士官兵の偏愛11


都市へ行き、少佐と離れてからは毎週のように電報のやりとりをしていた。
専門的な学習は生易しいものではなく、最初はついてゆくのがやっとで、知恵熱が出る日もあった。
けれど、毎週の電報のおかげで気が滅入ることはなく、一つの目標ができた。
その目標を達成するために、どんな難題にも進んで取り組む意欲が湧き。
卒業後はもちろん、参謀となるための試験を受けた。
目標はもうすぐ、達成されようとしている。




数年ぶりに見る屈強な鉄の門、高い壁、相変わらず人気のない廊下。
何もかもが、とても懐かしい。
数年前を懐古しながら、廊下の先にある部屋を目指す。
自然と早歩きになり、最も懐かしむべき部屋の前で立ち止まった。

一呼吸置いてから扉を叩くと、すぐに入室を許可する声が返って来た。
今一度、呼吸を整える。
そして、取っ手を掴み、扉を開いた。

部屋の主は、入室した相手を見た瞬間は、目を丸くしていた。
それが誰なのかが判明するとすぐに立ち上がり、視線を合わせた。
「少佐・・・ごぶさたしております」
相手の姿を一時でも長く留めておきたくて、会釈もせずに呼びかける。

「新任が入ってくるとは聞いていたが・・・都市になら、良い条件の所はあり余るほどあっただろうに」
「いえ、僕が望むのは、この場所意外にありません」
どんな良い待遇も敵わないものが、この士官学校にはある。
真っ直ぐな視線を感じ、言わんとすることがわかったのか、少佐の目が少し揺らいでいた。
隙を見せたとそのときに一歩を踏み出し、間を詰める。
手の届く範囲まで近付くと、腕を伸ばし、少佐を抱き締めた。

「少佐、明日は休日ですよね」
「・・・ああ」
もう、甘えて縋りつく立場ではない。
内面だけでなく外見も成長し、今は少佐と肩を並べるまでになった。

「もう、僕は学生でも、成人していないわけでもありません。。
約束の効力は、もうありませんよね」
耳元で、少佐がはっとしたように息を飲む。
やはり、返答はなかったが、肩を押されて拒まれることはなかった。




翌日、少佐を連れ、懐かしさを覚える部屋に外泊していた。
都市へ行く前に、猛勉強に取り組み、共に過ごした部屋。
内装はまるで変わっていないが、状況は全く違う。
昼間の段階では、お互いとりとめのない会話を気楽に楽しんでいたが。
陽が落ちるにつれて、少佐の口数が少なくなっていった。
疲れているわけではない、緊張してきているのだと、目に見えてわかる。

「少佐、浴室へは別々に入りましょう。流石に、大の大人が二人入るのは無茶ですから」
「あ、ああ、そうだな」
少佐は、安心とも驚きともとれないような表情をする。
一緒に入ろうと言われるかと思ったと、そう予想されていても仕方がない。
だが、狭苦しいところでは、満足なことはできないだろう。
少佐は、一時は安心するかもしれないが、後々余計に緊張することになるかもしれない。


少佐が入浴している間に、布団を敷いておく。
二組並べてではなく、一組だけ。
風呂に入ったとき、もう一組も敷かれてしまうかもしれないが、そのときはそのときで考えてある。
ただ、先に寝てしまわれたら問題だが。

ほどなくして少佐が出てきたので、入れ替わりに浴室へ入る。
少し焦る気持ちもあり、それほど時間がかからなかった。
相手が眠っていないことを願いつつ、布団を敷いた部屋へ向かう。
すると、もう一組敷かれているわけでも、眠っているわけでもなく。
少佐はただ、布団の上に座っていた。
これからやらんとしていることを、覚悟しているように。
警戒させすぎないようゆっくりと近付き、視線を合わせる。

「少佐・・・」
もう、許可を取る必要はない。
頬を寄せ、そっと口付ける。
いつか感じた、柔らかな感触に陶酔しつつ、そのまま少佐を押し倒していった。
少佐は抵抗することもなく、仰向けになる。
委ねてくれているのだと思うと、幸福感が増していった。

唇を何度も重ね合わせていると、わずかに隙間が開いてくる。
その隙間から、自分のものを口内へ進めて行く。
少佐の肩はわずかに震えたが、それでも突き飛ばされない。
最初はやんわりと触れ、やがて自身を絡めていった。

「っ、は・・・」
触れ合っている最中に、少佐が息を漏らす。
そんな吐息を感じると、自分の気も昂ってゆき。
淫猥な音をたてることに、遠慮はしなかった。


やがて、絡めていたものを解き、解放する。
これだけでも、少佐の呼気は熱を帯びていた。
「少佐の反応は、昔と変わりませんね・・・安心しました」
そう言うと、照れたように視線が逸らされた。

