召喚魔にいろいろされて人間止めてみた話7


祐樹は、毎日のように力を使うために訓練していた。
けれど、成果は芳しくなく、岩の一つも破壊できない。
今日もシャボン玉のようなものが出るだけで終わり、気落ちして城へ戻る。
もう体を洗って眠ってしまおうと思ったけれど、その前に喉を潤したかった。

キッチンへ入り、巨大な冷蔵庫の扉を開くと、真正面に水色の飲料が置いてあった。
いかにも飲んで下さいと言わんばかりの位置にあり、あまり深く考えずにそれを手に取る。
一口飲むと爽やかな甘味が喉を潤し、止まらなくなって全て飲み干してしまった。
一応、なくなったことを示すように空を外に出しておく。
訓練で疲労した後は何もする気が起きず、汗を流したらすぐに眠った。

そして、翌日、目が覚めたてベッドから下りようとしたとき、やけに高さがあることに気付く。
飛び下りるようにして着地し、廊下へ出ようとすると、ドアノブの位地が明らかに高くなっていた。
奇妙だったけれど、この城で不思議なことは日常茶飯事だと、あまり気にすることなく外へ出る。
そこで、ちょうど起こしに来たのだろうか、明光と鉢合わせた。
なぜだか、珍しく目を見開いて硬直している。

「みょうこう、どうした?」
心なしか、自分の声が高い気がする。
それに、明光の背丈が昨日よりだいぶ高くなっていた。

「主、そのお姿は・・・」
「何言ってるんだ?」
本当にわかっていないのか、祐樹は首をかしげる。
明光は祐樹の小さな手を取り、すぐさま部屋に戻って鏡の前に立たせた。
そうして鏡に映った姿を見ると、気付かざるをえなかった。


「・・・このかがみ、おかしい」
「いえ、魔術がかかっている様子はありません。鏡にには・・・」
祐樹は鏡に近付き、まじまじと見る。
そこには、写真で見たことのある、幼い頃の自分が映っていた。

「主、何か身に覚えはありませんか」
「・・・たぶん、水色のジュースのんだからだ」
原因を聞いて、明光は溜め息をつく。
呆れられたのだと思うと、祐樹の胸がちくりと痛んだ。

「森の長を探して来ましょう、元に戻る方法を問いたださなければ・・・」
「い、いい!なんか、おもしろそうだから・・・少し、このままでいる」
祐樹は、明光の袖口を掴んでとっさに止める。
元々は、勝手に飲んだ自分のせいなのだから、これ以上世話をかけたくなかった。
明光は、背丈の足りない祐樹を見た後、ふいと視線を逸らした。
そうやって興味がなさそうにされると、また、胸がちくりと痛む。

「と、とにかく今日もくんれんだ!」
「その状態で、ですか?」
「・・・げんきなんだから、行かないと」
祐樹はぱたぱたと小走りになり、城の外へ出る。
明光はもう何も言わず、後を追った。

二人は、ごろごろとした岩のあるいつもの訓練場に辿り着く。
この岩を跡形もなく消し去ることが、祐樹の目標だった。
今のところ、岩にはひび割れ1つできていない。
今日こそはと、祐樹は手を前にかざして集中した。


幼くなったものの力は変わっていないのか、掌の黒い空気が渦を巻き始める。
ある程度の大きさになったところで、祐樹は黒い球体を思いきり放り投げた。
それは放物線を描いて、ふわりと飛ぶ。
もう少しで岩に当たる、というところまで来たのだが、直前で消えてしまった。

それから、何度も投げたのだが、岩に当たりさえしない。
いつもと同じ結果に、祐樹は肩を落とす。
心なしか、いつもよりショックが大きく、完全に意気消沈していた。

「主、今日は姿が普段と違いますから・・・」
「うるさい!へんななぐさめなんて、いらない!
せっかくようまになったのに、これじゃあ・・・」
感情が爆発したように、祐樹は叫ぶ。
自分自身が情けなくて、爪が食い込むほど強く手を握っていた。

