NO.6 番外ネズミ編#4





がネズミに手を引かれ連れて行かれた先は、ベッドの上。

今から始まる行為に緊張はしたが、抵抗はしなかった。

まるでネズミに対する負い目が、抵抗してはいけないと命令しているようだ。

がベッドに寝転がると、もう逃がさないと示すよう、ネズミが覆いかぶさる。

一瞬視線が交わったと思ったとき、すぐに距離が縮まる。

次の瞬間、の口はネズミに覆われていた。



「っ・・・ん」

それは今まで以上に深いもので、はわずかに呻く。

今まで抑制されていたものを解放するよう、性急にネズミはを求める。

遠慮なく舌を入れ、水音を発し、絡め取る。

少し怯んでしまい、ネズミの胸を押すと、意外とすんなりとを解放された。

たった一回の口付けだったが、その激しさで息は荒くなりつつある。

休む暇は与えられず、次は耳元に柔らかい感触が触れる。



「ぁっ・・・」

思わず、小さな声が漏れる。

それがゆっくりと移動すると、背筋に寒気に似た感覚が走った。

は羞恥心から口を手で覆い、必死に声を抑えようとする。

そんな様子を見たネズミは、今度は首筋を舌でなぞっていく。

まるで、声を抑えようとしても無駄だと教えるかのようにじっくりと。



はきつく目を閉じ、その感触に耐えようとする。

声は何とか抑えられているものの、心臓の音だけは隠しようも無く大きくなっていく。

そうして耐えていると、ネズミは行為を進めるべくの上着を脱がしていった。



「こんな時まで意地張って、声出さないつもりか」

意地をではなく、羞恥心が反射的にこうさせているのだと答えたい。

だが、この状況ではがうまく口がまわらず、何も言えなかった。





「・・・まあ、そんな意地だけじゃ耐えられなくなる程与えてやるよ。

あんたの知り得ない感覚を・・・」

ネズミは不敵に笑い、の肌を外気にさらした。

はっとして、は息を呑む。

もう、緊張のあまりほとんど身動きがとれない。



ネズミは、以前のようにの胸の中心に手を当て、その音を確かめる。

それは、自分の行為で相手が確かに感じている事を、確認したがっているように見えた。

手はそのままに、ネズミはのベルトを器用に片手で外す。

の心音はさらに高鳴り、緊張感が増す。

そいて、ネズミは心臓から手をどけて、のズボンを取り払った。





「あ、あの、ネズミ」

緊張のさなか、は声を振り絞る。

「こ、これからする事は、何となくわかるけど・・・その、僕の・・・・・・

女の部分には、触れないで・・・ほしい」

はたまらなく恥ずかしくなって、視線を逸らす。

自分に女の部分がある事は変えようのない事実だが、それを認めたくない自分がいた。



「わかってる。あんたは高貴なナイトだ、それに相応しい扱いをする」

「そ、そうか」

は一言しか言えなかったが、ネズミが自分の心情を察してくれていたことが嬉しかった。

気が緩んだその隙に、ネズミはの下着をずらす。

一瞬、息が止まるほど緊張したけれど、ネズミを突き飛ばすことはしなかった。

もう、ネズミを直視することができない。

その視界の隅で、ネズミも服を脱いでいるのが見えた。

細身でも、しっかりとした体つきを見ると、どぎまぎしてしまう。

それは、ネズミのことを意識していることなのかもしれなかった。



完全に服を脱ぎ終わると、ネズミはゆっくりと腕を下げて行く。

そして、の女の部分には触れずに、その下方にある窪みに、そっと指をあてがう。

どんな感覚が襲ってくるのかと、は覚悟する。

その指は、ゆっくりと窪みの中へ埋められていった。



「あっ・・・んっ・・・・」

感じた事のない感覚と、わずかな痛みが、体に走る。

思わず声が出てしまい、すぐに口を閉じた。

ネズミは一瞬動きを止め、中へと進めて行く。

自分の中へ触れられ、さらに感覚が増す。

は、唇を噛んで声を抑えていた。

その抑制を外すよう、ネズミはもう一本指を中へ埋める。



「あ、ぅ・・・っ」

刺激が強まると反射的に口が開き、変な声が出てしまう。

、痛むか?」

「・・・いや、平気だ。・・・別に、気を遣う必要なんて・・・!?あっ・・・」

返答のタイミングで、ネズミはさらに指をの中へ進めて行く。

そのせいで、の口からはとうとう甘い声が発された。



