召喚魔にいろいろされて人間止めてみた話11


森の開けた場所で、明光と祐樹は距離を開けて向き合っていた。
和やかな雰囲気ではなく、緊張感が漂っている。
そして、明光は抜刀し、なんと祐樹に切りかかった。
祐樹はさっと身をかわして、距離を取る。
攻撃を避けることはだいぶうまくなり、太刀筋を捕らえることができていた。

避けたあとは、離れた所から黒い球体を連続で投げる。
連投はできるようになったものの、威力はさほど強くない。
全て刀で弾かれ、森の中へ消えて行った。

「速度は増しましたが、まだまだ威力が足りませんね」
「まあ、そうだけど、使えるのは攻撃だけじゃない!」
祐樹は、明光の足元へ球体を投げる。
すると、黒い霧が立ち上り、周囲の光が遮断された。
その隙に、祐樹は鎖を放って明光を捕らえようとする。
けれど、見えなくとも気配は察知されてしまい、一瞬で寸断されてしまった。

「目くらましとは、上手く使いましたね」
「まあな。威力が低くても、使いようはあるんだ」
先日の一件から、祐樹は力を高めることに対してさらに意欲的になり、明光と手合せをしていた。
一人でやたらめったら力を使うより、相手がいた方が良い訓練になる。
明光と共に戦っていることは、疲れを忘れるくらい楽しかった。

そんなとき、ふいに邪魔者の気配を感じ、明光は森の方へ目を向ける。
その瞬間、森の奥から赤い光線が真っ直ぐに向ってきた。
明光がとっさに後ろへ飛ぶと、肩の横を光が通り過ぎて行き、木々を貫いた。

「何だ!?」
妖魔が襲ってきたのかと、祐樹も森の方を向く。
「二人揃って、うだつの上がらない馴れ合いでもしていたか」
いやみったらしく言ったのは、野生の妖魔ではなくルシファーだった。

明光は、敵意を込めた目でルシファーを睨む。
「祐樹さんに、何か用ですか」
普通の質問でも、声の調子がまるで違って祐樹は眉をひそめる。


「用があるのはお前の方だ。そろそろ、力を返してもらおうかと思ってな」
ルシファーは臨戦態勢に入り、威嚇するように翼を広げる。
「お、お前、何言って・・・」
祐樹が尋ねる間もなく、ルシファーは再び閃光を放つ。
かなりの速度の光を、明光はぎりぎりのところでかわした。

「祐樹さん、離れていて下さい!」
明光は刀に青い光を宿し、地面を蹴る。
光をまとった刀身は一直線に伸び、ルシファーを貫こうとした。

「ちゃちな光だ」
ルシファーは鎖を伸ばし、刀ごと明光を束縛しようとする。
絡みつかれたら終わりだと、明光は飛び退いた。
「お、おい、ルシファー、止めろよ」
「邪魔をするな」
静止の声に、ルシファーは聞く耳持たない。

「み、明光、刀をおさめろ!」
「危険ですから、下がっていて下さい」
隙を見せないよう、明光はルシファーを凝視したまま言う。
邪険にされて、祐樹はむっとする。
そのまま戦闘が続くと、祐樹はだんだんと不安になっていた。


ルシファーが圧倒的かと思いきや、明光もいい勝負をしていて
たまに、青い光がルシファーの肩をかすめることもあった。
まだお互いに外傷はないものの、いつ致命傷を受けるかわからない。
そんな攻防に、祐樹は冷や汗をかいていた。

「二人とも、もう止めろ!」
答える暇もないのか、二人は返事もしない。
自分が間に入るべきかとも思ったけれど、一瞬で消し炭にされてしまう気がして足がすくんだ。
それでも、何とかして止めなければならない。
いつ勝負がつくかもわからない攻防に、焦りが募る。
言葉で言っても駄目なら、取るべき方法は一つしかない。
自分の力が通用するだろうかなんて、弱気になっている場合ではなかった。

「お前ら、いい加減に・・・」
どちらにも傷ついてほしくない、失いたくない。
危機感や焦燥感とは違う感情が強まり、祐樹を助長する。
ざわりと木の葉が揺れ、祐樹の雰囲気が変わると、羽がはためき、尻尾が真っ直ぐに伸びた。

「いい加減に、止めろって言ってんだろー!」
祐樹は衝動のままに叫ぶと同時に、鎖を放つ。
異変に気付き、二人が祐樹を見たときには、体に鎖が巻き付いていた。
決して動かないよう、鎖は二人をきつく束縛する。


