NO.6 番外ネズミ編#4(修正ver)



―不明瞭なこの感情―



家に帰ってきてから、はずっと緊張していた

一応夕食は取ったが、とても食べた気がしなかった

そして、ベッドの上にじっと座ってネズミを待っていた



そんな状態のさなか、とうとう玄関の扉を叩く音が聞こえた

は覚悟を決めて扉を開け、訪れた人物を確認するとすぐにきびすを返して元の場所に座った



「かなり緊張してるみたいだな」

隣に座ったネズミが意地悪そうに口端を上げた

この極度の緊張をあまり悟られたくはなかったが、勘の鋭い彼にはごまかしようがなかった



「仕方無いだろ・・・。・・・するなら、さっさとすればいい」

できれば、早くこの緊張感から解放されたかった



「本当に、いいんだな」

止めるならこれが最後のチャンスだと言いたいのだろう

だが一度決めて覚悟した事を簡単にくつがえしたくはなかったので、その問いに答えるようにネズミと視線を合わせた

ネズミもそれを察したのか、の肩を抱き寄せ、ゆっくりと口付けた



「・・・ん・・・っ」

重なった唇から、すぐに柔らかい物が入ってこようとする

だがは緊張のあまりがっちりと口を閉じていたので、それは壁にはばまれた

するとネズミは一旦離れ、緊張をほぐすかのようにその唇をゆっくりと舐めた

それはわずかな隙間にも入り込み、丹念になぞっていく



「ぅ・・・」

思わず、小さな声が漏れる

その隙を、ネズミは見逃さなかった

一瞬開いた隙間から素早く己の舌を滑り込ませ、中の物を絡め取った



「ぁ・・・ぅ・・・」

声が漏れると、お互いが絡む水音も聞こえてくる

その音が何とも淫猥に聞こえ、の頬はみるみるうちに紅潮していった

それに伴い、強張っていた肩の力がだんだんと抜けてゆく

それを見計らいネズミが体重をかけると、はあっけなく後ろに倒れた

体から力が抜けているせいかもしれないが、抵抗する気がおきなかった



ネズミはじっとを見て、しばしの間制止した

もじっと視線を合わせていると、ネズミは再びに口付けた

深く、そして性急にを求めて、激しく舌が絡まる



「は・・・っ・・・・ぁ」

の体からはますます力が抜け、与えられる感覚に手が震えそうになる

そうして相手を求めながら、ネズミはの上着を脱がしていった

自分の上着が、そしてシャツが脱がされているとわかっていても、手は震えを抑える事に必死で動こうとしなかった



丁度シャツが脱がされたと同時に、唇が離された

ネズミはそこに伝った糸を軽く舐めとると、再び静止した

そして少し間を開けた後、ネズミは露わになったの肌をすっと撫でた

の体はわずかに跳ねたが、その手を退けようとは思わなかった

その手はなだらかな動作で動き、指先が軽く肌の突起に触れた



「っ・・・」

指先がそこに触れると、の体がまたわずかに跳ねる

その部位を中心に撫でるように愛撫すると、はか細い声を漏らした



「ぁ・・・っ・・・・・」

もう自分は羞恥心で一杯になっているはずなのに、彼を拒もうとしない

ただ、彼に与えられている感覚に逆らえず、されるがままになっている

こんな事、羞恥心だけではなくプライドだって許さないはずなのに

なぜ、その手を払いのけようとしないのか、にはまだわからなかった





ネズミはそこから手を退けると、のベルトを外しにかかった

とうとう絶対に他人には見せるまいと思っていた個所までもが露わになる時が来ようとしている

だが、それでもは身動き一つせずに事が進むのを待っていた





ベルトが外され、ズボンが下ろされる

そこで、ネズミはまた静止した

性急にを求める行動があると思えば、何回もこうして静止する時がある

それは、抵抗する間も与えないような激しさを持ち合わせていながら、抵抗する機会を与えているような、奇妙な光景だった