「おまえだって、なさけないって思ってるんだろ・・・いつも、おんなじだから」
「いえ、決して、そのようなことは・・・」
「うそだ!だって、だって・・・」
理由がないのに感情だけが先行して、言葉が飛び出てしまう。
祐樹はたまらなくなって、森へ駆け出していた。
明光は、とっさに後を追う。
けれど、森は祐樹の気持ちに同調するよう、その姿を隠してしまった。


祐樹は無我夢中で走り、森の奥へ向かう。
どこへ通じているのか、通りやすい道ができていた。
足は、自然とその道を辿って行く。
そうして到着した場所は、以前にユノと来た泉だった。
導かれるように、中へ入る。
そこにはすでに先客が居て、木の幹にもたれて目を閉じていた。

「・・・ルシファー」
呼びかけられ、ルシファーは薄らと目を開いて声の主を見る。
少年の姿をしている祐樹を見ると、訝しむように眉根をひそめた。

「アゼルの仕業か」
「そう、だけど・・・もともとは、おれがかってに・・・」
「まあ、そこはどうでもいいがな。こっちへ来い」
偉そうに言われてむっとしつつも、ルシファーの方へ近付く。
ある程度のところまで近付くと、腕を掴まれて体を引き寄せられた。
一瞬で両腕に抱き留められ、祐樹は目を丸くする。

「不安そうな顔をしているな」
いつの間にか感情が表に出てしまっていたのか、指摘される。
「おれ、いつまでたっても力をうまくつかえない・・・」
「ほう、やってみろ」
ルシファーは祐樹の体を反転させ、泉の方を向かせる。
祐樹は掌を前に出し、集中して、黒い渦を作りだす。
それを投げたけれど、やはりふわりと浮かび、空中で弾けて消えてしまった。


「いつもこうなんだ・・・おれ、だめなのかな・・・」
情けなさが募って、祐樹の声が震える。
普段なら、こんなことで泣きそうになることはんてないのに、
子供の姿だからだろうか、気持ちを抑制できなかった。

「もう一度、手を前に出しておけ」
「なんどやっても、おんなじだ・・・」
渋々、祐樹は手を前にかざす。
すると、ルシファーが祐樹の手の甲へ掌を重ねた。

とたんに、腕に電流が走ったような感覚がし、びくりと肩が震える。
離れようにも、手を握られていて振り解けなかった。
そんなとき、黒い塊が出現し、激しく渦を巻く。
大きさはどんどん増してゆき、掌からはみ出てしまう前に、それを放り投げた。
相変わらず放物線を描いて浮かんだけれど、途中で消えることはなくて、
球体が泉に落ちると、水面が揺れ、爆発音と共に水飛沫を散布させた。
祐樹はぽかんと口を開けて、呆けている。

「す、すごい・・・」
「まだ手を下げるな。力を扱う感覚を教えてやる」
再び、腕を何かが駆け巡ってゆき、黒い塊が構築されていく。
今度は高く放り投げると、途中で爆発し、周囲に黒い風が吹き荒れた。
木々がざわざわと揺れ、葉を散らす。

「今の光景を覚えておくんだな。重圧で相手を潰し、疾風で切り裂く様子を」
ルシファーの助けがあったとはいえ、今のは自分の力なのだと思うと、祐樹は高揚感に溢れる。
同時に、いずれ、一人でも扱えるようになるという自信が芽生えていた。
祐樹は一旦手を下げ、ルシファーに向き直る。


「ルシファー、ありがとな!」
そのとき、お礼の言葉がとても素直に発されて、おまけに満面の笑みもついてくる。
とても素直な喜びの感情を目の当たりにしたとき、ルシファーは祐樹をじっと見ていた。

「どうした?」
特に警戒心も抱かず、ルシファーの顔を下から覗き込む。
そのとたん、背中に両腕がまわされ、抱きしめられていた。
大きな体に包まれて、全身がほんのりと温かくなる。
いつもなら、何するんだと言って突っ撥ねているはずだけれど、
今は喜びの感情が勝っているのか、目を細めてルシファーに寄り添っていた。

