召喚魔にいろいろされて人間止めてみた話13


目を覚ましたとき、祐樹は大きなベッドの上にいた。
体を起こすと、隣で赤ん坊が眠っていることに気付く。
いつの間に洗い終わったのだろうかと思ったが、浴室で倒れたことを思い出した。
赤ん坊は、ぐずりもせずすうすうと寝息を立てている。
そんな大人しい様子を見て、祐樹の顔は曇っていた。

「祐樹さん、起きましたか」
明光が部屋に入ってきて、祐樹の隣に腰掛ける。
「お前が運んでくれたのか。・・・悪いな、手間かけて」
「そんなに気になさらないでください、今に始まったことではありません」
明光のさりげない言葉が、祐樹の胸に刺さる。
悪気があるわけではないと、わかっていても気持ちが沈んだ。

「・・・そうだよな、オレは手間をかけてばっかりだ」
祐樹の声が急に弱くなり、明光は眉をひそめる。
「もしかしたら、この赤ん坊は母さんの理想なのかもしれないって思うんだ。
ぐずらないし、夜泣きもしない、そんな大人しい子供が欲しかったんだろうって・・・」
「祐樹さん、決してそんなことはありません!」
明光の声が力強くなり、祐樹は目を丸くする。

「貴方の母親は、確かに基本的には厳しいです。けれど、それ以上に身を案じています。
貴方が辛かったとき、無理しないでいいと、転校してもいいと言ってくださったではありませんか」
「でも、あれは弱い息子が情けなさすぎて、とても見ていられなくなったからじゃ・・・」
「何より、私と祐樹さんの関係を許してくださっています」
祐樹は、口を開けたまま呆ける。


「一度、私が祐樹さんを抱いていたとき、何もおっしゃいませんでした。
それは、貴方の意思を尊重してくださっているからです」
そういえば、明光との関係について問われたこともないし、咎められたこともない。
祐樹は反論する言葉をなくし、明光の言葉を信じたくなっていた。

「ただ、祐樹さんの母親の愛情が、赤ん坊に移る可能性はあります」
「お前、励ましてるのか、不安にさせたいのかどっちなんだ」
「もちろん前者です。・・・万が一、愛情が移ったとしても、祐樹さんのお側には私がいます」
明光は祐樹の側に寄り、肩に手を回す。
急に距離が近くなって、反射的に身を引こうとしたけれど、逆に抱き寄せられる。
こうしても嫌がらないことを、明光は察していた。

「私は、貴方のことを誰よりもお慕いしている自信はあります。あの輩よりも、ずっと・・・」
「お、お前・・・涼しい顔して、相変わらず恥ずかしいこと言うよな・・・」
「本心ですから」
心からの好意を向けられると、心音が反応する。
恥ずかしくて仕方がなくて顔を背けようとしたけれど、とっさに頬に手が添えられた。
そのまま、唇が寄せられて、静かに重なる。
伝わる体温も、柔い感触も心地よくて、祐樹は自然と目を閉じた。


重なっているさなか、明光の掌が祐樹の髪を撫でる。
優しい手つきをされると、身を預けたくなってしまう。
明光がその唇をやんわりと食むと、応えるように隙間が開いた。
ゆっくりと、隙間へ柔いものが入り込んでいく。

「は・・・ふ・・・」
自分の舌に触れられ、祐樹は吐息を漏らす。
荒々しい交わりとは違う、ゆったりとした動きに陶酔する。
頬の熱だけは徐々に上がっていって、吐息は深くなっていった。

お互いが絡まり合うと、尻尾がぴくりと動く。
静かな動きは少しずつ激しくなるようで、液の音が隙間から漏れ始めた。
「んん、は・・・っ・・・」
祐樹の喘ぎを聞くと、明光は舌を奥まで差し入れ、絡め取る。
抑制が効かなくなってきているのだと察したけれど、祐樹は抵抗しなかった。


明光が離れると、間に液が伝って落ちる。
祐樹は肩で息をして、熱の余韻を感じていた。
このまま、迫られるかと覚悟をする。
けれど、明光は祐樹を開放し、身を離した。

「あまりやりすぎると、赤ん坊が起きてしまいますね」
それは、浴室の時と同じく、建前のような、棒読みな調子だった。
のぼせたところから回復したばかりで、消耗させてはいけないと気遣っている。
はっきりと言われなくとも、明光の性格は祐樹が一番わかっていた。

