衝動的な・・・ 後編
紫苑は何かを考えるより先に、行動していた
気がつくと、流星のわずかに荒くなっている息を発しているそこに、深く口付けていた
「・・・!?」
流星は思わず目を見開き、紫苑の肩を押した
だけど、まだ頭がぐらついているせいでうまく力が入らない
その上、口内に滑り込んできた柔らかいもののせいで、ますます力が入らなくなっていった
「・・・は・・・ぁ・・・っ」
いつもより熱く感じるその行為に、荒い息と共にか細い声が漏れる
わずかな声でも風呂場に響き、それがいっそう流星の羞恥心を強くした
触れていた個所を解放すると、紫苑はすぐに流星を抱きしめた
まるで、もうここから逃がしたくないと、そう言っているようだった
「っ・・・紫、紫苑・・・」
お互いの素肌が合わさっている事に、流星は動揺した
この前まで、自分は触れてはいけない存在だと主張していた流星にとっては、どうしても慣れない事だった
お互いに伝わる体温や鼓動は拒否すべきものではなかったが、やはり羞恥心が消えないでいた
「流星・・・ごめん。完璧に、ぼくのわがままだけど・・・」
そこから先は、みなまで言われなくてもわかった
流星はそれを了承する言葉は言えなかったが、抵抗の意思も示さなかった
自分の中にあるのは羞恥心だけで、相手を拒もうという気は起こらなかった
紫苑は小さくありがとうと呟くと、重ねている体はそのままに、流星の胸部にある突起に軽く触れた
「ぁ・・・っ・・・」
小さな箇所は敏感に物を感じるという事をどこから覚えてきたのか、
紫苑はそこを撫で、そのたびに発される流星の声に耳をたてた
流星はそんな声を出す自分を見られたくないのか、俯きがちに首を逸らしていた
その首筋に紫苑は唇を落とし、軽く舌先を当てた
「・・・ん・・・っ・・・ぁ・・・」
その感覚は今も続けられている胸部への刺激と重なり、また声を発させる要因となった
羞恥心とプライドだけでは抑えきれない声が、どうしても漏れてくる
紫苑はそんな流星の声に、さらに心音が高鳴っていくのを感じていた
そして、自分の体がその声に、確かに反応している事もはっきりとしていた
すると、流星の体に自分の反応しているものが自ずと触れてしまい、紫苑は慌てて体を離した
こういった行為をしているとはいえ、まだ不慣れな事なのでどことなく気恥ずかしさがあるようだった
流星は、紫苑のそんな様子を見て、ふっと笑った
人の事を言えた立場ではないが、気恥ずかしそうにしている姿が何だかおかしく感じた
そして、ふいに浮かんだ疑問を投げかけてみた
「紫苑、君は・・・僕の、声だけで欲情するのか?」
敏感な部分に触れられれば、勿論欲が生まれてくる
だが、自分からは紫苑に触れてはいない
欲情、というものを自発的にした事がない流星は、その原理がいまいちわからないでいた
「・・・うん、する。きみの、普段とは違う声を聞いてると・・・
動悸がして、それで・・・抑えられなくなる」
気恥ずかしそうに、紫苑が答えた
だが、流星にはそういった実感が全くわかなかった
するとふいに、流星はさっき自分の体に触れた、紫苑のものをやんわりと掴んだ
「あ・・・っ・・・!?」
タオルの上から自分のものを掴まれ、紫苑は驚きと甘さが混じったような声を発した
流星の手がそれを撫でると、紫苑はとたんに頬を赤らめた
「は・・・ぁ・・・っ・・・り、流星・・・」
紫苑からわずかに、甘い声が漏れる
そして無意識の内なのだろうが、目が薄らと細くなっている
突然、心臓が強く脈打った
この甘い声に、反応しているというのだろうか
撫でるたびに発される紫苑の声に、自分は欲を覚えているのだろうか
「んん・・・っ・・・は・・・ぁ・・・っ・・・」
紫苑がまた声を発すると、やはり自分の心音がはっきりしてくるのがわかる
意識はせずとも、この甘い声を感じている自分がいる
そして、彼の言う欲が、声を聞きたいという欲求が、確かにあった
「っ・・・流星、もう・・・離して・・・くれ・・・」
「あ、ああ、すまない」
懇願され、流星はぱっと手を離した
だが、そう言われなければ、そのまま手を離さなかったかもしれない
