進撃の巨人12





が調査兵団に入団してから結構な日数が経ったものの、未だに集団には馴染めないでいた。

食事は人目につかない場所でひっそりと食べ、風呂は時間をずらして入る。

人の世界には少し慣れてきたものの、まだ人混みは好きじゃなかった。

そうなると、班行動もうまくできず、コミュニケーションに難が生まれる。

それを、リヴァイはあまり快く思っていなかった。



は今日も、食道から適当な食材を取って、どこかへ行こうとする。

その前に、扉の横に人がいて足を止めた。

、今日も時間外に食べる気か」

「兵長さん・・・別にいいでしょ、誰に迷惑かけてるわけでもないんだから」

リヴァイが小さく溜め息をつくと、は嫌そうに眉をひそめた。



「今夜、時間を空けておけ。いいな」

それだけ言うと、リヴァイは食道を出る。

てっきり、集団行動をしろと言われるかと思いっていただけに、はほっとする。

けれど、夜に何をするのかと、楽しみでもあり少し不安でもあった。





午後は訓練をして過ごし、あっという間に夜になる。

は、言われたとおり予定をいれずに、自室で待機していた。

ほどなくして、ノックもなしに扉が開き、はさっと立ち上がった。



「兵長さん、これから何するの?」

「とりあえず、着いて来い」

リヴァイが外へ出て、も続く。

訓練場にでも行くのかと思っていたけれど、向かった場所は街中だった。

夜に壁の外へ出ることはあっても、街中へは行かないのでは落ち着かなくなる。

リヴァイが隣にいなかったら、すぐさま兵舎に戻っているところだ。



「あの、街中はあんまり好きじゃないんだけど・・・どこに行くの」

「もうすぐ着く」

嫌な予感を残したまま、はリヴァイの後に続く。

そうして着いた場所は、外からも話し声が聞こえるくらい賑わっていた。

リヴァイが中に入ると、も嫌々入る。



「うわ・・・」

室内にいた大勢の人を見て、は露骨に顔を歪める。

さらに、嗅ぎ慣れていないアルコールの臭いが鼻について不快だった。

リヴァイは、の腕を掴み、奥の方にあるカウンター席に引っ張って行く。

逃げたくても逃げられず、は大人しくしていた。

テーブル席を抜け、カウンターに座る。

目の前にさっと人が進んできても、目を合わせられなかった。





「おや、リヴァイ兵長、今日は子連れですか?」

「まあな」

子供扱いされて、はむっとする。

何か言い返したくとも、人混みの中では萎縮してしまって駄目だった。



「兵長はいつものやつでいいですかね。少年は、ミルクかな?」

馬鹿にされたようで、は目の前の相手を睨む。

「小さな子供じゃないんだから、兵長さんと同じのでいい」

相手は一瞬目を丸くして、伺うようにリヴァイを見た。



「構わねえ、出してやれ。案外飲めるかもな」

そう言われ、店主は一旦奥へ引っ込む。

その間に、はわざと大きく溜め息をついた。



「こんな人混みの中に連れてきて、どういうつもり」

「何回か来てりゃあ、嫌でも人に慣れんだろ」

これから何回か来ることになるのかと思うと、嫌気がさす。

騒がしくて、ごみごみした空間にいるだけでストレスが溜まっていた。



「こんなところに何度も連れて来る気?そんなの・・・」

「こんなところとは、随分な言い草だね」

店主がカップを持ってきて、二人の前に置く。

さすがに目の前で悪口を言う気はないのか、は口をつぐんだ。

「一杯飲めば、嫌な気分も吹き飛ぶさ」

それだけ言い、店主は他の客の相手をしに行く。

は、強い臭いがするカップを躊躇うようにだいぶ見詰めていた。





「どうした、怖じ気づいてんのか」

リヴァイは、平然としてカップの中身を飲み干す。

また子供扱いされたくなくて、もカップを口元へ持っていく。

臭いがさらに強くなって、体が拒否するようだったけれど、思いきって一口含んだ。

とたんに、苦みと共に口内が熱くなる。

何とか飲み干すと、喉が焼けるような刺激を受けた。

息を吐くと、胃の中からアルコールの臭いが競り上がってきて、手を止める。



「やっぱり、ミルクでも頼むか」

面白がるように言われ、は首を横に振る。

そして、もう一口、二口と強い酒を飲んでいった。

「・・・ほら、馬鹿にしないでよ。もう飲めたんだし」

何とかコップを空にして、リヴァイに見せる。

「なかなかの飲みっぷりじゃねえか、なら追加だ」

リヴァイが店主をちらと見ると、すぐに新しいカップが出てくる。

リヴァイがすぐに口をつけたのを見て、もカップを手に取った。





二杯目を半分まで飲んだところで、だんだんと瞼が重たくなってくる。

そして、頭がぼんやりとして、体温が高くなってきていた。

「さすがに酔ってきたか」

「んー、酔うって?そっか、こんな感じなんだー」

不思議な感覚に酔いしれ、言葉が浮わつく。

嫌な感じはせず、はちびちびと飲み続けていた。



「なんか、気持ちよくなってきたなー。

でも、まわりに人がいなきゃ、もっと気持ち良いに違いないのに」

こっそりと呟くのではなく、普通の声でずけずけと言う。

「言うもんだな。そんなにも集団が嫌か」

「当たり前だよ!相手の顔色伺って、自分を隠すなんてもうたくさん」

愚直っぽい言葉が、ぽんぽんと出てくる。

気分が浮わついて、調子がよくなっていた。



