洋菓子店のスイーツ男性達10


今日は、朝から機嫌が良かった。
あまり顔には出さずとも、バイト中に営業スマイルをすることもあり。
昼休憩のデザートに店長が作った洋菓子を食べると、機嫌はさらに良くなった。

「スズナ君、今日は調子が良いみたいだね。何かあったのかい?」
「はい。昨日、やっとテストが終わったんです」
通っている大学のテスト期間は長く、難易度もそこそこ高い。
それでもバイトは入れられるだけ入れたくて、勉強は帰宅してから少しずつ進めていた。
その面倒なテスト勉強が終わり、今は開放感で満ち溢れていた。

「それで、今日から長期休暇に入るんです。だから・・・店長の家に泊まること、できますよ」
「えっ」
機嫌が良い内に、思い切って申し出ていた。
店長はというと、ふいをつかれたのか目を丸くしている。

「もし、店長の都合が良い日があれば・・・」
「スズナ君!今日はもうバイト上がっていいよ!」
いきなり何を言い出すのかと、今度はこっちが呆気に取られた。
「それで・・・俺の家に行っておいてくれていいから!」
店長に腕を取られ、鍵を手渡される。
まさか今日申し出て、その日すぐ家を任されることになるとは予想していなかった。

「店長、まさかこんなことで明日臨時休業にしませんよね」
「い、いや、明日は普通に開店するよ。スズナ君がそんなに積極的に言ってくれたのが嬉しくて、つい・・・」
ずっと試用期間中だったのだから、焦る気持ちはあっても仕方がない。
店長もじれったさを感じていたんだと思い、鍵を握り締めた。

「わかりました。一旦帰って準備をしてから、店長の家に伺います」
「ありがとう!なるべく早く帰るから!」
まるで新婚家庭の様な台詞が可笑しくて、はにかんだように笑った。


それから店を出て、家に帰って泊まる支度をする。
明日の着替えと寝具などを鞄に詰めると、早々に店長の家へ向かう。
近場だけれど、まるで修学旅行にでも行くような気分になっていた。

気付けば早足になっていて、あっという間に家の前に着く。
預かった鍵を開けて中に入るとき、不法侵入をしているようで緊張した。
玄関口に立つと、他人の家の空気に不安も楽しみも覚える。
とりあえず店長の部屋に荷物を置かせてもらい、ベッドに腰かけた。

店長の部屋に一人で居ると、なぜかそれだけで気が高揚する。
鍵を預けてくれたのも、完全に信頼されていることだと気付くと、嬉しくなる。
その喜びを、何らかの形で返したい。
思い立ったら行動は早く、キッチンへ移動して冷蔵庫を覗いていた。


以前と変わらず、製菓材料と冷凍食品、申し訳程度の野菜しか入っていない。
一体、毎日の食生活はどうなっているのだろうと軽く溜息をつき、扉を閉める。
そして、部屋へ戻り財布を取り出すと、近所のスーパーに向かった。

夜まで時間はたっぷりあるので、手造りができそうな食材を選ぶ。
定番のハンバーグにしようか、明日も食べられるスープ系にしようか、和風テイストな煮物にしようか。
気付けばまるで主婦の様に悩んでいて、自分が滑稽だった。
冷凍出ない食材を買い終わると、家に帰る。
うっかり自宅へ行きそうになり、途中で慌てて方向転換した。

店長の家に帰った後は、すぐに調理に取りかかる。
あまり本格的な食事は作ったことがなかったけれど、レシピに忠実にすればできないことはない。
部屋の本棚には見事にお菓子のレシピしかなかったので、スマートフォンで検索しつつ進めて行った。




慣れない事で手際が悪いので、完成するまでに結構な時間がかかった。
それでも、一応形にはなっていて、香りも悪くない。
洗い物をし終わってもまだ時間が余っていたので、部屋に戻る。
どうせなら主婦の様に家事全般をしてしまおうと、散らばっている雑誌を片付け、掃除機をかけた。

部屋だけでなく、廊下やリビングも掃除する。
元々綺麗にしているのか、ほとんど埃は落ちていない。
どこか物足りなくて、部屋中に雑巾がけもした。
自宅では、ここまで徹底した掃除は滅多にしないけれど。
帰宅する相手のことを思っていると、やる気が出て来ていた。