今思うと、何て恥ずかしい事をしていたのだろうと思うが、そのおかげで、声に欲情するという意味がよくわかった
紫苑は息を吐き、一呼吸置いた
「きみは、ぼくの声で・・・欲情¥・・した?」
「・・・・・・・・・ああ」
自分のしてしまった行為を思うと、その短い返答を返すのが精一杯だった
「同じ意味で、ぼくも・・・きみの声が、聞きたいんだ。
・・・だから、その声を、我慢しないでほしい」
それは、羞恥心がゆえに声を抑え気味にしてしまう、流星への願いだった
そう言われても、ほとんど無意識の内にしてしまう事はどうしようもなかった
かといって、自分から意図的にあんな声を発する事なんて、それこそプライドも許さない
それならばせめて、与えられる感覚に身を任せ、逆らう事はしまいと思った
そう思った矢先、紫苑の指先が下腹部の敏感な部分に触れた
気遣ってくれているのか、タオルは取らずに、その指がゆっくりと中へ埋められていった
「っ・・・ぁ・・・ぅ・・・っ・・・」
埋められた指は狭い個所を解していくように、少しずつ動かされてゆく
わずかに力が緩むと、指は奥の方も解すように軽く曲げられた
「はぁ・・・っ・・・んん・・・」
小さな動作でも反応してしまい、紫苑の望む声が発される
一本の指に慣れてきたかと思うと、次はもう一本増やされ、同じくゆっくりと中の緊張が解かれてゆく
傷付けないように慎重に、だが確実に欲を与えてゆくその動きに、お互いの体には徐々に熱が溜まっていった
二本に慣れてきたかと思うと、次は三本目の指が埋められてゆく
「あ・・・あっ・・・う・・・っ」
強くなってくる感覚に、思わず手に力が込められる
何か掴みたいところだったが、床はタイル張りなので力の行き所がなかった
流星は拳を握って、その感覚に呑まれそうになる自分を抑えた
紫苑はその様子にすぐ気付き、空いている方の手で流星の腕を取った
そして拳を解かせ、自分の背中にその腕をまわさせた
流星は、紫苑にまた気遣わせてしまったと思ったが、正直ありがたかった
だがせめて爪は立てまいと、流星は指先をぴんと伸ばしていた
「っ・・・あぁ・・・は・・・っ・・・」
三本目の指が埋められ動かされてゆくと、だんだん粘着質な音が聞こえてくる
風呂場にいるせいかその音はよく耳に届き、その音もまた二人の心音を高鳴らせる要因となっていた
紫苑がゆっくりと指を引き抜くと、そこには糸を引く液体がまとわりついていた
「・・・紫苑・・・洗って・・・くれ・・・」
息をつきながら流星がそう言うと、紫苑は小さく頷いてシャワーを手に取った
そして温度調節をした後、流星のタオルの下からその流水を当てた
「あっ・・・ち、違う・・・僕じゃ・・・っ・・・ない・・・」
自分の予想と反した事をされ、流星はシャワーを持つ紫苑の腕を掴んだ
「その・・・自分の手を、洗ってほしいんだ・・・」
「ぼくの、手を?」
紫苑はその理由がわかっていないようだったが、すぐに何かに気がついて自分の手を洗った
紫苑は、流星がその手で触れてほしくはないと、そう思っているのだろうと予測したのかもしれない
だが、そうではない
流星は自分のもので、紫苑の指を汚してしまった事が嫌だった
行為の最中にそんなことだった事を言うのは野暮かもしれなかった
でも、そんな状態になった紫苑の指を目の当たりにしたとたん、そう言わずにはいられなかった
一秒一刻でも早く、その汚れを洗い流してほしいと衝動的に思った事だった
「流星、タオル・・・少し、捲るから・・・」
ここから先の行為をするには明らかに邪魔な物だったが、紫苑はそれでもタオルを取らないでいてくれた
流星を隠しているそれをぎりぎりまで捲ると、紫苑は自分のタオルを取り払った
そして、指を埋めた時より慎重に、己の物を流星の中へ進めて行った
「あぁ・・・っ・・・ぁ・・・あ・・・」
お互いがすでに濡れていて、強い痛みも無くそれは入った
その代わりに、羞恥心をも気ならなくさせるような強い感覚が、途切れる事無く与えられていた
「は・・・あっ・・・ぁぁ・・・」
紫苑が少しでも身を寄せてくると、背にまわしている腕に力が込められ、甘く荒い声が発される
