どこでもいっしょ9


リクがトロと生活するようになって、しばらく経つが
トロは今日も今日とて、リクにべったりだった
「リク、リク〜」
リクが少し暇そうにしていたら、すかさず傍に行き、擦り寄る
そのたびに、リクはよしよしと白髪を撫でる
甘えて来てくれるのは嬉しいことだったけれど、そろそろとある問題を解決しなければならないと感じていた

それは、トロの性別のこと
一緒に暮らしていても、未だにトロの性別ははっきりしていない
風呂に入ると、トロは決まって猫の姿になってしまうし
人の姿のときに確認する度胸は、リクにはなかった
本人に聞いてみても、トロ自身が自分のことをよくわかっていないので、どうにもならない
そんな悩みのさなか、リクの家には助け船が現れていた
リクよりも長くトロと一緒に居た、クロという助け船が


いつものように、クロが家に遊びに来たとき
リクは、すかさずクロを部屋に連れ込んでいた
「リク、今日は積極的ミャ〜」
クロは、突然のリクの行動に驚いていたようだったが、同時に喜んでもいるようだった
お互いは対面して、床に腰を下ろす

「クロ、今日は教えてほしいことがあるんだ」
「お、リクが教えてほしいなんて言うなんて珍しいミャ。何でも聞くミャ!」
いつもはリクが教える側だった
けれど、今は立場が逆転したと、クロは得意げだった

「その・・・トロの性別を教えてほしいんだ。
トロは男の子なのか、女の子なのか」
「トロの性別?」
クロは、目をぱちくりとさせ、くすりと笑った
「何だ、そんなことかミャ。そんなの、簡単に答えられるミャ」
簡単に答えが出てくると聞き、リクは心の準備をする
もし、女の子だと言われたら前と同じように、平然と接することはできなくなるかもしれない
男の子だと言われたら、それはそれで問題はあるのかもしれないが


「じゃあ、聞くけど・・・トロは、男の子なのか?」
「違うミャ」
リクの問いに、クロは即答した
この瞬間トロの性別は確定し、こんなにあっさりと答えがわかり、リクは拍子抜けしていた

「そうか・・・トロは、女の子だったのか」
「違うミャ」
「え?」
思いがけない答えに、リクは思わず聞き返す
クロが、質問を聞き間違えたのだろうか

「えっと・・・トロは、女の子なんだよな?」
「だから、違うって言ってるミャ」
男の子ではないと言われ、女の子でもないと言われ、食い違う答えに混乱する
リクが負に落ちていないのを感じたのか、クロは続けて言った


「トロは、どっちにでもなれるのミャ」
「・・・どっちにでも?」
「そうミャ。オレッちはオスだけど、トロはニンゲンになるとき、どっちでも好きな方になれるのミャ」
クロの答えに、リクは唖然としていた
どっちでもないなんて、そんなことは想定していなかった
トロは、自分の性別を自覚していないからこそ、そんなことができる
それなら、自覚させれば、好きな方に固定させることができるのだろうか

「トロのこと、気になるようになってきたミャ?ま、リクは思春期だもんミャ〜」
クロは面白がるように、にやにやしながら言う
「そ、そんなんじゃない。ただ、これからのことを考えると、はっきりさせておいたほうがいいと思って・・・」
「照れなくてもいいミャ。トロが甘えてきたら、遠慮なんかしなくていいのミャ。そろそろ、時期に入るからミャ」
「そっ、そんなこと・・・」

時期、と聞いて、リクは発情期を思い浮かべていた
トロが好きだという気持ちは確かにある
甘えてきてくれると嬉しいし、愛おしい存在だ
それに、正直なことを言うと、触れてみたいと思うときがある
しかし、事をするとなると話は別になる
触れたいとは思うが、一体どこまでできるだろうか
自分にそれだけの度量はあるのかと、リクは自信がなかった

「何なら、オレッちがいろいろ教えてやるミャ。
オレッちも、リクのいろんなとこ触りたいからミャ〜」
クロは、突然リクににじり寄り、逃がさないように腕を取った
「な、何を・・・」
リクは、思わず身を引く
だが、さっと背に腕がまわされ、その動きは阻止された
そして、すぐに唇に柔く、湿った感触が伝わった

「っ!」
クロに、唇を舐められ、思わず、リクは身を硬直させる
「ん、柔らかくて、いい感触だミャ」
クロは呑気な感想を漏らし、唇を舐め続ける
リクは、目を見開いて硬直したままだった
驚きと羞恥が、心音を強くする
これは猫のスキンシップだと思っても、目の前にある端正な顔立ちを見ると、そういってはいられない
リクはたまらず、クロを押し返した

