校内に一つや二つはある、特定の派閥。
この高校にも、そんなグループがあった。

派閥、というよりは、少々度の過ぎた悪戯をする集団と言った方がしっくりくるかもしれない。
気に入らない教師がいれば、車をパンクさせたり、靴箱に爬虫類系のものを忍ばせたりする。
お咎めをうけることは間違いないが、補導まではされない。
完璧な不良とは言えないが、真面目な生徒とは言えない。

そんなグループの中に、一人、平凡で真面目そうな生徒がいた。
髪は全く染めておらず、服装も乱れてはいない。
成績は優秀、その成績意外は特に目立つタイプではない少年だが、グループには必要な存在だった。

色とりどりの髪の毛の色をしている集団の中では、そんな少年は逆に目立つ。
それが、グループの狙いだった。
そして、グループは今日もその少年を連れ、ぞろぞろと夜の街中を闊歩していた。



悪ガキ共と不良警官1。



「何か、最近はやることがマンネリでつまんねーなー。最近、ケンカもしてねーし」
「だな。あ、でも、もうすぐ新任の生徒指導が入ってくるって噂だぜ」
「お、じゃあ、何か軽く問題起こして、お手並み拝見といくか?」
赤、金、茶、それぞれ髪の色が違う少年たちは、完全に教師をなめきった会話をしていた。

平凡そうな少年は、隣でただ話を聞いている。
グループも、無理に話に入れようとはしない。
会話についてこなくとも、この少年には特別な役割が与えられているから。


人通りの多い場所だが、道行く人はグループを避けるようにして歩く。
こういう集団には決して関わりたくないと、そう主張するように。
それは学校でも同じで、この集団に近付く生徒はいなかった。

「んー、ケンカふっかけてくる奴もいねーし、いつもの場所行くか」
「そうだな、このまま解散ってのも何だしな」
グループが行く、いつもの場所。
そこは、大通りを外れた裏路地。
いかにも、人を連れ込みやすそうな、薄暗く、静かな路地。
そんな物騒な場所に近付く物好きはおらず、その路地はお気に入りの場所だった。
決して快適とは言えない場所だが、だからこそ人目につかず安全で。
金髪と茶髪の少年は地面に腰を下ろすと煙草に火を点け、白い煙を吐いた。

堪能しているという感じではなく、ただ淡々と吸っているだけに見えるが。
それは、規則に縛られることを断固として拒みたいという、密やかな反発かもしれなかった。
そんな風に、人気のない裏路地でとりとめのない話をするのが少年達の趣味のようなものだった。
そんな様子をよそに、黒髪の少年だけは自分達が入って来た路地の入口をしきりに気にしていた。


そうして、しばらく経った後。
路地の先から、誰かが向かってくる足音が聞こえてきた。
黒髪の少年はいち早くそれを察知する。

「誰か・・・来た」
相手の歩調は早く、一直線にこっちへ向かってくる。
頭に被っている帽子の形で、相手が何者なのかはすぐにわかった。

「チッ、今日はついてねーな。後は任せたぜ」
金髪の少年はタバコを揉み消し、その場を後にする。
茶と赤髪の少年もそれに続いて、路地の奥へと入っていった。

黒髪の少年は一人、向かってくる相手を待ち構えるように立っていた。
その相手と対峙する前から、それがどんな人物なのか、だいたいはわかっていた。
遅い時間に路地裏に来るような物好きは、見回りの警察くらいしかいない。
それを踏まえた上で、少年はその場に踏みとどまっていた。
やがて、相手が目の前で歩みを止めた。


「おい、お前ら。今ここで何してた」
乱暴な口調に、少年は少し驚く。
そして、相手が目の前まで来て、姿がはっきり見えるようになった今。
その服装が、よく見る警官とは違うことに気付いていた。

服は真っ黒、唯一シャツだけが白く、まるで喪服。
服装も、きっちりボタンが止められているわけでもなく、上の方は開けられている。
さらに、公務員らしからぬ乱暴な口調。
少年は、今、対峙している相手は本当に警官なのだろうかと、まず疑っていた。

「おい、ここで何してたかって聞いてんだ。二度言わせんな」
いらつきを含んだ鋭い目に見下ろされ、少年はすぐに答えた。

「別に、友人と話していただけです」
「ほー。こんな時間に、人気のない裏路地で?」
想定内の、決まり切った質問。
少年は、用意された答えを瞬時に答えた。

「はい。人ごみの中じゃあ、雑音がうるさくてまともに話せませんから。。
あまり大きな声で話せば周りの迷惑にもなります。。
だから、皆で落ち着いて話せて、周りの迷惑にもならないこの路地が気に入っているんです」
敬語を崩さず、優等生な印象を前面に押し出すよう話す。
少年がグループに必要とされている訳は、ここにあった。

