召喚魔の思慕と誘惑10


祐樹は住み慣れた家を離れ、両親のいる国へ来ていた。
母のはからいか、転校手続きは完結に済み、来週から登校することになる。
転送機を使って荷物だけを先に送っていたが、その届け先は両親の住む家ではなかった。

祐樹は、森の近くにある小ぢんまりとした家に入る。
中には転送した荷物の他に、誰かが住んでいた形跡が残されていた。
それというのも、転校手続きで忙しい母が妖魔を自由にさせていたときに見つけたらしく。
生活に必要な家具があるのに誰も帰ってこないので、ここで暮らしたらどうかと提案していた。
あくまで自立を促す姿勢に、祐樹も同意した。
両親の元に居たら、万が一召喚魔が大それたことをしようとしたとき、ごまかしようがなくなってしまうから。

荷物を整理すると暇になり、祐樹は外へ出る。
周囲は静かで、気が休まるようだ。
良い環境をもっと探索してみたいと、近くにある森へ足を進めた。
その森へ踏み入る前に、急に魔導書がぼんやりと赤く輝く。

「ルシファー、どうした?」
出してほしいと言われているようで、その名を呼ぶと、たちまち黒い霧が妖魔を形どった。
召喚されると、ルシファーはすぐに森へ目を向ける。
何かいるのだろうか、目を凝らしても特に変わったものは見当たらない。

「そうだ、ルシファー、ちょっと血を流してみてくれないか」
普通ではない頼み事だが、ルシファーはすぐに爪で掌を引っ掻いた。
赤々とした鮮血を、祐樹は凝視する。
一回、生唾を飲んだけれど、それに手を伸ばすことはしなかった。


「・・・よし、これでお前に依存することなんてない。もう、勝手なことはさせないからな!」
「そうか」
悔しがると思っていたのに、返って来たのは一言だけだった。
召喚者よりも森の方に興味があるのかと、面白くなくなる。

「そんなに森が気になるんなら、行ってくればいいだろ」
祐樹はつまらなさそうに言い、きびすを返す。
まるで拗ねる子供のようだと自覚したけれど、苛ついてしまう。
戻してやろうかとも思ったけれど、依存が本当に解消されたかもう少し様子が見たかった。


祐樹が帰宅すると、後を追ってきたのか、すぐにルシファーも姿を表す。
「何だ、森に行って来たんじゃないのか」
まだ機嫌は直っていなくて、祐樹は目を合わせない。
「どうやって我の血から逃れた」
「・・・そんなこと、どうでもいいだろ」
明光としたことを事細かに伝えるほど厚顔無恥ではなく、適当にはぐらかす。

「我には関係のあることだ、話せ」
詰め寄られ、祐樹は体を引く。
「無理矢理にでも、その口を割らせてほしいか」
閉口したままでいると、さっと後頭部に手がまわされ、引き寄せられそうになる。
祐樹はとっさに手を突っぱねて、ルシファーの胸を押した。

「召喚者はオレなんだ、お前の言うことなんて聞か・・・」
拒否しようとしたとき、強い力で体が引かれ、密接になる。
反抗的な言葉を発する口は、瞬く間に塞がれていた。
「ん・・・!」
突然の行為に、一瞬息が止まる。
口を閉じる暇もなくて、すぐに柔いものの感触を覚える。
それは一切躊躇うことなく奥まで入り込み、絡みつく。

「っ、んん・・・」
早急すぎて、祐樹は思わず呻いた。
抵抗する余裕もなく舌を撫で回され、唾液が入り混じる。
息を吐く間もほとんどなく、息苦しさと柔い感触のせいで体温が上がっていって。
深い個所で交わるものは、祐樹の思考を侵食していった。

ぼんやりとしてきているとき、ふいにルシファーの手が上着を脱がそうとし始める。
危機感を覚えて離れようとしても、いつもより強く引き寄せられていてびくともしない。
じれったくなったのか、上半身の衣服は肌着ごと切り裂かれた。
そこで口が解放され、祐樹はルシファーを睨む。

「あの召喚魔と何をした」
再び問われ、祐樹は口をつぐむ。
言いたくはなかったけれど、黙っていてはさらに大それたことをされるのは間違いない。


「・・・お前の気を出すために、下半身に触れて・・・それで・・・無理矢理・・・出した・・・」
言うだけでも情景を思い出してしまい、声が小さくなる。
祐樹の言葉を聞いた瞬間、ルシファーはかっと目を見開いた。
とたんに、雰囲気が変わる。
祐樹がわずかに怯むと、ルシファーはその腕を引き、ベッドへ連れていこうとする。

「な、何する気だ・・・」
「何をするか、だと?お前もわかっているはずだ」
そんなところへ行く理由は一つしか思い付かなくて、祐樹は足を踏ん張る。
けれど、それは全くの無駄な抵抗で、強く引かれると呆気なくベッドに倒れ込んだ。
とっさに起き上がろうとしたけれど、その前に鎖が伸びてきて、両腕に絡みつく。
瞬く間に頭の上で束縛され、身動きが取れなくなる。
以前にもあったようなことを思い出し、祐樹の顔が強張った。