「う、煩い・・・それに、俺はもう少佐ではなく、中佐だ。電報に書いただろう」
「ええ、そうお聞きしましたが・・・今は、少佐と呼んでいたいんです」
相手を、下の階級で呼ぶのは失礼なことだったが。
今だけは、昔の関係の延長線上として、同じ呼び方でいたかった。

一旦体を起こし、もっと少佐を昂らせるべく手を取る。
いつかのように、手の甲にうやうやしく口付けた後、指先を舌でなぞっていった。
「う・・・」
とたんに、動揺が見てとれる。
その動揺を他の感情へ昇華すべく、指先を口内に含んだ。
恐る恐るではなく、もはや遠慮なく招き入れ、細い指を弄っていく。

「・・・っ、ぅ・・・」
声を押し殺そうとしているのか、少佐の息遣いが不規則なものになる。
そんな羞恥心を、取り払ってしまいたい。
人差し指を弄り終えると、次は中指へと移る。
最も長いその指も、舌先で愛撫しながら口内へ引き込んでゆく。
少佐は声を出すまいと頑なになっていても、少しずつ息が荒くなってきていた。


「少佐、声を堪えていると苦しいですよ」
「う、煩い・・・っ」
喘がされるのは恥だと思っているのか、五本の指を弄り終えるまで、声を聞くことはできなかった。
それなら、もっと強い感覚を与えればいい。
手を放し、少佐の服を開いてゆく。
だが、上半身には触れない。
強い感覚を与えるものは、他にある。
服を止めているベルトを解くと、少佐の体がまた強張るのがわかった。

「大丈夫です。痛みだけで終わらせるつもりはありませんから・・・」
安心させるような、不安にさせるような言葉を投げかけ、下肢の服を取り去る。
羞恥心で一杯になったのか、少佐は決して視線を合わせようとはしなかった。
「もう・・・声が抑えられないようにしてあげます」
露わになった下肢へ、手を伸ばす。
そして、敏感にものを感じ取るそれを指先でそっとなぞった。

「っ、ぁ・・・」
少し触れただけで、少佐から細い声が発される。
それを聞いたとたん、抑制なんてなくしていた。
指先で、先端から深い所まで、愛撫するように触れてゆく。
少佐はそれでも必死に堪えているようだったが、所々にわずかな音が漏れ始めていた。
だが、じれったくて仕方がない。
だから、今触れている箇所のさらに下へ。
本来ならば、ものを受け入れる場所ではない窪みに指を伸ばしていた。

「なっ、何を・・・」
少佐の瞳に、初めて見る怯えが映る。
「安心して下さい。まだ、痛みはないはずです・・・たぶん」
「多分って、お前・・・・・・っ、あ・・・っ!?」
言葉の途中で、とうとう声が上がる。
下肢に触れていた指は、その窪みの中へと、わずかに挿し入れられていた。
望んだとおりの反応に、内心ほくそ笑む。
悦楽を与えるため、指は徐々に奥へ埋められてゆく。

「あ、ぁ・・・っ、ぅ・・・」
抑制できていない声が、耳に届く。
それを聞くだけで、高揚するのを抑えきれない。
けれど、焦ってしまっては少佐を傷つけるだけ。
指は、内部をゆっくりと解すように動かされていった。


筋肉が少し弛緩してきたところで指の本数を増やし、埋めて行く。
「あっ・・・う・・・」
もう、抑えることを半ば諦めているのか、声は先程より抵抗無く発されているように聞こえる。
熱っぽい声が聞こえると、さらに気分が昂らずにはいられない。
それでも、少佐の負担を少しでも軽減するために、急いではいけない。

少佐の体が弛緩してくるまでは、時間がかかり、こういう行為に慣れていないという証拠だった。
自分の抑制も限界に近付いてきたところで、傷付けないよう慎重に指を抜く。
「は・・・っ」
中の異物感が消えてほっとしたのか、少佐は大きく息をついた。
折角だけれど、休憩時間を取っている余裕はない。
自分も、少佐が今感じている感覚を覚えたくて仕方がなくなっていた。

「少佐・・・どうか、最初だけ、耐えて下さい・・・」
自分も衣服を脱ぎ、少佐の上に覆い被さる。
同時に、浴室以外で肌を重ね合わせることができる幸福感を覚えていた。

「・・・痛みに悲鳴を上げる程、柔じゃない」
そう、少佐は誇り高い。
だからこそ、たまに見せる動揺した様子がとても愛おしく感じる。
その愛情を、今も例外なく持ち続けていた。
そっと、少佐の手を握り、未知の痛みへの懸念を少しでも緩和させるように、指を絡める。
その手が軽く握り返されたとき、自身のものを少佐にあてがった。

ほんのわずかに、絡めた指が強張る。
そして、一呼吸置いてから、触れさせているものを指と同じように挿し入れていった。

「っ、あ・・・!」
驚いたような声が上がり、手が強く握られる。
少佐がどれほどの痛みを被っているのか予測ができないけれど、生易しいものではなさそうだった。
しかし、ここで尻込みしてしまっては苦痛だけで終わってしまう。
とたんに荒くなった息を感じつつ、腰を落としていった。