そうこうして待ちわびていると、ようやく陽が落ちた。
辺りが暗くなり、店の閉店時間が過ぎる。
店長が帰って来るのはまだ先だろうなと思っていたけれど、意外なことに閉店後まもなくしてインターホンが鳴った。
そういえば鍵を持っていないんだと、急いで玄関へ向かい、扉を開けた。

「た、ただいま」
家に入る前から、すでに店長は緊張気味だった。
「お帰りなさい、お風呂にしますか、ご飯にしますか、それとも・・・僕にしますか」
調子に乗って、漫画でしか使われないようなことを言ってみる。
店長は何かを言いたそうに口を開いていたが、顔を赤くするだけで言葉は出てこない。
おそらく、一番最後を選ぶ勇気はまだないのだろう、予想通りの面白い反応に、くすりと笑う。

「すみません、お風呂はまだ沸いていないんです。先にご飯にしましょう」
「あ、ああ」
家に誰かがいることに違和感を覚えているのか、自宅なのに店長はぎこちない。
むしろ、来訪者の方がくつろいでいた。

「ご飯、すぐに暖めますから」
「あ、ありがとう」
店長は一旦自室に入ったので、その間にキッチンで夕飯を暖め直す。
おかずは全て手作りだったけれど、米だけは買って来られなかったのでパックだった。
それだけは電子レンジに入れ、後は鍋やフライパンを火にかける。
スープがふつふつと沸騰してくるとトマトの香りが広がり、お腹が鳴った。


暖めたおかずを皿に盛り、パックのお米も器によそう。
全て並べると、テーブルの上は一気に賑やかになった。
そこへ、ちょうど店長が入って来て、テーブルへ駆け寄った。
「こ、これ、全部スズナ君が作ったの!?」
今まで冷凍食品三昧だった店長は、心底驚いているようだった。

「はい、レトルトは1つもありませんよ」
店長と向かい合う形で、椅子に座る。
おかずは、具沢山のミネストローネ、玉ねぎがたっぷり入ったハンバーグ。
付け合わせには人参、ブロッコリー、パプリカなど色鮮やかな野菜を添えてある。
かなり時間をかけて、見た目にも栄養バランスにもこだわったかいがあった。
味も人には出せる出来だと思うけれど、冷凍食品の味に慣れた店長の口に合うか少し不安はあった。

「こんなに豪華な夕飯、いつ以来だろう・・・いただきます!」
「いただきます」
最初は、お互いにミネストローネをすい、少し冷ましてから飲む。
トマトベースのスープと野菜の旨味が解け合っていて、素材の味が生かされていた。
ちら、と店長の反応を伺うと、次々にスプーンを口へ運んでいた。
視線に気付いたのか、店長が手を止める。

「今、夢中になってた・・・。トマトの芳醇な香り、まろやかな野菜の旨味、レトルトとは段違いだよ!」
スープ一杯で感激してくれて、安心すると同時に喜びが込み上げてくる。
ハンバーグを食べたときも、あまり油っこくないとが好ましかったようで、笑顔でいてくれた。
自画自賛するわけではないけれど、この日の夕飯はいつもの数倍美味しく感じられていた。



「美味しかった・・・お菓子以外でこんなに満足したのは久し振りだ!」
「店長の口に合ってよかったです」
帰りの遅い両親に作る事はあったけれど、こうして反応を見ることはできない。
目の前で美味しそうに食べてくれるのは、料理人にとって嬉しい事なのだと少しわかった。
時間が経つと汚れが取れにくくなるので、早々に皿を洗い場に持って行く。

「あ、皿洗いくらいは俺がやるよ」
「いえ、最後までやらせて下さい。泊まらせてもらうんですから」
「じゃあ、風呂を沸かして来る」
そう言うと、店長は一旦部屋を出た。
風呂、と聞いて一瞬よからぬことを考えてしまう。
けれど、まだ試用期間が終わって一週間も経っていない。
恋愛に対してとことん純情な店長が、まだ大それた行動ができるとは思えなかった。

