悪ガキ共と不良警官11


やけに長く感じられた校外学習は終わり、久遠は見慣れた街へ帰ってくる。
これから授業があるわけでもなく、学校に着いたら解散となった。
「あー、泊まるって言っても、やっぱ勉強なんだよなー。普通の授業受けてるより疲れた感じだ」
甲斐が、せいせいしたと言わんばかりに伸びをして言う。
確かに、美術館は興味のない者にとっては、退屈以外の何物でもなかったかもしれない。

「でも、自分の家じゃないとこに泊まれたとこはよかったな。珍しくて」
「・・・そうだな」
久遠は、つい昨日のことを思い出してしまう。
甲斐の思いに答えられなかったこと。
そして、その腕の中でいつの間にか眠っていたこと。
あまりに心地良くて、アラームが鳴っても起きられず、もう少しでバスに置いて行かれるところだった。
学校から久遠の家までそれほど距離はなく、とりとめのない会話を交わしている内に着いた。


「じゃあ、また明日」
別れを告げ、久遠は鍵を開けて家に入ろうとする。
「な、なあ、久遠」
ドアノブに手をかけたところで、甲斐に呼び止められ振り向いた。

「今度・・・その、お前の家に、泊まらせてくんねーかなー・・・なーんて・・・」
変な遠慮をしているのか、甲斐は語尾を小さくして言った。
けれど、そうして遠慮をするのももっともだ。
家に来たら、ただ床を共にするだけ、ということにはならないだろうから。
久遠は一瞬だけ考えたが、すぐに答えた。

「いいよ。いつでも歓迎する」
久遠があまりにもあっさりと答えたので、甲斐は驚いていた。
迷っている状態では、甲斐が本当に望んでいることはできないかもしれない。
それでも、ずるいことを言うようだが、一緒には居たいと思う。
未だに、腕に抱かれて眠っているときの安心感が、忘れられなかった。

「そんなに軽く言っていいのか?・・・本当に、襲っちまうぞ?」
甲斐は手を伸ばし、久遠の頬へ触れる。
温かい掌に包まれ、久遠は目を細めた。
乱暴な口調をしていても、甲斐は優しい。
それに、言葉ではそう言っていても、本当に無理矢理襲ったりはしない。
やはり、兄弟は似ていると、久遠は思っていた。

「・・・じゃーな。明日も、屋上行こうぜ」
ふいに甲斐はきびすを返し、背を向ける。
これ以上触れていると、抑えがきかなくなりそうだったのかもしれない。
久遠は甲斐を見送った後、家へ帰った。




その日の夜、久遠が夕食を食べ終えた後、来客を示すチャイムが鳴った。
夜に誰かが来るのは珍しかったので、念のためドアのレンズから相手を見る。
それが、警戒すべき相手ではないとわかると、久遠はすぐに扉を開けた。

「今晩は、真夜さん。どうぞ、上がって下さい」
「遅くに悪いな。けど、どうしても、確かめたいことがあってな」
リビングのソファーに腰かけると、真夜はすぐに切り出した。
「お前、甲斐のことを振ったのか」
「え?」
どういうことかと、久遠は目を丸くする。

「あいつ、帰って来るなり、久遠を泣かせたら承知しねーからな、なんてありきたりな事言いやがって。。
それから、部屋に引きこもりだ」
「甲斐が・・・」
まさか、甲斐がそんなことになっているなんて。
家の前で別れたときの様子からは、考えられないことだった。
やはり、昨夜、真夜のことが好きだと、そう言ってしまったから。
自分に気持ちは微塵も向いていないのだと、そう思ったのかもしれない。
久遠は、今すぐ甲斐の部屋へ行き、そうじゃないんだと訴えたい衝動にかられた。

「・・・昨日の夜、僕は、真夜さんのことが好きだと、そう言ったんです」
久遠を見ている瞳が、いつかのように一瞬揺らぐ。
真夜はわずかに動揺しているようだったが、表情には出していなかった。

「でも、その後・・・僕は、甲斐に触れられても拒まないって。
そう言ったから・・・混乱させてしまったんだと思います」
自分の想いを、どちらかに偏らせることができない。
中途半端なままではいけないのに、答えられない。
ずるずると先延ばしにしていては、甲斐を悩ませるだけだというのに。

