憑物が見える子　宗近編2

いよいよ、最後の鬼退治。
昭彦は、採掘場へ人を案内していた。
「それにしてもようやってくれた、褒美はたんととらせよう」
「褒美なんていりません」
昭彦が採掘場の中へ誘っているのは、村の村長。
鬼が出てこなくなり、戦闘中に大量の宝玉を見つけたと言ったらすぐについてきた。
欲深い相手は、用心棒も連れていない。

「それにしてもずいぶん奥へ行くのだな、まだ着かんのか」
「…もう、ここでいいですね」
昭彦が足を止め、村長に向き直る。
「どうした、宝玉はどこじゃ？」
「宝玉なんてありません」
昭彦の言葉を聞いたとたん、村長の顔色が変わる。

「どういうつもりじゃ、こんな穴蔵の奥まで連れてきて。儂は暇ではないのだ」
村長は方向転換し、出口へ向かおうとする。
だが、その前に刀を携えた宗近が立ち塞がった。
洞窟の中でもきらめく刀を見て、村長はたじろぐ。

「村長、あなたは僕の親を殺しましたね」
「な、なんのことじゃ、一回たりともこの手を血で染めたことなどないぞ」
「直接手をかけたわけじゃない、あなたは迫害したんだ」
迫害という単語に、村長は押し黙る。
「僕が憑物を見ることができるから…異端を生んだ親も疎ましいものだとされた。あなたがそう言ったから」
昭彦は淡々と過去を語る。
悲哀にとらわれぬよう、単調な声で。

「以前、村で流行り病が起きましたよね。両親は何の治療も受けられずに死んでいった。
あなたが見殺しにするよう言ったから」
村長は、何も反論しない。
それが真実だと、物語っているのも同じだった。
「鬼退治を依頼してくれて、ありがとうございます。やっと、最後の鬼を退治できる」
宗近が、その鬼へ向かって一歩を踏み出す。

「待て、待て、村の者に言って見方を改めるよう説得しよう、何不自由ない生活も約束する」
宗近は、歩みを進める。
「新しい刀が望みならいくらでも授けよう、手入れの道具も一流のものを揃える」
昭彦は、冷たい目で村長を見据える。.

「さようなら、鬼の大将」
刀が、横一線に振られた。
人の首がずれて地面に落ち、体は支えを失って倒れる。
もう何も言わなくなった相手を見詰め、昭彦は息を吐いた。

死体を残し、二人は家へ戻る。
昭彦は遠くを見ていて、まるで魂が抜けたようになっていた。
「やっと、一息つくことができたか」
「うん。…ごめん、刀を汚させて」
「昭彦が楽になったのなら、それで良い」
宗近は、昭彦を落ち着かせるようその身を後ろから抱く。
昭彦は、すがるように宗近の腕を掴んでいた。

欲深い村長のおかげで、しばらくは発見されないだろう。
けれど、あまり長くはいられない。
立ち去る前に、昭彦は宗近の願いを叶えたかった。
「宗近、僕はあなたに本当に感謝してる。宗近がいたから終わらせられた。
…望みを、言ってほしい」
「では、お主の全てに触れたい。好きにさせてくれるか」
一瞬、返答に詰まる。
だが、少し間を空けて、昭彦はこくりと頷いた。

背を傷めないよう、宗近は敷布を敷く。
そこへ、昭彦は自分から横になった。
その上に、宗近が覆い被さり頭を撫でる。
これから、前の続きをするように。

「怖いか？」
「少し…何するか、わからないから」
性に無知な昭彦を安心させるよう、宗近は微笑む。
「痛いことはせんよ、任せていればいい」
宗近が身を下げ、昭彦の口端に口付ける。
どきりとしたが、昭彦は顔を逸らさずに目を閉じた。
口端に感じた柔い感触が、唇に重なる。
場所が変わるだけで感じるものが違い、また鼓動が強まった。

唇が離れ、昭彦は吐息をつく。
目を開けようとしたが、再び宗近が重なる。
そして、息をついた隙間から柔いものが入り込んだ。
「んっ…ん…」
驚きを含んだ音が、鼻から抜ける。
宗近は自身を昭彦の中へと進め、舌を触れ合わせる。
昭彦は反射的に肩を震わせたが、逃げようとはしなかった。
宗近は舌を絡ませ、全体を丁寧になぞる。

「んん、あ…」
液が混じり、淫らな感覚に無意識のうちに声が出る。
口内をなぞるように、隅々までなぞられていく。
呼吸の合間の吐息が熱くなって、宗近の行為に反応していた。

ようやく舌が離れ、息が楽になる。
深い交わりに、昭彦の頬には熱が登っていた。
「この熱が、感じていることを示してくれているようだな」
宗近は昭彦の頬を両手で包み、その温度を確かめる。
その熱は思考を侵すようで、昭彦はぼんやりと宗近を見上げていた。

宗近は昭彦の頬を一撫でし、下方の腰紐を解く。
作務衣の前がはだけたが、昭彦はもはや隠そうとしない。
これは約束なのだと、自分の羞恥心を抑えつけていた。
「しなやかな肌だ」
肩口から胸部、腹部へと、昭彦の体を宗近の手が滑っていく。
肌の質感を確かめるように、何度も。

「こ、こんなまっ平らな体、触って楽しい…？」
「ああ、微妙に感触が違って良い。例えば、ここやら」
宗近の指先が、昭彦の胸部の起伏に触れる。
少し強く押して刺激すると、昭彦はわずかに身じろいだ。
指先は、もてあそぶようにその起伏をいじる。