全く抵抗がないのが意外だったのか、ルシファーは動きを止める。
やがて、手を伸ばして祐樹の尻尾へ触れた。
「や・・・」
指先が触れると、尻尾が逃げようとする。
それはあっけなく掴まれ、ゆっくりと愛撫された。

「ん、しっぽ、やだ・・・」
ぞくぞくとしたものが体に走り、祐樹は身震いする。
その震えが伝わってくると、ルシファーは尻尾の先から根元まで、何度も撫でて行く。
敏感なものに触れられて、祐樹の息は少しずつ荒くなっていった。

堪えるように身を震わせていると、頬に手が添えられて上を向かされる。
ルシファーと視線が交わった途端、小さな口が塞がれていた。
柔い感触に覆われて、自然と目を閉じる。
唇をさらに柔いものでなぞられると、つい隙間を開けてしまう。
そこから、湿ったものが滑り込んできた。

「は、う・・・」
自分より太い舌に触れられ、祐樹は微かな声を漏らす。
柔いもの同士が重なり合うと、それだけで頭がぼんやりとしてくるようだった。
ルシファーは祐樹を捕らえて離さず、口内を蹂躙する。
舌を絡みつかせると、小柄な体が跳ねて反応を示した。

「あ、ぅ、るし・・・や、ぅ」
尻尾を捕まれているせいで余計に感じるものがあるのか、祐樹の頬は紅潮しきっていた。
交わる液が飲みきれなくて、口端から零れ落ちていく。
そこでやっと口が解放され、祐樹は肩で息をした。
恥ずかしいことをされたのに、力が抜けてルシファーにもたれかかる。
再び体を抱かれると、もう細かいことが考えられなくなってぼんやりとしていた。


「幼子でも、感じるものは感じるようだな。どうだ、最後までしてみるか」
「さいご、って・・・」
何となく理解しているものの、抵抗する気力がわかない。
それどころか、尻尾はルシファーの手首にやんわりと巻き付いていた。
ルシファーは目を細めて、口端を上げる。
そして、まだ半開きになっている祐口の中へ指を差し入れた。

「は、ぅ・・・」
指の腹で舌をなぞられ、祐樹は吐息を漏らす。
もてあそぶように動かされると、また体が熱くなった。
「嫌なら、噛みついてみろ」
そう言われたけれど、食い千切ろうなんて思えない。
それに、本能がこの行為を拒否していなかった。

けれど、微かに残る羞恥心が、されるがままになっている現状を変えようとする。
わずかに抵抗の意思を見せるように、祐樹はルシファーの指をやんわりと唇で挟んでいた。
はむはむと、傷つけないように、指を何度もくわえる。

本人からしたら、許容と抵抗の狭間で迷っているようなものだったけれど
それは、ルシファーを煽る行為でしかなかった。
幼い姿をしていても、これは確かに祐樹だ。
いつも素直でない相手が指を食んでいる現状を目の当たりにすると、危険な衝動が沸き上がってくるようだった。

ひとしきり口内の感触を味わったところで、ルシファーは指を引き抜く。
祐樹はもうほとんど物を考えられなくなっていて、尻尾も力なく下ろされていた。
抵抗されないのをいいことに、ルシファーは祐樹の下肢へ手を伸ばそうとする。
その指先が、もう少しでその中心を捉えようとした瞬間、すぐ側にあった木が一閃で斬り倒された。
その光で祐樹ははっと我に返り、ルシファーから飛び退く。

「主、ここにおられましたか」
木が切られた場所には、明光が佇んでいた。
祐樹はすぐ明光に駆け寄り、袖口を掴む。
頬が紅潮しているのを見て察したのか、明光はルシファーを睨んだ。

「主は私が連れて帰ります、いいですね」
ルシファーは何も答えなかったが、祐樹を取り戻そうともしない。
おそらく、このまま側にいられては、自分の行為を自重できないと気付いているのだろう。
明光は祐樹を軽々と抱き上げ、来た道を戻る。
お姫様が抱かれるような体勢でも、祐樹は大人しく身を預けていた。