真夜は黙り、何かを考えているようだった。
これ以上言えることはないと、久遠も沈黙する。
そうして、少しの間が空いたとき、真夜は突然久遠の肩を掴み、ソファーに押し倒した。

「し、真夜さん」
あまりに急なことで、久遠は焦る。
真夜は久遠をじっと見詰め、抵抗しないことを確かめてから、唇を塞いでいた。
「んん・・・っ」
突然のことに、息が詰まりそうになる。
呼吸をしようと久遠が口を開いた瞬間、真夜はさらに深く覆い被さる。
そして、今度は躊躇うことなく、自らのもので久遠の舌を絡め取った。

「は・・・っ、ぁ・・・」
自分の口内に真夜のものが触れ、頬に熱が上ってくる。
柔いものが触れ合うと、心臓が落ち着きをなくす。
さらに、口を開いているせいで、液が絡まり合う音が聞こえてしまう。
始めて感じる感触と耳に届く音のせいで、久遠の心音は高鳴っていた。

解放されたとき、お互いの間に液が伝い落ちる。
その光景がとても恥ずかしいものに見え、直視できなかった。
「お前は、俺とこういうことをしてもいいって、本気で思ってるのか?」
真夜の手が久遠の下肢へ伸び、その中心へ触れる。
羞恥を感じずにはいられない箇所に触れられ、久遠は思わず閉口した。
嫌だとは思わない。
けれど、甲斐のことを思い出すと、頷くことはできないでいた。

「・・・真夜さんになら、どこに触れられても、拒まないと思います。。
でも・・・ごめんなさい、僕は、まだ・・・」
いつまで、こうして答えを出さないままでいるのだろう。
ずっと、半端なままではいられないのに。
久遠は、自分を情けなく思わずにはいられなかった。

「・・・わかった。お前が迷ってるんなら、良い方法がある」
「え・・・」
真夜はソファーに座り直し、手を離した。
解放され、久遠も体を起こす。

「次の休み、甲斐を連れてここに来る。そのとき、教えてやるよ」
良い方法があると聞き、久遠は希望を抱かずにはいられなかった。
自分で答えを出さず、誰かに任せるなんて、また情けないことだと思ったが。
少なくとも、このままでいるよりはいいに違いなかった。

「来るのは夜だから、寝る支度をしておけよ」
「あ・・・はい、わかりました」
寝る前となれば、夜遅い時間帯になる。
なぜそんな時間なのかと疑問に思ったが、何か考えがあってのことなのだろうと言及しなかった。

「今日の用事はそれだけだ。じゃあな」
真夜は久遠を一瞥し、早々に玄関へと向かう。
久遠は何も問わず、真夜を見送った。




それから、次の週末まで、甲斐は久遠にほとんど触れなくなった。
たまに、髪や頬に触ることはあるものの、それ以上のことはしない。
明らかに兄に遠慮していることがわかる態度で、この兄弟はお互いを思いやっているんだと感じた。
甲斐は、自分が触れたいと思っている相手でも兄に譲ろうとし。
真夜は、弟の気持ちを知り、相手とを引き合わせようとした。
口喧嘩を目の当たりにしたことはあったが、喧嘩するほど仲が良いとは、そのことなのだろう。
甲斐の態度が、どこかよそよそしいのは落ち着かなかったが。
次の休みに真夜が解決策を教えてくれると言っていたので、久遠は何も言わなかった。




そして、とうとう約束の日が訪れた。
言われた通り、久遠は夕食も風呂も済ませ、眠る準備をして二人を待つ。
思えば、自分が想いを抱き始めてから、三人で会うのは初めてで。
久遠は、緊張気味に家のチャイムが鳴らされるのを待っていた。
静かな室内に、時計の針の音だけが聞こえる。
そこへ、とうとう来客を示すチャイムが鳴り響いた。
久遠は反射的に立ち上がり、玄関へ赴く。
もはや、相手を確認する必要はなかった。

「今晩は、甲斐。それに・・・真夜さんも」
「あ、ああ。悪いな、遅いのに」
甲斐が、以前訪れた真夜と同じような台詞を言う。
だが、口調はどこかたどたどしくて、緊張しているようだった。

