召喚魔にいろいろされて人間止めてみた話14


祐樹が、母親から赤ん坊を預かってからというものの
母から離れてもぐずることなく、相変わらず大人しかった。
明光にもなついているようで、預けても泣き声一つ上げない。
ルシファーはよっぽど赤ん坊が苦手なのか、姿を現すことがない。
そんなとき、祐樹の悪戯心が珍しく疼く。
そして、翌朝、祐樹はいつもよりだいぶ早起きをしていた。

事前に、アゼルにルシファーがよく使う部屋を教えてもらい、足音をひそめて向かう。
その腕には、まだ寝ている赤ん坊を抱いていた。
部屋の前に着くと、慎重に扉を開ける。
大型のベッドの上でルシファーが寝ているのを見ると、息を殺して歩み寄った。

恐る恐る顔を覗いてみたけれど、起きる気配はない。
こんな好機はないと、祐樹は赤ん坊をルシファーの腹の上に寝かせた。
準備が整うと、さっと離れる。
そして、クローゼットの中に入って、隙間から様子を窺った。


しばらくは何も変化がなかったが、違和感に気付いたのか、ルシファーがわずかに動く。
そして、体を起こそうとしたところで、腹部に乗っているものを認識した。
夢だと思っているのか、ルシファーは硬直する。
だが、すぐ嫌そうに眉を寄せ、ゆっくりと赤ん坊に手を伸ばす。
その襟首を掴む直前で、赤ん坊が「むー」と声をあげた。
ルシファーは怯んだように、さっと手を引く。
赤ん坊はまだ眠たそうで、半開きの目でルシファーを見上げていた。

また、少しの間動きのない状態になる。
覚醒する前に退けてしまいたくて、ルシファーはまた手を伸ばす。
すると、赤ん坊は手をじっと見て、人差し指をぱくりとくわえた。
とたんに、ルシファーの背筋に悪寒が走り、鳥肌がたつ。
「っ、止めろ、離せ」
命令しても、恐れを知らない赤ん坊は平然としている。

「むゃー」
寝惚けているのか、そのまま指をぺろぺろと舐めていた。
ルシファーは明らかに嫌そうに顔をしかめつつも、乱暴しようとはしない。
狼狽している、珍しすぎる光景に、祐樹は思わず笑ってしまった。
くすりと笑みがこぼれたとき、ルシファーはクローゼットに目を向ける。
そして、片手をかざし、黒い閃光を放った。

「うわっ!」
突然の攻撃に驚き、祐樹はしゃがみこむ。
閃光はクローゼットを貫き、扉に大穴を開けた。
もはや隠れることはできず、外に出る。
「やはりお前の仕業か。さっさとこいつを何とかしろ」
声は平静を保っているが、嫌気がさしているのは明らかだ。
いつもの仕返しに、祐樹に意地悪な心が働いた。

「そんなに嫌がることもないだろ、こんなに可愛いのに」
祐樹は赤ん坊に近づき、頭を撫でる。
「お前とは価値観が違う。早く退けろ」
焦っているのか、わずかに語気が強くなる。
逆襲されそうなので、祐樹は赤ん坊を抱えて引き離した。
ルシファーは祐樹を睨むが、赤ん坊がいては手が出せない。
そのとき、祐樹は初めて優位に立った優越感を覚えていた。
そのとき、だけは。


その日は、ずっと赤ん坊と一緒に居た。
たまに喃語で何か話しかけられるようになり、日に日に成長しているのがわかる。
父親の心境とは、こういうものなのだろうか。
懐いてきて、成長していく赤ん坊と居るのは飽きなかった。

「うゆー、ゆー」
最近ではよく言葉も発するようになり、しゃべれる日が来るのが楽しみになる。
赤ん坊のおかげで、今日も平穏無事な一日になりそうだ。
外へ日向ぼっこでもしに行こうと思ったところで、赤ん坊がぱたぱたと羽を動かした。

「どうした?」
「うにゃむにゃ」
舌足らずな喃語を発し、赤ん坊は祐樹の腕をするりと抜けて飛び上がる。
「あ、待て・・・!」
そのとき、名前を呼んで呼び止めようとしたけれど、そういえば母から名前を聞いていなかったことを思い出す。
慌てて後を追うと、赤ん坊は自室の扉の前に座っていた。