「こんな鎖で、我等を止められるとでも・・・」
ルシファーは、鎖を砕こうと爪を光らせる。
けれど、禍々しい光は鎖に触れた瞬間に弾かれた。
明光も逃れようと腕に力を入れるけれど、解かれる気配はない。
祐樹の感情の強さに比例し、鎖の硬度は確実に増していた。

「オレは妖魔になって、召喚者じゃなくなったけれど・・・勝手なことさせないからな!喧嘩両成敗だ!」
祐樹の叫びは、命令するようでもあり、懇願するようでもあった。
本当に争ってほしくないのだと察し、明光はちらとルシファーを見た後、力を抜いた。

「祐樹さん、貴方の制止の声も聞かず、申し訳ありませんでした。今は、もう争いません」
今は、という部分が気になったものの、祐樹は明光の鎖を解く。
「少しの間、遠くへ行っておいてくれ。こいつは何するかわからないからな」
「わかりました。くれぐれもお気をつけてください」
明光は刀を鞘に戻し、森の中へ去って行く。
姿が見えなくなると、祐樹はルシファーの鎖も解いた。

「書斎のときとはまるで硬度が違ったな。それほど、あいつのことが大切か」
「・・・まあな。でも、それだけじゃない」
続きを言うと、きっとルシファーを調子づかせてしまう。
けれど、感情が高ぶっている今、口に出さずにはいられなかった。


「昨日、お前の助けがなかったら、オレはきっと街に連れ戻されてた。
・・・感謝してないわけじゃない」
意外な言葉に、ルシファーは閉口した。
祐樹の性格なら、騙されて血を飲まされたことに文句を言いそうなものだけれど、素直な発言に虚を取られていた。

祐樹が視線を反らしていると、ルシファーが側まで歩み寄る。
顔を上げたときには、片腕で抱きとめられていた。
「な、何してんだ・・・」
ルシファーは答えず、祐樹を抱き寄せたままでいる。
身長差があるので、片腕だけでも体が包まれている感じがした。

どことなく恥ずかしくて、祐樹は視線を下げたままでいる。
すると、ルシファーの左腕の手首の辺りに、切り傷が見えた。
たぶん、血を与えるために切ったのだと思うと、心苦しくなる。
祐樹はおずおずと手を伸ばし、その傷に触れていた。
みみず腫れのようになった跡が痛ましくて、労るように、指でそっと撫でる。

ルシファーは少しの間静止していたが、左腕を動かし、祐樹の頬へ持っていく。
広い掌に包まれると温かくて、祐樹は目を細めた。
そのまま、掌が顎へと移動し、上を向くよう誘導する。
祐樹が顔を上げたときには、もうルシファーが目の前にいて
目を閉じる間もなく、唇が塞がれていた。

「んっ・・・」
強く重ねられ、祐樹はわずかに呻く。
すぐに、唇が柔い舌になぞられ、無意識のうちに隙間を開いてしまう。
ルシファーは微塵も躊躇うことなく、祐樹の中を侵していた。

「は、あ・・・っ」
瞬く間に舌が絡め取られ、祐樹は吐息をつく。
ルシファーは欲望のままに口内を蹂躙し、余すとこなく触れる。
中が掻き乱されると祐樹の息は落ち着きがなくなり、密接になっている胸部から鼓動の強さが伝わった。

ゆったりとした触れ合いとは違う、激しい欲望に蹂躙される。
隙間から液が交わる音がし、喉の奥に液が溜まっていく。
どうしようもなくて飲み込んでしまうと、また鼓動の強さが増すようだった。
長い口付けで、頬に熱が上って仕方がないのに、離れようという意志がわいてこない。
祐樹は、ルシファーの気が済むまで、交わり続けていた。


ようやく唇が解放されたとき、祐樹は肩で息をし、目は虚ろになっていた。
抱き寄せられるままに、ルシファーにもたれかかる。
「い・・・いきなり、何すんだよ・・・」
「お前が、煽るようなことをするからだ」
「煽るって、そんなこと・・・」
「無自覚か、厄介だな」
そう言いつつも、ルシファーは面白そうに笑む。

「我に依存したくなければ、血気を抜いてやろうか。お前の下肢から・・・」
「ば、馬鹿なこと言うなっ」
祐樹はとっさにルシファーの胸を押すけれど、離してはくれない。
尻尾で手を弾くこともできたけれど、そうしなかった。

「お前は、本気で我を拒もうとはしない。認めてしまえばいい、我の存在を欲しているのだと」
「うう・・・」
祐樹は反論できずに、奥歯を噛みしめる。
気付いた頃には、抱き留められることが嫌ではなくなっていた。
力を得るため、妖魔になるために利用していただけとは違う。
明光に対する想いともまた別物だけれど、好意的な何かを抱いていることは確かだった。