「ネズ・・・あ・・・っ・・・んん・・・」

一旦発された声は、もう抑えられない。

指がわずかに動くだけで、今まで抑制されていた声が次々と発されてしまう。

その声を発させている感覚に、はだんだん抗えなくなってきているのを感じていた。





やがて、指が引き抜かれる。

すでにの息は荒く、体に力が入らなくなってきていた。

「次は・・・だいぶ痛いぞ。耐えられなかったら言え」

「あ・・・ああ」

正直、どんな痛みが襲ってくるのか予想もつかない。

が再び覚悟した瞬間、指とは明らかに違う物が、敏感な部分にあてがわれる。

それは、慎重に、の中へ入っていった。



「あっ・・・うう・・・くっ・・・」

指とは比べ物にならないほどの激しい痛みに、はシーツを思い切り握り締める。

息はさらに荒くなり、心音はこれ以上にないくらい早くなった。

目も強く閉じられ、ネズミを見る事さえできない。

が必死に耐えている様子を見たネズミは、一旦埋めていた物を引き抜いた。



「・・・辛いか?・・・いや、辛いに決まってるよな・・・」

は、薄らと目を開いてネズミを見る。

気のせいだろうか、ネズミが一瞬、悲しそうな表情を見せたのは。

葛藤しているのだろうか。

このまま行為を進めたいという思いと、苦しませたくないという思いが均衡しているのかもしれない。

気遣いはいらないと言ったのに、何だかんだでネズミは優しい。

ここまで来てしまったら、無理にでも好意を進めようとしてもおかしくはないのに。





は少し考えた後、ネズミの背にそっと片手をまわす。

「君も・・・耐えることなんて、ない・・・・・・僕に、そんなに構うな・・・

余計な気遣いをされるのは・・・僕のプライドが、許さない・・・・」

荒い息はそのままに、途切れ途切れに告げる。

羞恥心やプライドなんて、今はどこかへ消え失せてしまっていた。



「もう、途中で止められなくなってもいいのか」

「いいって言ってるだろ。するならするで、早く・・・」

それ以上、言葉は続かない。

自分から求める言葉を言うのは、さっきの甘い声より恥ずかしかった。



「ぶっきらぼうな言葉だが、あんたに求められるなんてな・・・」

ネズミは頬を緩め、微笑する。

の腕が背にまわった時、高揚感を覚えて仕方がなくなる。

ネズミは再び自身をにあてがい、先端を埋めていった。

「あっ・・・ぅ・・・っ、あ・・・・」

先程ではないが、強い痛みがの下腹部を襲う。

整いつつあった息はとたんに荒くなり、目を開ける事ができなくなる。

思わずネズミの背に爪を立ててしまいそうになったので、は腕を解く。

その様子を見たネズミはの腕を掴み、両方とも自分の背にまわすように促した。





「あんたも、変な気遣いなんてするな。・・・好きなように、感じていればいい」

「う、ん・・・」

は素直に頷き、ネズミの背を抱く。

ネズミも抑制がきかなくなり、の中に入っている己を進めていった。



「ああ・・・っ・・・」

じわじわと、自分の中が侵されていく。

少しでも進んでくると、声を抑えている余裕なんてなくなっていた。

体の中が反射的に収縮し、ネズミを締め付ける。

同時に、痛みと共に与えられる感覚に身を任せ、背に遠慮なく爪を立てた。



「っ・・・それでいい。耐えることなんて・・・ない」

ネズミもだんだん余裕がなくなってきているのか、言葉の合間に吐息が漏れる。

痛いだろうななどとは考えられず、は本能的にネズミにしがみつく。

お互いに余裕がなくなってきているのを察したネズミは、さらに自身を進めた。

「ああっ・・・は、ぁっ・・・」

お互いの下腹部が触れ合い、はいっそう甘い声をあげる。

それは、ネズミが最奥まで進んできたことを示していた。



「っ、・・・」

滅多に聞く事のできない優しい声で囁かれ、はネズミと視線を合わせる。

その表情は声と同じく、穏やかなものだった。

もうほとんど余裕がないはずなのに、安心させるような顔をする。

それはずっと痛みに耐えている相手への、せめてもの労わりだった。

ネズミの背を抱く腕が、わずかに緩む。

それを見計らったかのように、動きを止めていた中の物が動き出した。



「あ・・・っ・・・あぁっ・・・」

最奥まで通じていた内部をさらに侵され、また爪先に力が込められる。