その奇妙な行動は、へのネズミなりの気遣いかもしれなかった



「ネズミ・・・」

制止している人物に向かって、一言声をかける

は緊張のさなか、その名前を呼んだ

抵抗や怯えは含まれていない、身を任せる事を覚悟して発した声

そこから先の言葉はもうなかったが、ネズミはふっと一瞬笑みを浮かべ、を保護する物を全て取り払った

そして自らも服を脱ぎ、の髪を一撫でした

まるでこれから先の行為への緊張と不安を取り去るような、優しげな手つきだった



もうネズミが静止する事はなく、指がの下腹部にある敏感な部分に触れた

瞬間的に心臓が跳ねる

言わずともわかる、ここからの行為には心構えをした

ネズミがそこから指を進め、中に埋めていく



「う・・・ぁ・・・っ」

とたんに感じた異物感とさっき以上の感覚に、は声が抑えられなかった

入ってきた物に、そこが反射的に抵抗しようとしているのがわかる

中の物が進んでくると抵抗は強くなり、それがいっそう感覚を大きくした



「はっ・・・あぁ・・・」

休む暇などなく指が一本増やされ、同様に奥へ入ってゆく

それが少し曲げられるだけで、手の震えを抑えられなくなる

は少しでも震えを抑えようと、シーツを強く握った

そこへさらに指が増やされ、与えられる感覚に耐えられず体が跳ねる

指が限界まで進むと、ゆっくりと中で動き始めた



「・・・あぁ・・・っ・・・ん・・・ぅ」

とても、声が抑えきれない

こんな甘い声を出してしまう自分に羞恥心を感じていても、それを抑えるまでには至らなかった

指はそこを解し、慣らすように少しずつ動きを増やしていく

液体が絡み合う音が聞こえてきた頃、ネズミは指を引き抜いた





「・・・は・・・・」

は荒くなりつつある息を吐き出し、肩を下ろした

そうして一呼吸置いた後、指が入っていた個所にネズミの物があてられた

は息を整え、知らず知らずの内に入っていた力を抜いた





「・・・耐えられなかったら、突き飛ばせ」

静かにそう言い、ネズミは自信をの中へ進めた



「・・・あ・・・っ・・・う・・・・・・ぁ・・・っ・・・あ」

比べ物にならないくらいの強い感覚、そして痛みが体を襲う

その両方に耐えうるべくまた自然と力が入り、喉の奥から声が発される

息はとたんに荒くなり、肩が上下する

それに伴い心音も早くなり、体が熱くなる



痛みで、こんなにも声を上げた事はなかった

打撲や切り傷、その他のどの痛みとも違う物に声が上がる

それを抑えられない自分を情けないと思ったが、どうしようもなかった

ただ反射的に自分から発される声を聞き届けるしかなかった





表情を歪ませたを見て、ネズミは一旦身を引こうとした

はそんなネズミの腕をとっさに掴んで引き止めた

このままでは耐えられないだろうなんて、気を遣われたくはなかった



はネズミと視線を合わせ、掴んでいる腕を引いた

自分から相手を求めるような、そんな台詞は吐けやしない

だけどこうして引き止める事はできる、自分のプライドと、もう一つ、はっきりとはわからない何かの為に

突き飛ばせなんて言われはしたが、むしろこうして彼を引き止めている自分が不思議だった



ネズミは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに妖艶な眼差しでを見た

前と同じだ、その目で見られるともう何もできなくなる

ネズミは自分の腕を掴んでいる腕を、自分の背にまわすように誘導した

同じくもう片方の手も誘導すると、はまわした腕に軽く力を込めた

それを合図にしたかのように、ネズミがゆっくりと中へ進んでくる



「はぁ・・・っ・・・ん・・・あ・・・ぁ・・・っ」

まだ少ししか動いていないのに、次々と甘い声が発されてしまう

