召喚魔にいろいろされて人間止めてみた話15


「ゆーう、ゆーき、みょーこー」
徐々に成長してきているのか、ユウはよく言葉を発するようになった。
名前を呼んで、にこやかに相手の懐に飛び込む。
祐樹と明光は、もうめろめろだった。

「あっという間に言葉を覚えましたね、成長が楽しみです」
「そうだな、このまんまでいてほしい気もするけど」
いずれ、自分みたいに小生意気になってしまうのではないかと懸念する。
けれど、大きくなったらどうなるのか見てみたい気もしていた。
迷っているからか、祐樹の尻尾がゆらゆらと揺れる。
ユウは目を輝かせて、尻尾にじゃれついた。

「こら、尻尾はあんまり触るなよ」
尻尾を遠ざけようと動かすけれど、ユウはしつこくついてくる。
ぶんぶんと振っている内に、つい頬を軽く叩いてしまった。
「むゃ」
「わ、悪い、痛かったか」
祐樹は、慌ててユウを腕に抱く。


「ゆーき、しっぽ、いや?」
「まあ、触られるのはあんまり好きじゃないな」
敏感に感じてしまうから、なんてことはとても言えない。
「ゆーき、しっぽないない!」
ユウが両手で祐樹の胸を叩くと、一瞬だけ強い光が発される。

「うわっ!」
何事かと、とっさに明光が駆け寄る。
側に来たときには光は消え、祐樹の尻尾も消えていた。
尻尾どころか、羽も角もなく、服装まで変わっている。
青い色調の服に、二本のナイフ、それはまるで明光をイメージしたような雰囲気だった。

「ゆーき、みょーこー、いっしょー」
ユウは無邪気に笑っているが、祐樹は服装を見て戸惑う。
「ちょ、ちょっと鏡見てくる!」
祐樹はたまらず自室へ駆け出し、明光は後を追う。
急いで鏡の前に立ち、祐樹は唖然とした。
悪魔ではなく、これは剣士の姿だ。
しげしげと眺めていると、鏡に明光が映り込んだ。


「格好いいですよ、祐樹さん」
明光が、後ろから祐樹に腕を回す。
まるで守護者に守られているようで、祐樹は落ち着いていた。

「ユウには、変化を解く力があるんだな。よし、どう変わったのか試してくる!
明光、ユウを頼んだぞ」
ユウを明光に渡し、祐樹は外へ出る。
森へ行くと、さっそくナイフを抜いた。
力を込めると、刃がぼんやりと青い光を帯びる。
細い木に向かって横に一線を引くと、いとも簡単に切ることができた。
造作もなく力を扱えて、祐樹は驚いていた。

何かを相手にしてみたいと、森の奥へ行こうとする。
だが、背後に不穏な気配を感じて、はっと振り返った。
「我の力の片鱗が消えたと思えば、その姿はどういうことだ」
ルシファーが、いかにも面白くなさそうに声を落とす。
まずい、と察した祐樹は一本後ずさった。


「また、あの赤ん坊か。忌々しい」
「ユウに手は出すなよ!いくらお前でも、そんな大人げないことはしないと思うけど・・・」
「邪魔者は消すだけだ、年齢など関係ない」
祐樹が不安そうに眉を下げると、ルシファーがふいに横を向く。
悲しげな様子を見ていられないわけではなく、邪魔者の気配を察していた。

「祐樹さん、あまり遠くへ行かないように・・・」
明光は祐樹の元へ行こうとしたが、ルシファーを見て足を止めた。
抜刀はしないものの、かなり警戒して見据えている。
「丁度良い、いい加減に邪魔者を一人消すとするか。力の源が消えれば、その姿を保てなくなるだろう」
ルシファーが明光に敵意を向け、漆黒の羽を広げる。
明光はすかさず刀を抜き、身構えた。

「お、おい、二人とも、止め・・・」
制止の声がかかる前に、ルシファーは鎖を放つ。
一直線に向かってくる鎖を刀で弾いたが、そう簡単には切れない。
「明光!」
祐樹が反射的に飛び出し、鎖を弾く。