「勝手にどっか行ったら駄目だぞ。・・・なあ、お前、名前はあるのか?」
赤ん坊を抱き上げて問いかけると、きょとんとしている。
「母さんや、他の召喚魔から何て呼ばれてた?」
「うゆー。ゆー、う、ゆうー」
「ユウ?」
自分の名前から一文字取っただけだと、祐樹は複雑な気持ちになる。
やはり、母はこの赤ん坊を自分の息子代わりに育てたいのではないかと。


どうこう考えても仕方がないので、とりあえず部屋に入る。
すると、机の上に小さなケーキが2つ置いてあった。
アゼルが、おやつに用意してくれたのだろうか。
どちらもシンプルなショートケーキだが、片方だけ小さい。
まるで、赤ん坊用にあつらえたかのような大きさだ。
食べたいのか、赤ん坊は手を伸ばしている。

「せっかくだから、これ食べてから行くか」
祐樹は、一旦赤ん坊を机に置く。
すると、赤ん坊はすぐに小さいケーキを取り、一口かじった。
「まうまうー」
赤ん坊がおいしそうに頬を緩ませるので、祐樹もケーキを食べる。
ふんわりとしたスポンジの触感に、苺の甘酸っぱさと生クリームの甘さが調和して、うっとりとする。
あっという間に平らげ、満足感に満ち溢れた。
赤ん坊は夢中になって、まだ食べ続けている。

「ほら、クリームついてるぞ」
赤ん坊の口端についているクリームを、指で拭う。
すると、嬉しそうに笑顔を向けてくるものだから、ときめいていた。
赤ん坊を眺めつつ、食べ終わるのを待つ。
そのとき、急に、どくんと心臓が高鳴った。
祐樹は胸を抑え、目を丸くする。

「な、んだ・・・」
ケーキに、何か入っていたのだろうか。
体が熱くなり、汗がじんわりとにじむ。
また、心臓が強く鳴った瞬間、祐樹の姿は一瞬で変わっていた。

「おうー」
ケーキを食べ終えた赤ん坊が、興味深そうに祐樹を見る。
「な、なんだよ、これ、また、こどものすたがに・・・」
動揺しているさなか、タイミングを見計らったかのように扉が開く。
そこには、今最も会いたくない相手がいた。


「やはりアゼルの薬は効きが良いな。もう変化が起こったか」
「げ・・・るしふぁー」
祐樹は、露骨に眉をひそめる。

「意識も残っているようだな。要望通りだ」
ルシファーは赤ん坊をちらりと見て警戒しつつ、祐樹の首根っこを持ち上げる。
「な、なにするんだよ、はなせ!」
「お前とて、我に嫌がらせをしただろう。報復するのは当然のことだ」
手足をじたばたさせて暴れても、子供の姿ではろくな力も使えない。
赤ん坊は不思議そうに、部屋を出て行く二人をじっと見ていた。


祐樹は、そのままルシファーの部屋へと連れ去られる。
ベッドに腰掛け、見下ろされると、とたんに危機感を覚えた。
「お、おとなげないぞ、いやがらせするなんて」
「そっちが先に仕掛けたことだろう。観念するんだな」
胴の辺りをわしづかみにされ、逃れられなくなる。
手を突っ撥ねようとしたとき、体が持ち上げられて顔が近づく。
反射的に目を閉じたとき、唇が完全に塞がれていた。

「うう、ん・・・」
目と同時に、口も同じく固く閉じる。
子供の大きさの唇は簡単に覆われ、上も下も同時に食まれた。
「ん、んう・・・」
全体をついばむようにされて、尻尾が驚いて震える。
意識が子供に戻っていないだけに、羞恥心が強くて、口をつぐんでいた。
そうして堪えているさなか尻尾をふいに掴まれた。

「ひゃ!」
新たな刺激が加えられ、祐樹はたまらず声を上げる。
その隙間に、ルシファーは自らを差し入れていた。
そして、すぐに小さな舌を捕らえ、己のものを絡めた。

「や、う・・・」
逃れようとするけれど、絡みつかれて動かせない。
抵抗すると余計に絡まれ、弄られ、吸い上げられる。
祐樹の背には悪寒が走ると同時に、頬に熱が上っていた。
相手の姿が子供でも、ルシファーは容赦なく口内を蹂躙する。
小さな舌をいやらしい液の音をたてて舐め回し、余すとこなく自らの感触を感じさせていく。

「は、う、や・・・っ」
口の隙間から、熱を帯びた吐息と共に喘ぎが漏れる。
体は子供でも、意識はそのままでいる。
だからこそ、敏感に反応して、声を出してしまう。

何とか離れようと、ルシファーの肩を押そうとするけれど
とたんに舌を弄られて、逆にすがるようにして掴んでしまう。
尻尾を震わせてされるがままにされていると、やっと口が離された。
艶めかしい液が、お互いの間を繋ぎ止める。