「クロ・・・」
リクは、複雑な表情でクロを見た
今のことが嫌だったわけではない
ただ、反応してしまう自分に戸惑った
自分は、トロのことが好きだと思っていたのに
「リク、トロはよくて、オレっちはダメなのかミャ・・・」
しゅんとした様子のクロを目の当たりにし、リクの心は痛んだ

「そういうわけじゃないんだ、ただ、驚いただけで・・・」
反射的にしろ、拒んだことには変わりがなく
そんな言葉の一つで、クロの機嫌が良くなることはなかった

「・・・仕方ないミャ。リクは、トロのことが一番大事だもんミャ」
クロは諦めたように肩を落とし、背を向けた
その様子が、とたんにいたたまれなくなる
大切なのは、トロだけじゃなく、クロも同じだ
確かに、接する機会はトロの方が多かったかもしれないけれど
あの空き地には、クロともずっと一緒にいた
どちらの方が大事なんて、順序をつけたくはなかった


「クロ、そんなことない。クロだって、僕の友達だ。
どっちの方が大切かなんて、そんな順番はないよ」
リクは、言葉が伝わるようにと願いながらクロの腕を取る
クロは向き直り、リクを正面から見据えた
何とも複雑な心情が入り混じっているのか、その表情は悲しんでもいないが、喜んでもいなかった

「クロ、クロは、僕と・・・・・・」
恥ずかしい問いに、リクは思わず視線を逸らしてしまったが、最後まではっきりと伝えた
自分と、キス以上のことがしたいのかと
「さっきから触りたいって言ってるミャ。リクの肌、キレイだからミャ〜」
速答され、わずかに頬が赤らんだ
トロだけではなく、クロも望んでくれている
応えてもいいと思った
クロも、トロも、自分にとってはとても大切な相手
だから、叶えてあげたいし、何よりも、嫌だと思わない

「・・・いいよ」
「ミャ?」
「クロが、そういうことしたいんだったら・・・・・・心構えしておくから」
顔から、火が出そうになった
友達の範疇を超えている行為を了承したけれど、感じたのは嫌悪ではなく、恥ずかしいということだけだった

「嬉しいミャ〜。それじゃあ早速」
クロはリクににじり寄り、肩に手をかけて押し倒そうとする
「ちょ、ちょっと待ってくれ、今から・・・?」
「こういうことは、気分が乗ってるときにしたほうがいいミャ」
まさか言ったそばから迫られるとは思わず、リクは抵抗するようにクロの胸を押した

「あ、あの、今は、トロがいるし、もし入ってきたら・・・」
「それなら、ちょっと待ってるミャ」
リクが言い訳をすると、クロは一旦部屋から出た
今、逃げてしまった方がいいだろうか
了承したことはしたが、今すぐにするとは言っていないし、情けないが心の準備ができていない
けれど、自分がいなくなっていたら、きっとクロを落胆させてしまう
覚悟を決めるのは、今なのかもしれない
悶々としていると、クロが戻って来た

「トロには外で遊んでくるよう行っておいたミャ。これで、もう気にすることないミャ」
クロがリクの目の前に座り、肩を掴む
力を込めて押されると、体が自然と後ろに倒れていった
そのとき、リクは自分にもう抵抗する意思がなくなっていることに気付いていた

「リク、かなり肩凝ってるミャ。今から解してやるからミャ」
クロを見上げる形になると、それだけでも緊張で体が強張る
肩もみでもしてくれるのかと思ったけれど、そんな能天気なことではなくて
クロは身を下ろし、リクの唇を塞いでいた

「ん・・・!」
いきなり強く口付けられ、一瞬怯む
驚いたけれど、柔らかい感触が嫌じゃなかった
クロはしきりに唇を舐め、隙間を作ろうとする
気恥しかったけれど、リクは薄らと唇を開き、クロを受け入れた

「ぅ、ん・・・っ」
弾力のあるものが入り込み、躊躇いもなく舌が絡ませられる
柔らかくて、液を帯びているものが触れたとたん、動機がした
口内にいる間、クロは一時もリクを離さない
舌全体を味わうようにまんべんなく弄ると、自然と音が漏れ始める
水音がやけに淫猥に聞こえ、クロの温度が交わって、リクの息は熱を帯びてきていた