これ以上の恥はないはずなのに、ネズミの背にまわした腕はもっと相手を引き寄せようと力がこもる



少しずつ、ゆっくりとネズミは進んでくる

そのたびに与えられる、逆らえないこの感覚

それは、すでに羞恥心やプライドなんて掻き消してしまっていた

お互いの下腹部が触れ合うと、ネズミは動きを止め、の頬を撫でた



・・・」

ネズミのその声も、頬を撫でる手も、とても優しかった

はなぜか、自然と頬がわずかに緩むのを感じた

こんな状況で微笑む余裕なんてなかったのに、無意識の内に頬を緩ませていた

僕は彼に声をかけられる事に、触れられる事に、幸福感を覚えているのかもしれなかった

そして添えられた手はそのままに、止まっていた物が動き始めた



「あぁっ・・・・・・んっ・・・ぁっ・・・あ・・・」

中の物は後退し、また進んでくる

それを繰り返されるともう声だけでは耐えられなくなり、まわしている腕に思い切り力が込められた

どうしても爪があたってしまい、痛いだろうなと薄々思っていても、今の自分には相手を気遣う余裕がなかった



「・・・は・・・あっ・・・ぅ・・・あ・・・っ」

絶え間なく与え続けられる感覚は、何かを解放しろと言うかのように働きかけてくる

それがだんだん、抑えきれなくなっていくのがわかる

それはネズミも同じなのか、中の物の動きは早くなってきている

粘液の絡む、淫猥な音が絶えず耳に届く

今ではその音でさえ、抑えていた物を解放させる手助けとなっていた



「っ・・・は・・・ぁ・・・ネズミっ・・・」

自然と甘い声に混じり、相手を求める声が発される

以前に、彼を拒まない保証は無いと思っていた事が嘘のような言葉だった

迷っていた時とは間逆の想いが、彼に向けられている

はここまできてやっと、その想いが何なのかわかりかけていた



・・・っ・・・」

ネズミからも同じような、相手を求める言葉が発される

そして、中の物がの最奥を突いた



「ああっ・・・ぁ・・・あっ・・・」

もう、耐えられそうになかった

ひときわ強い感覚が、体を走る



「は・・・あっ・・・ああぁ・・・っ・・・は・・・あぁっ―――!」

声を発する事に、ためらってなどいられなかった

はいっそう甘く荒い声を上げ、達した



「っ・・・・・・あ・・・っ―――」

声を抑えつつネズミも達し、の中から己の物を引き抜いた

そして抑えきれない物が解放され、白色の液体がその場を濡らした









―明確なこの感情―



お互いは脱力感を覚え、息を整えつつ寝転がった

ついに、僕は最後まで彼を拒まなかった

そして、彼も僕を拒まなかった

これはもう以前に言っていた通り、お互いが想い合っている証拠かもしれない



いや、かもしれないではなく、そうなんだろうなと思う

実際、前々から彼に触れられる事は嫌じゃなかった

自分から触れる事ができない僕に、彼から触れてくれる事をいつの間にか好ましくも思っていた

もうこれ以上自問自答せずとも、答えは出ている

僕は、彼の事を――――





ここから先は、言葉にして伝えようと思った

この言葉を、彼に受け入れてほしかった



「ネズミ・・・疲れてるだろうけど、聞いてほしい事がある」

仰向けになっていたネズミはのほうに向きなおり、視線を合わせた

こうして改まって言おうとすると、今更だが妙に緊張してしまうのが不思議だった



「僕は・・・・・・君の事を・・・」

その先の、もう一言が出てこない

言葉も急に途切れがちになり、ためらってしまう

たった五文字の言葉を伝えるだけでこんなにも緊張してしまうのは、初めてだった

そのままがためらっていると、ネズミが口を開いた



「あんた、濡れてて気持ち悪いだろ?眠る前に、シャワーでも浴びてきな」

さっきまではそんな事気にする余裕がなかったが落ち着きつつある今、確かに下腹部に湿り気を感じ、結構な違和感があった