「久遠、お前の部屋に行ってもいいか」
「はい、いいですよ」
緊張している甲斐の一方で、真夜は落ち着き払っていた。
久遠は、何も不思議に思うことなく、二人を自室へ案内した。


部屋に入ると、真夜は遠慮なく、甲斐は緊張気味にベッドに腰かける。
久遠は、二人の間に座っていた。
「真夜さん、今日は・・・解決策を教えていただけるんですか?。
僕の・・・中途半端な想いに対して」

「ああ。その前に、確認しておきたいことがある」
そう言うと、真夜はおもむろにベッドに乗り上げ、久遠の体をさっと抱き寄せた。
後ろから抱き留められ、背が真夜と密接する。
すると、甲斐もベッドに乗り上げ、久遠と視線を合わせた。
だが、何か躊躇っているのか、すぐに逸らされた。

「お前は、俺にも、甲斐にも好意を抱いてる。だから、迷ってるんだろ?」
「・・・はい」
「それなら話が早い。選ぶ必要なんてなくなったからな」
久遠は、意味がよくわからなくて困惑する。
そこで、甲斐は再び久遠を見て告げた。

「俺は・・・こんな形でするの、久遠が嫌だったら、しない。。
でも、もし、いいって言うんだったら・・・」
気恥ずかしくなったのか、そこで言葉は途切れる。
「あの、どういうことか、よくわからないんですけど・・・」
まるで、全ての言葉がオブラートに包まれているような、抽象的なものになっていて。
疎い久遠は、全貌を理解できないでいた。

「つまり、お前がどっちかに抱かれるのが嫌なら、両方にすればいいってことだ。・・・わかったか?」
「両方・・・に・・・」
その言葉で、久遠は気付いた。
どちらかと深い関係になり想いが偏ってしまうのなら、両方と親密になればいい。
甲斐が、こんな形ですると言っていたのは、そういうことだったのだ。

「で、でも、久遠が嫌ならしねーから!。
無理に、応えようとしなくても・・・別に、いい・・・からよ」
語尾が小さくなり、わかりやすい態度が表に出ている。
本当は、応えてほしいと、そう思っていると。
自分の欲求を必死に抑え、気遣われているのだと感じた。
兄が弟のことを愚弟と呼ぶのは、そのせいかもしれない。

応えたいと思った。
自分をひたすらに抑えて相手を想う、そんな、愚かしいほどの優しさに。
久遠は手を伸ばし、いつかのように甲斐の髪に触れ、そっと撫でた。

「・・・僕は、構わない。・・・・・・二人に、触れてほしい・・・」
中途半端な想いは消えていた。
自分は、ずるくも最初から二人のことを望んでいたのだと、言葉に出してはっきりした。
一対一でなくとも構わない。
たとえ、触れる相手が二人いても、それを厭うことはないと、久遠は確信していた。
久遠の返答に、甲斐は心底驚いたのか、口をぽかんと開いて呆けていた。

「いいのか。途中で歯止めが利くほど、俺らは欲が浅いわけじゃないぞ」
背後から、真夜が問う。
「・・・はい。二人が、そうしたいって思ってくれているんだったら・・・僕は、応えたい」
どちらかに偏るのが怖くて、今まで、ずっと応えられなかった。
けれど、今なら首を縦に振ることができる。

久遠が、甲斐の髪を撫でていた手を離す。
それで我に返ったのか、甲斐は真面目な表情で久遠を見詰めた。
「いいのか、俺・・・本当に、歯止め、利かなくなるかも・・・」
まだ躊躇っている様子の甲斐にしているようだったが、想いは変わらなかった。
久遠は、甲斐を安心させるように軽く頬笑んだ。
歯止めなんて利かなくなってもいいと、そう言うように。

「久遠・・・!」
もう、甲斐の抑えは利かなかった。
久遠との距離をなくし、重ね合う。
今まで抑制していた想いをぶつけるように、深く口付ける。
久遠は目を閉じ、じっと甲斐の熱を感じていた。
望んでいた温かさが、伝わってくる。
それが心地良くて、久遠はわずかに口を開いて息をついていた。

