とあるネコの観察日記2


△月◎日
最近、ナーゴの体が薄汚れてきた。
連日ネズミを追いかけて、埃っぽい部屋にも入っているんだろう。
白い体毛が灰がかったままなのは不衛生極まりなかった。

「ナーゴ、お風呂に入ろうか」
『オフロ?』
「うん、最近汚れてきたから、洗ってあげるよ」
『アラウ』
猫と言えば、水を嫌う特徴があるけれど
特に嫌がる様子もなく、ナーゴは後をついてきた。


浴室に入り、浴槽の蓋を開け、並々と溜まったお湯を見せる。
それでもナーゴは怯まず、僕の後ろについていた。
ひとまずシャワーを出して、自分とナーゴの体にかける。
毛が濡れても、特に不快感を覚えている様子はなかった。

『ヌレタ』
「うん、そのほうが綺麗に洗えるからね」
ナーゴは単語しか発せないけれど、それだけでも満足感は大きい。
本当なら、今頃一人寂しく日常を過ごしていたはずだ。
次は、ボディーソープを泡立ててナーゴを洗う。
指先で優しく洗うと、案外気持ち良いのか、ナーゴは喉を鳴らしていた。

もこもことした泡が全身を包んだところを、シャワーで流す。
汚れはたいしたことなかったようで、ナーゴはあっという間に綺麗になった。
ついでに、僕も簡単に体を洗う。
その後は、ナーゴを持ち上げて一緒に浴槽に浸かった。
子猫のままだと溺れてしまうので、ナーゴは細長い体になる。
そのまま抱きつかれ、触手がまとわりついた。

お湯の中だと、体毛がいっそうふわふわとして触り心地がいい。
頭をそっと撫でると、ナーゴは体を伸ばし、また唇を舐めてきた。
『スキ・・・』
「うん、僕もナーゴのことが好きだよ」
迷わず応えると、ナーゴは嬉しそうに触手をうねうねと動かす。
喜んでくれるのはいいけれど、この体勢であまり動かれると困る。
下肢が擦れてしまって、整理現象が発動しそうになってしまうから。


『・・・ホシイ』
「ん?何が欲しいんだ?」
そう問いかけると、ナーゴは口元に触手を伸ばしてくる。
柔らかな手で唇を触られるのがくすぐったくて、くすりと笑う。
そうして口が弛んだとき、その触手が中へ入り込んできた。

「ん・・・っ」
触手が、舌へ触れる。
思わず噛み付きそうになったが、それ以上奥へは進んでこなかったので好きにさせた。
柔らかいもの同士、感触を楽しむよう舌が撫でられる。
すると、だんだんと唾液がなくなり、口が乾いてきた。
液体が、吸収されているのだろうか。
触手は、まだ足りないと言いたげに口内に触れていく。

「は・・・ふ」
口の中を撫でられるなんて初めてで、変な気分になる。
完全に水分がなくなると空咳が出て、ナーゴはさっと手を引っ込めた。
「ごめん、ちょっと水分補給したい」
そう言うと、ナーゴは素直に触手を解く。
乾いたのは表面だけなので、水で口をすすいだら楽になった。


「ナーゴも喉が渇いてるんなら、もう出・・・」
振り返ると、目と鼻の先にナーゴの顔があって、ぎょっとする。
『モット、ホシイ』
逃がしたくないと言うように、また触手を全身に絡めてくる。
同じように口元をくすぐられるかと思ったけれど、触られたのはもっと下の方だった。
下半身の、太股の付け根の、中心に、ナーゴが巻き付く。

「こ、こら・・・っ」
すりすりと、柔らかい触手が下半身を擦る。
執拗に撫でられると、体が反射的に反応してしまう。
飼い猫に欲情するなんて、とんでもないことだ。
わかっていても、下肢に巻き付かれると、もう駄目だった。

「あ、あ・・・ナーゴ・・・っ」
熱くて、固くなったものが起立する。
欲しいと言っているものが何なのか、もうわかりきってしまった。
それを放出させるために、ナーゴは触手を巧みにうごめかせる。
ナーゴがうぞうぞと動くたびに、僕は熱っぽい息をついていた。

