召喚魔の思慕と恋愛7


家に帰って来ても、祐樹はまだぼんやりとしていた。
木々の障気にさらされたからか、頭がうまく働かない。
それをいいことに、ルシファーは祐樹をベッドに投げ出す。
そして、逃げられないよう、頭の脇に手を置き、見下ろした。

「お前は、母親に認められたくてたまらない、そうだな」
「あ・・・ああ」
確認するように問われ、生返事を返す。
「ならば、その力を増幅させてやろう。多少、手荒な方法になるがな」
悪どい笑みを浮かべ、ルシファーは祐樹の上着を脱がす。
そして、爪を光らせて中の肌着を真っ二つに裂いた。

「な、に・・・」
尋ねる前に胸部の辺りが撫でられ、息を飲む。
上半身が露になったとき、やっと危機感がよみがえってきた。
手荒な方法がどんなものなのか、予測がついてしまう。
指先が腹部を通り過ぎ、下肢の衣服へと辿り着く。
この状況はまずいと実感した時、血の気が引いた。
けれど、自分が召喚者なのだから一言「戻れ」と言えばいいと気付く。

「ルシファー、戻・・・」
そこまで言ったところで、ルシファーが身を下ろして祐樹の口を塞ぐ。
すぐさま、開かれている個所から先のように舌を差し入れ、言葉を言えないようにしていた。
「んん・・・!」
瞬く間に蹂躙され、絡みつかれる。
また、混じり合う液を飲んでしまうと、頭の芯が痺れるようだった。
その間に、下肢の衣服に手がかかり、下へずらされる。

祐樹は重たい腕を動かし、何とかルシファーの肩を掴んで引き離そうとする。
けれど、すぐさま鎖が伸びてきて、両手首がベッドに縛り付けられた。
「我を戻そうとしたら、また塞いでやろう。大人しくしていることだ」
至近距離で言われ、祐樹は口をつぐむ。
唯一の権限が奪われては、もう抗う術がなかった。


「ルシファー、止めてくれ・・・」
「母を見返せるほどの力が欲しいのだろう」
反論できなくて、祐樹は押し黙る。
確かに、母に認めてもらえるくらいの力は欲しい。
けれど、決して、こんな形で得たくはなかった。
とうとう、上半身だけでなく、下半身も露わにされてしまう。
その中心を大きな掌で包まれ、祐樹は肩を震わせた。

「や、やだ・・・こんな、嫌だ・・・」
「すぐに良くなる。欲望に飲まれ、我を求めずにはいられなくなる・・・」
ルシファーが、下肢の手をゆったりと動かす。
普通なら反応してもおかしくはなかったけれど、今は緊張や恐怖が上回っていて萎えたままだった。
けれど、撫でられ続けていれば、いずれ昂ってしまう。
じわじわとした欲望が湧き上がってくると、祐樹は恐怖心にとらわれた。

「う、や・・・やだ・・・っ・・・明光・・・!」
無意識の内に、その名を呼ぶ。
自分で合成したくせに、助けを求めている。
もう明光は消えているのに、その存在を切望せずにはいられなかった。

「今更、いくら合成された召喚魔の名を呼んだところで・・・」
言いかけたところで、ルシファーが言葉を止める。
下肢へ目を向けると、左手が右腕を爪が食い込むほど強く掴んでいた。
右手が祐樹から引き離されると、ルシファーはいまいましそうに左手の指輪を見る。


「取り込まれた上でも我に逆らうか、良い度胸だ」
ルシファーは左手を振り払い、爪を光らせる。
そして、黒い閃光を放ち、手首から切り落とした。
左手が床に転げ落ちると、たちまち青い霧が噴出する。
たちまち霧は人の形になり、祐樹が望んだその姿に変わっていた。

明光はすぐさま抜刀し、地面を蹴って突進する。
ルシファーは右手を前に出そうとしたが、途中で下ろした。
刀が深々と胸部に刺さり、体を貫く。

「運が良かったな、召喚者の精神力が高まっていれば、貴様など消し炭だ・・・」
ルシファーは黒い霧に包まれ、魔導書の中へ吸い込まれていった。
明光は刀を戻し、祐樹へ近付く。
あられもない姿を見て眉をひそめたが、すぐに服の乱れを直した。


「明光、お前・・・」
「言ったでしょう、私も貴方も、お互いに逃れられないのだと」
明光はベッドのへりに座り、祐樹の体を軽々と持ち上げ、横抱きにする。
恥ずかしい体勢だったけれど、祐樹は抵抗しなかった。
反発しないとわかると、明光はそっと身を引き寄せる。
ルシファーがいなくなって安心しているからだろうか、この状態がやけに安心して。
祐樹は、自分からも明光に寄りかかっていた。

「よく、分離できたな・・・」
「私自身も驚いています。どうやら、この指輪の呪いのようです」
明光は、左手の指輪を見せる。
黒かったはずの色は青く、綺麗な光沢があり。
まるで、誰にも侵されないことを示しているかのようだった。


「・・・なあ、もう平気だから、離してもいいんだぞ」
祐樹はそう諭したが、明光は腕を回したままでいる。
緊張が解けると、改めてこの体勢の恥ずかしさを実感し、落ち着かなくなった。
振り払うのも気が引けて、じっとしたままでいると、ふいに耳元に吐息がかかる。
どうしたのかと明光の方を向こうとしたけれど、その前に頬に手が添えられた。

「主、どうかそのままで・・・」
間近で囁かれ、思わず身を固くする。
そんな緊張のさなか、耳朶に柔らかいものが触れた。
「お前、何してるんだ・・・っ」
柔らかくて湿っているものは、さっきルシファーが無理に絡ませたものと同じ感触がして。
それは、ゆっくりと外側をなぞっていった。