傷付けないよう、ネズミはゆっくりと前後に自らを動かす。

往復運動をされると、の体が激しく反応し、動作を抑えようと締め付ける。

そのたびにネズミのものを鮮明に感じてしまい、余計なことを考える余裕はなくなった。

ただ、ネズミにしがみついて、せり上がってくるものに耐えようとする。





「あんたに、快楽を教えてやる・・・」

「あ、ぁ・・・ネズミ・・・っ・・・」

はほとんど無意識の内に、ネズミの名を呼ぶ。

今の自分は、ネズミのことを求めてやまないのだと、実感した。

以前、誰が求めてやるものかと暴言をはいてしまったが、もう撤回せざるを得ない。

強い羞恥心やプライドも、この感覚の前では消え失せていた。



・・・聞きたい、あんたの、抑制が外れた声を・・・っ」

その言葉と共に、ネズミはの最奥を突き上げる。

ただでさえ強い感覚は一層増し、それに耐える術を持っていなかった。

逆らえない波が、全身を襲う。

「はぁ・・・っ・・・あぁ、んっ・・・ああ・・・!」

これまで以上に上ずった声で喘ぎ、は達した。

意識が一瞬遠くなった瞬間、下肢だけは激しく収縮し、ネズミのものを圧迫する。



・・・っ・・・!」

声を抑えつつも、ほぼ同時にネズミも達した。

身を急に引き抜くことはできず、溜まった欲が中へと流れ込む。

生暖かく、粘液質な感触には身震いしたけれど、体は液を全て受け入れていた。









収縮がおさまると、ネズミは慎重に身を引いて行く。

自分の中の異物感がなくなると、は全身の力を抜いた。

脱力したのはネズミも同じで、荒い息を残しつつの隣に寝転がる。

まだ余韻が残っていて、は肩で息をしていた。

ぼんやりと天井を見上げたままのを、ネズミはやんわりと抱きしめる。

お互いの体温は先の行為で上昇していて、触れ合う肌が温かかった。



目を閉じればそのまま眠ってしまいそうな、そんな安心を感じて

はとうとう最後まで、ネズミを拒む事はなかった。

羞恥心以上に、ネズミを遠ざける事はしたくないと、そう思っていた。

そして、今こうして抱きしめられている事に安心感を覚えている。

感じているのは、それだけではない。

初めて人に愛されたという幸せを、ひしひしと感じている。

その時、は自分にはありえないと思っていた感情が生まれていて

その感情を表す言葉は、一つしか見つからなかった。



は自らネズミの背に両手をまわし、抱きしめ返す。

そして、生涯誰かに伝える事はないと思っていた言葉を、俯きがちにネズミに告げた。



「・・・・・・・・・・・・・・・愛してる」

それはとても小さな声だったが、ネズミの耳にははっきりと届いた。

「まさか・・・あんたから言ってくれるなんて、思わなかった」

は言葉を告げたものの、とてもネズミを直視できずに俯き続ける。

ネズミは俯いているの頬に手をあてて、上を向かせた。



「おれも・・・・・・あんたを、愛してる」

その言葉に、の頬はすぐに紅潮する。

見られたくなくて、思わずネズミの手を払って再び俯く。

すでに息は整っていたが、早い心音だけはどうしてもおさまらなかった。



親からさえも与えられる事のなかったこの感情を、ネズミから与えられるとは夢にも思っていなかった。

女性にも負けないくらい優美な物言いや動作をする彼に、前々から惹かれていたのは確かだ。

だが、その想いを自分にはありえないものだとして、抑えつけていた。

自分はそんな感情を抱いてはいけないと、ずっと前から決めつけていた。



でも、彼はそんな相手を愛してくれた

そういった感情を持っていいんだと言ってくれているようで

強い感情を表す言葉を、抑えることができなかった。

そして、もう以前のようにネズミと離れたくはないと、そう思った。





はもう一度ネズミの背に両手をまわし、目を閉じる。

胸の内は、表面上の温度だけではない、もっと温かなもので満ち溢れていた。









―後書き―

読んでいただきありがとうございました!

これにてネズミ編は終了です。

こういうシーンのボキャブラリーは少ない管理人ですので、同じような表現でもなにとぞご了承をorz

これで一応完結したわけですが、また衝動的にネタを思いついたらたまに増えるかもしれません。