お互いの粘液が自分の中で絡まり合っていると思うだけでも、その感覚は強くなってゆく気がした
そして、紫苑が中にある物を少しずつ動かし始めると、そのたびに絡まり合う音が聞こえてくる
このままだと、自分の心音も響いてしまうのではないかと思うほど、早く強く高鳴っている
自分でも、もう限界が近付いてきていると感じていた
流星は無意識の内だったが、それを相手に悟らせるかのように、腕により力を込めた
「ん・・・っ・・・流星・・・」
紫苑は柔らかな口調で名を呼び、最奥付近で自身のものを動かした
「あっ・・・ぁ・・・っ、は・・・っ」
他者の温度と、与えられている感覚によって、体が芯から熱くなってゆく
風呂に浸かっている時とは違う熱が、自分の中で抑えきれなくなる
そしてそれは、紫苑が最奥を突いた時に、解放された
「は・・・あ・・・っ、紫・・・苑・・・
・・・んっ・・・あ・・・っ、あぁっ―――!」
「流星・・・っ・・・ぁ・・・あ・・・っ―――」
流星が熱を解放するとほぼ同時に、紫苑の熱も放たれた
流星の中には熱い液体が流れ込み、紫苑が自身を引き抜いた後も、まだ白い糸が伝っていた
そして快楽ゆえの倦怠感が二人の体に残り、紫苑も浴槽の側面にもたれて座った
流星がふと隣を見ると、息を荒げている紫苑の表情が目に入った
その姿は、確かに相手に欲を与えてしまうような、俗に言えば色っぽくも感じるものだった
その時、自分を見ている時の紫苑の想いが、少しわかった気がした
息が落ち着くと、お互い体を洗い直し、浴槽に浸かって温まった
紫苑が流星の中に放ってしまったものを気にして、自分の指で少しでも取り除くと言ったが、
流星は余計な御世話だと言ってその提案を跳ねのけた
そこには羞恥心もあったが、行為が終わったばかりなのに、また紫苑の指を汚してしまうのはやはり嫌だった
だが、そんな事まで気にしてくれる紫苑の優しさが、嬉しかった
二人は着替えて、体が温かい内にベッドに入った
「今日は・・ごめん、急にあんな事をして・・・」
寝転がったとたん、紫苑が流星のほうを向き、申し訳なさそうに言った
「・・・ま、まあ・・・三大欲求の、一つだしな・・・」
流星は天井を見上げながら答えた
正直なところ、紫苑になら、触れられても構わなかった
だが自分の性格上、そんな事は到底口に出せる事ではなかった
「でも、きみは最後まで拒まないでいてくれて・・・嬉しかった」
それは、拒まなかったのではなく、拒めなかったというほうが正しいかもしれなかった
自分の中に、ふいに湧き上がる欲求がある
具体的にはわからないが、それは羞恥もプライドも跳ね除けてしまうほど強いものだと、それははっきりとしていた
だからこそ、紫苑を拒めない
ただその欲求に従い、抗う事を忘れてしまう
たぶんそれは、相手が心を許した存在だから言えることだった
「ぼくは、流星は口には出さないけど、そんな優しいところが好きで・・・そして、愛し」
「も、もう、寝かせてくれ、疲れるんだ、その行為は・・・」
流星は紫苑が言葉を言い終わらない内に、そっぽを向いて言葉をさえぎった
紫苑はくすりと笑い、おやすみと一言言って目を閉じた
いくら紫苑と行為をした後とはいえ、そんな甘い事を言われるとほぼ反射的に言葉を妨害してしまう自分がいた
こんな時、自分の羞恥心の強さがよくわかる
だが・・・今度こういった行為をする時は自分が主導権を握り、紫苑の表情をよく見てみようかと
甘い声に耳をたててみようかと、そんな事を思った
この、自分の中に生まれているそんな考えが何を示すのか、まだわからないことだった
―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
学校の大変な課題に追われてむらむらしてやった、後悔はしていない(by管理人)
流星は性の事について知識はあっても、どんな想いでそれがなされるのかよくわかってません
あと、余談ですが・・・
してる時、後ろを慣らすと防衛機能のために粘液が分泌されてぬらぬらするらしいです(管理人は、いかがわしい知識を身に付けた)