大人しくしていると、ルシファーの手がするりと尻尾を撫でる。
祐樹は肩を震わせたが、ルシファーは愛撫を続けた。
「や、止めろよ・・・っ」
口ではそう言っても、行動が伴わない。
ルシファーの広い掌が滑ると、祐樹は堪えるようにしがみついていた。
もしや、こんな場所で、気を昂らせようとしているのだろうか。

「まさか、ここであれこれするわけじゃないよな・・・?」
恐る恐る尋ねたが、返答はない。
否定か肯定かわからない態度が怖くなって、祐樹の背筋に寒気が走った。

「オ、オレは嫌だからな!こんな、外でするなんて・・・」
「嫌なのは、場所だけか」
ふいをつかれた問いに、祐樹は言葉に詰まる。
嫌なのは、ルシファーにされることではないと、改めて気付かされたから。
どうしても拒むことができなくて、尻尾だけが細かく震える。
ルシファーは少しの間動きを止めていたが、やがて祐樹を解放した。

「夜、また赤い木々でも見に行くか」
「え・・・?あ、ああ、赤い木か。うん、見に行く、あれは綺麗だから好きだ」
突然話が変わり、祐樹はうろたえる。
これは逃れる好機だと思っていたけれど、ルシファー怪しく笑っていた。




夜、祐樹はルシファーに連れられて赤い木がある場所に着く。
風もないのに花弁がはらはらと散り、その空間は幻想的だ。
「やっぱり綺麗だ・・・今日は満月だし、ひときわ綺麗に見える」
月明かりに照らされる赤色に、祐樹は瞬く間に目を奪われていた。
これは、妖魔の血を吸った鮮血の色なのだろうけれど、見とれずにはいられなかった。

「祐樹、少し血を与えてみろ」
「血を?まあ、いいけど」
祐樹は爪で指先を切り、木の根元に垂らす。
すると、とたんに木の幹へ赤い線が走り、上へ上っていく。
枝まで到達すると血は花弁に吸収され、赤くきらめいた。
夜闇を背景に輝く花弁はさらに美しさを増し、祐樹は言葉を無くしていた。

続いて、ルシファーも指先を切り、別の木に垂らす。
木がその血を吸収すると、花弁は赤黒くなった。
赤と黒、二色の花弁が混じり会う。
祐樹は瞬く間に魅了され、目を離せなくなった。


ずっと見上げたままでいると、ふいに腕を引かれて、座るように促される。
尻餅をつくと、背がルシファーにぶつかり、体が抱きすくめられた。
いつもなら、何するんだと抵抗しているところだけど、花弁に気を取られて大人しくしている。
好機と思ったのか、ルシファーは祐樹の服の中へ掌を滑り込ませた。

「あ・・・」
祐樹は少し動揺したけれど、手を振りほどこうとはしない。
なぜだか、掌の温度がやけに気持ちよくて、目を細めていた。
抵抗しないでいると、手が下へ下がってくる。

「ル、ルシファー・・・」
「嫌悪感がないのなら、大人しくしていろ」
「う・・・」
嫌な気持ちはしていなくて、祐樹は静かになる。
跳ね退けてもいいはずなのに、できない。
妖魔になった今でも、祐樹は以前のように花弁の妖気に惑わされていた。
掌がズボンの中へ侵入してきても、拒む気になれない。
そのままでいると、とうとう指が下肢の中心部に触れ、やんわりと添えられた。

「あ、う・・・」
祐樹は細く息をつき、尻尾を揺らす。
ゆったりと撫でられると、体がびくりと震えた。
「や・・・ここ、外・・・」
「今更止められると思うか。お前のものは、もう反応しているぞ?」
「ううっ・・・」
ルシファーの掌に完全に包まれて、祐樹の下肢に熱が溜まる。
雰囲気にのまれているのか、気が高揚するのが早かった。
花弁の中にいると羞恥心が麻痺するようで、外だということが気にならなくなる。
ただ、ルシファーに愛撫されるがままに感じていた。

「妖気を帯びた花弁の中で、行為を進めるのも悪くないだろう」
ルシファーは耳元で囁き、掌全体で、ゆったりと祐樹を撫で続ける。
同時に、うなじに唇を寄せ、舌でなだらかに弄っていった。

「あぁ、ぅ・・・」
首筋にぞわぞわとしたものを感じ、祐樹は身震いする。
寒気がするのに、体はその感覚を受け入れたがっていた。
ルシファーの手が往復するたびに喘ぎ、思考が麻痺してくる。