普通のじゃれあいとは違う、もっと深い繋がりをしているのだと思うと、気が落ち着かなくなる
クロが絡まりを解き、解放すると、リクはせわしなく呼吸をした

「んー、柔らかいミャ」
クロは目を細めて、唇を軽く舐める
平然としているクロがやけに大人びて見えて、息を荒げている自分が恥ずかしくなってリクは少しだけ顔を背けた
「あ、そこも舐めていいのかミャ?」
「えっ・・・」
そんなつもりではなかったけれど、クロは遠慮なくリクの耳へ舌で触れた

「や・・・」
そこは特別に敏感なのか、少し触れられただけでもリクは肩を震わせた
舌先で外の形をなぞられ、寒気が背筋を走る
それは悪寒ではなく、とある感情による寒気だったけれど、リクには判別が付かなかった

形をなぞり終わると、クロは内側までも舌を触れさせる
リクはまたぞわぞわとした寒気を感じたが、なぜか心音が高鳴り、体温が上がってゆく
内側を弄られると、さっきも聞こえた液の音が直接耳に届き
それがやけにいやらしくて、とたんに赤面していた

「やっぱり、感触がいいミャ〜。もっといろいろ舐めたいミャ」
クロはどこかうきうきとした様子で、リクの服を脱がしていく
リクは、とっさにクロの手を掴んだけれど
今更じたばたするのはみっともないと、その手を床に下ろした

抵抗しないと分かると、クロはどんどんボタンを取り、服をはだけさせる
風呂場ではない場所で素肌がさらけ出されると、やけに恥ずかしかった
邪魔な物がなくなると、クロは胸部へも舌を這わせる
くすぐったさと、寒気を思わせる感覚がし、リクは唇を噛みしめた

広い場所は手間がかかるからか、クロの位置はどんどん下がって行く
そして、腹部を通り過ぎると、また邪魔な衣服を取ろうと手をかけた
ズボンがずらされているとわかると、とたんに緊張感が芽生える
男同士での行為の仕方なんて知らなくて、これから何をされてしまうのかと、好奇心と不安感が入り混じっていた

下肢を隠していた物がなくなり、完全に露わにされる
許されるなら、今すぐに衣服を引き戻したかったけれど、今は何もかもをクロに任せていた
クロの舌先が、露わにされた下肢のものへ触れる

「あっ、や・・・!」
下肢の一点から、何か強い感覚が頭の頂点まで伝わり、思わず声が上がる
柔い舌が押し付けられると、その感覚に脳が侵されて、何も考えられなくなっていった

「リク、ここ、すごくキモチいいのかミャ?」
「よく、わからない・・・っ」
「でも、もう熱くなってるミャ」
「ぅ・・・」
クロに触られたときから熱が湧き上がってきて、下肢に集中する
自然と起ちつつある身を弄られると、気がどうにかなってしまいそうだった
ふいに、クロはそこから舌を離す
けれど、行為を止めたわけではなくて、さらに下方にある窪まりへと触れていた

「あ・・・!」
あられもない箇所に柔い物を感じ、リクの声が瞬間的に高くなった
小さな窪みがとたんに収縮して、進入を阻もうとする

「ここが一番キモチいいみたいだミャ。でも、やっぱりこっちの方が舐めやすそうだミャ」
クロが移動し、再びリクのものに舌を這わせる
また刺激が加えられて、リクは声を抑えつつ、せわしなく息をしていた
もう、自身のものに完全に熱が上っているのがわかる
足を曲げたり、掌を握ったりして強まる感覚を抑えようとするが、まるで無駄だった
クロは他の箇所には目もくれず、執拗に下肢のものだけを弄る
リクはどんどん気が昂り、受けている刺激の事しか考えられなくなった


「クロ、もう、止め・・・っ、あぁ・・・」
このままだと、気がおかしくなってしまう
そう訴えたけれど、クロは一向に動きを止めない
根元から先端まで丁寧になぶり、もう濡れていない部分はなくなる
唾液でより動きが滑らかになった舌が先端をくすぐると、そこから白い液がわずかに流れ落ちていた
それは、もう限界が近いことを示していて
クロの舌が弱い箇所をなぞった瞬間、リクは今まで受けたことのない衝撃に襲われた

「あ、うぅ・・・っ、あ、ぁ・・・!」
刺激と共に、もう何も考えられなくなる
声を抑えることも忘れ、恥ずかしげもなく喘いでしまう
全身が震えた次の瞬間、なぶられていたものから、欲が開放されていた
突然体がだるくなって、脱力する
身を起せなくて、服を直すこともできなかった