二人分なので洗い物はさほど多くなく、すぐに終わる。
ソファーに座って小休止していると、店長が一冊の雑誌を持って帰って来た。
「スズナ君、風呂が沸くまで雑誌でも読まないか?大人のスイーツ特集が載ってるんだ!」
店長が隣に腰掛けると、やけに距離が近くて肩が触れ合った。
意外に思いつつも雑誌の半分を持ち、付箋が貼ってあるページを開く。
そこには、茶色がメインの数々の洋菓子が描かれていた。

定番で濃厚そうなチョコがかかっているザッハトルテ、ピラミッド形のチョコムース、まろやかそうなチョコプリン。
色的にも味的にも、大人向けというのはビターチョコレートだととらえているらしい。
黒く艶めくコーティングは魅力的で、店長共々じっと見入っていた。
「中にはカカオ90%のチョコを使っているところもあるのか、その分スポンジ層に甘味をつけてカバーする・・・」
味を想像しているのか、店長の目は真剣だった。


「そういえば、カカオ99%のチョコをミルクチョコレートと一緒に食べると美味しくなりますよ」
「えっ!あのとんでもないチョコが、まさか・・・でも、試してみたいな」
お菓子のことを考えている店長を見るのは好きだった。
特別な関係になったけれど、こうしてほのぼのとした時間を過ごすだけでも心が穏やかになる。
店長のペースがどんなにゆっくりでも、きっと合わせられる確信があった。

そうして雑誌を読んでいると、付箋だけでなく端が折られているページを見つけた。
「あ、ここにも特集があるんですか?」
「え、あ、そこは」
何気なくページをめくり、そこを開く。
けれど、そこに掲載されていたのは洋菓子ではなく。
女性が男性に言い寄る効果的な方法や、あれやこれやと少々いかがわしいことが書かれていた。


「店長、これ・・・」
控えめに呼びかけると、洋菓子を見るときのような真剣な眼差しで見詰められる。
「スズナ君、俺が帰って来た時、お風呂にするか食事にするかって聞いてくれたよね」
「え、ええ、まあ・・・」
「食事はもう頂いたから・・・俺は、風呂だけじゃなく、スズナ君のことも欲しい」
やけに男らしい発言に、雑誌を持つ手を離してしまう。
店長の事だから、大胆なことをするのはまだまだ先だと思っていた。
けれど、冗談を言っている雰囲気は微塵も感じられない。
硬直したまま何も言えないで居ると、お風呂が沸いたアラームが鳴った。

「・・・俺、先に入ってるから、後でスズナ君も・・・」
そこまで言って、店長が雑誌を閉じ、ソファーを立つ。
僕は現実味が沸かないまま、その背を見送っていた。





数分後、僕は覚悟を決めて脱衣所に来ていた。
ルネさんの前で裸になったのだから、店長の前で同じ様にできないことはない。
けれど、浴室の扉に手をかけたとき、無駄に力が入っていた。

扉を開くと、ちょうど頭を洗っている泡まみれの店長が振り向く。
手が止まり、沈黙が流れる。
とりあえずこのままでは寒いので、シャワーを借りて体を流してから浴槽に浸かった。
二人なら難なく入れそうな大きさで、足を伸ばしてゆったりできる。
けれど、お互いに緊張感が伝わっているようで、会話ができないでいた。

ほどなくして店長が体を洗い終わり、浴槽に入ろうとする。
「あ、あの・・・僕も、体洗いますね」
「あ、ああ」
ほとんど反射的に浴槽から出て、石鹸を泡立てる。
気を落ち着けるように、必要以上に泡立てて体を洗う。
髪の毛も顔も洗ったけれど、それだけで緊張感が解れるはずもなかった。
さほど時間もかからず、することがなくなってしまう。


「・・・スズナ君、入って来てくれないかな」
「わかり、ました」
隣に二人並ぶ余裕はないので、正面に座る様に浸かる。
男同士で、同じ体のはずなのだけれど、羞恥心が湧き上がって来て視線が合わせられなかった。

「さっき、見たと思うけど・・・俺の心の奥底の願望では、スズナ君と、ああいうことがしたいと思っているんだ」
店長は店長で羞恥を感じているのか、主語がない。
それでも、雑誌の内容が印象深すぎて、何を言いたいのかすぐにわかった。