久遠の吐息を感じ、甲斐の理性が消えて行く。
甲斐は、開かれた箇所へ、再び覆い被さる。
もう、躊躇うことはなく、久遠の中へ自らを進めていた。

「は・・・っ、ん・・・」
舌が絡まり、とたんに息が熱くなる。
体から力が抜けて行き、久遠は背後にいる真夜に身を預けていた。
手持無沙汰になったのか、真夜は久遠の寝具のボタンを外し始める。
自分の肌が露わになるのを感じたが、甲斐に蹂躙されている今、何もできなかった。

甲斐が離れ、絡んでいた物が解かれる。
その頃には、体の前面を覆うものはなくなっていた。
「久遠の肌、すげー綺麗だ・・・」
見惚れるような眼差しを向け、甲斐は露わになった久遠の首元に唇を落とす。

「ずっと、こうやって触ってみたかった・・・ずっと・・・」
囁くように告げられた言葉に、久遠の胸が高鳴る。
真夜は、二人の様子を見て心なしか楽しそうにしているようだった。
「懐かしいな、お前が髪を赤く染めて、不良になるって宣言したときが。。
その場で補導してやろうかと思ったけど、確か、それは恋煩いしてたからだったっけか?」
「ばっ、な、何言ってんだよ!」
とてもわかりやすい反応をして、甲斐は焦った。

「お前の初恋のために見逃してやったんだ。どんな奴かって見てみたら・・・。
まあ、血は争えないってことだな」
「それって・・・」
久遠が前を見ると、甲斐が照れくさそうに俯きがちになっていた。
少しの間、甲斐は視線を逸らしていたが、やがてふっきれたように顔を上げた。

「そ、そーだよ!久遠がグループに入ってたから、気になってたから俺も入ったんだよ!。
あー、もー・・・すっげー恥ずい・・・」
思わぬところで本心を暴かれ、照れている様子はまるで子供のようだ。
以前なら、そんな気持ちを抱かれていたところで、厭ましく思っていただけだっただろう。
けれど、今は、素直に嬉しいと感じる。
甲斐の純粋な好意に、久遠は胸が温かくなり自然に微笑んでいた。
甲斐もつられて笑うと、再び久遠に近付き、そっと口付けた。

今度は、激しいものではなく、ただ触れ合うだけもの。
そこからは、自分の気持ちが通じたことへの喜びが感じられるようだった。
短い触れ合いの後、甲斐は久遠の寝具を取り払おうとする。
そのとき、久遠ははっとしたように甲斐の腕を取っていた。

ここで止めるなんて今更なことだったが、寝具がなくなれば、傷を見られてしまう。
二人共、そのことは知っている。
けれど、今度は少しの間見られるというわけではなく、ずっと露わにし続けることになる。
自分の傷を長く曝しておくことにわずかな恐怖心を感じ、反射的に拒んでしまっていた。

久遠が嫌がることはしないつもりなのか、甲斐は腕を下ろす。
それを見たとき、真夜はふいに久遠の頬へ手を当て、横を向かせた。

「怖じ気づいてんのか?今更・・・歯止めは利かないって、言ったよな」
そうは言ったが、強硬手段に出るわけではなく。
真夜は久遠に唇を寄せ、ゆっくりと重ねた。
強張りを解きほぐすように、優しく。
その行為で、髪を撫でられたときと同じように、久遠から緊張感が解けて行き。
体が弛緩したその隙を見逃さず、真夜は口付けつつ、久遠の寝具を脱がせていった。

「あっ・・・」
言葉が発せるようになり、躊躇ったときにはもう遅く、上半身を隠すものは何もなくなっていた。
肌が完全に露わになると、久遠が強張らない内に、真夜が腕を取る。
そして、以前の甲斐と同じようにそこへ唇で触れ、傷を舌先でなぞっていった。

「真夜さん・・・っ」
それを見た甲斐は、もう片方の腕を取り、同じようになぞり始める。
両の傷に触れられ、久遠は最初は戸惑っていた。
けれど、二人にそうして弄られていると、戸惑いが別の感情に変わるのを感じていた。
だんだんと、そこに触れている感触が、厭わしいものではなくなってゆく。
やがて、全ての傷をなぞり終えたのか、二人が腕を離す。
そうして、甲斐は少し上体を下げ、今度は久遠の胸部にある起伏にやんわりと触れた。

