召喚魔の思慕と誘惑9


大会も終わった後、祐樹は転校手続きを取っていた。
ルシファーを召喚したことで相手を見返すことはできても、一度気まずくなった関係は元に戻りにくい。
それなら、いっそのこと転校して白紙にしてしまったほうが早かった。
転校するのに登校する気にならず、ゆったりとした日を過ごしていたけれど。
母の元へ戻る前に、解決しておきたいことがあった。

「明光、出てきてくれ」
祐樹が呼ぶと、魔導書から青い霧が立ち上り、すぐに明光の姿になる。
「主、どうかしましたか」
「・・・まあ、どうかしてる」
少し言いにくそうに、祐樹はもごもごと口を動かす。

「あのさ・・・お前、依存を直す方法、わかるか。あいつの、血から」
誰を指示しているのかわかると、明光は眉をひそめた。
力を使うと、喉が渇いて仕方がなくなる。
そして、ルシファーの血を求めてしまう。
これを解消しなければ易々と召喚できず、力が抑制されて。
転校先でも、また登校したくなくなることを懸念していた。

「あの輩には気を付けて下さいと申しましたのに・・・」
「ぐ・・・」
言い訳できなくて、祐樹は唇を噛む。
誘惑を目の前にして、どうしても逃れられなかったのが情けない。
依存性があるにしても、確固たる自制心があれば抑制できるはずだった。
それでも、されるがままになってしまったのは、何か他の要因があるのかもしれないけれど。
それが何なのか、判明させないよう深く考えないようにしていた。


「主が、あの輩の気に侵されているのはわかります。それを放出させなければならないでしょう」
「オレも、血を流せばいいのか」
「いえ、それでは貧血になってしまいますので、他の物で出す必要があります」
嫌な予感が、脳裏をよぎる。

「他のもの、って・・・」
明光が祐樹をじっと見詰め、距離を詰める。
手の届く範囲まで来ると、逃げないでほしいと言うように、その頬に手を添えた。
何を言わんとしているのか予測がつくからか、それだけで祐樹は動揺する。
「主は、一人で欲求を解消されることはないのですか」
「そ、そんなこと・・・召喚すると疲れるから、そんな余裕ない」
その行為を言うのも恥ずかしくて、祐樹は俯きがちに目を伏せる。

「では、私がします」
「は・・・?」
当たり前のように告げられたものだから、思わず呆けた声を出す。
呆気にとられている最中に、祐樹は腕を引かれ、ベッドに腰掛けるよう促された。
「ちょ、ちょっと待て、こんな、急すぎる」
「なら、いつならよろしいですか」
間髪入れず問われ、祐樹は言葉に詰まる。

「・・・こういうこと、普通は、夜にするんじゃないのか」
「わかりました。では、夜までお待ちしています」
「で、でも、まだ、するなんて言ってな・・・」
続きを聞く気がないのか、明光はさっと離れて行く。
祐樹はぱくぱくと口を動かしていたが、諦めたように項垂れた。




夜になるまで、祐樹は全く落ち着きがなかった。
明らかに口数が少なくなり、本を読むにしても同じページを読み続けていて。
何度も時計を見て、陽が落ちて来ると何も手につかなくなった。

どんなに緊張していても、時間の流れを止めることはできなくて、とうとう辺りが暗くなる。
明光が立ち上がると、祐樹は硬直した。

「主、そろそろいたしましょうか」
「わ、わ、かった」
しどろもどろになりながらも、覚悟を決めてベッドに座る。
自分から依存を直したいと言ったとはいえ、緊張して仕方がなかった。
明光は祐樹の横に座り、唇を寄せる。
祐樹が反射的に目を閉じると、やんわりと重なり合った。

そこからわずかな体の震えが伝わり、安心させるよう祐樹を抱き留める。
一旦口を離し、少し間を空けてからもう一度重ねた。
深く自身を進めることはせず、柔い唇を甘噛みして、少しずつ刺激を与えていく。
「ん、ん・・・」
祐樹の鼻から声が抜けて、羞恥が募る。
それでも、優しげな行為に少しずつ緊張感は薄れていった。


落ち着いてくると、明光は祐樹の上着を脱がそうとする。
行為が進められるのだと思うと、祐樹はとたんに慌てた。
「ちょ、ちょっと待て・・・上は、別にそのままでもいいだろ」
「ですが、汚れてしまいます」
なにがどうなって汚れてしまうのか、それだけで理解できて、想像してしまう。
祐樹の体は完全に強張り、呼吸が浅くなった。