『ホシイ・・・』
ナーゴは触手をひときわ細くし、起立したものの先端にあてがう。
まさかと思ったとき、細長い触手が中へと入れられた。
「あぁ・・・っ!」
今までよりも強い感覚が全身に走り、思わず高い声が上がる。
傷つけないようゆっくりと、徐々に触手が奥へと進む。

「あ、ぅ、ぁ、だめ」
自分の体の中を侵されて、喘がずにいられなくなる。
拒否する言葉を発しても、ナーゴは触手を抜こうとはしない。
まるで、心の奥底にある本能が読み取られているようだ。
この強い感覚に、支配されてしまいたいという願望を。


ゆっくりと、少しずつ細いものが埋められていく。
僅でも触手が動くと、体が震えて快感に反応してしまう。
どこまで、暴かれてしまうんだろうか。
少し怖くなったとき、一旦触手が引かれた。
もう抜いてくれるのかと思ったけれど、ぎりぎりのところで止まる。
そして、細いものは再び奥へと入り込んできた。

「あ、あ・・・っ!」
競り上がってきた悦の感覚に、声が抑えられない。
中へ進んできたかと思うと身を引き、また入ってくる。
繰り返される上下運動に、僕は息を荒くして喘いでいた。

「も、う、やっ・・・」
本当に限界が近付き、ナーゴの手を掴む。
けれど、ナーゴは懐かしいダミ声で鳴いただけで、動きを止めようとはしなかった。
自分の中を往復されるたびに、体が震え、高い声を発してしまう。
そうして、何度も奥を刺激された後
ふいに、とうとう堪えきれなくなって、全身が悦楽に襲われた。

「や、うぁ、あぁぁ・・・っ!」
今まで以上に体が強く反応し、欲望が溢れ出す。
触手が入っているところから白濁が漏れたが、それはすぐナーゴに吸収された。
触手が液体を呑み込むよう、ぼこぼことおうとつができる。
僕は息も絶え絶えに、自分の精が吸収されていく様子を見ていた。

行為が終わっても、まだ触手が抜かれない。
そろそろ浴室から出たいと訴えようとしたとき、触手がどくんと脈打つ。
そして、自分の中に、何かが注がれていた。

「あ・・・ぁ・・・」
生暖かいものが流れ込み、淫猥な感覚がして目が虚ろになる。
脈動がおさまると、やっと触手が引き抜かれた。
液体はよほど奥まで注がれたのか、もう出てこない。
もしかしたら、これはナーゴの精なのかもしれなかったけれど
ここまで来たら、何ら嫌悪感はなかった。




△月@日
ナーゴはみるみるうちに成長してゆき、とうとう僕と同じ背丈にまでなった。
この状態で抱き付かれると、もう抵抗できなくなる。
成長して、ナーゴは発情期が来たのだろうか。
今夜も、僕はナーゴに求められていた。

発情すると、必ず一緒に入浴したがる。
服を脱がす手間がないし、体も洗えるから楽なんだろう。
『ホシイ・・・』
「ん・・・いいよ」
僕が壁にもたれて座ると、いつものように触手を絡めてきて、体をぴったりと密着させてくる。
そして、触手は早々に後ろの窪みへと伸びていった。
細い触手は、するりと中へと入り込む。

「ああ・・・っ・・・」
何回されても、自分の中を暴かれる感覚には慣れない。
触手は遠慮なく奥へと進んでゆき、強張りを解していく。
抵抗しようと、体は反射的に縮こまるけれど、とうてい動きを止めることはできなかった。
むしろ、収縮すると触手の存在感をはっきりと感じてしまって、気が落ち着かなくなる。
滑らかな動作に窪まりが緩んでゆくと、二本目の触手が入り込む。

「あ、う・・・んん・・・」
背筋がぞくぞくとして、快感に打ちひしがれる。
もはや、この体は自分の中でうごめくものを完全に受け入れていた。
触手自体は細くても、何本も入られると感覚が増していく。
少しでも動くと、体は敏感に反応し、震えた。

こうなっては、前のものの反応もごまかせない。
それが起立しているのを見ると、ナーゴはポニーテールのような触手を伸ばす。
そして、固くなったものが包み込まれた。

「ああ・・・!」
全体が柔い感触に包み込まれ、高い声が上がる。
前も後ろも、刺激を感じる個所へ両方とも触れられ、悦楽に抗えない。
ナーゴは早く液が欲しいと言わんばかりに、上下に動いて前のものを擦る。
同時に、後ろの触手を奥まで進め、狭い場所をさらに解していった。