「っ、あ・・・」
敏感にものを感じる箇所に触れられ、思わず声をあげる。
普段は発されないような、高い声。
が無性に気恥ずかしくて、久遠はすぐに口をつぐんだ。

「声を抑えてると辛いぞ?口、開けとけ」
耳元で、真夜が囁く。
真夜はそのまま久遠の耳朶に触れ、その形をなぞっていった。
「んん・・・っ」
傷だけではなく耳にも同じ感触を覚え、また声が出てしまいそうになる。
何とか堪えたと思ったが、すぐに抑えを利かなくさせるような刺激が体に走った。
まるで、兄の行動に呼応するように、甲斐は触れていた起伏を口内に含み、甘く噛んでいた。

「甲斐・・・っ、ぁ・・・」
閉口していたはずの口が、開いてしまう。
反射的に発される声に、久遠はまた気恥ずかしさを覚えていたが。
声を抑える術を知らず、再び口を閉じることができなかった。
そうして、二人に触れられていると、下肢が熱を帯び、衣服がきつく感じられてくる。
まるで、それを取り払ってほしいと主張しているように。

久遠の変化に気付いたのか、甲斐が身を離した。
「楽にしてやれよ、甲斐」
真夜が、楽しんでいるように声をかける。
「い、言われなくても、そのつもりだよ」
本当にしてもいいのかと戸惑うように、甲斐は慎重に久遠の寝具に手をかける。
羞恥はあったが、傷を見られるほどの緊張感はなかった。

甲斐が一瞬躊躇いを見せた後、寝具と、肌着が取り払われる。
圧迫感から解放され、久遠は小さく息をついていた。
甲斐は、あまり下肢を凝視しないよう、真っ直ぐ前を見ていた。


「久遠・・・」
触れてもいいかと問うように、その名を呼ぶ。
久遠は静かに瞬いただけで、身動き一つとらなかった。
もはや、二人の前に自身がさらされても、抵抗の意思はわいてこない。
それを悟ったのか、甲斐の手が久遠の下肢へ伸ばされ、露わになった久遠のものを包み込んだ。

「あ、っ・・・」
軽く掌で包まれただけでも、声があがる。
その声に反応するように、甲斐は自分も昂りを覚えていた。
もっと声を聞きたい思いが強くなり、それを包み込むだけではなく、指で愛撫し始める。

「あぁ・・・っ、ぁ・・・」
始めて触れられる箇所への愛撫に、久遠の体は敏感に反応を示す。
甲斐の掌の中にあるものは、もう熱を持ち始めていた。
それを見ていた真夜が、抱き留めていた久遠の体をずらす。
そして、片方の手で体を支え、もう片方の手は、甲斐が触れている箇所よりさらに下肢の方へと伸ばされていた。

「あ・・・真夜さん・・・っ」
あられもない箇所に指先が触れるのを感じ、久遠は焦る。
「良くしてやるよ、お前の抑えが利かなくなるくらいにな」
言葉と共に、触れた指先が、窪みへ挿し入れられた。

「やっ、ぁあっ・・・」
とたんに、焦りなんかに構っている暇はなくなった。
今まで以上に高く、熱を帯びた声が発される。
自分の中に真夜が入ってきたとたん、強い感覚が体を襲っていた。

「良い声だ。遠慮せず、もっと啼いてみな」
真夜の指が、さらに奥へと進められる。
それは、深く埋められただけではなく、そこを解すように動かされた。

「あぁ・・・っ、あ・・・」
自分の奥深くを、真夜に乱される。
誰も受け入れたことのなかったその箇所は、わずかに指が曲げられるだけでも反応していた。
その窪みが緩んだときに、指が増やされ、また奥へと埋まってゆく。
久遠は自分を襲う感覚に声を上げるたびに、理性が侵されてゆくのを感じていた。

その姿に見惚れているのか、甲斐の手はいつの間にか止まっていた。
これで、まだ愛撫されていたら、自分の体はどうにかなってしまっていただろう。
真夜を受け入れている箇所はやがて弛緩し、久遠の声も控えめになる。
そのタイミングで、指は引き抜かれた。