「っ、離せ・・・!」
祐樹の言葉を無視して、ルシファーは露になった胸部を指の腹で撫でる。
服と同じように裂かれてしまうかと、祐樹は唇を噛んだ。
そのとき、切っ先が片方の突起に触れ、痛みとは別の感覚が背に走った。

「さ、さっきは興味なさそうにしたくせに、どこ触って・・・」
そこでルシファーと視線が合い、言葉が止まった。
いつもの見下したような雰囲気はなく、いたって真剣な表情がある。
ただの、勘違いかもしれないけれど。
真っ直ぐな視線の内にあるものは、焦りや嫉妬のような、そんな感じがした。


祐樹が黙ると、ルシファーはおもむろに下肢の衣服に手をかける。
みをよじって鎖を振り解こうとすると、静かに唇が塞がれた。
「ん、う・・・」
また、唇を割られるだろうかと身構える。
けれど、ルシファーはただ重ね合わせていただけだった。
その行為にはまるで激しさがなく、明光と触れ合ったときのことが思い起こされる。
珍しく優しげなものを感じ、抵抗する力が弱まっていく。
そうして、ルシファーはお互いを触れさせたまま、祐樹の衣服をずらしていった。

自分の身が自由にされようとしているのに、力が入らない。
気力を吸い取られているのだろうか、それとも気を許そうとしているのか。
下肢を守るものがなくなると、ルシファーは口を離し、手はそのまま素肌に触れた。
「あ、っ・・・」
あらぬところへの刺激に、祐樹は驚いたような声を上げる。
「ここへ触れさせたのだろう、今更怯えることでもあるまい」
早急に行為を進めたいのか、ルシファーは祐樹のものを包み込み、上下に擦り始める。

「あ、やめ・・・っ、あ・・・」
静止の言葉は聞く気がないのか、その動きは早かった。
往復するたびに下肢に熱が集中してゆき、昂っていく。
先の方に指が絡ませられると、それがびくりと震えた。

「ひ、あ・・・っ、ぁ・・・」
いくら羞恥を感じても反応は抑えようがなくて、祐樹の息は荒くなった。
そんな様子を楽しむように、ルシファーは口端を上げる。
以前に拒否されたことがあるだけに高揚感は大きく、愛撫が止まらない。
一時も息つく間が与えられず、祐樹の身は昂ってしまっていた。


性急な行為でも、初めてのことではないからか、これだけならあまり嫌悪感はなくて。
祐樹は、ルシファーが満足するまで、ひたすら耐えていようと思った。
そう覚悟した矢先に、愛撫が止まる。
そして、下肢のものを撫で回していた指先が、さらに下方にある窪まりへ触れた。

「あ、う、何っ・・・」
感じたことのない個所へ指があてがわれ、動揺する。
「ほう、ここは初めてか」
指先が、ゆっくりとその窪みを撫でる。
わずかに触れられるだけでもぞくぞくとしたものを感じ、祐樹は身震いした。
同時に、緊張感が生まれてくる。
未知数の刺激がどれほどのものなのか予測ができなくて、全身が強張ってしまう。

「怯えているようだな。どうだ、お前がもう明光とやらを召喚しないと誓えば止めてやる」
「っ、そんな事・・・」
断ろうとすると、同じ個所が指の腹で押される。
いつ入って来るかわからないものに、祐樹は息を飲んだ。

気を許した数少ない相手を手放すことは、絶対に嫌だ。
けれど、このままでは何か恐ろしいことをされてしまいそうな予感がする。
この身を犠牲にして断るか、それとも犠牲にするのは明光のほうか。
祐樹は視線をさ迷わせ、葛藤していた。
中々結論が出ない様子を見て、ルシファーが祐樹の頬を掌で包む。

「感じたことのない絶頂へと導いてやろう。・・・我の物になれ、祐樹」
「うう・・・」
支配的でもあり、優し気でもある声に戸惑う。
頬をゆったりと撫でられると、思わず頷いてしまいそうになった。
自分の保身のために、首を横に振ることができない。
従うしかないのだろうかと思ったとき、祐樹は根本的な間違いに気付いた。


「・・・違う」
聞こえるか聞こえないかの声で、ぽつりと呟く。
祐樹は強い目でルシファーを見据えた。
「オレがお前の物になるんじゃない!ルシファー、お前がオレの物になるんだ!」
召喚者が支配されてどうするのだと、祐樹は自分を鼓舞して言い切る。
意外な発言にルシファーは動きを止め、ふっと笑って鎖を解いた。