「や、な、何・・・」
明光は何も答えず、そのまま祐樹の耳を舌で愛撫する。
外側をなぞり終えると、躊躇う様子もなく内までも侵し始めた。
祐樹の背に寒気が走り、身震いせずにはいられなくなる。
寒気に反して頬は熱くなり、羞恥が沸き上がるけれど、この感覚は不思議と拒否できないものだった。


抵抗しないでいると、明光はさらに奥へと自らを進める。
窪んでいる箇所を舌先で撫でられると、祐樹は一瞬口を開き、すぐに閉じた。
反射的に、自分の声帯から声が発されそうになる。
このままだとおさまりがつかなくなりそうで、祐樹は慌てて明光の胸を押した。

「っ・・・もう、止めろ・・・!」
声を押さえつけ、何とか訴える。
強制する気はないのか、明光は祐樹の耳から舌を抜いた。
それでも、まだ体は離さずに腕を回したままでいる。
このままでもいいかとふと思ったとき、珍しく扉が開く音がした。


「祐樹、さっきはごめんね。あなたの話も聞かないで、一方的に・・・」
広い家ではないので、玄関から人が入るとすぐに様子を見られてしまう。
突然、現れた母の姿を見て、祐樹は目を丸くして硬直していた。
「あ、あの、これは・・・こ、こいつにからかわれて・・・」
「明光!貴方、分離したの?」
「はい。主がそうしてくださいました」
祐樹を立てようとしているのか、明光はさりげなくそう言う。
しどろもどろになっている祐樹をよそに、母の姿を目にしても、明光は腕を解こうとはしなかった。

「よかったわ。だって、貴方は祐樹の元に来たがっていたものね・・・。
それはそうと、祐樹」
母の視線が向けられ、祐樹は恥ずかしく思いつつも前を向く。
「学校が辛かったら、帰っていらっしゃい。人間関係がうまくいってなかったら、転校したっていいんだから」
勝手に学校をさぼり、怒られそうなものだけれど、案外母の言葉は優しかった。
その言葉に、甘えてしまいたい気持ちはある。
今の学校に未練があるわけではないけれど、まだ転校するわけにはいかない。


「・・・まだ、行く。もうすぐ大きな大会があるから、そこで自分の力を試したいんだ」
「そう、わかったわ。結果を楽しみにしてるわね」
明光と祐樹の態勢には一切触れず、会話を打ち切る。
母が家から出て行くと、祐樹は溜息を吐いた。

「なあ、もういい加減に離さないか?」
再三言われ、明光はやっと腕を解く。
体が自由になっても祐樹はすぐに距離を置かず、その場に留まっていた。
「・・・お前は、オレの召喚魔になりたかったのか」
「はい。貴方の羨望の眼差しを、近くで感じてみたかったので」
昔のことを思い出し、祐樹はさっと視線を逸らす。

「あ、あれはお前を見ていたわけじゃなくて、母さんをだな・・・」
そこで、明光が指の腹で祐樹の唇をなぞる。
はっとして視線を合わせると、真っ直ぐな瞳で見詰められていた。
瞬間的に心拍数が高まり、動揺して顔を背けてしまいそうになる。
けれど、その前に、いつかのように頬を包まれていて、ゆっくりと明光が近づく。
これから先のことは予測できるのに、祐樹はまだ、退くことができなかった。


静かにお互いが重なり合い、目を閉じる。
相変わらず心音は落ち着きがないけれど、どこか、心地よいものがあった。
けれど、決して、甘ったるい感情は抱いていないはず。
この安心感は、慣れ親しんだ相手ゆえのもので。
それ以外の要因はないと、祐樹は自分に言い聞かせていた。

明光が唇を離すと、祐樹はつい俯きがちになる。
行為が終わると意識が頬の熱に集中してしまい、とても明光の顔を直視できなかった。
「貴方が私の名を呼んでくれてよかった・・・その身の貞操が奪われてしまう前に」
「て、ていそ・・・」
先のことを思い起こすと、それは大袈裟な表現ではないと実感する。
あれは、ルシファーなりの慰めだったのかもしれないけれど。
もしも明光が出てきてくれなかったらと、想像するとぞっとした。


「・・・いっそ、私が奪ってしまいましょうか」
冗談としかとらえられなかったけれど、明光の表情はいたって真剣で。
その視線に気圧されるよう、祐樹はわずかに体を引く。
すると、肩が軽く押され、ベッドに仰向けになった。

「な、何を、困らせるようなことを言って・・・」
本気だと言うように、明光は祐樹を見下ろす形になる。
緊張はしたても恐怖心はなく、突き飛ばす気にならない。
じっと視線が交わると、心音が反応した。

「主、全てを私に委ねていただけませんか」
「全てって、そんな事・・・」
許可してしまったら、どうなるのだろうか。
助けられたお礼に、望むことをさせてやりたい気持ちはあるけれど、踏ん切りがつかない。
迷いに迷っていると、急激に眠気が襲ってきた。
瞼がずしりと重たくなり、目を開くのが辛くなってくる。

「・・・今日は、寝かせてくれ」
精神力が枯渇しそうになっているのを察したのか、明光は素直に退いた。
「わかりました。・・・くれぐれも、あの輩には気を付けてください」
祐樹は返事をするのも億劫で、目を閉じた。
明光がそっと祐樹の頭を撫でると、ほどなくして寝息が聞こえて来るようになる。
そこで力が途切れ、明光は青い霧となり、魔導書の中へ消えた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
いかがわしくなる・・・と、思いきや本番はまだです。