進撃の巨人11





調査もない非番の日、エレンはリヴァイに呼び出されていた。

自分の処遇のことで何かあったのかと、エレンは緊張していたが、その内容は予想外のものだった。

「お前は、と仲が良かったな」

「は、はい」

「恐らく、はお前を求めるようになる」

求める、という意味をはかりかねて、エレンは呆ける。



「えっと、求めるって・・・」

「お前に欲情するかもしれねえってことだ」

「よくじょ・・・え」

素っ頓狂な声を発したエレンを、リヴァイは冷ややかな目で見ていた。



「そのときは受け入れてやれ。減るもんじゃねえ、殺戮衝動の解消のためだ」

「あ、わ、わかり、ました」

話はそれで終り、部屋を追いやられる。

そのとき、ちょうどとはち合わせた。



「リ、

「どうしたの兵長さんに何か言われた」

顔色を伺うように、はエレンを上目づかいで見上げる。

さっきの話のせいか、エレンはそれだけでもどぎまぎした。



「い、いや、何でもない」

は、明らかに様子がおかしい相手を探る様に見ていたが。

特に危険はないと察したのか、エレンから離れた。

「まあ、いいや。兵長さんに何かされたら言ってね、せめて一撃だけでも加えてやるから」

エレンは、乾いた笑いで答える。

何かされたら言ってほしいのは、こっちの台詞だった。









リヴァイから忠告されてからというもの、夜の間中、エレンはいつがやって来るか気が気でならなかった。

果たして本当に来るのか、自分の所ではなくリヴァイの所へ行っているのではないか。

そんなことを想像すると、胸中にもどかしさが募っていた。

が日常的に接する態度に、何ら変化はない。

そこに異変が起こったのは、リヴァイの忠告が杞憂だったのではないかと思い始めていた頃だった。



「ね、エレン。今日は・・・一緒に寝ちゃダメかな、地下室で」

瞬間、エレンの鼓動が強くなる。

「あ、ああ、いいよ。冷えるから、体温めてから行かないとな」

必死に動揺を抑え、表情に出さないようにする。

それでも、はわずかな変化を察していた。



「・・・どうせなら、お風呂にも一緒に入ろう。時間ずらすから遅くなるけど」

「わ、わかった」

エレンの返事は、明らかにぎこちない。

その後、浴室に入った時もエレンの口数が少なく、いつもと調子が違った。

お互いの距離が、遠く感じられる。

は、そんなエレンを見て、何かを諦めたように溜息をついた。





会話がほとんどないまま、浴室を出る。

いよいよ地下室へ行こうとしたとき、がエレンの腕を引いて止めた。

「やっぱり、今日はいいや。エレン、様子おかしいし」

この後のことを覚悟していただけに、エレンは拍子抜けする。

は手を離し、背を向けた。



「兵長の所へ行くのか」

ぴたりと、の歩みが止まる。

はっきりと肯定はされなかったが、そうとしか考えられなかった。

エレンはとたんに距離を詰め、背後からを抱き締めていた。



「実は、兵長から言われてたんだ。を受け入れてやれって」

「よ、余計なことを・・・そんな命令、無理に聞く必要ないから」

は身をよじって、腕から逃れようとする。

だが、エレンは逆に力を込めてその身を抱き寄せた。



「オレ、緊張してて変だった。でも、どうでもいい相手ならこんなに動揺しない。。

兵長に言われたからじゃなくて、オレは・・・自分の意思で、を受け止めたい」

とたんに、の胸に温かいものが込み上げる。

それを言葉で表せなくて、そっと自分を包む腕を掴んだ。

「エレン、ありがと・・・」







二人は地下室へ行き、ベッドに座る。

「嫌になったら、突き飛ばしていいからね」

「言っただろこれは、オレの意思だって」

エレンは、安心させるように笑いかけた。

そこに嫌悪感が一切ないと感じ取り、は身を近付ける。

そうして、最後の確認をするようにじっと瞳を見詰めた後、おずおずと唇を重ねた。



こんなに積極的なことをするのは初めてで、尻込みしそうになる。

けれど、触れ合わせた箇所から伝わる温度が、躊躇いを失わせていた。

