タイガー&バニー


最近、バーナビーのスケジュールは超がつくほどの忙しさだった
毎日のようにインタビューや撮影会が入っており、ほとんど暇がない
虎鉄は、暇な自分との差があまり面白くなかったが
忙しそうにしているバーナビーの労をねぎらってやりたい気持ちもあった

「バニー、どうだ、今夜飲みに行かないか?」
インタビューが終わったところをつかまえ、声をかける
バーナビーは一瞬嬉しそうな表情をしたが、すぐに神妙な顔つきに変わった
「すみません、今夜はもう先約が入っているので無理です」
「そ、そうか。なら、明日はどうだ?」
「ああ、明日の夜なら・・・」
そう言いかけたところで、バーナビーの携帯が鳴った

「あ、ちょっとすみません」
バーナビーは虎鉄に背を向け、携帯を取る
「はい。・・・え、明日?・・・はい、いいですよ、わかりました」
会話が終わると、バーナビーは虎鉄に向き直った
「すみません、今しがた明日の夜も予定が入ってしまいました」
「何だよ、俺は後回しかー?」
自分が先に予定を尋ねたのに仕事を優先され、虎鉄はすねたように言う

「すみません。・・・じゃあ、来週の日曜はどうですか?
そこには、仕事を入れないようにしますから」
「んー、わかった。そんじゃあ、また日曜にな」
来週の日曜と言うと、後4日もある
それまでスケジュールが詰まっているバーナビーを、虎鉄は心配したが
仕事のことにいちいち口出しすまいと、それ以上しつこく言わなかった



そして、日曜日の夕方頃
虎鉄が待ち合わせたバーへ向かおうとしていたところで、バーナビーから着信があった
「何だ、バニー。まさか、また予定が入ったなんて言うんじゃねえだろうな」
虎鉄は、少し嫌な予感を抱きつつ問いかける

「いえ。ただ、バーへ行くのもいいんですが、今日は僕の家に来ませんか?
練習したチャーハン、ごちそうしますよ」
「おっ、ちったあ上達したのか?そんなら、今から行くわ」
バーナビーから家に招待されるのは初めてで、虎鉄の機嫌は一気に良くなった
信頼関係を築いた仲だということを、実感できる気がして
虎鉄は意気揚々と、バーナビーの家に向かった



バーナビーの家の前に着くと、虎鉄はノックもなしに扉を開けた
「おーい、来たぜ、バニー」
部屋に入ると、米を炒める音といい香りが漂ってきた
「どうぞ、上がって来て下さい。今、手が離せないんです」
キッチンへ行くと、そこには真剣な表情でチャーハンを炒めているバーナビーがいた
意外と本格的に調理しており、焦がさないように必死になっているようだった
もう仕上がる直前なのか、香りがキッチンを包んでいる

「良い香りだな、香辛料入れたのか?
おっ、でかい海老も入ってるじゃねえか、豪華だねえ」
虎鉄が、興味津津と言った様子で様子を伺う
まだ不慣れで視線を外す余裕がないのか、バーナビーはひたすらお玉を動かしていた

「あー、そんなに強くやったら米が飛び出るぞ。ほら、もう少し力抜いて」
虎鉄は、自然な動作でバーナビーの手を取る
その瞬間、バーナビーは驚いたように目を見開いた
自分より大きく、無骨な手
女性受けは悪いかもしれないが、そんな手に包まれると、逆に肩に力が入ってしまう
バーナビーは、たまらずコンロの火を消していた

「もう、できましたから。虎鉄さんは座って待っていて下さい」
焦りを見せないよう、何とか声を冷静に保って言う
「ん?そうか。じゃ、お言葉に甘えて」
虎鉄はぱっと離れ、キッチンから出て行く
バーナビーは、先程まで包まれていた手をじっと見ていた



「お待たせしました。冷めない内にどうぞ」
山盛りのチャーハンを虎鉄の前に置き、バーナビーは正面に座る
「おっ、うまそうだな。そんじゃ、いただくとするか」
虎鉄は、大きな口を開けてチャーハンを頬張った
「・・・どうですか?」
バーナビーは、やや緊張して尋ねる