「あぁ・・・っ、は・・・」
強い悦を感じ、とたんに、少佐の息が荒くなる。
呼気が乱れてきているのは、同じだった。
窪まりの奥へ進めて行くと、強い圧迫感を感じるようになる。
お互いの熱が入り混じるような感覚に、全身が熱くなってゆくようだった。

少佐の負担を大きくしないよう、慎重に、自身を埋めて行く。
深い箇所まで暴かれて、感じるものはさらに増したのか、少し動いただけでも熱っぽい声が発されるようになっていた。


やがて、もう進めることができなくなり、自然と下腹部が触れ合う。
お互いの掌は、じんわりと熱を帯びていた。

「少佐・・・少佐のこんな姿が見られるなんて・・・幸せです」
完全に紅潮した頬、悦を帯びた瞳、色味を帯びた柔肌。
どれも、直視したら魅了されずにはいられなかった。
「っ・・・俺、は・・・・・・恥だ、こんなこと・・・」
それでも、繋いだ手は離されない。
そんな少佐が、やはり愛おしかった。

「でも、聞かせて下さい、見せて下さい、少佐が乱れる姿を・・・」
言葉と共に、少しだけ身を引く。
「ぅ、ぁ・・・っ」
自分の中にあるものが動き、反射的に発された声が耳に届く。
抑制も、理性も、すでに消えていた。
身を引いた後は、再び押し進めてゆく。
このほうが感じるものが強いのか、圧迫感が増していった。

熱い吐息、上ずった声、少佐を乱す度に、欲情する。
だんだんと身を引く距離が大きくなり、その分挿し入れたときの感覚も強くなっていく。
下腹部が触れ合う度に、少佐の声が明瞭になる。
その声と共に、首に腕がまわされた。

この状況下、無意識の行動なのだと思う。
けれど、自分の熱を求められている気がして。
抑制できなくなった昂りが、これ以上行き場のない最奥を、掻き乱した。
「あ、っ・・・う、ぁぁ・・・っ」
繋がれた手が、痛いほど握り締められ、圧迫される。
同時に、少佐を乱している、自身のものも。

「・・・少佐・・・っ・・・!」
自身が、初めて感じる熱を持つ。
そして、それは圧に耐えることはできなかった。
思わず、少佐の手を強く握り返したとき、抑圧できなかった熱が、混じり合っていた。




腹部に、粘液質なものを感じる。
それが少佐のものだとわかると、また気分が高揚してしまいそうだった。
圧迫感がなくなったので、ゆっくりと身を引いてゆく。

「は・・・っ・・・」
相手が動くとまだ感じるものがあるのか、少佐が息をつく。
すぐ近くで感じるその吐息は、今までで一番熱を帯びているようだった。
自身の中の異物感がなくなると、少佐は全身から力を抜いた。
力が入らないのは同じで、倒れ込むようにして少佐に覆い被さる。
腹部にかかった液が絡まるのも厭わない。
少佐は、自分が発してしまったものに気付いたのか、視線が揺らぐのが見てとれた。
だが、首にまわされた腕はそのままだった。

「少佐、お慕いしています・・・僕が生徒だったときから、ずっと・・・」
耳元で、囁きかけるように告げる。
「恥ずかしいことを・・・堂々と言うな」
返って来たのは、照れ隠しのような言葉。
それでも、この体の温もりが感じられていればそれで充分だった。




敷布の乱れを直した後は、自然と同じ布団に横になっていた。
先の行為で疲れたのか、少佐から寝息が聞こえてくるまでそれほど時間はかからなかった。
その寝顔を見ると、どっと幸福感が溢れてくる。
そして、絶対にこの人には不幸な目に遭ってほしくないと思った。
参謀としての知識を蓄えて来たのは、危険な戦地で少佐の危機を軽減するために他ならない。

眠る前に、頬へそっと口付ける。
寝息が一瞬止まった気がしたが、すぐに規則正しいものに戻っていた。
「少佐・・・僕は、ずっと少佐の傍にいます・・・ずっと、守り続けます・・・」
誓うように呟き、目を閉じる。
少佐の為なら何だってできると、そう確信しながら。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
初めて主人公を攻めにしてみた小説でした。
自分の性格が新たなジャンルに目覚めてしまった・・・のかもしれません。
年下攻めっていいよね!←。

次からは、ヤクザものにしようかと目論んでいますが・・・。
書いてみたところ、ストーリーが薄っぺらく、いつもの連載の半分くらいのボリュームになりそうな予感がプンプンしています。
なので、あまり話の内容にはご期待なさりませぬよう・・・いちゃつきはしますが。

ではでは、長々とお付き合いいただきありがとうございました!。