NO.6 番外ネズミ編#2(修正ver)

(修正前の#2とは別物の話になっています)



―愛情という定義―



翌日、は昨日受けたネズミの一連の行動に悩まされていた

そして、それを拒めなかった自分にも悩まされていた

以前にも、どんなに自問自答しても答えが出てこなかった時があった

それは例外なく、彼等が関わっている時だった

ネズミに詳しく問い詰めてみたかったが、昨日あんな事をされた直後に会う気はしなかった

朝からずっとそんな事を考えていたは、気晴らしに犬でも借りに行こうかと座っていたベッドから腰を上げた



その時、玄関の扉が叩かれる音が聞こえた

は間の悪い訪問客だなと思いつつ、扉を開けた

そしてすぐに後ずさった

目の前にいたのは、今自分を悩ませている人物だったからだ



「ネズミ・・・な、何か・・・用事か?」

昨日の今日で何をしに来たのかと、警戒しがちに言った



「まあな。中、入っていいか」

「ああ、構わないけど・・・」

外は寒いので、少し渋りながらもネズミを中に招いた





部屋に入ると、ネズミは早速椅子に座ろうとした

「あ、その椅子は冷たいから、ベッドに座っ・・・て・・・・・」

はある事に気づき、語尾を小さくした

もし昨日のような事になったら、ベッドなんてうってつけの場所だ



「い、いや、何でもない」

はばつが悪そうに言うと、お互い向き合う形で冷たい椅子に座った



「あんた、昨日おれに恋愛感情がどんなものなのかって聞いたよな」

「ああ・・・それが、どうかしたのか」

その言葉で、はさらに警戒心を強めた

隙あらば、また同じことをするつもりなのではないかと訝しげにしていた



「愛なんて甘ったるい物、はっきりわかってないのはおれも同じだ」

ネズミの言葉は、にとって意外なものだった

てっきり彼は愛のなんたるかをわかっているから、昨日僕にあんな事をしたのだと思っていた

それなら昨日の行為はどう説明をつけるつもりなのか、問いただしたくなった



「じゃあ何で、昨日あんな事をしたんだ」

そう問いただすと、ネズミは珍しく言葉に詰まっているようだった

そして少し間を開けた後、答えた



「・・・おれがあんたを求めた切欠が本能的なものか、愛情ってやつのせいなのか、おれにもわからない。

それは、あんたも同じなんじゃないのか」

ネズミに指摘され、は軽く頷いた

今、彼が言った事は、昨日自分が抵抗しなかった理由に近いものではないかと思った





抵抗しなかった理由は、僕自身にも生理的欲求が働き、本能的に彼を求めてしまっていたのか

それとも、僕が知らないはずの「愛情」というものが彼を求めるように促していたのか

不明な点が多すぎて、明確な答えを自分で出すのは無理な事だった

それでも、なぜ自分が抵抗できなかったのか、その理由をはっきりとさせておきたかった

自分の中に、こんな中途半端な感情があるのは落ち着かなかった





「それでも、あんたは知りたいんだろ。

あんたは物事に白黒つけないと気が済まないタイプだからな」

「・・・よく、わかってるじゃないか」

まるで今の心情を読み取られたかのような、的確な言葉だった



「でも、お互いおぼろげにしかわかってないんじゃ無理だな。

てっきり、君はそういう事をよく知ってるものだと思っていたけど」

ネズミは外見のわりに大人びた雰囲気を持っているので、勝手にそう思っていた

そして彼からはたまに、見る者を誘惑する素振りや視線を感じる時がある

そんな魅力を持っているのだから、奇麗どころの女性に放っておかれるほうがおかしいと、これもまた勝手にそう思っていた



「確かに、お互いよくわかってない事だ。

だけど、俺達の持っているこの感情をはっきりとさせる方法なら、ある」

にはそんな方法は検討もつかなかったが、ネズミは自信ありげだった



「へえ。そんな事、できるのか?」

が尋ねると、ネズミは一瞬再び言葉に詰まったようだったが、すぐに答えた



「セックスすることだ」

「・・・セッ・・・・・・・!?」

は、いきなり飛び出てきたその単語に絶句した

そして聞き慣れても、言い慣れてもいないその単語に動揺しないわけがなかった



「なっ、何を言ってるんだ君は!