「そんなの、洗えば取れる。ま、前、肌着を一枚駄目にされたから・・・とにかく、上はいいだろ」
明光はルシファーのように、服を切り裂くなんてことはしないと思うけれど。
少しでも羞恥心を軽減したくて、苦しい言い訳をしていた。
「余すところなく触れたいところですが、そう仰るのなら従います」
さらりと大胆なことを言い、明光は上着から手を離した。
祐樹がほっとしたのも束の間、今度は肩に手がかけられる。


「ちょ、ちょっと・・・別に、横にならなくてもいいんじゃないか、座ったままのほうが、いい」
自分が下になると、全てを自由にされてしまう気がして。
万が一の時に止めようとしても、抵抗できなくなることを心配していた。
「私と行為を進めるのは、不安ですか」
じれったさを覚えたのか、明光は祐樹と視線を合わせて問う。
真っ直ぐに見詰められると不安だなんて言えなくて、祐樹は小さく首を振った。

「そうじゃない。ただ・・・こんな、大それたこと、されたことないから・・・怖気づいているだけだ」
祐樹が正直に言うと、明光は微かに笑みを浮かべた。
「無茶なことはしません。どうか、委ねていて下さい・・・」
「う・・・ん・・・」
静かに諭され、祐樹はおずおずと頷く。
普段と違う控えめな様子に煽られ、明光は下肢の留め具を外しにかかった。

自分が何をされているかを見ると、きっと動揺してしまうので祐樹は顔を逸らす。
見えなくても、下半身が露わになることは感じられて、かっと頬が熱くなった。
また祐樹が躊躇ってしまわない内に、明光は中心のものを掌で包み込む。

「っ、ぁ・・・」
敏感な個所を包まれ、祐樹は吐息をつく。
慣れない刺激は、気を落ち着かせなくさせるには十分だった。
早急にしないよう、明光はゆったりと手を動かす。
一回往復するたびにそこに熱が溜まっていくようで、体が熱くなる。


「怖くはありませんか」
「っ・・・平気だ」
強がりではなく、本当に以前のような恐怖は感じられなかった。
怯えがないとわかると、明光は勃ちかけているものを指先でなぞる。
裏側をすっと撫でると、祐樹の肩が驚いたように跳ねた。

「あ・・・っ、そこ、やめ・・・」
「ここが弱いのですね」
静止の声は届かず、明光は同じ個所を二度三度と愛撫する。
「ん・・・っ、う、ぅ・・・」
祐樹は必死に声を抑えていたけれど、体の反応はごまかしようがなかった。
ひときわ感じやすい個所に触れられていると、息が荒くなっていく。
呼吸の合間に漏れるかすかな声が、自分のものだなんて信じられなくて。
祐樹は顔を見られないよう、俯いていた。

「主、どうか顔を隠さないで下さい・・・」
明光が一旦手を止め、祐樹の頬に手を添えて前を向くように促す。
祐樹は少し躊躇ったものの、抵抗せず望むようにした。
すると、また下肢の手が、反応させるよう一点をなぞる。

「あ、ぁ・・・っ・・・」
再開された動きに、つい声を上げてしまう。
やや上ずった声は祐樹に多大な羞恥心を与えると共に、明光を高揚させていた。

「こんなに頬を赤く染めて・・・可愛らしい」
「ふ、ふざけたことを言うな・・・っ」
褒め言葉とはとても受け止められなくて、歯を食いしばる。
その表情を崩させようと、明光の手はもう止まることはなかった。
裏側だけでなく、全体を包み込んでなだらかに撫でていく。

「は、あ・・・ぁっ・・・」
他人の手による愛撫は、予想以上に快感が強くて。
口をつぐもうとしても、声がどうしても抑えきれない。
もはや、下肢のものは明光の手の中で完全に勃ちきっていた。
どんどん熱いものがつのっていって、思わず明光にしがみつく。
少しでも耐えようとしたけれど、下肢からは先走った液が零れ始めていた。

「堪えなくてもいいのですよ。体は、そろそろ限界のようですから」
明光は指にまとわりつく液をすくい、それ自身に絡みつかせる。
「ひ、ぁ・・・」
粘液質な感触は、いっそう淫らな感覚を与えるようで。
潤滑剤と共に撫で回されると、祐樹はか細い声を発した。


心音はとっくに落ち着きがなくて、座っているだけなのに体が熱くてたまらない。
まるで、早く解放してほしいとせかしているようだった。
求めるように、手が勝手に明光を引き寄せる。
それだけでも、明光の理性も吹き飛んでしまうようで、祐樹の耳朶を甘噛みしていた。
舌を出して耳の形をなぞるその間も、祐樹のものには触れ続ける。

「あ、うぅ・・・ま、て・・・汚れる・・・っ」
「やはり、脱いでおいた方がいいようですね」
明光は、片手で祐樹の上着を脱がそうとする。
「っ、違う・・・お前の服が、汚れるって言ってるんだ・・・!」
明光は、目を丸くして祐樹を見る。
こんな状況でも、相手のことを意識していることに驚いていて。
同時に、気を遣われていることが喜ばしかった。

