誘惑、後編


「何だか・・・服を着たままするのは、奇妙な感じだ・・・」
息が落ち着いた時、流星の第一声はこれだった
完全に脱がされなかったのは部屋が寒いからだと思うが、下半身だけ外気にさらされているのは奇妙以外の何物でもなかった

「今日は、少し冷える。けれど、おれの家でなら余すとこなく重ね合わせられるけど・・・?」
ネズミは、指先ですっと流星の顎を撫でた

「何言ってるんだ、紫苑がいるだろ・・・」
流星は呆れたように言った
そんな恥ずかしいことを言うんじゃないと言いたかったが、今そんなことを言っても今更な気がしていた

「紫苑なら、イヌカシのとこにでも泊まらせてくればいい。何なら、明日にでも取り持ちましょうか?」
「あ、明日・・・」
流星は半ば呆れ、半ば驚いていた

「よく、そんなにできるな・・・今日は・・・・・・二回した・・・だろ」
流星は自分のしたことを思い出したのか、少し口ごもっていた
自分は一回の行為でもう疲れているのに、ネズミはまだ余裕があるように見える

「何なら、明日と言わず今からでもいいけど?あんたが甘い言葉の一つでも囁いてくれれば、また・・・」
「む・・・無理だ、君は僕がどんなに疲れてるのか、わからないだろ・・・」
突き動かされていた箇所にはまだ余韻が残り、完全に回復してはいない
悦を感じた後の独特なこの脱力感は、まだまとわりついていた


「・・・シャワー浴びてくる」
ネズミが何かを言い出さない内に、流星は体を起こし服を掻き集めた
そして立ち上がろうとしたとき、何か違和感を感じて流星は動きを止めた

「っ・・・!?」
流星は、行為が終わった今、感じるはずのない感触に目を見開いた
熱く、そして粘液質なものが、体の中を流れてゆく
体勢が変わったせいか、ネズミに注がれた液が、感じていた感触を蘇らせるかのように流れ出ようとしている
そのせいで、流星は自分の熱が再び上昇してゆくのを感じていた
このまま立ち上がれば、おそらくその液は完全に流れ落ちる
そんなところをネズミに見られるのは羞恥心が許さず、流星はそこから動けないでいた


「どうした?流星・・・シャワーを浴びに行くんじゃなかったのか・・・?」
ネズミは制止している流星に忍び寄り、背後からその体に腕をまわした
流星は、ちらと後ろを振り返った

「なっ・・・何で、服を脱いでるんだ」
背後に居るネズミの姿は、完全に脱衣した後の姿だった
流星はまた身の危険を感じたが、すぐに立ち上がるわけにはいかなかった
今立ち上がれば、確実に液が流れ落ちる様を見られてしまう
なすすべがなく、流星はそのまま硬直していた

「もっともっと、注いで差し上げますよ、ナイト・・・。今度は簡単に流れ落ちないように、最奥へ・・・」
「う・・・」
耳元で甘く囁かれ、流星は体から力が抜けてゆくのを感じた
そしてネズミは背後から腕をまわしたまま、流星の服のボタンを外していった
室内の冷たく無機質な空気でも、ネズミの欲を止めることはできなかった

「や・・・やめ・・・」
流星が抗議しようとしたとたん、ネズミははだけた服の隙間から手を滑り込ませ、露わになった肌を撫でた

「っ・・・」
相手が少し怯んだ隙に、ネズミはすぐ傍にある首筋に軽く口付ける
そして滑らかな肌に舌を滑らすと、流星の肩が一瞬震えた
そんなことをしている間にも、ネズミは服を取り去ってゆく
瞬く間に上半身の服も取り払われ、全身が外気にさらされた

「あんたも、まだ感じてるみたいだな・・・。体、少し熱い」
また耳元で、ネズミが囁く

「君が、そんなことするからだろ・・・!」
今や素肌が触れ合い、流星もネズミの体温を感じていた
流星は、その体温がまだ熱いことも、明確に感じ取っていた

「今度は・・・後ろからっていうのも、いいかもな・・・」
ふいに、ネズミの手が流星の下肢に伸びる
流星ははっとしたが、まわされている腕にはかなりの力が込められており、身動きがとれなかった
そしてネズミは座っている流星の隙間から、指をそっと差し入れた

「んん・・・っ・・・ぅ・・・」
流れ落ちようとしていた液が押し戻され、指に絡みつき奥へ進められる
先の行為で弛緩しているせいか、指は難なく流星の中を犯した
限界まで進められたものは、わざと音をたてるように内部を掻き回す
流星は喉から漏れようとする声を寸前で抑え、代わりに熱い吐息を吐いた
差し入れられたものに体が反応し、流星は再び自分の中に熱が籠ってゆくのを感じていた

「・・・これなら、すぐにでも入りそうだな」
ネズミは液が絡んだ指を抜き、流星を少し持ち上げた
そして、抱きすくめたままベッドに乗り上げた

「な・・・何を・・・!」
振り返ろうとしたん、体に衝撃が走った
ネズミは持ち上げた流星の体を落とすと同時に、自身のものを流星の中へ埋めていた

「あ・・・!あ・・・っ」
先の行為の液で濡れている箇所は、痛みもなくネズミを受け入れる
流星は両手をつき、それが一気に入らないように体を支えた
だが、悦を感じている体では思うように力が入らなかった