息をつくために、が離れる。

一度重ねただけで、吐息が温かみを帯びていた。

自分からしたことで羞恥が込み上げてきて、俯きがちにならずにはいられない。

その様子がいじらしくて、エレンはそっとの背に腕を回した。

躊躇しなくてもいいと、そう諭すように。



は、再びエレンを見詰める。

言葉を交わさずとも、お互いは通じ合っていた。

再び実を近付け、は小さく舌を出して同じ箇所へ触れる。

隙間を作ろうとする前に、エレンは自分から薄く口を開いた。

そこへ、柔らかなものが差し入れられる。

お互いは、口内のものをどちらからともなく触れ合わせた。





「ふ・・・」

自然と、鼻から抜けるような声が出る。

エレンは、の細い腰を引き寄せ、自らのものも相手の中へ進めていた。

立場が変わって怯んだのか、は舌を引っ込めようとする。

それを逃さないよう、エレンは深く口付け、絡ませ合った。



「は、ん・・・っ」

口の隙間から、温かな吐息が漏れる。

液が混じり会う音は、二人の気分を高揚させた。

エレンが唇を離し、伝う糸を舐め取る。

熱のせいか、の目は虚ろ気だった。

受け身のままではいけないと、はエレンの服を脱がすためボタンに手をかける。



「あ、自分でするからいいよ」

エレンは雰囲気も何もないことを言ったが、は手を離し、自分の服を脱ぎ始めた。



「・・・これも、兵長から教わったのか」

「ん・・・この後、いろいろ触られて、気分が変になって・・・あったかくなった」

は、恥ずかしそうに頷く。

それは、エレンにとって聞いていて気分が良くなるものではなかった。

触られただけなのなら、にはまだ知りえないことがある。

今度は、自分から先に教えたい。

エレンは、服を脱ぎ終わったの体を抱き寄せた。



「エレン・・・」

肌が触れ合い、心地良い温かさにうっとりとする。

「触られたって・・・こういうところもか」

エレンは、の背中を撫でるようにして手を移動させ、一番下にある隙間へ指を滑り込ませた。



「ひゃっ」

あらぬところを触られ、は驚く。

その指は奥へと進み、窪みへと添えられる。

そして、ゆっくりと中へ差し入れられていった。



「あ・・・」

思いがけない刺激に、とたんにの体が反応した。

誰かを受け入れたことなどない箇所が収縮し、指を圧迫する。

エレンは、傷付けないよう慎重に、さらに奥へ指を進めた。



「あ、ぁ・・・」

は、エレンの肩を掴んで体を震わせる。

もっと反応するところが見たくて、エレンは中を乱すように指を動かす。

内壁をわずかに擦るだけでも、は吐息を吐く。

だんだんと、その間隔は短く、荒くなっていった。





、どんな感じがする・・・?」

「へ、変な、感じ・・・」

触れられているのは後ろなのに、前にあるものも反応し始めている。

体が内側から熱くなり、欲が抑えきれなくなってゆく。

その欲を強くするよう、エレンは中へ埋める指を増やした。



「っ、んん・・・」

刺激が増え、必死に声を抑える。

声が聞きたくて、エレンは下半身を解すと同時に、のうなじに舌を触れさせようとする。

そのとき、首に小さな痕がついていることに気付いた。

それをつけたのは誰なのかは明白で、眉をひそめる。

エレンは、上書きするようにそこを舐め、自分も同じ様に痕をつけた。



「は、ん・・・」

首に与えられる感覚が、艶めかしいものに感じられる。

一言発するだけでも声が上ずってしまいそうで、は唇を噛みしめた。

だが、下肢への刺激はそんな抑制を外すように強くなってゆき。

強張っていた体は、少しずつ解されていった。

変化が表れたことに気付き、エレンが指を抜く。

は大きく息をつき、エレンにもたれかかった。





「エレン・・・あったかい・・・」

「・・・これから、もっと温かくなる」

エレンはそっとを寝かせて、自分の背に腕を回すよう誘導した。

何をするのか分からないまま、は身を委ねる。

そうしていると、ふいに、さっきまで触れられていた箇所に指とは違うものがあてがわれた。