「・・・うめー!味付け丁度良いし、海老の旨味が出てるし
ひょっとしたら俺が作るよりうまいかもしれねーな」
「ありがとうございます。でも、褒めすぎですよ」
バーナビーは、嬉しそうに顔を綻ばせた
インタビュー中にだって、褒められることはよくある
けれど、今の褒め言葉はインタビュアーのものとは比べ物にならないくらい嬉しいものだった
バーナビーは安心して、自分もチャーハンを食べ進めてゆく
それを見て、虎鉄は不思議に思う事があった

「あれ、お前、海老を避けて食べてねーか?嫌いだったっけか」
気が付くと、バーナビーの皿には海老が多く残っていた
「いえ、逆です。僕、好きなものは最後にとっておきたいタイプなんです」
「ふーん、そうなのか。ま、楽しみが最後にあると気分良くなるよな」
虎鉄は、その言葉をさして気にしていないようだった
だが、バーナビーはじっと虎鉄を見ていた
「ん、どうした?」
不思議そうに尋ねると、バーナビーはふいに虎鉄の手を取った

「好きなものをとっておきたいのは、人間関係でも同じなんです。
誘いを一度断って、後回しにしたのは・・・
虎鉄さんとこうして過ごすことを、最後の楽しみにしたかったからなんです」
「バ、バニー・・・」
真剣な眼差しが、冗談などではないと告げている
仕事を優先したことにそんな理由があったとは思わず、虎鉄は内心動揺していた

「今日は・・・泊まっていって下さい。
この日のために、仕事は全て終わらせてきましたから」
「あ、ああ、別に、いいけど・・・」
この日のためにと言われると、虎鉄は断れなかった
バーナビーは思わず、やんわりと頬笑む
そのとき、これほど幸せそうな表情を見たことがなくて、虎鉄はまた動揺していた

「と、泊まるのはいいからよ、さっさとチャーハン食べねえと冷めちまうぞ」
「あ、そうですね」
バーナビーは手を離し、とっておいた海老を食べ始める
虎鉄は、なぜ手を重ねられただけで、自分がこんなにも動揺するのかわからないでいた




その後、とりとめのない会話を楽しんでいる間はよかった
けれど、眠るときになって、虎鉄はまた動揺することがあった
「お、俺はソファーで寝てもいいぜ。別に・・・」
動揺した理由は、客人のためのベッドなどないこと
一つのベッドを目の前にして、虎鉄はなぜか落ち着かなくなっていた
「虎鉄さんをそんな扱いするわけにはいきません。
大丈夫ですよ、僕、寝相は良いですから。」
「そ、そうか」
普通なら、大の大人が一緒に寝るなんて、断固として断ってもいいことのはずだったが
素直に、バーナビーの言葉を聞いてしまっていた

今更じたばたしても仕方がないので、虎鉄は少し緊張ぎみにベッドに横になる
その隣に、いたって平然とした様子でバーナビーも寝転がった
スーツを着ていないのに眼鏡を外しているバーナビーが珍しいからか
それとも、この状況に困惑しているからか、虎鉄は、相手の様子をちらちらとうかがっていた

「あー・・・じゃ、じゃー、もう寝るか。
お前、明日も仕事で忙しいだろうし、お休み!」
あまりバーナビーの横顔を見ていると、変な気分になってしまいそうで
虎鉄はまくしたてるように言い、背を向けて目を閉じた
だが、自分のすぐ後ろにバーナビーがいると思うと、とてもリラックスして眠ることはできなかった


「・・・虎鉄さん」
バーナビーが、静かに呼びかける
「な、何だよ・・・」
ぎこちない返事をすると同時に、虎鉄は自分の背に人の体温を感じた
はっとして振り返ろうとするが、体に腕がまわされ動けなくなる
「ど、どーしたバニーちゃん、人恋しくて眠れないのか?」
焦りを隠すよう、おどけて言う