「リク、今キレイにしてやるからミャ」
クロは、今しがた達したばかりのものへ舌を這わせ、液を舐め取る
「あ、あ・・・!っ、やめ・・・!」
余韻が残る体はしきりに反応し、リクの声を高くする
自分が出した液が拭われていると思うと、たまらない羞恥心が沸き上がってきて
思わずクロを蹴飛ばしそうになったとき、刺激が止んだ


「リク、キモチよかったミャ?」
下の方から声が聞こえてきたが、リクはとても直視することはできなかった
「こ、こんなこと、どこで覚えて・・・」
「夜にうろついてると、ちらっとテレビが見えることがあるのミャ。
ニンゲンって、毛づくろいのかわりにこういうことするんだミャ〜」
「毛づくろい・・・」
毛づくろいと聞き、もしかしたらこの行為の意味を全くわかっていないのではとリクは思った
これは、猫が仲良し同士でする毛づくろいと同じ
それ以上の意図は何もないのだと、クロのいたって変わらない口調が示している気がした

気持ち良いことも、性的なことではなく、マッサージと同じ感覚なのだろう
見た目は大人びていても、中身はトロとあまり変わらない
そう思うと、羞恥心がふっと消え、リクはくすりと笑っていた

「クロがさっき言ってた、時期って・・・どんな時期なんだ?」
「毛の生え換わる時期に決まってるミャ。そういうときは肌がむずむずして、毛づくろいしたくなるからミャ」
いかがわしくも何ともない答えを聞いて、リクはまた笑った
「そっか・・・そうなんだ、そうだよな」
トロとクロの精神年齢はわからないが、まだそんな欲も覚えた事がないのかもしれない
全て自分の思い込みだったと、リクは結論付けた

体を起こし、服を直す
まだしっとりと濡れていたが、どうせ風呂に入るのだから気にしなかった
「それじゃあ、そろそろ帰るミャ。トロが戻って来る頃だしミャ」
「あ・・・うん」
何を言っていいかわからず、リクは単純な返事しかできない
クロが出て行こうと扉を開けたとき、「ただいまですニャ!」と、元気の良い声が返ってきた
足音がし、部屋へと近付いて来る

「リク、ただいま〜。あ、クロ、リクと毛づくろいできたのかニャ?」
「ああ、そんなに時間かからなかったミャ」
リクはうろたえそうになったが、クロが平然としていたので何とか平静を保っていた
トロは一歩部屋へ入ったが、立ち止まって、鼻を引くつかせた

「ふんふん・・・何か、この部屋変な匂いがするニャ」
「ああ、それは・・・」
「ト、トロ!帰ってきたばかりで悪いんだけど、郵便ポストを見てきてくれないか」
「は〜い」
トロが出て行くと、リクはほっと胸を撫で下ろした

「んじゃ、また毛づくろいしたくなったら言ってミャ。リクの頼みだったら、いつでもいいからミャ」
「え、あ・・・あ、ありがとう」
意識していないのだろうが、求愛のような言葉を告げられて頬が赤らむ
そして、クロが出て行くと、リクはすぐに消臭剤を取りに行き、部屋全体に振りまいた
部屋の匂いが掻き消された直後、トロが戻って来る

「リク、何もなかったニャ〜」
「そ、そうか」
トロが部屋に入って来る前に、リクは自分から近付く
すると、またトロが鼻をひくつかせた
「リク、体の全部からクロの匂いするニャ。明日、トロもしてもらおうかニャ?」
「明日、クロに・・・」
そのことを聞いたとたん、リクは反射的にトロの肩を掴む
今すぐクロの所へ行くわけではないのに、まるで、引き留めるようにそうしていた


「毛づくろいなら、僕がする」
この言葉も、反射的に発されていた
猫同士の毛づくろいは、自分が思っているようないかがわしいことではないのに
「ニャ、リクがしてくれるのかニャ?ニンゲン同士の毛づくろい、楽しみだニャ〜」
人間同士、と聞いてリクは言葉に詰まる
けれど、楽しみにしている様子のトロを見たら、撤回することはできなかった




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
完結させないまま放置してしまって申し訳ありません。
いささか唐突なフラグになりましたが・・・小説書きたいモチベーションがかなり上がっているので、その勢いで何とか書きました。
どこいつは、作品の雰囲気上あまりがっつりいかがわしくはなりませんが、次もR-18にはなります。