「は、ぁ・・・っ」
中にあったものがなくなり、久遠は息をつく。
一息ついて楽にはなったけれど、体が、どこかおかしい。
急に、刺激がなくなったからだろうか。
熱が体の中にくすぶっていて、抑えが利かない。
触れてほしいと、強く思っている。
熱くなっている自身の箇所にも、弛緩した内部へも。


「満足させてやるよ、久遠」
真夜が、久遠の体を軽く持ち上げる。
そして、今触れていた箇所へ、自分の昂りをあてがった。
「い・・・っ、あ・・・」
指とは違うものの圧迫感に、久遠は顔をしかめる。
「お、おい、兄貴、久遠が痛がってる・・・」
甲斐は、心配そうに訴える。
だが、痛みはつきものなのだと真夜は知っているのか、久遠の腰に腕をまわし、身を落とさせた。

「あっ、ぅ・・・っ、あ・・・!」
身を開かれる痛みを感じる。
それでも、久遠は決して真夜を拒みはしなかった。
だが、眉をひそめている様子が気が気でならなかったのか、その身がこれ以上落ちないよう、甲斐は久遠を支えた。

「兄貴、久遠が苦しんでるんなら、無理にしない方が・・・」
甲斐はそこまで言ったが、真夜に睨まれ口をつぐんだ。
身に沈んでくるものの動きが止まった瞬間、久遠は疼きを感じていた。
痛みを感じてもいい。
だから、与えてほしい。
そんな思いが、とたんに渦巻く。

「お前は、久遠のこんな顔を見ても止めるのか?」
「え・・・」
兄の視線に気圧されていた甲斐が、再び久遠に目を向ける。
中途半端なところで止められ、体の熱がくすぶっている。
そして、真夜を感じている箇所は、相手の全てを受け入れてしまいたいと疼いてしまっていた。

その欲求が、顔に出る。
今の久遠に、痛みに耐えている様子はなく。
むしろ、相手を求め、乞うような表情に変わっていた。
そんな久遠を見て、甲斐は無意識の内に手を放していた。

「大人しくもう少し眺めてな。何、すぐに埋まる」
真夜が、再び久遠の腰を引き寄せる。
「あぁっ・・・!真夜・・・さん・・・っ」
もう、止めようのない欲が、徐々に身を犯して行く。
自分の体が反応し、相手を圧迫する度に、久遠は真夜のものを鮮明に感じていた。
やがて、全てが受け入れられ、真夜の動きが止まった。

「あ・・・ぁ・・・」
自分の奥深くに真夜を感じ、久遠は熱を帯びた吐息を吐く。
「甲斐、何ぼーっとしてんだ。満足させてやれよ、久遠のことを・・・」
兄の言葉に、甲斐ははっとしたように久遠を見る。
目の前の相手は、とても熱っぽい眼差しをしていた。
甲斐は、まるで、求められているようなその視線に応えるようにじり寄り。
反応しきっている久遠のものに、自分の昂りを触れ合わせた。

「ふ、あっ・・・」
自分と同じ、甲斐のものが触れる。
昂っている熱が混じりあい、同調しているような感じがした。
「久遠・・・こうしたかった・・・ずっと、お前と・・・」
言葉の途中で、甲斐は優しく久遠に口付ける。
そのさなか、ふいに手を伸ばし、触れ合せている久遠のものを包み込んだ。

「甲斐・・・っ、あ・・・!」
とたんに久遠の体が反応し、強張る。
それで圧迫感を覚え、真夜は熱い吐息をついた。
「良くしてやるよ。この感覚、よく覚えておきな・・・」
真夜が囁き、身を動かし始める。
そして、同時に、甲斐は自身のものと一緒に、久遠を愛撫した。

「あぁっ・・・!は、あ、ぁ・・・」
起ちきっているものを擦られ、同時に中が乱される。
触れられると、強い感覚を覚えずにはいられないそれらを刺激され、久遠の熱は限界まで昂っていた。
「久遠・・・」
真夜が久遠の名を呼び、身を引く。
再びそれが最奥まで埋められたとき、久遠の限界に達していたものが、解放された。