「こ、こどもあいてに、なにしてんだ、へんたい・・・」
「嫌がらせをやり返してやっているだけだ。さて、どこまでしてやろうか・・・」
ルシファーは、祐樹の耳元で意地悪く言う。
そこでも舌を伸ばし、耳朶を弄っていた。

「ひ、や」
耳も敏感で、尻尾が跳ねる。
小さくなっている耳は、一舐めで全体を弄られてしまう。
淫らな水音が直に耳に届き、祐樹の頬が紅潮した。
温かくなる体温を面白がるように、ルシファーは祐樹の中へと自らのものを滑り込ませる。

「あ、や、うぅ・・・っ・・・」
内側にまで柔らかなものを感じ、ルシファーにしがみつく。
舌が動く音も、感触もいやらしくて仕方がなくて、気が昂ってしまう。
高揚感を助長するように、ルシファーは祐樹の奥まで入り込んだ。

「ひや、あ・・・っ」
ぞくぞくとした感覚が、祐樹の全身を襲う。
幼い体には刺激が強すぎて、喘がずにはいられなかった。
片方の耳を存分になぶったところで、ルシファーは舌を引き抜く。

「う、う・・・」
耳はしっとりと濡れ、行為の余韻を与える。
まだ少しも快復していないところへ、ルシファーは祐樹の衣服の中へ手を差し入れた。

「幼子でも、やはり感じやすいようだな。指だけでしてやろうか」
やけに大きく感じる指が、ズボンの中へ入り込もうとする。
「や、やめ・・・」
このまま先に進まれたら、自分の体がもたない。
急に怖くなって、尻尾でルシファーの手を叩いたけれど、無駄な抵抗だった。
指が、衣服の中へ滑り込む。
祐樹は堪えるように唇を噛み、覚悟した。


「まうー」
微かな音が聞こえて、ルシファーの手がぴたりと止まる。
まさかと思い窓の方を見ると、赤ん坊がガラスを叩いていた。
窓は施錠をしていなかったようで、赤ん坊が部屋に入ってくる。
何かを探すようにきょろきょろとした後、祐樹をじっと見た。

「ちっ、間の悪い・・・」
追い払おうと、ルシファーが勢いよく鎖を放つ。
けれど、鎖が目の前まできても赤ん坊は怯まなかった。
これが脅威だとわかっていない様子で、鎖を引っ張ろうとする。
よほど嫌なのか、ルシファーは鎖をさっと引っ込めた。
赤ん坊が真っ直ぐに向かってくるのを見ると、祐樹から手を離して解放した。
祐樹はすかさずベッドから下り、赤ん坊に近付く。

「うゅ?」
本当にこの相手は祐樹なのだろうかと、赤ん坊が確かめるように頬を触る。
「ごめんな、おれ、こんなすがただから、あそんでやれないんだ」
「うー、ゆー」
赤ん坊は、しきりに喃語を発して何かを訴えようとする。

「ゆー、うー」
「どうした?」
祐樹が赤ん坊の頭を撫でると、ふいに、小さな掌が頬を叩いた。
「ゆーきっ!」
喃語が、はっきりとした言葉に変わる。
その瞬間、淡い金色の光が祐樹を包みこんだ。
眩しくて、祐樹はとっさに目を閉じた。


体がほんのりとした温もりに包まれ、光がおさまる。
次に目を開けたとき、体の大きさが元に戻っていた。
祐樹は驚いた様子で、ルシファーは忌々しいものを見る目で赤ん坊に目を向ける。
「変化を解く力でもあるのか、つくづく厄介な奴だ」
ルシファーは軽く舌打ちし、部屋を出て行く。
祐樹が振り返ったとき、もう姿はなかった。

「ゆーき!」
赤ん坊は無邪気に笑い、両手を広げて抱っこをねだる。
「わかったわかった」
すぐに抱き上げてやると、赤ん坊はすがるように服をつかむ。
そのとき、求められている気がして嬉しくなった。

もしかしたら、ルシファーも同じことを思っていたのだろうか。
やり方に問題はあるけれど、相手が行為を求めてやまないようにしたがっていたのかもしれない。
けれど、赤ん坊がいる限りルシファーは近付けない。
脅威が去ってほっとしているはずなのに、祐樹はどこか複雑な心境だった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
もう何話ショタ回を書いたことか・・・自重できないこの脳内。