「昔は班に入って、集団行動してたんだろうが」

「それは、他に人がいれば、巨人を引き寄せるいい餌になったからだよ」

その発言を聞き、とたんにリヴァイが目を鋭くし、を睨む。

まずいことを言ってしまったと、はとっさに閉口した。

「悪酔いしてやがるな、もう出るぞ」

リヴァイは紙幣を数枚置き、の腕を引いて店を出る。

逆らわないほうがいいと、は本能的に察知していた。









もう人混みには行かず、そのまま兵舎に帰る。

人いきれから解放されて安心した半面、まだ腕が離されないことに不安を感じてもいた。

「兵長さん、そろそろ離してよ」

訴えても、リヴァイは無言で歩いて行く。

そうして連れて行かれたのは、リヴァイの自室だった。

は思わず足を止めたけれど、ぐいと引かれて誘導される。

扉に鍵がかけられると、さっと酔いが冷めていくようだった。

そのままベッドまで連れて行かれ、勢いよく投げ出される。



「お前はまだそこらの奴等を、巨人を引き寄せるための餌だと思ってんのか」

「・・・兵長さんや、エレンや、分隊長さんは違うよ」

「それ以外の人間に対しては、どう思ってんだ」

は、言葉に詰まる。

それを肯定だと受け取ったのか、リヴァイはの首を掴んでその場に押し倒した。



「う・・・!」

体の上に乗られ、瞬時に動きを封じられる。

リヴァイを見上げると、鋭い視線が向けられていて、恐怖感を覚えていた。

「俺等は何の為に戦ってると思ってる。少なくとも、楽しんで巨人を刈る為じゃねえ」

「わかってる、けど・・・」

反論しようとすると、首が少し強く絞められて、言葉が止まる。



「人に馴染む気がねえんなら、躾が必要だな」

低い声で告げられ、危機感が大きくなる。

リヴァイに躾られることは、肉体的にはもちろん、精神的にも苦痛になるに違いなかった。





「ご、ごめんなさい、もう餌なんて言わないから・・・」

「明日から班に入るか」

有無を言わさぬ迫力があり、の涙腺が緩む。

班行動なんて苦手すぎることだったけれど、選択肢は一つしかなかった。

「わ・・・わかったよ、わかったから・・・兵長さん、殴らないで・・・」

後半、懇願するように声がか細くなる。

今にも泣き出しそうな顔を見て、リヴァイは上から退いた。



「もう撤回は聞かねえからな」

迫力に押されて、つい肯定してしまったことをは後悔する。

危機から逃れたとたん、どっと不安感が押し寄せてきていた。

はとっさに、ベッドから下りようとするリヴァイの手を取る。

「ちょっと、待って・・・」

リヴァイはに向き直り、言葉を待つ。

は躊躇いがちに口をもごもごとさせていたけれど、一呼吸置いてから声を発した。





「・・・一緒に、いてほしい・・・」

堂々と甘えるなんて、だいぶ恥ずかしい。

けれど、不安感に背を押されて、そう言わずにはいられなかった。

リヴァイは何も言わず、を注視する。

は遠慮がちに手を離したけれど、ふいに肩に腕が回された。

そのまま体が引かれて、抱き寄せられる。

相手の体温を感じると、とたんに安心して、はリヴァイにもたれかかっていた。



「兵長さんって、怖いんだか優しいんだか、わかんないや・・・」

飴と鞭でうまく動かされているとは思うけれど、逆らえない。

は、やや控えめにリヴァイの首元へ擦り寄った。

少しの間が空いた後、の口元へすっと指が伸ばされる。

「兵長さん・・・?」

くすぐったくて唇を開くと、その指が中へ入って来る。

腹の部分が舌に触れ、なだらかに撫でられていた。



「は、ふ・・・」

指先まで筋肉質なのか、その皮膚は固い。

やんわりと愛撫されると、いつの間にか目が細まっていた。

しっとりとした液体が、リヴァイの指に絡みついていく。

戸惑うように、はたまに指を甘噛みするけれど

そうすると、隙間を広げるように指が増やされ、また愛撫された。



「ん、あ・・・ふ・・・」

指だけで舌が蹂躙され、それだけでも吐息が熱くなる。

液が絡まる音が聞こえると、羞恥が増しての頬が染まった。

それでも、リヴァイを無理に引き離すことはできなくて

そのまま、気が済むまでいじられ続けていた。









やがて、動きが止まり、指が引き抜かれる。

液で濡れている様子を目の当たりにして、はとっさに袖口で拭った。

「駄目だよ、兵長さん、潔癖症なのにこんなことしたら・・・」

一滴も残さぬよう、服が汚れるのも構わず入念に拭く。

手が離されると、リヴァイはの頭を雑に撫でた。



「そろそろ部屋に戻れ」

「え、でも・・・」

「足腰立たないようにされたくなかったら、戻れ」

は一瞬目を丸くして、リヴァイを見上げる。

視線が交わると、そこに含まれる欲望の片鱗を感じ取っていた。



「わ、わかったよ。・・・また、明日ね、兵長さん」

どういう意味なのか察し、はベッドから下りる。

行為を拒むわけではないけれど

明日、集団行動をしろと命じられているのに、本調子でなくなるのは避けたい。

はしぶしぶ部屋を出て自室に戻り、不安感で眠れぬ夜を過ごした。









―後書き―

読んでいただきありがとうございました!

メルフォで続きリクエストがあったので書いてみました。

短編と言いつつ、やっぱり続き物になってしまいますが

時にはやんわり、時にはがっつりいちゃつかせていきます。