「ふ、あ・・・っ、あ、あぁ・・・っ!」
今まで以上に強い感覚が、久遠を襲う。
真夜を圧迫する自分の体が、止められない。
全身が強張り、上ずった声を発した瞬間。
甲斐に包まれていたものから、熱が散布されていた。

「久遠・・・っ!」
甲斐も同時に高揚を感じ、大きく息を吐く。
そして、久遠のものと同じ熱が解放された。
「っ・・・!」
自身を強く圧迫され、真夜も限界を感じ、身を引こうとする。
だが、途中で気が変わったのだろうか、間に合わなかったのか。
抑えきれなくなった熱は、そのまま真夜を受け入れていた箇所へ流れ落ちて行った。

「は・・・ぁ・・・っ」
久遠が、自身の中に真夜の熱を感じた後、それは慎重に引き抜かれる。
「気持ち悪かったか」
真夜の問いに、久遠は弱弱しく首を振った。

「・・・気持ち悪くなんて、ありませんでした・・・。
・・・僕、二人のことを・・・感じていたかった・・・から」
照れつつも、久遠は正直に告げた。
熱が解放され、求めていたものが流れ込んで来たとき、もう疼きは消えていた。
二人を感じ、何もかもが満たされている。
今、久遠は確かな幸福感を覚えていた。
それに、真夜の熱を自分に留めておきたかった。
いつ、ここから離れて行ってしまうかもしれないのだから。




その後、久遠は母の部屋から布団を拝借して、自室の床に敷いていた。
流石にベッドに三人が寝転がるのは無理なので、毛布を集めてそこに寝転がっていた。
「真夜さん・・・いつか、離れて行ってしまうんですよね」
「ああ、来週には移動になる」
来週と聞き、久遠は憂いを隠しきれなかった。
折角、自分を曝け出すことができるようになったのに。
甲斐がいてくれることがせめてもの救いだけれど、真夜の代わりは誰もできないのだ。

「移動っつても、隣町だろ?徒歩で楽に行き来できるじゃねーか」
「・・・え?」
甲斐の言葉に、久遠の目が丸くなる。
真夜は、久遠と視線を合わせず、天井を見ていた。
移動になるのは、隣町。
しかも、そこは徒歩で行けるほどの近距離。
体よく騙された、と久遠は感じた。
けれど、今はそれ以上に、安心感の方が大きかった。
また、いつでも会うことができると思うと、憂いは一瞬でなくなっていた。

「何だ・・・よかった・・・」
久遠は、ほっと胸を撫で下ろす。
すると、とたんに喜びと安堵感が溢れて来て、ほとんど無意識の内に真夜に身を寄せる。
そして、頬に、そっと唇を触れさせていた。
その行動が意外だったのか、真夜はわずかに驚いたように久遠を見る。
自然とそうしたとはいえ、自分のしたことが照れくさくて、久遠は甲斐の方へ体を向けていた。

そこには、何とも羨ましそうに、そして物欲しそうにしている視線があった。
同じことをしてほしがっているのだと、すぐに察した。
久遠は少し躊躇ったが、真夜と同じく愛しい存在だと思っているのは甲斐も同じ。
だから、久遠は、甲斐の頬へも唇を触れさせた。

やはり、自分からそうするのは不慣れで恥ずかしくて。
一秒ほどで離れてしまったけど、甲斐は幸せそうに微笑んでいた。
「・・・お休みっ」
無性に気恥ずかしくなって、久遠は仰向けになり、目を閉じる。
そのとき、両頬に柔らかなものが触れる感触がした。
そうして、二人の温かさを感じたとき。
もう、決して傷が増えることはないと、久遠はそう確信していた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
この3Pが書きたいがために始めた連載でしt←。
何か、双子と兄のときにもそんなこと言っていた気がしますが 。

次の連載は、士官学校の生徒と教官で行きたいと思っています。
珍しく年下攻めで、その攻め視点での話となる予定です。
もしかしたら・・・主人公と教官の名前が一回も出てこない、異例の流れになる可能性もありますが。
これからも、暇なときにチラ見していただければ幸せいっぱいです(^^)。

ではでは、長々とお付き合いいただきありがとうございました!。