平凡で、いかにも真面目そうな少年が、ここで不良達と一緒にいたなんてすぐには想像できないだろう。
少年は自分の印象を生かし、警官に丁寧な説明をして追い返す。
追い返せずとも、少年が説明をしている間に、グループは別の場所に移動している。
場違いのこの少年は、グループの盾のような存在なのだ。

「へー。とりあえず、学生証見せろ」
まるで、カツアゲのような雰囲気を思わせる、有無を言わせない発言。
少年は、普通とは違うこの警官をいぶかしみつつも、大人しく学生証を見せた。


「ああ、あの悪ガキ高校の奴か。しょーもないことして、陰で笑う奴らの溜まり場だな」
またもや無礼な言葉を聞き、少年は驚くと同時に嫌悪を感じていた。
仲間意識を持っているわけではないとはいえ、グループの悪口を聞くのは良い気分ではない。

けれど、ここで反発してしまったら厄介なことになりかねない。
少年は、ただ黙って相手を見据えていた。

「それで、お前が悪ガキの参謀ってわけか。とりあえず補導な」
「えっ・・・?」
聞き間違いではないかと、耳を疑う。
自分は、グループと関わり合いがあるなどと一言も言っていないし。
何より、こんな普通の学生が、裏路地にいただけで補導されるなんて信じられなかった。

「ちょ、ちょっと待って下さい!何で僕が・・・」
「じゃあ、お前は悪ガキ共と何の関係もないなんて言うつもりか?俺の情報が間違ってるわけねーだろ」
無理矢理、腕を力強く掴まれ、少年はびくりと震える。
どこでそんな情報を仕入れてきたのかは知らないが、証拠もなしに補導されるなんて思ってもいなかったことだ。

「そんな・・・僕は本当に、友人と話していただけなんですよ?」
本当は、煙草を吸うグループを黙って見ていたのだが。
それでも、ただ情報があるからというだけで補導されては、たとえそれが本当でも納得いかなかった。

「うるせーな、つべこべ言わずとにかく来い」
腕を痛いほどに掴まれ、引っ張られる。
こんな理不尽なことを言うなんて、まるで不良の振る舞いそのものだ。
手を振りほどこうとしたけれど、腕力もさしてない少年には無理なことだった。


路地の外へ連れ出されてしまいそうになり、いよいよ危機を感じたそのとき。
警官の顔めがけて、路地の奥から勢いよくペットボトルが飛んできた。
警官はそれを難なく掴んで止めたが、一瞬、腕を掴む力が緩んだ。
それを機に、少年は思いきり力を込めてその手を振り払い、路地の奥へ駆け出した。




息が切れるほど走った後、耳をすませる。
誰かが追ってきている気配はなく、少年はほっと一息ついた。

「久遠、危なかったな」
路地の先にいたのは、とっくに逃げたと思っていた赤髪の少年だった。

「・・・甲斐が、あの警官の気を逸らしてくれたのか?」
赤髪の少年は、軽く頷いた。

「まーな。お前が珍しく声張ってんの聞こえたから、何か面白いもんでも見られるかと思って」
わざわざ助けに来たわけではなく、ただの好奇心。
この盾が補導されたら困るから、仕方なしに助けたに過ぎない。
久遠は、グループの希薄な関係をよくわかっていた。

しかし、この新参者の少年はどこか違う雰囲気を持っていた。
同じクラスだからわかることだが、以前は確か、髪の色は自分と同じ黒だったはず。
だが、誰にでもやさぐれたいときはあると、久遠はあまり気にしてはいなかった。

「ありがとう、甲斐。・・・僕はもう帰るよ」
「ああ、じゃーな」
一応お礼を言い、久遠はその場を後にする。
一歩間違えれば、補導されかねない危険が伴う盾。
それでも、久遠はグループを抜けようとは微塵も思ってはいなかった。
脅されているわけではなく、それは確固たる自分の意思だった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
不良警官と悪ガキ。ウォーキングしてたら、ふと思いついた組み合わせでした。
キャラクターは・・・正直、髪の色しか決まっていないという。
でも、不良警官だけは、pixivの桐さんがお描きになった警官フリッピーをイメージしています。