「・・・はい、人恋しいんです」
冗談で言ったことを真面目に返され、虎鉄はさらに焦る
「そ、そーかそーか。それなら、おじさんが頭でも撫でといてやるから、腕放せ、な?」
「嫌ですよ。折角、虎鉄さんと一緒にいられるのに」
放すどころか、バーナビーは腕に力を込めて虎鉄を引き寄せた
触れ合っている感じが鮮明になり、虎鉄は一瞬胸の動悸を覚える

「よ、よーしわかった、抱き枕が欲しいんだったら今度買ってきてやるよ。
お、おじさんじゃあ抱き心地悪いだろ?」
胸の動悸をごまかすように、またおどけるように言う
けれど、その口調に余裕はなくなってきていた
「そういうことじゃないんです。・・・本当に、あなたは鈍い」
バーナビーは一旦腕を解き、身を放す
そして、相手がソファーへ逃げてしまわない内に、肩を掴んで仰向けにさせた

バーナビーを見上げる形になって、虎鉄は視線を泳がせる
真っ直ぐに見詰めてくる瞳を、直視できない
「この日のために・・・寝る間も惜しんで、スケジュールを消化してきました。
・・・虎鉄さんと、こうしたかった」
バーナビーは、ふいに虎鉄の頬に掌を触れさせる
そのとき、虎鉄はまた自分の心音が反応するのを感じていた
おかしなことだとわかっていても、どうにもならない
抵抗しないままでいると、バーナビーがゆっくりと身を下ろしてくる

「お、おい、バニー・・・」
呼びかけても、止まる様子は無い
跳ね退けるべきだろうかと、そう思ったが
バーナビーが目と鼻の先まで近付いたとき、虎鉄は自然と目を閉じていた

お互いが、もう言葉を発せなくなる
柔らかな感触のものは深く覆い被さり、その温もりを与えた
相手が、心を許した相棒だからだろうか
虎鉄は、今のこの状態が、少しも嫌だとは思っていなかった


やがて、バーナビーが身を離し、虎鉄をじっと見詰める
そして、聞こえるか聞こえないかの、細い声で呟いた
「好きです、虎鉄さん・・・」
それだけ言うと、バーナビーは寝転がり、背を向けた
虎鉄は、今の「好き」が相棒に対しての好意ではなく、もっと深いものだと感じていた

「・・・虎鉄さんが困るようでしたら、忘れて下さい。
夢でも見ていたのだと、そう思ってくれて構いません」
背を向けたまま告げられる
気のせいだろうか、その背が寂しそうに見えるのは
たまらず、今度は虎鉄がバーナビーの肩を掴んで仰向けにした
バーナビーは、目を丸くして虎鉄を見上げる

「一方的にやっといて、忘れろはねえだろ。
・・・別に、お前の一人よがりじゃない」
「それって、どういう・・・」
問いかけようとしたとたん、その口は塞がれた
バーナビーは一瞬目を見開いたが、すぐに瞼を閉じた
戸惑いが残っているのか、まるでぶつけるような口付けだったが
自分を認めてくれたんだと実感できて、至福以外の何物でもなかった

羞恥心が限界に達したのか、虎鉄が身を離す
そして、さっきのバーナビーと同じように背を向けて横になった
可愛げのある相手を見て、バーナビーはくすりと笑う
「お休みなさい、虎鉄さん。・・・ありがとう、ございます」
「お、おー。・・・じゃ、じゃー、お休み」
また背後から抱きしめたい衝動にかられたが、眠れなくなりそうなのでここは我慢する
今は、自分の思いを認めてくれて、紅潮した様子が見られただけでも満足だった




―後書き―
以前、タイバニにはまり、そんでもって薄い本がわんさかあるイベントに行って来たのがきっかけで
初めて、兎虎小説書いてみましたー
おじさんは対象外だと思っていたんですが・・・タイバニのおじさんは別でした!←
今から夏の映画が楽しみすぎます(*^^*)