別れの前に、後編


「っ・・・は・・・・・・紫苑・・・」
すでに自身の中に相手を挿入されている流星は、熱い息を吐いた

「あ・・・っ、流星・・・」
内部の収縮で自身に圧迫感を覚え、紫苑の息も荒くなる

二人は、求め合っていた
紫苑が迫っても、流星は一切抵抗しなかった
自ら行動はおこさなくとも、相手に全てを委ねることでその意思を示していた

「あ、ぁ・・・っ!し、お・・・あぁ―――!」
上ずった声と共に、中の収縮が強くなる
「っ、ん、あ・・・!」
急激な収縮に、紫苑も悦に耐えきれなくなる
だが、耐えきれなくなる直前で、自身を引き抜いた
突然引き抜かれた刺激で、流星は身を震わせた
紫苑が身を引いた瞬間、その場に欲が放たれた


「・・・紫苑・・・」
名前を呼ばれ、紫苑は流星の頬にそっと口付ける
自分の名を呼ばれることは求められているのと同じだと、口で言わずともわかっていた

「少し休んだら、体を洗いに行こう。・・・ぼくので、汚しちゃったし・・・」
紫苑がそう言うと、流星は切なさを含んだ眼差しで相手を見上げた

「・・・・・・まだ・・・君を、感じていたい・・・」
流星は控えめがちに、紫苑の腕を掴む
「うん。じゃあ、一緒に洗いに行こう」
望んでいた答えではない言葉に、流星はわずかに眉をひそめる

「・・・そうじゃない」
直接的な言葉で伝えなければならないことを、わずらわしく思う
もしかしたら、先の行為より羞恥を感じる発言かもしれない
それでも、伝えなければ終わってしまう


「・・・・・・もう一回・・・だけ・・・・・・・・・・・・して・・・・・・ほしい・・・」
とうとう、自ら相手を求める言葉を言ってしまった
羞恥が湧き上がってきて、相手を直視できない
けれど、もう少しだけ、感じていたかった
全てを受け入れてくれる温かさを


紫苑は、驚いた様子で流星を見ていた
この行為を言葉にして求められるなんて、前代未聞のことだった

「・・・きみの体に負担がかかってしまうけれど、それでも・・・」
「それでもいい。・・・もう、これ以上言わせないでくれ」
迷うことはなく、即答した
今は、離れて行ってほしくなかった
自分でも信じられないほどの紫苑に対する甘えが、表に出てしまっていた

「・・・わかった。でも、少し回復するまで休んだ方がいいよ」
紫苑は体が冷えないように毛布をかけ、流星を抱いて横になった
流星は心地よい体温を感じていても、眠らないように心掛けた






「流星・・・そろそろ、いい?」
少し熱が冷めてきた頃、紫苑が言った

「・・・うん」
流星は小さく頷き、紫苑と視線を合わせた
了承の合図を受け取った紫苑はふっと笑い、流星に優しく口付けた
愛おしい者を求めるように、短い口付けを何度も繰り返す
そして、体を冷やさないためか紫苑は早々に下腹部へ手を伸ばした

「っ、ん・・・」
紫苑の指先が、敏感な個所へ触れる
そこは、さっき散布した白濁がまだ乾いていなかった
紫苑はその自身の液を指に絡ませ、流星の中へ滑らせるように入れた

「ぁ・・・」
流星の中は先の行為で解されていたため、それほど強い感覚は襲ってこなかった
けれど、指と共に入ってきた粘液質な感触に、また新たな熱を感じていた
あまり負担をかけたくないと思っているのか、紫苑はゆったりと挿入した指を動かす

弛緩しているその箇所は、収縮することなく内部のものを受け入れていた
だが、熱が蓄積されていっているのか、流星の息は静かに早くなっていった
弛緩しているのなら平気だろうかと、紫苑は挿入する指を三本に増やした

「は・・・っ、ぁ・・・」
それには流石に緩んでいた箇所も反応を示して収縮し、反応にともなって熱い吐息が交じる
紫苑は指を奥まで進め、関節を曲げてその箇所を再び緩ませる
指が濡れているからか、隙間から液体が絡む音が漏れ、嫌でも流星の耳に届いてきていた
先の行為の液が自分の中で絡まっているのだと思うと、羞恥を感じずにはいられなかった
収縮がわずかに緩くなったのを見計らい、紫苑は指を抜いた

「流星、大丈夫・・・?」
二回目の負担を気にしているのか、紫苑が怪訝そうに尋ねた
「平気だ・・・。本当に、大丈夫だから・・・そんなに、心配しなくてもいい」
たとえ負担を感じていたとしても、行為を進めることを拒否しなかったと思う
一時でも長く、その存在を感じていたい
今は、そんな思いしかなかったから