「で、でも、これって、不純異性・・・同性行為になるのかな。。
俺は、スズナ君のことを大切にしたいし、成人になるまで待っても・・・」
「い、今更そんなこと言わないで下さい!」
尻込みする店長を鼓舞するように、つい声を張っていた。
その直後に、これではまるで自分から望んでいるようだと気付き、ますます恥ずかしくなる。
店長は呆気に取られたように目を見開いた後、柔らかな笑みを浮かべた。

その言葉に勇気づけられたのか、店長が距離を詰める。
すぐに目と鼻の距離まで迫り、両肩を掴まれた。
もう、後ろへ下がる事はできなくて、身動きも取れなくなる。
一時の間が空いた後、顔が近付き、思わず目を閉じると、唇が重なった。

とたんに、心音が落ち着きを無くす。
お湯に浸かっているせいか、以前より温かみが増していた。
少し強く唇が押し付けられると、そのまま胸部も重なる。

「んん・・・」
喉の奥から発されるような、ほとんど音にならない声を漏らす。
胸板が触れ、たくましさのある大人の体を実感する。
今、無防備な状態で抱き合っているのだと思うと、気が落ち着かなくなって行って。
重なりが離れると、高まって来た熱を放出させるように息を吐いた。


店長は、まだ身を引かない。
目を開く前に、もう一度同じ箇所が塞がれる。
同時に、唇とは違う、柔らかな物が歯に触れた。
それは開いた隙間から入って来て、中にある舌へ絡んだ。

「んっ・・・」
思いがけない箇所に触れられ、わずかに身を引く。
けれど、離れる前に、後頭部に手が添えられて引き寄せられていた。
今までの純情さはどこへ行ってしまったのだろうか。
隙間がないほど密着し、深く重なり、繋がっている。
柔い物は奥まで伸ばされ、縮こまろうとする舌を逃さない。

「は・・・っ、ん、ん・・・」
もう、少しも口を閉じる事が出来なくて、隙間からさらに熱を帯びた吐息が漏れる。
胸部から伝わる心音が、どちらのものかわからない。
頭の芯がぼんやりとし、与えられている感触以外のことを考えられなくなる。
強くて早い音は、お互いに一種の欲を与えているようだった。
このまま、触れ続けていたいという欲求を。


やがて、舌の動きがゆっくりとしたものになる。
絡まりが解かれ、重なりが離れると、自分も店長も一息吐くように肩で息をした。
余韻が口内に残っていて、動揺を表すように自然と手が口元に当たる。
体内にくすぶる熱さは、眼差しさえもおぼろげにするようだった。

一呼吸置くと、店長が俯き、首筋へ顔を寄せる。
そこへ唇が触れた途端に、柔らかなものが這った。
口付けとは違う感覚に、肩が震える。
下から上へと、ゆっくりと柔いものが伝う。
「ぅ・・・あ・・・」

裏返った、自分の喉から出ているのか疑うような高い声が発される。
寒くないはずなのに、背筋に悪寒に似たものが走る。
それは、今感じている快感なのだと察していた。
肌を伝う舌に体は敏感に反応を示し、声を上げさせようとする。
声帯を閉じ、必死に抑えつけていたけれど、舌が往復するたびにわずかな音が漏れてしまう。
それが動脈をなぞると、体が小さく跳ねた。

「あ・・・っ、店長・・・」
呼び掛けると、動きが止まる。
また刺激を与えられない内に、言葉を続けた。
「僕、もう、出たいです・・・のぼせてしまいそうで・・・」
この行為を拒否したわけではなく、本当に熱くて限界だった。
触れられていると余計に温度が高まり、もう入っていられない。

「・・・わかった」
店長が離れ、内心ほっとする。
あれだけ純情だった相手が、突然大胆になっていて、その変わりようにどこか怯えていた。
逃れるように立ち上がると、少し足元がふらつく。
のぼせる直前だったけれど、何とか浴槽から上がることができた。

