召喚魔にいろいろされて人間止めてみた話3


妖魔になりたいと、そう望んだ祐樹だったけれど、
その方法を実行する気が、なかなかわいてこなかった。
自分から、してほしいなんて言うのは羞恥心が許さないし、
ただ待っているだけでは、のんべんだらりとした日々をおくることになってしまう。
折角アゼルが母を説得してくれたのだから、このままではいけない。
祐樹は明光を呼び出し、それとなく話をしていた。

「・・・なあ、明光、妖魔になる方法だけどな・・・お前、本当に嫌じゃないのか」
心なしか、声がいつもより控えめになる。
「私は、主の意思に従います」
「ぐ・・・で、でも、手で触るのは百歩譲っていいとしても、今度することは・・・」
そこから先はとても言えなくて、祐樹は沈黙した。


「気になるのなら、入浴後にいたしましょう。最も、触手の方がいいのなら話は別ですが」
「だ、誰もそんなこと言ってない!」
そこで、祐樹ははっとして再び閉口する。
触手が嫌だということは、まるで、明光にしてほしいと言っているようで、やたらと恥ずかしかった。

「主は以前、同じ目的で私と行為をなさっています。今更、躊躇うことでもないと思いますが」
「目的は同じでも、方法が違うだろ・・・」
祐樹が力なく言うと、明光はお互いの距離を詰める。
こんな話の途中で接近され、祐樹は一歩退いた。

「私は、嫌悪感は一切抱かないと誓えます。後は、貴方の意思だけです」
真っ直ぐに見詰める瞳が、嘘偽りではないことを示す。
鼓動が強まるのを感じ、祐樹はますます動揺してしまっていた。

「・・・明光、戻れ」
ぽつりと呟き、明光を魔導書へ戻す。
今は、一人で気を落ち着けたかった。


そうして、夜、祐樹は魔導書を持ってベッドに座っていた。
まだ、明光は召喚していない。
何度も深呼吸して、少しでも緊張感を解そうとするけれど、肩が強張っている。
名を呼ぼうと、口を開きかけては閉じることを、何度繰り返しただろうか。
どうせ、先延ばしにしていても同じように躊躇うだけで。
それなら、一日でも早くしてしまったほうがいいはずだと、自分自身に言い聞かせる。

「・・・明光」
とうとう、その名を呼んで明光を召喚する。
青い霧が実態を持ち、形になると祐樹は魔導書を手の届かない範囲に投げた。
遠隔操作で戻すことはできるので、あまり意味はないのだけれど。
途中で、行為を中断してしまわないようにと、自分自身に決意させるようなものだった。

「よろしいのですね、主・・・」
祐樹は明光を見据えて、覚悟を示す。
祐樹の決意を察し、明光は静かに口付けた。
唇を割ることはせず、気を落ち着けるようにただ触れ合わせる。
いつになく優しい行為に、祐樹は目を細めていた。
それは、本当に行為を進めてもいいのかという確認のようなもので。
祐樹が抵抗しないでいると、明光はほどなくして身を離した。


「横になっていただけますか」
「・・・そうしたほうが、やりやすいんだよな」
確認するように、自分に言い聞かせるように呟き、祐樹はのろのろと仰向けになる。
その上へ、体重をかけないように明光が乗り上げ、寝具のボタンを外し始めた。

「な、なあ、上は別にいいんじゃ・・・」
「雰囲気というものがありますから」
戸惑う祐樹をよそに、明光は寝具の前をはだけさせる。
肌が露になるとやはり緊張して、祐樹は身を強張らせた。
明光はじっくりと観察するようにその素肌を見て、指先を胸部へ触れさせる。
ゆっくりと撫でられると、祐樹は軽く息を吐いた。

その指はなだらかに動き、やがて中心にある起伏へと触れる。
そこだけ感じるものが違い、祐樹は声を抑え込むよう唇を噛んだ。
指の動きは止まらなくて、もう片方の起伏へも移動していく。
明光は、小さな箇所を指の腹で軽く押すように愛撫した。

「っ・・・あ、あんまり、弄るな・・・」
じっと見下ろされていると落ち着かなくて、顔を背ける。
「興奮していただかなくては、できませんので」
そう言って、明光が身を下ろしたかと思うと、指ではなく、湿った舌先がその箇所へ触れた。