「私はこれで失礼します。ゆっくり休んでくださ・・・」
言葉の途中で、祐樹は明光の腕を掴んで引き寄せる。
もう、気遣いなんてされたくなかった。

「たまには、我儘の一つくらい言ってみろ。オレとお前の間に、もう主従関係なんてないんだ」
「いいのですか?私は案外、欲深いですよ」
「運んでくれたお礼ってわけじゃないけど・・・オレは、跳ね除けない」
いつも平静な明光も、祐樹の言葉に背を押される。
隣で眠る赤ん坊をちらりと見た後、祐樹の手を握った。

「備え付けの、浴室へ行きましょうか。そこなら、赤ん坊が泣けばすぐにわかります」
「わ、わかった」
自分から言い出したものの、祐樹の舌は少し渇いていた。




浴槽に、半分くらいぬるま湯を貯める。
先に祐樹が入り、緊張しつつ明光を待っていた。
ぬるま湯の半身浴なら、のぼせる心配はないけれど
他の要因の熱でゆだってしまうのではないかと、そんなことを考えていた。
膝を抱えて待機していると、浴室の扉が開く。
祐樹は、そっちに目を向けることができなかった。
すぐに、明光が浴槽の中に入ってくる。

「祐樹さん、触れてもいいのですね」
恥ずかしながらも、祐樹は頷く。
さっきは指一本触れるなと言っていたのに、この変わりようは自分でもおかしかった。
けれど、明光になら任せても大丈夫だと思える。
明光は祐樹に身を寄せ、正面から覆い被さる。
肌が密接になり、とたんに祐樹の鼓動が反応した。

「今更ですが、素肌を触れ合わせるのは初めてですね」
「そう、だな。・・・何か、今まで順番を間違えてた気がする」
「順番など、決まっていませんよ」
明光は、そっと祐樹の唇を塞ぐ。
このまま行為を進めてもいいかと確認するような、そんな口付け。
祐樹は抵抗せず、目を閉じて受け入れていた。

数秒間の静かな口付けの後、明光は祐樹の耳元へ唇を寄せる。
耳朶からゆっくりと舌を這わせると、祐樹の肩が震えた。
舌先は耳の形をなぞり、裏側も前面も愛撫してゆく。
祐樹が喉元で声を抑えていると、柔い感触が中に入り込んだ。

「あ、ぅ・・・」
寒気のような感覚が、耳から背筋に伝わる。
祐樹は思わず顔を背けて逃げようとしたけれど、明光の手が頬に添えられた。
舌は遠慮なく入り込み、奥まで侵してゆく。
少し動かれるたびに液の音が直に聞こえてきて、やたらと恥ずかしい。
淫らな感触に、祐樹は息を荒くしていた。


ようやく舌が抜かれ、祐樹は一旦息をつく。
俯きがちになったとき、明光の下半身に目がいった。
「・・・お前、もしかして不感症、なんてことないよな」
表情と同じく平静な明光のものを見て、疑問に思う。

「いえ、堪えているだけです」
「こ、堪えられるもんなのか?」
「欲を露にすると、祐樹さんに何をするかわかりませんから」
どこまでも身を案じていてくれているけれど、祐樹は変にもどかしくなっていた。
変なとこで、他人行儀なことはしてほしくない。
そんな抑制をなくしてしまいたくて、祐樹はおずおずと明光のものに指先を触れさせた。
意外な行動に驚き、明光が一瞬だけ目を丸くする。

「祐樹さん、何を・・・」
「お、お前だけ涼しい顔してるなんて気に入らない。少しくらい、恥ずかしい思いしてみろっ」
祐樹は、思いきって明光のものを掴み、やんわりと擦る。
相手のものに触るなんて初めてで、だいぶ動揺してしまう。
ただただ単純な動きを繰り返していたけれど、やがて明光が吐息をついた。
手の内にあるものが反応しかけていて、祐樹はさっと手を離す。
慣れないことをしたせいか、触れるだけで頬が熱くなっていた。


「・・・たまには、我慢することなんて忘れろ。オレは、お前のこと拒みはしないから」
「わかりました。・・・ありがとう、ございます」
明光は、感謝の意を示すように祐樹の頬に口付ける。
そして、祐樹の下肢のものを、指の腹でゆったりと愛撫した。