「あ、あ、ナーゴ・・・っ、早いよ・・・!」
いつになく性急に求められて、どんどん欲が募っていく。
胸の内の焦りが、読み取られているのかもしれない。
渇望して、たまらなくなって、同調するように触手が脈打つ。
一時も止まることのなく擦られ続けたものは、限界だった。
そして、触手は精を搾り取るように、包み込んでいるものを吸い上げた。

「あ、う、ぅ・・・あぁ・・・っ!」
白濁が解放されたのを感じたけれど、それは一滴たりとも零れない。
触手が脈打ち、全て飲み込まれ、搾精されてゆく。
窪まりが激しく収縮し、相手を締め付けても、ナーゴは声すら上げなかった。
強い快楽に、びくびくと体が震える。
触手が動きを止めていると、やがてほとぼりがおさまってきた。
後ろが締め付けなくなると、そこへ、白濁にも似た粘液質な液が注がれる。

「う・・・あ、ぁ・・・」
卑猥な質感が、体の奥へと注入される。
気持ちのいい感覚ではなかったけれど、体はそれを受け入れたがっていた。
液はなかなか止まらず、とめどなく注ぎ込まれていく。
まるで、自分の存在感を残したがっているようだった。

「も、う、入ら、ないよ・・・」
腹部に違和感を覚え、息も絶え絶えに訴える。
そこでちょうど液がおさまり、触手はゆっくりと身を引いた。
とたんに、どろりとした感触が中から出てきて、身震いする。
少しだけ指ですくってみると、自分の白濁と同じように濁っていて、粘り気があった。


前を包んでいたものも外され、体が楽になる。
ナーゴは、まだ濡れたままの触手を舐めていた。
「・・・ナーゴも、わかってるのか?・・・もうすぐ、母さん達が帰って来るってこと・・・」
ナーゴは動きを止め、じっと見つめて来る。
わかっているから、行為が性急になっていたのだろう。

「母さんが帰ってきたら・・・きっと、もう一緒にはいられない。
猫アレルギーは、どうしようもないから・・・」
『イッショ、イラレナイ・・・』
悲しんでくれているのか、声が弱弱しい。

「ごめん・・・無責任なこと言って。許されるなら、ずっと一緒に居たい」
『ホントニ?』
期待するように、ナーゴがずいと身を乗り出してくる。
「うん、ほんとだよ」

『ハナレタクナイ?』
すぐに頷けるはずなのに、なぜか答えが止まる。
まるで、本能が危険を察知しているようだ。
けれど、行為の余韻が残ってぼんやりとした頭では、抑制が続かなかった。


「うん・・・ナーゴと、離れたくない」
そう言ったとたん、ナーゴが大きく震える。
そして、また姿が変化していた。
体が伸びて天井につきそうになり、体の中心には真っ黒な空洞が空く。
まるでブラックホールのような穴を、僕は茫然と見上げていた。

『イッショニ、ナロ・・・』
ナーゴが、無数の触手を伸ばしてくる。
少しずつ空洞が近づいてきて、視界が黒く染まってゆく。
逃れなければならない、けれど体が動かない。
もう、僕はナーゴに愛着を持ちすぎていた。
一緒に居続けられるのなら、取り込まれてもいいと。

「ナーゴ、僕・・・」
言葉の途中で、ナーゴがダミ声で鳴く。
それが、僕が聞いた最後の音だった。




×月×日
今日、会社帰りに真っ赤な箱を見つけた。
危険物でも入っているのだろうかと思うくらい、物騒な色だったけれど
好奇心に負けて、恐る恐る覗いてみる。
そこには、物騒な外観には似合わない、子猫が入っていた。

子猫は、誰かを待ち焦がれていたかのように上を見上げ、視線を合わせる。
そして、何とも奇妙なダミ声で鳴いた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
原作が一応ホラーゲーム、ということで、バッドエンド風味にしてみました。無限ループって怖くね?
衝動的に思いついたものなので2話で終了です。いかがわしくできてよかったです←