「祐樹、快楽に溺れてみろ・・・」
ルシファーは祐樹のものを捕らえたまま、尻尾を掴む。
そして、前も後ろも同時に愛撫した。

「ああっ、尻尾、やめっ・・・!」
とたんに、祐樹の声が高くなる。
気が高揚している今は、尻尾がだいぶ敏感になっていて、欲が一気に競り上がってきていた。
あまりの感覚に尻尾を揺らして逃げようとするけれど、強く捕まれると力が抜けてしまう。
指先で先端を撫でられると、とても喘ぎを抑えきれなかった。
その間にも、ルシファーは祐樹のうなじに唇を寄せ、点々と赤い跡をつけてゆく。
まるで、自分の所有物だと言うような、そんな印を。

「尻尾が良いんだろう。素直に言ってみろ」
「や、だ・・・」
祐樹が歯を食いしばって言葉を飲み込むと、ルシファーが手を離す。
急に刺激がなくなり、祐樹は肩で息をした。

「意地を張るのなら、それもいいだろう。どこまで堪えられるのか見物だな」
ルシファーは意地悪そうに、祐樹の耳元で言う。
熱を帯びた体は、その吐息をも刺激としてとらえてしまう。
けれど、そんな呼気だけではとても足りない。
高揚しきった体は、もっと強いものを求めていた。

「ル、ルシファー・・・」
「名を呼ぶだけではわからんぞ。何をしてほしい・・・?」
わかっているくせに、ルシファーは口端を上げて面白そうにしている。
祐樹は唇を噛んだけれど、本能的な欲求には逆らえない。
何もされない時間がもどかしくて、欲望はどんどんつのっていった。


「・・・さ、さ・・・わ・・・」
「羞恥心など不必要だ。言ってみろ」
祐樹は俯き、細い声を発する。
「触って・・・ほしい・・・・・・」
プライドも、羞恥心も、強い欲の前では掻き消されていた。
望んでいた答えを聞き、ルシファーは再び祐樹のものを包み込んだ。

「ああっ・・・」
広い掌を感じ、祐樹は悦楽の声を上げる。
構ってほしいと言うように尻尾を動かすと、そこも掴まれた。
ルシファーの指先は、前にあるものも、尻尾の先端も撫でまわす。
先端から根元までを何往復もし、休ませる暇を与えない。

「あ、あ、ルシ・・・っ・・・!」
「望んでいるのだろう、祐樹・・・」
優しげな声に、甘えたくなる。
祐樹は無意識の内に頷き、ルシファーの手首に尻尾を絡ませる。
ちょうど傷がある個所を、労わるように。
ルシファーは、祐樹の首元にそっと口付けを落とす。
その静かな行為とは裏腹に、手は激しく動き、祐樹を絶頂へと誘った。

「は、あ、ルシファー・・・っ、んん・・・ああぁ・・・!」
祐樹はいっそう高い声を発し、全身を震わせる。
そして、起ちきった自身のものから、白濁が散布されていた。
尻尾から力が抜け、地面に下ろされる。
体は、だるそうにルシファーへもたれかかっていた。
ルシファーは、白濁がかかっていない方の手で祐樹の頬へ指の腹で触れる。

「は・・・」
おぼろげな眼差しのまま、祐樹は自分から掌に頬を寄せる。
熱い頬が触れ、ルシファーはじっと祐樹を見ていた。

「祐樹、我の伴侶になるか」
「伴侶・・・?」
「我と添い遂げれば、永遠の時間を与えてやろう」
ルシファーは祐樹を横抱きにし、誘惑するように顎を撫でる。
ぼんやりとした思考のさなか、悪い気はしていなかった。
離れる心配がなく、一生共に居られるのなら、いいのかもしれない。
答えを出さないでいると、ルシファーは祐樹と唇を触れ合わせる。
一秒、二秒、静止した後、ゆっくりと身を離した。

「こうすることが、嫌ではないのだろう」
祐樹は否定も肯定もしないけれど、拒まないことが答えを物語る。
嫌悪感はなかった。
けれど、誘惑されているさなか、思い浮かんだのは明光の姿だった。

「・・・嫌じゃ、ない。けど、オレは・・・明光とも離れられない、わがままな奴なんだ」
「その者を殺せば、お前は我のものになるか」
「や、止めろ!そんなこと、絶対に許さないからな・・・!」
祐樹はルシファーを睨むが、今はまるで迫力がない。

「頑固な奴だ。まあいい、我の時間は無限に等しい」
ルシファーは祐樹の頭を抱き、自分の方へ引き寄せる。
たくましい腕に包まれて、祐樹は目を閉じていた。
甘い関係なんて似つかわしくないけれど
父性のようなものを感じて、よりかからずにはいられなかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
ルシファーは積極的すぎますかね。なんだかんだで祐樹のことは気に入っています。