「そう・・・だな。そうした方が、よさそうだ」

は言葉を告げられなかった自分を情けなく思いつつも、風呂場へ向かった









行為が終わって気が落ち着きつつあったので、風呂場はとても寒く感じられた

シャワーの水を少し熱めになるよう調節し、ノズルを壁にひっかけて頭からお湯をかぶった

今日言ってしまわなければ、自分の性格からしてもう告げられないかもしれない

だが、言い慣れていない甘い言葉に、どうしても躊躇してしまう

自分はそんな言葉を発する資格なんて一生ないと、そう決めつけていたからかもしれない





僕を想ってくれる人なんていないと、覚悟していた

僕は今、戸惑っている

本当に僕を想ってくれる存在と出会い、その証となる行為もした

生涯、決して向けられる事はないと思っていた好意を目の当たりにし、嬉しくとも動揺している

言葉を告げるのは、もっと気持ちが落ち着くまで待つべきかもしれない





そんな事を考えていた時、背後の扉が開いた

ネズミが寒さに耐えかねて入ってきたんだろうと思い、特に咎めなかった

それならシャワーを貸そうとノズルに手を伸ばそうとした瞬間、背後から抱きすくめられた

そして、瞬時に耳元で言葉が囁かれた



「・・・おれは、あんたが愛情について聞きに来た時から、こうしたかった」

「えっ?」



「あのまま紫苑が来なかったら、おれはあんたを襲ってた」

「じゃあ、君は、もうあの時から・・・」

彼は、あの時から僕の事を想っていた?

それならなぜ、次の日にあんな提案をしたのだろうか・・・



その答えは、少し考えたらすぐに出た

あの提案は、羞恥心やプライドが強い僕の決断を促す為の物だったんだと

この行為をするにあたっての理由づけをさせ、そして期限を設けた事で決断させやすくした

まんまと彼の手の内で踊ってしまったような気はしたが、間違った判断をしたとは思っていない



あの時、紫苑が来るまで抵抗できなかったのは、少なからず僕自身も彼に好意を抱いていた証拠だった

そして、その想いを抑制する物が取り払われた時、僕は彼を求めていた

自分の中の不明瞭な感情がどういうものなのか、それを明確にするには十分だった





「おれが、あんな提案をしたのは・・・」

「いや、言わなくてもいい。・・・だいたい、わかってるつもりだ」

彼も僕と同じ、プライドが高い人間だ

自分が抱いている感情について、あまり明確に語りたくないと思うのは同じだろうと思った

それゆえ、彼が次に発した言葉は、僕が予想だにしていないものだった





「・・・・・・・・・」

ネズミ本人にも聞こえないほど小さく囁かれたその言葉は、にしか聞こえなかった

そして、落ち着きかけていた心音が再び高鳴って行くのを感じた



体の内側から、体温が上がって行くのがわかる

頭の中で、告げられた言葉が反復する

ノイズのようなシャワーの音なんてないものと同じように、脳内にその言葉だけが響いている

たった五文字のその言葉が、動揺と緊張、そして幸福感を僕に与えていた



気持ちが落ち着いてからなんて理由をつけて逃げていては駄目だ、今、言わなければ

僕は、彼の言葉に答えたい

自分の不明瞭な感情を明らかにしてくれた人物は、すぐ傍に居る

僕を想ってくれている存在の為に、その想いに答えたい



は軽く振り向き、そして告げた









「僕も・・・・・・君のことを―――――」









その言葉はネズミにだけ、届いていた











―後書き―

読んでいただきありがとうございました!

これにて何とか修正verは終了です

管理人の自己満足修正でサーセンorz

そしてそろそろ本気でボキャブラリーの限界がきましたよ

いろんなサイト様を見て、勉強しないとな・・・(何の勉強だ)