紫苑は小さく頷き、そして自身のものを流星にあてがった
心の準備をさせるように一呼吸置いた後、紫苑は腰を落とした

「ぁ、あ・・・っ」
解されているとはいえ、指とは違うものの圧迫感に流星は声を発した
その圧迫感によって、とたんに息が荒くなる
呼吸と共に出て行ってしまうか細い声が、抑えられなかった

紫苑は少しずつ、なるべく痛みを与えないようにゆっくりと自身を挿入してゆく
聞こえてくる熱っぽい声、紅潮した頬、そして感じる熱に、紫苑の息も熱を帯びていった
最奥まで挿入が終わると、少し紫苑は身を屈めた
そして、ふいに流星の胸部にある突起に指先で触れた

「っ、んん・・・」
滅多に触れられることのない箇所への接触に、流星はわずかに肩を震わせた
一瞬、筋肉が収縮する
一時の圧迫感を覚え、紫苑は小さく息を吐いた
それほど強くはない刺激だったが、自身の中にあるもののせいで流星が感じる感覚は増幅していた

紫苑は掌を胸部の中心部に合わせ、伝わる心音を感じていた
今は動きが止まっているから少しは落ち着いているのか、規則的な心音が掌を通して伝わる
そこに感じていたのは、絶対的な安心感だった


しばらく紫苑はその鼓動を感じていたが、やがて掌を胸へと滑らせた
そしてまた指先で、突起に触れる
あまり力を加えないように押し、周囲をなぞる
流星はその小さな刺激には必死に声を堪えているのか、呼吸が不規則になっていた

「流星・・・胸のところ、感じる・・・?」
急に恥ずかしい質問をされ、流星は返答に戸惑う
生理的な反応なのだから、そう感じると答えることは当たり前とも思われるのだが
気恥かしさのせいで、とてもそんな返事を返すことはできなかった

「そんなところ・・・誰だって、同じ・・・・・・っ、ぁ」
言葉の途中で先程とは逆の方の突起に触れられ、思わず声が上がる
声を上げてしまうと再び収縮して、自身の中にあるものを鮮明に感じ取ってしまう
それを感じると、とたんに呼吸が不規則になっていった

「声、抑えないで・・・」
紫苑は体勢を下げ、流星と重なり合った
そして、さっきまで触れていた小さな部分に、今度は舌先で触れた

「ぁ、ぁ・・・っ」
柔らかく、液体を帯びたものに触れられ、か細い声が発される
流星が感じているのがわかると、紫苑はその箇所へ丹念に自身の舌を這わせた
それだけでは終わらずに、もっと悦を感じさせるように触れている箇所を口に含んだ

「は、あ・・・っ・・・」
温かな口内に含まれ、流星の熱は上昇する
やんわりと柔らかいものに撫でられると、体の反応を抑えきれなくなる
流星が熱い吐息をつくと、紫苑も薄らと目を細めて下肢に上ってゆく熱を感じていた

紫苑は、このまま自身のものを動かさずに、流星に悦を与えようとしていた
負担を与えないためという名目もあったが、そのほうが長く流星と身を触れ合せられると、そう思っていた
流星は断続的に胸部へ感じる感触に、だんだんと息遣いが短く荒くなっていっていた


少しずつではあるが、お互いに限界が近付いてくる
けれど、紫苑は一向に身を動かそうとはしない
流星は、まだ自分が気遣われているのだろうかといぶかしんだ
最後の最後まで、こんなときまで気遣ってほしくなんかない
恥を忍んで自分から求めたこの行為
最後になるかもしれないのなら、気遣いなんていらなかった

「紫苑・・・」
吐息に交じり名前を呼ばれ、紫苑は含んでいたものを離して流星を見た

「紫苑・・・気遣いなんて、遠慮なんていらないから・・・だから・・・・・・」
「流星・・・」
相手を求めるその言葉に、紫苑は瞬間的に強い鼓動を覚える
気遣う余裕が、なくなってゆく
少し躊躇った後、紫苑が身を上げて少し腰を引くと、流星は熱い息を吐いた
そして、ゆっくりと奥へ自身を進める

「は・・・」
じっと止まっていたものが動き、体が反応する
口から漏れるその吐息に、紫苑は欲を覚えていた
もっと、抑制のない声を、反応を見てみたいと
紫苑の抑制心は、もうほとんど機能していなかった
欲に後押しされるままに、紫苑は中の自身を前後に動かし始めた

「ぁ、あ・・・っ」
さっきとは違う強い感覚に、流星は吐息と共に声を発する
先の行為があったからか、感じるのはその強い感覚だけで、痛みはなかった
感覚が強すぎて、痛みを感じていないのかもしれない

紫苑の動きは激しくはなかったが、一時も止まることはなかった
抑制する余裕を与えないように、流星を掻き回していた
収縮が、だんだんと強くなる
お互いに、限界が近い印だった

「っ・・・流星・・・名前を呼んで・・・。
ぼくを、求めて・・・流星・・・」
息つく合間に、囁くように紫苑は言った
最後に達する前に、求めてほしかった
この熱で、抑制を完全に崩壊させてほしいと