「や、うぅ…」
そこだけを集中的に触れられると、変な気分になる。
「ここばかり弄られるのは嫌か。では、移るとしよう」
宗近の手が下がり、下の服をずらしていく。
昭彦はここでも拒まず、ただ敷布を掴んでいた。
もう身を隠すものは何もなくて、緊張感が芽生える。

上半身と同じく、宗近は触れていく。
太腿から足をなぞり、足の甲まできたら再び上がる。
むずむずとした感触に耐えているさなか、その手が下肢の中心にあるものに触れた。
「ひ、あ」
瞬間、びくりと昭彦の体が震える。
宗近は、まだ硬直しきっていない身を片手で包み、徐々に動かす。

「や、や…ぁ」
刺激に不慣れな体は敏感で、ゆったりとした愛部にも反応する。
そうやって擦られると、自身の刀身は熱を帯びてきていた。
「ふふ、とんどん熱くなってきている」
それは宗近の手の中で肥大し、硬直する。
自分の体の反応が信じられなくて、昭彦は動揺していた。

「お、おかしい、こんなこと…」
「男がするのは変か？愛おしく想っていたら、それでよいのではないか」
愛おしい、という言葉に昭彦は内心嬉しくなる。
そんな言葉をかけられたのは、いつ以来だろうか。
これだから、もう自分は宗近から離れられないと感じていた。

「でも、もう、全部触っただろ…？」
「いや、まだ触れていない箇所がある」
宗近は、刀身に添えていた手をさらに下方へとやる。
そして、奥まった窪まりへ指をあてがった。

「そ、んなとこ、おかしい…っ」
動揺する昭彦をよそに、宗近はその中へと指を差し入れる。
「あ、あ…！」
自身の中に触れられ、声を上げずにはいられない。
指は徐々に奥まで侵入し、昭彦に淫らな感覚を与えていく。

「や、や…っ、もう、抜い…」
「まだ、満足していないだろうに」
宗近は指を増やし、さらに昭彦の中を暴く。
「あぁ…っ！」
拒むように、昭彦の窪みが縮こまる。
それでも宗近を止めることはできなくて、指は奥へと沈んでいった。

「不慣れな体は、良い反応をする」
昭彦を見て、宗近は高揚を示すように笑む。
普段の、のほほんとした雰囲気との違いに、昭彦はえもいわれぬ高鳴りを覚えていた。
指を受け入れ、下肢の熱はとっくに高まりきっている。
その熱さは、解放してほしいと言わんばかりに刀身に集中していた。

「そろそろ、悦に達した姿が見たいものだな」
開いている手で、宗近は起ちきっている昭彦の身を撫でた。
「ひ、ゃ、あ」
前も後ろも触れられ、昭彦の体が跳ねる。
その反応をよしとしたのか、宗近は昭彦の中をぐっと押す。

「あ、あ、だめっ…」
「そうか、ここが弱いのだな」
宗近はにやりと笑み、二本の指で昭彦を乱す。
そこはわずかに緩んできたが、一点を押すと激しく収縮した。
「ひ、ぁ…あぁ」
さっきから感じてばかりで、昭彦の体に欲がつのる。

「おや、白濁が。よほど良いのだな」
もう抑制できないものが、昭彦の先端から落ちていく。
悦に不慣れな体は、限界を示していた。
「昭彦、達する姿を見せてくれ」
宗近は昭彦の頬に手を添え、自分の方を向かせる。
そして、指を前後に動かして中を掻き乱した。

「あぁ、やぁ…っ…」
昭彦は高い声を上げ、指を止めようと縮こまる。
緩んできている窪みの力は弱く、宗近は一時も動きを止めない。
奥を突かれるたびに、刀身はびくりと震えて先走ったものを漏らす。
そして、宗近が昭彦の弱い個所を強く押した瞬間、強く脈動した。

「ああ、だめ、っ…あ…！」
今まで以上に、宗近を受け入れる個所が収縮する。
その瞬間、起ちきっていた自身から白濁が溢れ出た。
高まりきった悦楽が解放され、卑猥な感触が滴り落ちる。
昭彦が完全に脱力すると同時に、宗近は指をゆっくりと抜いた。

「ふふ、気持ち良かったか」
昭彦は、脳が麻痺したような感覚にとらわれ、ぼんやりとする。
ただ、応えるように頬の手へ自分の手を重ねていた。
虚ろな眼差しは、もう宗近しか映していない。
自分だけに向けられている視線に、宗近は柔らかな笑みを浮かべて昭彦にそっと口付けを落とした。

休んだ後、昭彦は出て行く準備をする。
行く当てはないけれど、留まってはいられない。
「もう戻って来ることはないかもしれんな。未練はないか？」
「うん。どうせ、村での生活なんてあってなかったようなもんだから」
荷造りをして、外へ出る。
腰には、刀のままの江雪を携えて。

「さて、行くか。あてのない旅もなかなか面白そうだ」
「うん、江雪を直せる鍛冶屋を探さないと」
これから先が全く見えない旅、けれど不思議と不安感はない。
恨みの念から解放されたから、という理由はある。
それよりも一番の要因は、隣に宗近が居てくれるからだ。
ただ強くて用心棒になるだけではない。
心の支えが傍に居てくれる心強さを、昭彦は切実に感じていた。

―後書き―
読んでいただきありがとうございました！
短いですが、これにて宗近編は終了です。
復讐の話は…いちゃつかせるための単なるフラグで、薄っぺらい感じになってしまい申し訳ない。