「ああ・・・っ」
敏感な箇所への刺激は、祐樹の気を昂ぶらせる。
単純な動きではなく、指先は匠に動く。
先端や根元までを何度も往復し、余すとこなく触れていく。
優しくとも艶かしいような手つきに、そこは反応せずにはいられなかった。

「触れ合わせても、いいですか」
「っ・・・だから、許可取る必要なんてないって、言ってるだろ」
むしろ、これからすることを宣言されると強張ってしまう。
明光は微かに笑い、祐樹に身を寄せる。
そして、お互いの下肢のものを触れ合わせた。

「あ、あ・・・」
皮膚の感触に、欲と動揺が入り混じる。
欲情していることを目の当たりにして、心音は更に落ち着かなくなった。
明光は自分のものと、祐樹のものを片手で掴み、押し付ける。
下肢が隙間なく密接になり、祐樹は目を細めた。


「私の欲望で、祐樹さんに余計な負担は与えまいと思っていました。
ですが、もう、手遅れです」
下肢を包む手が、上下に動き始める。
「んん・・・っ」
水の抵抗もあって、動きはさほど早くはなくとも、擦れると気が高揚してしまう。
相手のものを触ったこともなかったのに、ましてや触れ合わせた経験なんてない。
それだけでやたらと高揚しているのに、明光はまた耳元へ唇を近付けていた。
さっきとは逆の耳を、躊躇いなく弄る。

「う、あ、何・・・っ」
舌の動きは早く、感じやすい箇所を刺激する。
外側はすぐにしっとりと塗れ、内側までも侵食されていく。

「や、あぁ・・・」
柔いものがすぐに奥まで入り込み、祐樹は思わず声を上げた。
淫らな水音と柔い感触に、寒気がするのに頬が熱くなる。
くぼまった部分に這わされると、びくりと足が跳ねて、浴槽の線を繋ぐ鎖を引っ張った。
隙間ができて、少しずつ水が抜けていく。
祐樹の反応に気付き、明光は舌を抜いた。


「祐樹さんは、相変わらず耳が弱いのですね」
「っ・・・」
何も言えず、祐樹は口をつぐむ。
水位はどんどん下がり、もう足首のあたりまでしか浸かっていなかった。
「でも、ここはもっと弱いのですよね・・・」
明光は、祐樹のものの裏側を指先で軽く撫でる。

「ああっ・・・」
びくりと体が跳ね、上ずった声が出てしまう。
指はゆっくりと移動し、弱い箇所を往復する。
祐樹はどうしても体の反応が抑えきれず、息を荒くしていた。
明光は、祐樹の声にも、表情にも高揚する。
顔には出なくとも、体がそれを示していた。
その昂ぶりを、再び祐樹のものと触れ合わせる。
それはさっきよりも熱くなっているようで、祐樹は息を飲んだ。

「わかりますか、私の気の昂ぶりが・・・。まさか、貴方が触れてくれるなんて、思っていませんでした」
「だ、だって、お前がいつも平然とした顔してるのが、気に入らなかったから・・・」
「どんな理由であっても、とても喜ばしいことです」
言葉を言い終えると、明光は下肢に手を伸ばし、勃ちきっているものを包み込む。
お互いが擦れ合うと、祐樹は吐息をついた。
水の抵抗がなくなって、その手は滑らかに動く。

「は、んん・・・っ」
「祐樹さん、どうか声を抑えないでください」
明光が、空いている方の手で祐樹の唇をなぞる。
祐樹が無意識のうちに隙間を開くと、明光は指の腹で祐樹の下肢を撫でた。

「ひ、あ・・・」
触れ合わせているだけでも興奮するのに、さらに刺激が加えられる。
先端から液がわずかに滴り、祐樹はとても自分の下半身を直視できなくなっていた。
そのさなか、ふいに、明光も軽く息を漏らす。
はっとしてその顔を見ると、白い肌が赤らんでいた。
いつも平静なこの相手が、興奮しているのを実感する。
その要因は、まぎれもなく自分にあるのだと思うと、祐樹の鼓動が強まった。
下肢の手はもう一時も止まらず、お互いを擦り、密接にする。