「っ、ぁ・・・」
反射的に開いてしまう口を、祐樹はとっさに閉じる。
かすかな声を聞き、明光は起伏を口内へ含み、さらに舌で撫でた。
柔い感触に、祐樹は唇を噛んで必死に声を押さえようとする。
軽い刺激が加えられるだけでも体は反応し、口をつぐんでいると息苦しくなってしまう。
大っぴらに声を上げることもできず、祐樹は呼吸を荒くしていた。


すぐ側の鼓動が早まってきたところで、明光は身を起こす。
そして、下半身を隠す寝具の中へ、そっと手を滑り込ませた。
普通に触れられるのは初めてではないにしても、やはり緊張を隠せない。
身構えたとき、中心のものに指先が伝い、肩が震えた。
急に事を荒げないよう、明光は掌で祐樹のものを弱く包む。

「あ、っ・・・」
抑えようと思っていたのに、声が飛び出てしまう。
敏感すぎる箇所への愛撫は一気に頬へ熱を溜めてゆき、羞恥を募らせる。
掌が徐々に動かされると、もう抑制はできなくなってしまって。
自身の下肢へも、熱が溜まっていくのを感じていた。

ゆったりとした愛撫でも、体は反応を示し始める。
衣服がきつくなってきたところで、寝具がずらされ、解放される。
そこで明光は手を離し、身を下げていった。

「み、明光・・・」
「大丈夫です、痛くはいたしませんから」
明光が話すと、息が下肢のものにかかる。
それだけで、祐樹の心音は早まっていく。
明光は躊躇う様子もなく根元の辺りに手を添え、祐樹のものに舌を触れさせた。

「ひっ、あ」
あられもない個所に柔らかなものが這わされ、一瞬だけ怯む。
けれど、そんなものはすぐに吹き飛んでしまった。
明光は、感触に慣らすようゆっくりと、祐樹を愛撫する。

「あ、ぁ、ぅ・・・」
柔くて湿った感触に、刺激を受けているそれが震える。
悪寒を覚えているのではなく、まるで与えられる感覚に悦んでいるように。
羞恥のあまり祐樹は腕で自分の顔を隠していたけれど、それを見て明光が一旦体を起こした。


「隠さないで下さい、主」
「ど、どうせ見えないだろ・・・っ」
「私がこうして目を向けたとき、貴方が感じているその表情が、すぐに見えるようにしておきたいのです」
恥ずかしげもなく言い、明光は祐樹の腕を退かす。
ちら、と明光を見ると、その視線はいつもよりだいぶ優しくて、祐樹はもう反抗できなくなった。

「うう・・・も、もう、好きにしろ・・・」
「ありがとうございます。では、続きをいたしますので」
明光は微かに笑み、再び身を下ろす。
そして、今度は弄るだけではなく、その先端を口内へ含んでいた。

「あ、あ・・・っ」
また違う感触に驚き、声を抑えることを忘れてしまう。
自分のものが咥えられているなんて信じられなくて、また顔を隠しそうになるけれど。
シーツを握りしめて、ぐっと堪えていた。


明光は徐々に深く身を下げてゆき、祐樹を中へ誘う。
同時に、手の動きとさして変わらないくらい滑らかに、柔いものを這わしていく。
すると、少しずつ、唾液とは違う液体が零れ落ちる。
苦みのある液体を舐め取り嚥下すると、さらに昂らせたくなって仕方がなくなっていった。
祐樹の息はとっくに荒くて、呼吸をするたびに喘ぎを漏らしている。
それを全て銜え込み、唇で甘く食み、舌でしきりに全体を弄った。

「あ、あ・・・っ、も、う・・・っ」
体は完全に欲を覚えてしまっていて、達してしまいたいとせがんでいた。
明光はそれに応えるよう、祐樹の弱い個所を舌先でなぞる。
感じているのか、脈動が強くなり、解放してほしいと主張しているようだった。
自分の愛撫で悦を覚えているとわかると、明光も高揚し、抑えが利かなくなってゆく。
絶頂へと導き、気に入らない相手の血気を全て出させてしまいたくて。
弄るだけでなく、昂ぶりの全体を吸い上げた。

「ああ・・・っ、離し・・・ぁ、あ・・・!」
細く高い声を発し、祐樹の全身が跳ねる。
離してほしいと、そう訴えようとしても言葉が続かない。
明光を退かす前に、止めどない白濁が溢れてしまって。
そのまま、粘液質なものが口内に納まっていた。