それは・・・お互いが、愛し合ってるから、する行為であって・・・・・・」

あきらかに動揺している事がわかるように、の言葉は詰まりがちになっていた



「だからはっきりさせられるんだ。落ち着いて聞け」

相変わらず平然としているネズミを見ていると、動揺してしまっている自分が何とも馬鹿らしく思えてきてしまう

は一呼吸置き、動揺している自分を抑えつけた

「どうしてそれで・・・その行為で、お互いを求める欲求が生理的なものか、愛情というものからなのかわかるんだ?」

はその行為は恥ずかしい行為であって、易々と口にはできない言葉だと認識していたので、どうしても言えなかった



「それは無理矢理なものじゃない限り、そこそこ仲良しな奴がする事じゃないってのは、わかってるよな」

「ま・・・まあな」

ネズミは当然のようにその単語を言っているが、やはり動揺してしまいそうになる



「・・・だから短絡的に言えば、お互いが最後までその行為を進められれば、少なからず愛情があるってことだと思わないか」

性的行為を示す単語を言うたびにが視線を逸らすので、オブラートに包んで言った

ネズミの言った事は本人の言う通り短絡的だったが、間違ってはいないように思えた

その性的行為をお互いが拒む事無く最後まで進められたら

そこには羞恥心を跳ねのけるほどの相手を求める欲求、つまり愛情というものがあるように思える



「確かに、君の言う事には一理ある。でも、それはつまり・・・君と・・・・・・

せ・・・・・・性的行為をするってこと・・・・・・だよな」

が言葉を途切れがちにして尋ねる一方、ネズミは顔色一つ変えずに「そうだ」と短く答えた



「・・・・・・・でも、無理だ、そんな事。君は僕の体の事、わかってるだろ」

こんな体で生まれてきたのだ、そんな行為は一生縁のないものだとして遠ざけてきた

自分から人に触れる事すら滅多になかったに、その行為は現実離れしすぎていた

どういう原理なのかはわかっているが、それだけに留まっていた



「ああ。わかってる」

「それなら、もっとまともな人としたほうがいい。この方法は却下・・・」

「あんたじゃないと意味がない」

ネズミは、の言葉を遮って言った



「おれはあんたの体の事を踏まえた上で言てるんだ。

あんたが、羞恥心やプライドが人一倍強いって事も知ってる上でな」

次に使おうと思っていた事を先に言われ、は言葉を探した

なぜだかわからないが、何か他に言い訳はできないかと必死に言葉を探している自分がいた

それは、自分のどんな欠点を言っても相手が受け入れてくれる事を確認したがっているのかもしれないし

ただ単に性的行為を回避したがっているだけなのかもしれなかった





「・・・・・・僕は、たとえ君でも、自分のコンプレックスには絶対に触れてほしくないって思ってる。

男は、それだと・・・物足りないんじゃ・・・ないのか」

これは言い訳ではなく、本心だった

自分のコンプレックスとなっている物に触れられ、もし反応してしまったら

その時、自分は女でもあるのだという事を痛感させられてしまうかもしれない

男として生きると決心したは、その事を強く恐れていた

今の自分は昔を思い出す事さえ、わずらわしく感じていた



「あんたは高貴なナイトだ。それ相応の扱いをする」

たまに見せるわざとらしい様子や口調は一切ない

その上そんなにも真剣な瞳で見られると、どんな事を言っても無駄なように思えてくる

正直、これ以上言い訳はできそうになかった



「あんたが本当に白黒つけたいのなら・・・

、おれと」

「も、もう・・・その言葉を言うな」
は焦り、ネズミの言葉を打ち消した
決定的な誘いの言葉で、は心臓が強く脈打つのを感じた

お互いが抱いているものをはっきりさせたいと頑なに言ったのは、自分だ

だが、二つ返事で了承する事はできなかった



愛し合っていたのなら、本当にお互いを一切拒む事無く行為を進められるのか

そして、自分の強いプライドと羞恥心を上回る感情とはどういうものなのか、興味はあった

彼が、僕の全てを受け入れようとしてくれている事も、嬉しかった



だけど、それでも了承する事ができない

ほとんど未知の行為への怯えのせいか

全てをさらけ出すという事への羞恥心のせいか

それとも相手にされるがままになる事を拒むプライドのせいか



僕は、心のどこかでブレーキをかけていた

彼の気持ちに答えられない自分が、もどかしかった





「・・・・・・しばらく・・・考えさせて、くれないか」

やっと言えた返事は、それだけだった

色々な感情が入り混じっていて、自分自身どうしたいのかよくわからなくなってきていた



「そうか。まあ・・・自問自答はあんたの得意分野だから、じっくり考えな

ただし・・・」

ネズミが立ち上がり、のほうへ近づいた

そして隣に立ち身をかがめて、わずかに露出しているその首筋に口付けを落とした



「なっ・・・!」

は動揺し、反射的に離れる事ができなかった

普段より強いその口付けにわずかな痛みを感じて我に帰り、両手でネズミを押して離れさせた



「期限は、その痕が消えるまでだ。

それまでに答えを出さなかったら・・・あんたの知りたい事は、一生迷宮入りだ」

の首筋には、小さくともはっきりとした痕がついていた

どんな痕がついているのか自分では確認しようがなかったが、

何をされたのか何となくはわかったので、頬の紅潮を抑える事ができなかった



「それじゃあおれは帰るぜ。そろそろ、息子が父親の帰りを待ちわびてる頃だからな」

彼等をよく知らない人が聞けば誤解しそうな台詞だが、ただ単に紫苑が仕事を終えて帰ってきている時間なのだろうとすぐわかった

息子と言うよりは兄弟だろうと思い、は微笑した

そしてネズミは「じゃあな」と告げると、まるで何事も無かったかのように外へ出ていった

取り残されたにはまた悩む要因ができてしまい、しばらく頭を抱える事になった









―後書き―

読んでいただきありがとうございました!

今更、修正しようと思い立ってほとんど別物の話を書いたわけですが・・・

これははたして修正になっているのかどうなのかorz

今更になって読み返してて、やっぱネズミが女装してるシチュエーションよりはしないほうがいいかな〜、と・・・

管理人の超個人的自己満足ですがorz

修正verも、修正前と同じく#4で終わる予定です(#1は結構気に入ってるんで修正はしません)

いつ、修正し終わるかはわかりませんが・・・気長に、お待ちいただければ幸いです