流星は、少し躊躇っているような様子を見せていた
だが、これが最後になるかもしれないのだと思うと、そんな躊躇いは消えていった
流星は紫苑の首に腕を回し、そして求めた

「・・・紫苑・・・離れないでほしい・・・紫苑・・・」
そんなこと無理だとわかりつつ、そう言っていた

これが、本音だった
人狩りになんか行かないで、傍にいてほしいという、甘えの言葉だった
紫苑は、一瞬切なそうな眼差しを流星に向けた
そして、頬に優しく口付けを落とした
その先は、紫苑は何も答えずに腰に力を入れて自身をぐっと奥へ進めた

「あ、あ・・・っ!ん、っ、あ・・・」
いよいよ強まってきた感覚に、もう声を抑えることはできなかった
これ以上、流星が何も言えなくなるように
引き止めるような言葉を言えないように
紫苑は、自身を激しく動かした

相手の一言で、揺らいでしまう
その揺らいでしまう自分の感情を、一時の欲で覆い隠してしまいたかった
紫苑は、欲に身を任せるようにして、深く腰を落とした

「あぁ・・・っ!・・・紫・・・苑・・・・・・は、あ、っ―――!」
上ずった声と共に流星の体は跳ね、一気に収縮が強くなった

「ん、っ・・・流星・・・・・・ぁ、あ―――!」
自身のものが急激に圧迫され、紫苑も声を抑えきれなくなる
欲が抑えきれなくなると感じ、紫苑はとっさに身を引こうとした
けれど、その行動は阻まれた
流星は紫苑の行動を予測していたのか、腰に腕をまわして引き止めていた

「流星、だめ・・・っ!」
紫苑は抗議しようとしたが、そんな間はなかった
自身のものが震え、そのまま欲が散布される

「っ・・・は・・・」
収縮が収まりつつあった内部に、粘液質なものが絡みつく
流星はそれを感じると一気に脱力し、腕を解いた


腕が解かれると、紫苑は内部を傷つけないようゆっくりと自身を引いた
十分な潤滑液があるからか、それは滑るように抜けていった
そのときに伝った糸が、わずかにシーツを濡らした

「ごめん、流星・・・気持ち悪かった・・・?」
その感触は紫苑には想像できないものだったが、良いものではないだろうとだけは思っていた

「・・・僕が望んだことなんだから、気にすることなんてない・・・」
身を引こうとした紫苑を、無意識の内に引き止めていた
少しでも長く彼を感じていたいと、本能がそう言っていた
自分の中に、相手の液が流れ込むこともいとわなかった
まるで、行為をした証を残してほしいと、そう言っているように

「・・・洗いに行こう?せめて、外側だけでも・・・」





その後、下腹部を濡らしていたお互いの液を洗い流した後
二人は体が温かいうちに、並んでベッドに入っていた

「流星、あの、今日は・・・・・・きみのほうから求めてくれて・・・嬉しかった」
流星は照れ臭いのか、何も答えなかった
それから、会話は続かなかった
お互いに思うことがあり、何を言っていいのかわからないでいた

「・・・じゃあ、ぼく、寝るね。・・・・・・おやすみ、流星」
「・・・・・・お休み」
本当は、もっと話していたかった
けれど、そうすれば、執着してしまう
会話の途中で、行かないでほしいという甘えがまた出てしまう
そうなるだろうとわかっていた流星は、多くを語らなかった


考え事はやめようと、目を閉じる
しかし、考えてしまう
隣に居る、愛おしい相手のことを

紫苑もそれは同じなのか、なかなか寝息は聞こえてこなかった
相手も、同じことを思ってくれているのならば
今、引き止めれば、揺らいでくれるかもしれない
流星は思い切って隣にいる紫苑に顔を見せないようにして抱きついた

「・・・流星」
紫苑は少し、困ったような声で名を呼んだ
揺らいでしまいそうになる自分を、必死で抑えるかのように


「・・・明日」
小さな呟きが、紫苑の耳に届いた

「・・・・・・明日、僕の目が覚めないうちに・・・出て行ってくれ」
流星の言葉に、紫苑ははっと息を呑んだ


引き止めようと思っていた
けれど、出てきたのはこんな言葉だった
紫苑は、とても大切な存在
だからこそ、無理矢理その意思を変えさせようとすることができなかった
紫苑はそんな流星の想いを汲んだのか、強くその背を抱きしめた

「流星・・・ごめん。
・・・・・・・・・ありがとう」
紫苑の首元を、一滴の透明な液体が流れ落ちて行く
自分のものではない、温かくも虚しい滴が―――




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
実はこれ、約二週間前からちまちまと書いていたものです
途中でペースが落ちる落ちる・・・やっと、完成しました
私の場合、やっぱり、小説は一気に書いてしまわないとだめな感じがしますorz