城に戻り、明光は祐樹をベッドに下ろす。
「私は、森の長を探して来ます」
驚異が去り、明光は祐樹から離れようとする。
「ま、まって!」
背を向けられたとたん、無性に心細くなって強く呼び掛ける。
明光は少し驚いた様子で向き直り、その場に留まった。
祐樹はその先の言葉に一瞬詰まったけれど、抑えることはできなかった。

「・・・いっしょに、いたい」
明光は、祐樹と向き合ったまま硬直する。
その間も、すがるような目にじっと見詰められていて
やがて、何かを抑え切れなくなったように祐樹の頬へ手を添えた。

「本当に、貴方は私の抑制を崩すことを言う・・・」
幼子なのだから、本音を隠せないのは仕方がない。
普段とのギャップもあり、そんな素直な言葉が明光の心情を穏やかでなくさせていた。

頬を撫でると、祐樹はうっとりとして目を細める。
ルシファーに抱かれているときとはまた違う安心感があって、心地好くなっていた。
明光は再び祐樹に腕を回し、自分の側へ抱き寄せる。
けれど、ぎりぎりのところで理性が働いたのか、すぐに手を離す。

「申し訳ありません、主、私は・・・」
「あるじ、じゃなくて、ゆうきだ!もう・・・そんな、よそよそしいなかじゃ、ないだろ」
自分で言って恥ずかしくなったのか、祐樹は俯きがちになる。
お互いの間に、もはや主従関係なんてものはない。
今は、もっと親しい間柄になっていることは明らかだった。


「・・・祐樹さん、このままだと、私は貴方を襲ってしまう・・・。今の内に、拒否するならしてください」
「そんなこと、しない。・・・みょうこうになら、されてもいい」
普段なら、一方的に求められない限り許しはしなかったのに
今は、自分からも行為を促していた。
その瞬間、明光の表情は理性的でも、心情は本能で覆いつくされる。
祐樹の肩を押してベッドに横たえると、体重をかけないよう上に被さり、唇を優しく塞ぐ。

「ん・・・」
祐樹は細い腕を明光の首に回し、その温もりを求める。
唇を柔いものになぞられると、自然と口を開いてしまう。
入り込んできた舌も拒むことなく、お互いに触れ合わせる。
祐樹のものは瞬く間に絡め取られ、全体が弄られていく。

「あ、んぅ・・・」
祐樹は声を抑える意識もなく、感じるままに声を発する。
唾液も吐息も交わり、嚥下すると喉元が熱くなるようだった。

明光が離れると、その間に糸が伝う。
艶めかしく見えるものを目の当たりにして、祐樹は思わず視線を逸らしていた。
明光の手が衣服にかけられ、簡単に脱がされる。
緊張と、他の感情で、祐樹の心音はとくんと鳴った。

いつもより範囲の狭い胸部を、明光の指先がなぞる。
そして、下半身の服にも手がかけられた瞬間
祐樹の体から黒い霧が吹き出し、体を包んだ。
明光はとっさに手を退け、距離を置く。
ほどなくして霧がおさまったとき、祐樹は元の大きさに戻っていた。
お互いはしばらく、無言で顔を会わせる。


「・・・オレ、何で服脱がされてるんだよ!何があったか知らないけど、じろじろ見んな!」
「覚えておられないのですか?」
そこで、返答まで少し間が空く。

「・・・と、とにかく出てけ、身の危険を感じる」
「わかりました。私も、無理に事を進めるのは本意ではありませんから」
明光はベッドから降りて、部屋を出て行く。
扉が閉められると、祐樹は溜め息をついて脱力した。

本当は、おぼろ気ながらも覚えている。
ルシファーに力の使い方を教えられ、素直にお礼を言った結果、あらぬことをされそうになったことも。
明光に大人しく運ばれ、腕を回し、身を委ねていたことも。
まるで夢のようにも思えることだったけれど、全て現実だった。

嘘偽りではなかったけれど、思い起こすと動揺せずにはいられなくなる。
とても、あのまま明光と顔を会わせていることなんてできなかった。
けれど、恥ずかしいことだったけれど
決して嫌な感じではなかったという感覚は、ごまかしようがなかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!またまたあぶないショタ話でした。
これは全て友人のイラストのおかげ・・・いや、イラストのせいですねそうに違いない←