どこでもいっしょ10


昨日、リクはトロに毛づくろいをすると言ってしまった
もののはずみで言ったことだが、期待を裏切ることはできない
けれど、その前に、一つだけトロに頼みたい事があった

「トロ、今日、毛づくろいするって言ったけど・・・」
「うん!リクと初めてだから、楽しみだニャ〜」
こうも楽しみにされると、尻込みするわけにはいかなくなる
だから、リクは自分を怯ませないために頼んでいた

「クロから聞いたんだけど、トロって、男の子にも、女の子にもなれるのか?」
「うん。ニンゲンになるとき、どっちにしようかな〜って考えてるのニャ」
「なら、今日は男の子でいてほしい」
リクは、女性と恋愛をしたこともなければ、もちろん素肌を見たこともなかった
万が一、トロが少女の姿でいたならば、自分はきっと動揺して、何もできなくなってしまう
かと言って、少年の裸を見慣れているわけではなかったが、自分と同じ作りをしているのならば大丈夫だろうと思っていた

「わかったニャ!トロ、今日はずっと男の子でいるのニャ」
リクは、ほっと軽く溜息をつく
それでも、本当に、自分がクロにされたことと同じようにできるだろうかと、不安感は拭えなかった




そうして、踏ん切りがつかないでいる内に、あっという間に夜になってしまった
今日はもう眠るだけ、という状態になっても、リクは行動できないでいる
いつのもように並んでベッドに入ったが、顔を見ることができない
リクがずっと仰向けのままでいると、ふいにトロが手を握った

「ね、リク、毛づくろいむずかしかったら、ムリしないでいいよ」
思いがけない気遣いをされ、リクがトロの方へ顔を向ける
「ニンゲンって、あんまり毛づくろいはしないもんニャ。だから、リクがしたいと思ったときでいいのニャ」
「・・・トロは、してほしかったんじゃないのか」
「もちろん、リクにしてもらえたら、きっとしあわせ〜って思うのニャ。
でも、トロだけがしあわせになってもダメなのニャ。リクも、しあわせ〜にならないとニャ」
その言葉に、リクの心は揺れた
トロはこんなにも自分の幸せを願ってくれているのに、望みに応えられないでどうするのかと

空き地にいたときから、ずっとトロの存在に救われてきた
孤独感に苛まれていた日常が嘘のように消え、毎日が楽しくて、温かかった
そんなトロの想いを、受け止められないままでいいはずがない
今度は、自分がトロを満足させる番だ

リクは突然、眠ろうとしているトロの両側に手をつき、見下ろした
「リク?」
「トロ、ごめん。僕、度胸がなかった・・・でも、決めた。僕もトロの想いに応えるよ」
リクは、そっとトロの頬を撫でる
柔らかな肌の感触が心地良くて何度も愛撫すると、トロはうっとりと目を細めた
そんな姿を見ると、もっと触れたくなって
リクは思いきって、トロの頬に手を添えたまま唇を重ねた

「ふみ・・・」
頬とはまた違う感触に、トロだけでなくリクも心地良い物を感じる
少し強く重ねると、自然と唇が開かれた
リクは、その隙間から自分のものを入り込ませる

「にゃ・・・ん・・・」
同じ物が触れ合うと、トロから小さく声が聞こえてきた
その声がたまらなく可愛らしくて、もっと聞きたくなってしまう
リクはトロの柔らかい舌に触れ、やんわりと絡めた
その時点で、トロの吐息が少し熱を帯びてきていて、その熱に惹かれるように自身を動かす
最初は、自分からこんなことをしたことがなくて戸惑いがちだったけれど
液体の感触も相まって、羞恥以上の感覚に支配されてゆくようだった


絡まりを解くと、トロの眼差しがいつもと違うことに気付く
あどけない瞳には、まるで、発情期のような、そんな色っぽさが含まれていた
そのとき、リクはもう歯止めが効かないと自覚した

トロの服に手をかけ、上半身を露わにする
思えば、風呂に入る時はいつも猫になっていたので、こうして素肌を見るのは初めてだった
髪も白ければ肌も白くて、日焼けしていない色が綺麗に見えて、思わず胸部の辺りに頬を寄せていた

「リク・・・」
胸部から、とくん、と心音が聞こえてくる
少し早い音は聞き心地が良くて、安心する
ふいに、この心音をもっと早くしてみたくなって
リクは自分がされた事を思い出し、傍にある起伏へ舌を触れさせていた