「・・・大丈夫です、召喚し直してくだされば元に戻りますから・・・」
「っ、でも・・・」
そんな懸念など気にならなくさせるよう、明光は祐樹の耳をも侵し始める。
「あ、あ・・・っ」
敏感な部分を二か所も攻めたてられ、体が小刻みに震える。
溜まった気を解放させる行為のはずなのに、逆に侵食されてしまうようだった。
もう達させてしまうよう、明光は祐樹の弱い個所を、滑らかな手つきで愛撫する。
高まり切った熱は、液の感触としなやかな指先の動きに耐えきれなかった。

「明・・・光・・・っ、あ、あぁ・・・!」
ひときわ上ずった声が発され、明光の服を強く掴む。
全身の熱が下肢に集中するようで、次の瞬間には、解放されていた。
お互いの間で白濁が散布され、明光の手を濡らす。
祐樹は大きく息を吐き、徐々に力を抜いていった。


「終わった・・・か・・・?」
どうなったのかが気になって、まだ息も整わないまま問いかける。
「やはり、体の内まで侵されていたようですね」
明光が祐樹のものから手を離し、手に絡みついているものを見せる。
それは完全な白色ではなく、中に細かな粒子があった。
恐らく、ルシファーの血液から生成されたもので。
そう思うと、また熱が上ってきそうになり、視線を逸らしていた。

祐樹が見ていないうちに、明光はその手を口元へ持って行く。
そして、嫌悪することもなくそこへ舌を這わせていた。
視界の片隅で明光が妙なことをしているのがちらと見えて、祐樹は目を見開いた。
「なっ、お前、何てことしてるんだ!」
祐樹は慌てて明光の手首を取り、止めようとする。

「私は、一時的にあの輩と合成されていたので免疫はあります」
「そういうことじゃない!さ、さっさと何かで拭いとけ!」
「ですから、こうして拭おうかと」
祐樹が焦る様子をおかしく思いつつ、明光はまた液を口内へ含む。
一向に止める様子がないので、祐樹は諦めて観察していた。
自分が出したものが嚥下されていくと無性に恥ずかしくなるけれど、不思議と目が離せない。
その行動は、相手の全てを独占してしまいたいと、そう示されている気がしたから。

あらかた弄り終えると、明光は満足したようで、やっと手を下ろす。
羞恥心というものがないのか、顔を赤らめることさえなかった。
「・・・これで、もう血の誘惑に乗ることはないんだよな」
こんな恥ずかしい行為を許したのも、全ては依存から逃れるため。
確認すると、なぜか沈黙が流れた。


「まあ、多少はましになるかと」
「多少は・・・って、どういうことだ?」
詰め寄ると、明光はふいと視線を逸らした。

「も、もう平気になるんじゃなかったのか」
「・・・一回で、とは言っていません」
祐樹は唖然とした後、きっと明光を睨む。
「お前、召喚者を騙すようなことをして・・・!」
強く言いかけると、明光は祐樹と向き直った。

「申し訳ありません。・・・ただ、貴方の身を案じてしたことは確かです」
召喚魔が、召喚者を気にかけるのは当たり前のことだけれど。
明光の言葉には、特別な意味が含まれているようだった。
それは、親が子を慈しむような、母性に似たものかもしれない。
親愛だけでは、こんな行為をする説明がつけられないかもしれないけれど。
そう信じていなければ、これ以上の禁忌に足を踏み入れていってしまう気がしていた。

「とにかく、少しはましになるんなら・・・」
「一つ申しておきたいのですが、主が合意の上で行為をされるのなら、邪魔はいたしません。
ですが、無理強いされた場合はすぐに私の名を呼んで下さい。必ず、貴方の身をお守りいたします」
明光は、祐樹の身を抱き寄せ、誓いの言葉を告げた。
決して裏切ることのない信頼感は、祐樹の耳に強く残る。


「・・・本当、だな」
「はい」
間髪入れない返事に、どっと安心感が溢れてくる。
祐樹は自然と、明光に身を寄せていた。

ずっと、そんな相手が欲しくてたまらなかった。
親の元を離れ、不安で仕方がなかったとき、召喚魔の力だけを高めようと決めていた。
そうすれば、自分から離れることのない、確固たる存在と共に居られるようになるはずだから。

そんなことは、口が裂けても言えない本心だけれど。
明光に寄り添っている今、見透かされてしまっているかもしれなかい。
それでも、言い訳も反論も告げずにいるのは。
明光になら、弱々しい本心を悟られともいいと、そう思っているからかもしれなかった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
祐樹はもう明光に心を許しています。
次のいかがわしい話で、一応は完結です。