「あ、あ・・・明光・・・」
自然と、その名が口から溢れる。
この深い仲を許容し、求めるように。
「お慕いしています、祐樹さん・・・私は、あなたの母親よりも、あの輩よりも、きっと・・・」
耳元で、熱い吐息とともに熱烈な言葉が告げられる。
特別に想ってくれていることが嬉しくてたまらなくて、祐樹は明光の背に片手を添えていた。
喜びを素直に言葉には出せない分、無意識のうちの行動が示してくれる。
とたんに抑制なんて吹き飛び、明光は祐樹の耳へ自らを進めていた。

「ああっ、は、や、あぁ・・・!」
下肢も、耳も、弱い箇所を同時に攻められ、祐樹の体が跳ねる。
そして、次の瞬間には、溜まりきった欲が解放されていた。
粘液質な白濁が、明光の掌にまとわりつく。
そこで、明光は身を引こうとした。
達したばかりでぼんやりとしているさなか、祐樹はとっさに明光の腕を掴んで引き止める。

「また、堪える気か・・・お前はまだ、満足してないだろっ」
祐樹は、羞恥心も忘れて明光のものを掴む。
そこにも自分の液がかかっていてわずかに戸惑ったけれど、躊躇している暇はなかった。
指に絡みつかせて全体をなぞり上げると、とたんにその身が震えた。

「あ・・・祐樹、さん・・・っ」
もうぎりぎりだったのか、明光が初めて声を上げる。
そして、同じ白濁が、その下肢から溢れ出していた。
祐樹の手が、淫猥な感触で濡れる。
明光は息をついて、悦の余韻に浸っていた。
そんな表情を目の当たりにして、祐樹は目が離せなくなる。
男に使うのはおかしいかもしれないけれど、どことなく色っぽい。
今なら、相手の姿を見るだけで高揚する気持ちがわかる気がした。

「・・・あ、洗うか」
「そうですね」
回復が早いのか、明光の声はもういつもの調子に戻っている。
祐樹はいそいそと浴槽から出て、体を洗い直す。
我に返ってみると、とんでもなく恥ずかしいことをしたと自覚する。
何を言えばいいかわからなくなって、明光を待たずに浴室から出ていた。


服を着直して、ベッドへ駆け寄り赤ん坊の様子を見る。
相変わらず大人しいもので、小さく寝息をたてていた。
「祐樹さん、一緒に寝てもいいですか」
突然背後から話しかけられ、祐樹は肩を震わせる。

「い、いいけど・・・赤ん坊が隣にいることを忘れるなよ」
「わかっています。自重しますので、安心してください」
明光は祐樹の手を引き、ベッドに入る。
すぐに手が離されたので祐樹はほっとしたけれど、すぐに肩が抱き寄せられていた。

「み、明光」
「大丈夫です、これ以上のことはいたしませんから・・・」
触れ合う肩から伝わる温度が嫌ではなくて、祐樹は抵抗しない。
服を隔てているのに、まだ先の熱の余韻が感じられるようだった。

「さっきは、ありがとうございました。お世辞ではなく、本心から喜びを感じていました」
「う・・・だ、だって、オレだけ恥ずかしい思いするなんて、不公平だ」
明光は、祐樹の横顔をじっと見詰める。

「私に触れたのは、それだけの理由なのですか?」
追及されて、祐樹は言葉を詰まらせる。
すぐに肯定しない態度は、他に理由があると言っているようなものだった。

「私は貴方の本音が聞きたい。お願いします、祐樹さん」
「うう・・・」
たぶん、言うまで寝かせてはくれないだろうと察する。
朝まで耳元で囁かれてはたまらないので、祐樹は声を出した。

「お、お前は・・・ああいうことするとき、いつも・・・自分だけ、た、達しないし・・・
・・・だから、たまには満足させてやりたかったんだよ!」
前半はだいぶ小声だったけれど、後半はやけくそになっていた。
祐樹の本音に、明光の頬がやんわりと緩む。
そして、慈愛を込めた目で祐樹を見詰めた。

「ありがとうございます、祐樹さん。・・・貴方の言葉で、私は満たされる」
「お、大げさな奴だな・・・」
まんざらでもなくて、祐樹は反発しない。
ルシファーに襲われていたとき思いついた名前は、明光しかいなかったから。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
一度、裸のつきあいというものをさせてみたかった・・・いつも着衣でさせているんで、ね。