独特な匂いと、苦みのある液が流れ込んできても、すぐには離さない。
脈動がおさまり、もう液が発されなくなったところで、ゆっくりと身を引いた。
一滴も零さぬよう、明光はすぐに閉口する。
そして、一呼吸置いた後、溜まっている液体を嚥下した。
気に入らない相手のものが混じっていたとしても、飲み干すことに躊躇いはなかった。


祐樹は肩で息をし、余韻の熱を少しでも冷まそうとする。
そこへ、明光が体を起こし、祐樹の隣で横になった。
今更、顔を背ける気力もなくて、祐樹はただ天井を見上げている。

「主、意識がはっきりしない内に教えていただけませんか。
・・・なぜ、ご自身の負担になっても、私を手放さなかったのかを」
祐樹がルシファーを召喚した後も、精神力に負担をかけながら自分は手放されなかった。
気力が戻れば、きっとその本音は包み隠されてしまう。
まだ息が落ち着いていない内でも、どうしても祐樹の口から聞きたかった。

祐樹は、一瞬躊躇うように口を閉じる。
けれど、迷いはぼんやりとした感覚にかき消されていった。

「・・・お前がいてくれると、安心するから。
何だかんだで無理強いはしないし、それに・・・・・・こんな、問題児を見切らないで、いてくれる」
集団に馴染めなくて、狩りに行ってばかりで、我がままな自分があまり好きじゃなかった。
それでも、主従関係があるとはいえ、明光は一度も母の元へ戻りたいとは言わず、寄り添ってくれていた。
心の支えになっていたのは、この召喚魔以外いない。


「・・・明光、お前は拠り所なんだ・・・お前がいなかったら、きっと・・・」
祐樹がそこまで言ったところで、明光はたまらずその体を抱き締めていた。
召喚魔にとって、主に存在を求められるほど喜ばしいことはない。
維持や羞恥に包み隠されていない、素直な言葉が聞けたとき、明光は満たされていた。

明光は祐樹と視線を合わせ、唇を寄せようとする。
けれど、途中でふいと顔を逸らした。
まだ、口の中には苦みが残っていて、祐樹にも味あわせることになってしまう。
そんな様子を見て、祐樹はまだ気だるい腕を持ち上げ、明光の首に回す。
そして、その身が離れる前に、自分の元へ引き寄せていた。

とても軽く唇が触れ合って、すぐに腕が解かれる。
それは、ほとんど無意識の内の行動で、本能だけが先行しているようだった。
まさか祐樹からしてくるとは思わず、明光は目を見開く。
我に返ったのか、祐樹はさっと顔を背けていた。

けれど、明光が頬に手を添えると、祐樹は抵抗することなく正面を向けていて。
その身が近づき、お互いが重なり合うと、静かに目を閉じた。
しばらくは、そのまま重なるだけだったけれど、やがて祐樹が息を吐く。
明光はやや躊躇いがちに自らを口内へ進め、触れさせた。

「う・・・ん・・・」
わずかに苦いものを感じたけれど、突き放そうとは微塵も思えない。
明光を受け入れ、ただ、望むままにさせていた。
ゆっくりと絡まり合うと、胸の内が温かくなる。
きっと、自分はこうして求めてくれる相手が欲しかったんだと思う。
誰のものでもない、自分だけの相手が。


名残惜しそうに、明光が絡まりを解く。
「主・・・今だけ、名前で呼んでもいいでしょうか」
「す、好きにしろ・・・」
祐樹が顔を逸らさないうちに、そっと頬を包む。

「お慕いしています・・・祐樹さん・・・」
呼び捨ては躊躇ったのか、どことなく迷いつつ、明光は敬語を崩さなかった。
それでも、いつも主と呼ばれていたせいか、一気に親近感が沸いて。
慕っていると、そう言ってくれた喜びが満ち溢れていた。

「別に、呼び捨てでもいい。だって・・・」
そこから先の言葉は、どうしても続けられなかった。
代わりに、明光の背に腕を回す。
それだけでもお互いは通じ合い、明光は愛おしそうに祐樹に寄り添っていた。
この相手からは、決して傷つけられないし、軽んじられることもないと確信できる。
慈しまれていることを感じ、気が安らいでいく。
祐樹が目を閉じたとき、その胸の内は満たされていた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
明光と心と体の繋がり合い、ゆったりした雰囲気にしてみました。
そして、次はルシファーと・・・。