「ん・・・っ」
トロの体が、わずかに震える
以前に自分が触れられたときと同じものを感じているんだと、リクはそこを口に含む
そして、舌先でやんわりと愛撫すると、トロの体が強張った
そうして触れていると、柔らかかった物が少し固くなってきて
少し躊躇いがちに、軽く吸い上げた

「や、ぁ・・・にゃ・・・なんか、トロ、おかしいよ・・・」
そのとき、下腹部にさっきまで感じられなかった者が当たる
初めて自分が反応していることに戸惑っているんだと、リクはくすりと笑った

「大丈夫だよ、それが普通のことだから」
リクは口を離し、トロの下半身の服に手をかける
もはや羞恥心が麻痺しているのか、躊躇いはなかった


服をずらすと、トロの小さなものが露わになる
それを手で包み込もうとしたが、毛づくろいなのだから他のものを使わなければならない
リクは、その小さなものへ、そっと舌を這わせた

「ふにゃ、んっ・・・」
トロが小刻みに震え、確実に感じているとわかる
上ずった声が、リクの行動をエスカレートさせてゆく
軽く触れるだけだったものが動きを増して、余すところがないように弄る
先端に触れると、トロの体が驚いたように跳ねた

特にそこが感じるのだと、リクは何度も舌を這わせる
そのたびにトロが反応して、愛おしくてたまらなくなる
そんな姿を見ていると、ただ舐めるだけではおさまらなくなってきて、先端を口内へ含んでいた

「あ・・・っ!にゃ・・・んん・・・」
一瞬、トロの声がとても高くなった
聞いた事のないトーンの声はとても印象に残って、リクの動きを誘発させる
羞恥心なんてもはや気にならなくなり、ただ、感じさせたいという思いが先行していた
先の方だけではあきたらず、敏感なものを口内へ含んでいく
その中の温かな温度と液に反応しているのか、トロが再び声を上げた

「ふにゃ・・・リク、リク・・・っ」
怯えが混じった声が聞こえ、リクはすぐトロを離す
身を起こして顔を覗き込むと、トロは頬を真っ赤にして震えていた


「トロ・・・怖い?」
「ううん、違うの、怖くないけど・・・トロ、心臓ばくばくして、おかしくなっちゃいそうなのニャ・・・」
寝転がっているだけなのに息が荒くなって、体温が熱くなって
トロは、今自分が感じているものが何なのかわからなくて、戸惑っていた
リクは、安心させるように優しく頭を撫でる

「人間同士なら、当たり前のことなんだよ。・・・もうすぐ、気持ち良くなるから」
クロの受け売りなのだが、その言葉にトロは安心したように笑った
言葉一つで、トロは笑ってくれる
完全に信頼されていて、委ねられていると思うと、昨日の自分と同じように気持ち良くさせたくなった

トロの震えがおさまると、リクは再び身を下ろす
そして、まだ起ちきったままのものを口に含んだ

「にゃ・・・っ、ん・・・ぁ・・・」
愛くるしい声が、リクに拍車をかける
刺激を受けて膨張していても小さくて、根元まで含むのにあまり苦労はしなかった
リクは目を閉じ、口内のそれを柔い舌で愛撫する

そうやって弄りつつ、噛まないよう慎重に口を動かすと、それが脈打つのが感じられた
先端から、粘り気を帯びた液体がわずかに流れ落ちる
その液が舌に触れたとき、独特の苦みを感じたけれど、口を離すことはなかった
むしろ、液を完全に解放させたくなって、全体的に弄ってゆく
そして、胸の起伏に触れた時の様に軽く吸い上げると、トロの体がびくりと跳ねた

「あっ、にゃっ、リク、ダメ・・・っ」
自分の限界を感じ取ったのか、トロがリクへ手を伸ばす
その手が頭に触れた瞬間、さらに強く自分のものが吸われていて、全身に衝撃が走った

「あ・・・ぁ、にゃ、あ・・・ん・・・!」
恥じらいを忘れた声と共に、リクの口内にあるものが強く脈打つ
次の瞬間には、昂りきった欲が解放されていた
粘液質な液体が、独特な匂いを伴って口の中へ広がる
リクは、液を溢さないように、慎重に口を離す
そうして、粘り気のある白濁を、思い切って飲み込んだ
喉の奥にひっかかり、苦みがあって、決して美味しいものではなかったけれど
他でもないトロのものだと思うと、吐き出す気にはならなかった

何回か喉を鳴らし、何とか全て飲み干す
相変わらず苦みと匂いは残っていたが、トロを自分のものにしたような気がして、満足感に溢れていた
視線を上げると、息を荒げているトロが見えて、顔を覗き込む
頬が染まり、熱っぽい息を吐いている様子に、瞬く間に見入っていた

