その痛みと共に、どんなものを感じるのか、そんな興味の方が強かった
「ん・・・もし、耐えきれなくなったら、そう言う」
死ぬほどの痛みでない限り、耐えるつもりだ
こう言っておけば、自分が止めない限り、クラウツは行為をやめないでいてくれるから

「そうして下さい。では・・・しますからね」
「ああ・・・」
熱っぽい眼差しで、クラウツを見る
すると、先に触れられていた箇所に、指とは違うものが触れた
人肌の様な感じはするが、指ほど細くはないし、感触も違う
そして、それは、ゆっくりと中に埋められていった

「いっ・・・ぅ、あ・・・!」
鋭い痛みと圧迫感が、とたんに全身を走る
今だけは、感じていた熱が痛みに掻き消されてしまっていた
思わず顔をしかめてしまい、クラウツが神妙な顔をする
このままでは、離れて行ってしまう
そう思った瞬間、反射的に腕を伸ばし、引き止めるようにクラウツの背に腕をまわしていた

「王子・・・」
ノアの反応を見て、動きを止めていたクラウツだったが
背に腕がまわされたのを感じると、少しずつ、自信を進めていった
「うぅ、んっ・・・は、あぁ・・・っ」
落ち着いたと思っていた声が、再び発されてくる
圧迫感が増してゆく一方で、少しずつ痛みは和らいでゆくようだった

「あぁ・・・」
自分の中に、クラウツのものを感じる
刺激を受け、自分が収縮するたびに、そこにあるものの感触をはっきりと感じる
そのとき、ノアは、どうしようもない高揚感を覚えていた


身を進めていたクラウツが動きを止め、お互いの下肢が触れ合う
今、完全に交わったのだ
「あぁ・・・」
思わず、感嘆の声を漏らす
愛の言葉を聞いたときは、精神的に満たされた
今は、肉体までもが満たされてゆく
一分の隙間もないほど密接に触れ合っていることが、とても幸せだった

「クラウツ・・・」
ありったけの愛情を込めて、その名を呼ぶ
「・・・こうして、王子と交わることができるとは思っていませんでした」
どこか、熱っぽくなっている声が耳に届く
「僕も・・・この前まで、そう思ってた。
だから、お前が応えてくれて、本当に嬉しい・・・」
薬を使って、半ば無理矢理誘発させてしまった行為だけれど
それでも、こうして触れてくれたことが何よりも嬉しかった


クラウツの手が、再び下肢へ伸びてゆく
そして、熱を帯びているノアのものを、掌で包み込んだ
「ひゃっ、あ・・・っ」
昂りに触れられ、高い声が漏れる
その声を合図としたかのように、包み込んでいた手が動き始めた

「あ、っ・・・あぁっ・・・」
とたんに、下肢が疼く
そこに受けた刺激に連動するように、収縮してしまうと、欲情がせり上がってくる
自分では止めようのない感覚が、溢れ出てしまう
とても敏感な個所に感じ続ける愛撫に、もう、自分の熱を抑えられなくなる
クラウツが最奥に留めた身をわずかに動かすと、ノアの全身が震えた

「やあぁ・・・っ!あ、あぁぁっ・・・!」
今までにないほどの、上ずった声が上がる
この瞬間、悦楽以外のことは何も考えられなくなって
つのっていた熱が、解放されていった
そのとき、クラウツが熱っぽい息をつき、身を引こうとしたが
何の前触れもなく離れて行こうとする相手を、ノアはとっさに引き止めた

「っ・・・ノア、王子・・・」
クラウツを引き止めた瞬間、何か、熱いものを自分の中に感じた
その瞬間、腕から力がふっと抜け、一気に脱力した




「は・・・ぁ」
ノアは、静かに息をつく
熱の余韻なのか、体はまだ倦怠感を覚えている
クラウツとの交わりが解かれても、身に感じた感触はまだ残っていた
「これが・・・子を宿すための行為なのだな・・・」
下肢に触れられたとき、相手をこの身に受け入れたとき、熱が溢れ出てきたとき
どれもこれも初めてのことだったけれど、ノアは満たされていた

「辛く、ありませんでしたか?」
ノアは、首を横に振る
「辛くなんてなかった。うまく言えないけれど・・・
体が熱くなって、何かが、湧き上がって来て・・・」
言葉の途中で先の出来事を思い出したのか、ノアは頬を染めた


「・・・幸せだった。お前が、余すとこなく触れてくれて・・・
お前と交わることができて、すごく、幸せだった」
愛し合うことのできた幸福感は、何物にも代えがたいものだった
自然と手が伸び、クラウツの頬へそっと触れ、視線を合わせる
「・・・クラウツ、愛してるんだ・・・」
意識しないまま、言葉が発される
クラウツは、頬に添えられている手を優しく重ね、答えた

「私も・・・きっと、ノア王子と同じ気持ちです」
そのとき、クラウツの口端が、少しだけ緩む
それは、ノアが始めて見る、頬笑みだった

「クラウツ、お前・・・!」
「どうかしましたか?」
クラウツがそう尋ねたとき、表情は元に戻ってしまっていた
微笑んでいたことに、自分で気付いていないのかもしれない

「ん・・・何でもない」
ノアは笑って、クラウツに抱きついた
いつも、何を考えているのかわからないような表情をしている執事が微笑んでくれたこと
それは、とても価値のあるものに間違いなかった
愛し合うことで笑ってくれて、言い表せないほどの幸福感を覚える
本当に、自分はクラウツを愛しているのだと
ノアは、改めてそう感じていた






「お母さん、見て!こんなにきれいなものもらったよ!」
小柄な少年が、母親の元へ駆け寄る
掌の中には蝶の形をしたガラス細工があり、陽の光を浴びて輝いていた
「おお、シアン。綺麗な蝶々だな」
母と呼ばれた者は、息子の頭を優しく撫でる
シアンはそれが嬉しかったのか、母親の腰元に抱きついた

「シアン、いつまでも母親に甘えていると王位を継ぐときに苦労するぞ」
別の声が、シアンに呼び掛ける
「はーい。・・・じゃあ、お父さんに甘える!」
母から離れたシアンは、今度はその父親に抱きついた

「全く・・・誰に似たんでしょうね」
そう言いつつ、父親も息子の頭を軽く撫でていた
「いいじゃないか。無愛想で、ぶっきらぼうで、表情一つ変えない子になるよりは」
「・・・まあ、そうですね。多少、意地っ張りでも素直に甘えられる性格の方が、扱いやすいですから」
二人の言葉を聞き、シアンは笑って両親を見ていた


この国では、母親が必ずしも女性である必要はなくなった
今では誰でも子を持つことができ、人口が増え、国は栄えていった
母親も父親も男性であることに、もはや誰も違和感を抱いていない
この国の王子の家族が、そうなのだから

王子と執事、そして息子
この平穏は、末永く続いてゆく
ここは、「何とも平和な国」なのだから―――




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
ファンタジー設定だったので、書きたいことを書ききってみました
いろいろできるので、書き易い連載でした

そして、次からは番外編として「何とも平和な隣国」を連載する予定です
主人公はノアでも相手が変わり、この話とはリンクしていません
少年×少年の、趣味丸出しな感じとなるので、苦手な方は要注意!
ではでは、最後までおつきあいいただき、ありがとうございました