「流星・・・おれのこと、呑み込んで・・・先端から根元まで、全部・・・」
ネズミは流星を捕えている腕に少し力を込め、腰を落とすよう促す
奥へ自身を進めることはせず、流星が自ら悦を求めるように

「・・・っ・・・う・・・ぁ」
流星は何とか体を支えていようと、腕に力を集中させる
少しでも油断すれば、自らネズミを奥へ誘うことになってしまう
いくら体が欲求していても、それは羞恥心が許さなかった
それをじれったく思ったのか、ネズミは流星の耳朶を甘噛みし、ゆっくりと舌を這わせた

「んん・・・っ・・・」
腕が震え、力が少しずつ抜けて行く
そうすると自分の中のものが奥へ埋まってゆき、悦が身を任せてしまえと誘いかけてくる
だが、羞恥とプライドが易々とそれに従わせはしなかった


そうして耐えていると、ネズミはまたじれったく思い片手で流星の顎を取った
そして自分の方を向かせ、深く口付けた
荒い息のせいで開きっぱなしになっている唇を舐め、熱い口内へネズミは舌を差し入れた

「・・・は・・・っ・・・」
力を抜かせるように、ネズミは丁寧に流星の口内に舌を触れさせてゆく
荒い息を抑えられず、喘ぎにも似た吐息がネズミにかかる
それは、ネズミを高揚させるものの一つだった
ネズミはいよいよ抑えきれなくなり、流星を引き寄せ、口内を激しく蹂躙した
体を支えることで精一杯だった流星は簡単に引き寄せられ、そして自身の中に完全にネズミのものが埋まった

「は、あ・・・!・・・ん・・・っ、は、あ・・・!」
とたんに流星は強い悦を感じたが、口内にあるもののせいで思うように呼吸がままならない
三回目だというのに、ネズミのものは熱く、中を刺激する
ネズミは、苦しそうに呼吸をする流星の唇を解放した
そしてすぐに、腰を動かし突き上げた

「ん、ぅあ・・・っ!は、ぁ・・・っ」
後ろから揺り動かされ、流星は上ずった声で喘いだ
そのたびにベッドが軋み、抑えきれない声が部屋に響く
先の行為の液は押し出され、皮膚を伝って流れてゆく
ネズミはその間にも高揚感を覚え、流星を攻め続けた
胸部を撫で、肩や首筋に吸い付き、吐息を感じさせる
この体勢のせいで最奥ばかりを突き動かされている流星は、溢れ来る感覚に耐え得ることができなかった

「っ、あ、ぁあ・・・!ネズミ・・・っ、は、あぁっ―――!」
一瞬体を震わせ、流星は二度目の悦楽を感じた
内部が相手のものを締め付けるように凝縮し、より鮮明にネズミを感じ取れる瞬間だった

「は、っ・・・ぁ、っ―――!」
ネズミも体を震わせ、そして達した
液が最奥に注がれたが、もはや流星はその感触に反応するのも億劫になっていた



「っ・・・は・・・」
流星が息を吐き、力を抜いたことを確認すると、ネズミはゆっくりと自身を引き抜いた
それが引き抜かれたとたん、流星の体からは完全に力が抜け、ぐったりとした様子でネズミに身を預けた
ネズミは流星を受け止め、やんわりとその体を抱いた
お互いの体温は、室温からは考えられないほど熱かった

「・・・この、色魔・・・」
流星は息も落ち着かぬまま、悪態をついた
だが、ネズミは悪態をつかれて気分を悪くするどころか、口端を上げて軽く笑った
自分に身を預けている相手から言われても、ただの可愛い文句にしか聞こえていないのかもしれない

「落ち着いたら、シャワー浴びた方がよさそうだな・・・。あんたの中、もうおれので一杯に・・・」
「っ・・・少し、黙れ・・・」
そんなことは、みなまで言われなくとも自分が一番よくわかっている
だからそんな生々しく恥ずかしいことを言うなと、叱咤したかった
だが、まだ声を荒げる気力はない
入れられていた箇所はまだ熱く、弱弱しくも液を押し出そうとする
しかし本当に最奥へ注がれたのか、流れ落ちる気配はしなかった
そのことを思うと羞恥が蘇ってきたが、今はネズミに身を預けたまま、回復するのを待つしかなかった





その後、体を洗って着替えベッドに寝転がると、どっと疲労感が押し寄せてきた
その疲労感の原因となるネズミに、流星は背を向けて寝転んでいた
背後に人が近付いてくる気配を感じると、振り返らずに言った

「・・・もう、しばらくしないからな」
二度と、とは言わなかったのが、せめてもの情けのつもりだった

「また、誘いかけるさ。甘い言葉と、眼差しで・・・」
ネズミは流星ににじり寄り、後ろから抱き締めた
さっき悪態をついたといえども、その温かい腕を振り払うことはできなかった
流星は、そんな自分が誘いを断ることなんてできないのかもしれないなと、自分自身に呆れていた




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
前回の話と合わせて、久々に長々といかがわしくなりました(汗)
これも全部教習所が悪いんだきっとそうに違いない←