エレンが腰を落とし、欲するままに自身を進めようとする。



「いっ・・・」

それがわずかに埋められた時、は感じたことのない痛みを覚えた。

身を裂かれるような鋭い痛みに、思わず手に力を込めそうになる。

けれど、エレンの背を傷付けてしまうので、ぎりぎりのところで耐えていた。

エレンは一旦身を引こうとしたが、それではまた同じ痛みを与えてしまうだけだ。

もはや自分も抑えが効かず、少しずつ身を落として行った。

さらに痛みを感じ、は顔をしかめる。



、遠慮せずにオレの背中にしがみついてくれ。何なら、硬化させてもいい」

痛みを与えずに行為を進めることはできない。

ならば、少しでも共有したい。

はそれでも躊躇っているのか、爪を立てようとはしなかった。

だが、自分の中へエレンが入ってくるのを感じると、どうしようもなくなってしまう。

わずかでも動かされると痛みだけではない刺激を感じ、反射的に背を掴んでいた。

エレンは痛みを顔に出さず、少しずつ自身を埋めて行く。

が収縮して、自分に加えられる圧迫感に、エレンの息も熱くなっていった。



「は、っ・・・エレン、熱い・・・」

エレンが自分の中に居ると思うと、気が昂る。

下腹部が収縮すると、その存在をはっきりと感じる。

お互いの体温が混じり合って、指先まで熱かった。





・・・」

エレンは、愛おしそうに相手の名を呼ぶ。

痛みに耐え、受け入れてくれていることが何よりも嬉しかった。

しばらく繋がり合っていたいと思うが、あまり負担は与えたくない。

エレンは、を達させるべく、もう一か所ある敏感な部分を掌で包み込んだ。



「あぁ、っ・・・」

やんわりと包まれるだけでも体が反応し、肩が跳ねる。

とたんに強い圧迫感を感じたエレンは、熱っぽい吐息をついた。

もっと刺激して、何もかもを忘れさせたい。

今だけは、自分との交わりだけを感じさせていたい。

エレンは掌での全体を愛撫し、指先で先端をなぞった。



「や、は、ぁ・・・おかしく、なる・・・」

「っ・・・おかしくなっていい、そんなが見たい・・・」

は息も絶え絶えに訴えるが、エレンの動きは止まらない。

淫猥な液と共に擦られるたびに、手に力が入るのを抑えられなかった。

爪を立てられ、エレンは流石に痛みを感じる。

けれど、自分がと繋がっているのだと思うと、悦楽に呑まれて気にならなくなった。

もはや理性は働かず、を荒々しく愛撫する。

感じやすいものの全てに触れられ、はもう耐えられなかった。



「エレン、エレン・・・っ、あ、あぁ・・・!」

全身が強張り、腕と、内壁がエレンを締め付ける。

、っ・・・あ・・・」

エレンが耐えきれなくなったのも、ほぼ同時だった。

身を引こうとしても、爪が食い込んでいてできない。

エレンの熱が、の中へ注がれる。

のものは、エレンの掌に散布されていた。









お互い、そのまま息を整える。

が少し落ち着いてきたところで、エレンは慎重に身を引いた。

まだ余韻が残る箇所が擦れて、は肩で息をする。

自分の中のものが引き抜かれると、エレンの背から腕を解いた。

よほど力を入れてしまったのか、爪には血がついている。



「ごめん、背中・・・」

「大丈夫、正直、あんまり気にしてる余裕なかった」

エレンが笑いかけると、は安心して頬を緩ませた。

表面上だけでなく、内側まで熱い。

ずっと求めていたのはこの温かさだと、そう感じた。

そして、ここまで行為を進められたのはリヴァイが教えてくれたからに違いなかった。



「エレン、ボク・・・最初は、ボクからしようと思ってたんだけど・・・驚いた」

「ああ、途中から、歯止めが効かなくなってた。・・・ひ、人の欲求って怖いな」

気が落ち着いてきて羞恥心が湧き上がって来たのか、エレンは焦る。

はくすりと笑い、傷に触れないようエレンをそっと抱きしめた。

肩に頭を乗せ、目を閉じる。

二人の間には、確固たる信頼感が生まれていた。









翌日、二人は思い切り寝坊した。

どんなに慌てても朝食の時間には間に合わず、は周囲を気にしながらこっそりと地下室を出る。