「生意気にも邪魔をする気か?ならば、容赦はせんぞ」
無数の鎖が、前後左右から二人に襲いかかる。
守りを固めるべく、祐樹と明光は背中合わせになり鎖を弾いた。
どちらも硬度が高く、鈍い金属音が響く。
弾くことはできても切れない、一方で鎖は二人を捕らえられずにいた。

「ちっ、鎖ではらちがあかないか」
ルシファーは、一旦鎖を引き戻す。
「よし、今・・・」
祐樹は、ルシファーに接近しようと駆け出す。
だが、赤い閃光が頬をかすめ、反射的に足が止まった。

「祐樹さん、下がって!」
明光はとっさに祐樹の前へ出て、防護壁を張る。
白い魔方陣が出現し、閃光を防いだ。
雷が弾けるような音がし、弾け飛ぶ。

「薄い壁で、どこまで耐え切れるか試してやろう」
ルシファーは、容赦なく閃光を連続で放つ。
次々と放たれる攻撃に踏み込む隙がなく、明光は防戦一方だ。
それ以前に、後ろに祐樹がいるので、一瞬でも壁を消すわけにはいかなかった。


しばらくは堪えていたが、明光の額に汗がにじんでくる。
「潮時だな、一気に消し去ってやろう」
ルシファーは、巨大な球体を生み出す。
閃光とは威力が違うと、祐樹も感じていた。

「祐樹さん、逃げてください。今の私では、あれを抑えきれない」
「そんなこと、できるわけ・・・」
会話を中断させるよう、暗黒球が放たれる。
防護壁に直撃し、とうとうひびが入った。

「明光っ!」
祐樹はたまらず駆け出し、明光の手に自分の手を重ねる。
その瞬間、防護壁が青く輝き、光を帯びる。
一気に強化された壁は黒い力を押し戻し、跳ね返した。
ルシファーが目を見開いたときには、腹部に球体が直撃する。

「ぐっ・・・」
自分の力とはいえ、もろに食らって後ろに吹き飛ばされる。
木に直撃し、一瞬意識が朦朧とした。
祐樹はナイフを携えて走り、ルシファーと距離を詰める。
すかさず喉元に刃を突き付け、対峙していた。
ここで喉を掻き切ってしまえば、脅威は去る。
けれど、薄皮一枚がどうしても切れないでいた。

「どうした、敵を屠りたいのだろう」
「っ・・・」
ナイフを握る手に力が込められるだけで、動こうとしない。
明光は加勢するわけでもなく、祐樹の意思を見守っていた。
じっと、ルシファーは祐樹を見詰める。
そして、そっと祐樹の後頭部を撫で、目を細めた。


「祐樹、お前は生かすのならどちらを選ぶ」
「どちらって・・・」
続きの言葉が、喉元で止まる。
選ぶ方なんて決まっていると思ったのに、発することができない。
まるで、答えなんて出したくないと、そう思っているようだった。

祐樹はルシファーから視線を逸らし、ナイフを下ろす。
ルシファーはしばらく黙っていたが、広い掌で祐樹の頭を雑に撫でた。
「や、やめろよっ」
払い除けると、ルシファーは悪どく笑む。
「まあ、即答しなかっただけよしとしてやろう」
ルシファーは一歩退き、身をひるがえす。
次の瞬間には、その姿は黒い霧となって消えていた。

うつむきがちになっている祐樹の側へ、明光が駆け寄る。
「・・・ごめんな、俺・・・」
沈んでいる声を聞き、明光は祐樹の肩を抱く。

「気にしないでください。どんな答えでも、私は、あなたが苦しまない道を選んでほしいと思っています」
優しい言葉をかけられたが、優柔不断な自分に祐樹は唇を噛む。
共存できれば、いちばんいいのに。
ルシファーは危険な存在だとわかっている。
けれど、選べと言われたとき、はっきりと答えられなかったことが
ルシファーに抱いている感情を、物語っているようだった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
友人イラストから思い付いた共闘ネタでお送りしました。
正直、それをさせたかったためだけに書いた話でしたので、いちゃつき少なくてさーせん。

なお、ここから先の話は書けていないので・・・
きりが悪くて申し訳ないですが、召喚魔シリーズは一区切りとなります。
このシリーズを読んでくださった方々に感謝、ありがとうございました!