「大胆なことを言ったものだな」
「う、うるさい」
正論を言ったつもりなのに恥ずかしくなって、祐樹は体ごと横向きになる。
意地を張っていたかと思えば子供らしい一面が見え、ルシファーは祐樹の身を後ろから抱いた。
祐樹は一瞬体を固くしたが、無理矢理ではない包容はやけに温かくて。
じっとそうされたままでいると、不思議な心地好さを覚えていた。

だんだんと、強張りが解けていく。
安らいできていたとき、再び下肢のものが掌に包まれた。
「ふ、あ・・・」
油断していて、つい気の抜けた声が出てしまう。
慌てて口を閉じようとしたけれど、その前に、唇の隙間へ二本の指が入り込んできた。

驚いて目を見開くと、口内のものがゆったりと舌を愛撫する。
その手つきも荒々しいものではなくて、祐樹は隙間から吐息をついた。
さっきとはうってかわって、下肢への刺激も穏やかなものになる。

「ん・・・っ、は・・・」
声を封じさせないよう、指は口内でゆったりと動く。
羞恥を感じて仕方がなかったけれど、今はそれ以上の感覚にとらわれていて。
下肢から零れる先走りが、ルシファーの手を濡らしていた。
祐樹が感じているとわかると、ルシファーは一旦手を緩める。
そして、首を下げて祐樹のうなじにゆっくりと舌を這わせた。

「あ、う・・・」
悪寒に似たものを感じ、祐樹は逃げるように体を丸くする。
けれど、両の腕に捕らえたままで、ルシファーはさらに体を密接にさせた。
「う、ぅ・・・っ・・・」
下肢の手はそれを包むだけで、全く動かされない。
感じるものはうなじをなぶる感触だけで、わだかまりが募る。
高まり切ったものは、そんな刺激だけでは足りないと言うように脈動していた。


「そろそろ、達させてほしいか」
意地悪く問われ、祐樹は肯定も否定もしなかった。
本心では、この熱を解放してほしいと思っているけれど。
自分から愛撫を求めるような、そんなことはプライドと羞恥心が許さない。
祐樹が沈黙していると、ルシファーはうなじへ触れることもしなくなる。
その代わりに、祐樹のものを指先でくすぐるように軽く触り、細かな刺激を与えていく。

「は、んん・・・っ」
弱々しい触れ合いがじれったくて、祐樹は身をよじる。
放置するわけでもなく、達させるわけでもない。
そんな微妙な動作に体の熱はますますくすぶってゆき、祐樹の理性を侵食していった。

「今更、羞恥を感じることでもないだろう。撫でてほしいか・・・?」
耳元で、今一度問われる。
吐息を吹きかけられると、もう、理性なんて働かなくて、祐樹はおずおずと頷いていた。
ルシファーは口端を上げて、祐樹の下肢に添えたままの手を滑らかに動かす。

「ああ、は・・・っ、あ・・・」
先走った液体の感触と相まって、淫猥なものの感覚に襲われる。
先端や裏側を指先がかすめると、下肢が震え、全身に伝わっていく。
その震えは恐怖ではなく、やっと与えられた快感に打ち震えているようだった。

「あ、あ・・・っ、ルシ・・・」
無意識の内に名を呼びそうになり、祐樹はとっさに言葉を止める。
求めそうになっているのは、きっとどうしようもない欲のせいに違いなかった。

「祐樹・・・」
呼応するように名を呼び返し、祐樹のうなじに唇を寄せ、赤い痕をつける。
そして、絶頂へと誘うよう、ルシファーは祐樹のものを掌全体で圧迫した。

「あ、う、あぁ・・・っ!」
急激に強まった刺激に、祐樹の体はもう耐えられなかった。
襲ってくる波に耐えるよう、全身に力が込められる。
次の瞬間には下肢がかっと熱くなり、吐精していた。
止めどない液が、ルシファーの掌に受け止められる。
そこで、やっと口内の指が引き抜かれ、祐樹は大きく息をついた。


「我の方を向いてみろ」
言われるがままに、祐樹は首だけ動かして後ろを向く。
ルシファーが視界に入ったとき、口が塞がれていた。
「う、ん・・・」
以前なら、突然口付けられたら突っ張ねていたはずなのに。
行為の余韻があるからか、不思議と安らいでいく。
気付けば、自然と目を閉じていた。
それは、相手に身を委ねていることと同じだったけれど。
このまま、重ねられていてもいいと、そんなことを思っていた。

触れ合っていたものが離れると、祐樹はうっすらと目を開く。
その眼差しは虚ろげで、未だに余韻に浸っているようだった。

「も、う・・・眠い・・・」
気力も体力も使い果て、瞼が重くなる。
うつらうつらとしていると、ふいに頭が撫でられた。
優しく触れられ、もう眠ってもいいんだと諭される。
もう、服の乱れを直す余裕もなくて。
再び目を閉じると、ほどなくして意識が遠のいていった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
ルシファーともいかがわしいことをして、これで終了・・・かと思いきや、異例の形で続きます。