周りに誰もいなくてほっとしたのもつかの間、曲がり角を曲がったところで、はち合わせた。

「随分と呑気に朝を迎えたもんだな、よ。飯はとっくに終わったぞ」

「へ、兵長さん・・・」

叱責される事を覚悟して、身を固くする。

だが、リヴァイは違う事を耳元で囁いた。



「昨日、エレンとヤったのか」

その言葉の意味を読みとることができてしまって、の頬が一気に紅潮する。

「あ、あの、あ・・・」

口をパクパクとさせ、あからさまに動揺している様子は、質問を肯定しているのと同じだった。

案外と早く事を進めたことが意外だったのか、リヴァイは一時閉口する。

そして、から一歩身を引いた。



「なら、もう俺は必要ないなまた溜まったら、エレンに頼めばいい」

どこか投げやりな口調に、は目を丸くした。

当初の目的は、の力を利用しやすくするために集団に適応させ、友人を作らせることだった。

それが達成された今、自分の役目は終わった。

仕事が一つ片付いたのに、達成感はなかった。



「それって、もう、ボクに会わないってこと・・・」

の表情が不安げなものになるが、リヴァイは何も答えない。

そうだと言うべきだが、言葉を発することを拒んでいるかのように口が開かなかった。





「・・・ボクが、兵長さんの迷惑になるんなら、それでもいい。それならそうだって、はっきり言ってよ」

そう尋ねたが、本当は答えを聞くのが怖い。

肯定されたら傷付くことは間違いなかったが、ここでも返答はなく、リヴァイは閉口したままだった。

たまらず、が駆け寄る。



「そうじゃないんなら、どうか遠ざけないでエレンがいるからそれでいいってわけじゃない。。

ボクにとって兵長さんは、誰も代わりができない、大切な・・・」

そこから先を、どう表現すればいいかわからない。

上司、友人、恋人、どれもしっくり当てはまらない。

しいて言うなら父親の存在に近かったが、性教育をされたことを思うとそれも微妙だった。



懇願すると、リヴァイの視線が交差する。

やがて、リヴァイは鼻で小さく溜息をついた。

まだ子供っぽいに呆れたのではない、庇護欲を抱いている自分自身に対して呆れていた。





「それだけ言うんなら、覚悟はできてんだろうな。俺はエレンみたいに生易しくない」

ふいに顎を持ちあげられ、はまた赤くなった。



、調理場にまだパンが残ってるみたいだから、貰いに・・・」

を呼びに来たエレンだったが、二人の様子を見てぴたと足を止めた。

リヴァイは手を離し、エレンに視線を向ける。

お互いは無言のまま、静寂が流れた。

「エ、エレン、呼びに来てくれたんだね、それなら早く行こう」

沈黙を破るように言い、はエレンの手を取ってその場を離れた。



、兵長と何話してたんだ?」

「え?えーと・・・」

まさか、昨日やったのかなんて聞かれたとは言えなくて言葉を濁す。



「・・・オレ、を兵長に一人占めにはさせないから」

「えっ」

小さく呟かれた言葉が耳に入り、は思わず足を止めた。

「ほら、早く行かないとサシャに食べられるかもしれないぞ」

エレンは、の手を握り返し、ぐいぐいと引っ張って先導する。

そのとき、はこうして手を繋げることに、たまらない幸せを感じていた。





集団なんて、他人なんてとても信頼できなくて、ずっと孤独に生きてきた。

けれど、今はリヴァイ、ハンジ、エレンという存在が傍に居てくれる。

忌むべき巨人の力を持つ自分を、調査兵団なら受け入れてくれる。

幸せを噛みしめつつ、は決意していた。

この三人と、三人が大切にしている人を守るため、自分の心臓を捧げようと。









―後書き―

読んでいただきありがとうございました!

いつものように、R-18になったのでここで完結です。

また一つ、小説を書けるくらいはまるマンガに出会えて幸せでした。

社会人になったら本当に時間がなくなって、連載は難しくなるかもしれませんが。

短編で更新していくことがあるかと思いますので、これからも宜しくお願いします!