「ふみ・・・リク・・・」
求めるように手を伸ばされ、リクはそっとトロを抱きしめた
行為の余韻で体がとても温かくなっていて、油断するとこのまま眠ってしまいそうになる
髪の毛を撫でると、トロは甘えるようにリクに擦り寄った
先の衝撃に驚いたのかもしれないと、リクは腕に力を込めて抱き寄せる
自分は何もされていなくとも、こうして甘えられるだけで大きな充足感を覚えていた


「リク・・・トロ、体から何か出てきちゃって・・・もしかして、ビョーキかニャ・・・」
「そんなことないよ。僕も、そうなったから」
「よかった・・・トロ、フシギな感じになって・・・・・・キモチ、よかったのニャ・・・」
何も分かっていない、まだ幼いトロが可愛らしくて仕方がなくい
抑えが効かなくなりそうになったが、欲情の対象にするのはまだ罪悪感があった

「リク・・・ちゅー、したいニャ・・・」
リクは一旦トロと向き合ったが、戸惑った
今は口の中に味が残っていて、きっとトロを不快にさせてしまう
せめて口を濯いでからと思ったけれど、まわされた腕を無理矢理振り解くのも気が引けた

「あの、トロ、僕の口、今は・・・」
今は駄目だと言おうとした瞬間、手が急に後頭部にまわされ、そのまま引き寄せられていた
唇が、トロと重なる
苦いものを感じさせてしまうと、リクは離れようとしたけれど
案外手が強くまわされていて、あっという間に深く重なり合っていた

「ん・・・っ」
閉じる暇のなかった唇から、柔いものが入り込んできて
まさかトロからされるとは思わず、リクは驚いて動きを止める
その間に舌が絡まり、お互いの液が交わっていた
味も匂いも感じているはずなのに、トロは離れない
しきりに動く舌は、口内の全てに触れるようにせわしなく動く
まるで、この苦みを舐め取ってくれているようで、リクは身動きせず、トロに任せていた


やがて、トロが名残惜しそうに身を離す
リクの口内にあった苦味は、ほとんどなくなっていた
「リク・・・大好き・・・」
トロは、溢れ出た感情をそのまま告げるように、自然に呟いていた
リクの心音が瞬間的に高鳴り、微笑まずにはいられなくなる

「僕も、トロのことが好きだよ・・・」
リクも、愛しさを込めてトロに告げた




翌日、リクが目を覚ましたとき、服がはだけたままでいるトロの姿を見て目を丸くした
そして、すぐに昨日自分がしたことを思い出していた
毛づくろいということで行った、あられもない行為を
気が落ち着いた今、思い起こすとやけに恥ずかしくて、トロの服を直そうとする
そのとき、トロがむにゃむにゃと言葉にならないことを呟き、薄らと目を開いた

「んにゃ・・・リク、おはようですニャ〜」
「お、おはよう」
服が乱れたままトロが起き上がり、リクは動揺する
トロはぼんやりとしていたが、自分の服を見て昨日のことを思い出したようだった
そして、じっとリクを見詰め、思いきり抱きついた
素肌が触れて、リクは硬直する

「リク・・・トロ、できちゃったみたいなのニャ」
「え」
「責任、とってもらいますニャ!」
トロが満面の笑みで告げる一方で、リクは息が詰まるほど驚いていた
けれど、後半の言葉はクロに教え込まれたのだろうと察して
まるでドラマのような台詞に、リクは笑っていた

「わかった、責任取るよ」
「ほんと!?これで、リクとケッコンできるニャ!」
トロは、喜びを抑えきれないように、リクの首元に擦り寄った
正直に言うと、それほど重大な意味が込められているとは思わず、軽々しく返事をしてしまっていた
けれど、撤回しようとは微塵も思わない
素直に甘えてきてくれる、この愛しい相手を手放すなんて、もはや考えられなかった


「トロ、ずっと、一緒にいよう。・・・これからも、どこでもいっしょだよ・・・」
リクは、トロを抱き締め、真っ白な髪に頬を寄せた




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
完結までどれだけ時間かかってんだって感じですね・・・大変申し訳ありませんでした。
どこでもいっしょの雰囲気に沿って、ほのぼの系の連載でした。
それに伴い、いかがわしいシーンもやや控えめです。
ゲームをしていると、思った事を包み隠さず言ってくれるトロとクロが本当に愛しくなりました。

なにはともあれ、何とか完結させられて良かったです。
未完で肩すかしをくらった方々には改めてお詫び申し上げます。

では、長すぎる間お付き合いいただきありがとうございました!