続けて、店長も立ち上がる。
そのとき、その体が思い切りぐらついた。
「て、店長!」




店長が目を覚ましたのは、ベッドの上だった。
まだ頭痛がするのか、上半身を起こして額を抑えている。
「店長・・・すぐ気が付いてよかった」
「うう・・・」
店長は重度の立ちくらみに襲われたのか、立ち上がったとたんに倒れてしまっていた。
何とか肩を支えて浴室から出て、体を拭き、服を着せて、渾身の力でベッドまで運んだ。
成人男性を運ぶのは楽ではなく、結構疲れた。

「・・・それにしても、のぼせて倒れる人って初めて見ました」
「ご、ごめん・・・俺、途中から頭ぼんやりして、心臓爆発しそうになって・・・君が止めてくれるまで抑えきれなくなってた・・・」
おそらく、自分の内から湧き上がる衝動にお湯の熱さが加わって、脳がオーバーヒートしていたんだろう。
それで、純情な心も薄れてしまって、本能のままに行動していたなら説明が付く。

「ごめん、幻滅させて・・・」
「そんなことありません、店長のペースでいいんですよ。僕、休みは一カ月以上ありますから」
「ありがとう・・・」
倒れた事がよほどショックだったのか、店長はどことなく元気がなかった。


「今日はもう寝ましょう。店長は明日も早いんですから」
横になろうとした時、ふいに肩に腕がまわされる。
体が引き寄せられ、腕が密着して温かい。

「俺・・・スズナ君の春休みが終わった後も、スズナ君が大学を卒業した後も、ずっと傍に居たい」
「店長の店で雇ってくれるんですか?」
「それでもいいけど、それだけじゃなくて・・・」
店長は、そこで言葉を止める。
視線を合わせないときは言いにくいことを言おうとしているときなので、じっと続きを待った。


「俺、スズナ君が幸せそうにお菓子を食べている顔を、これからも見続けていたいんだ。だから・・・」
そこで、店長が顔を上げる。
真っ直ぐに視線を合わせ、続きが告げられた。

「将来、俺と、ど・・・・・・同居してほしい」
「同居・・・ですか」
「も、もちろん店に出てくれてもいい。ただ、家に帰って来た時に誰かがいてくれると・・・。
すごく、安心していたんだ。それがスズナ君だったら、なおさらだ」
真剣な言葉に、気付けば頬が緩んでいた。
どうしようもなく純情なこの人の、精一杯の告白に。

「・・・いいですよ。両親も店長のこと・・・もとい、お菓子が気に入っていますから、心象は悪くないと思います」
「ほ、本当に!?こ、こんな頼りなくて、へたれな奴でも・・・」
「はい。それをひっくるめて、店長ですから」
感激が言葉にならないのか、店長は目を潤ませている。
そんな反応がやっぱり面白くて、つい笑ってしまった。

「そうだ、僕が次に泊まるのは、翌日が降水確率100%か、店長が休みにすると決めた日のほうがいいですね」
「そ、それって・・・」
僕はもう、覚悟を決めていた。
店長が望むのなら、決して拒みはしない。


「・・・僕、そろそろ寝ますね」
体を倒し、仰向けに寝転がる。
店長も横になると、腕が伸ばされる。
引き寄せられたというよりは、自分から寄ってくるようにして体の側面が密着した。
最後まで勇気を振り絞って積極的になろうとしてくれて、内心喜んでいて。
自分からも、店長の肩に身を寄せた。

まだ大学に入学して一年も経っていないのに、そんな先の事はわからない。
けれど、この返事は紛れもない本心だった。
僕自身も、お菓子作りに熱中している店長を見るのが好きだし。
何より、ヘタレで、草食系で、純情すぎるこの人を放っておけなくて、ずっと見守り続けたい。
自分が家事をして、たまに店に出て、仕事を終えた店長に「おかえりなさい」と言う。
そんな未来は、きっと幸せだと、そう思ったから。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!。
まだいかがわしくなっていませんが・・・ここで、一区切りとなります。

私の連載で発禁にならないのは初めてという、異例の事態になりましたが。
今回は、キャラが勝手に動いているような感じがして。
ここでいかがわしくするのは違う!と主張しているようだったんです。
まるで、俳優が監督のシナリオに反発するようなものでした。
物足りなさを感じた方は申し訳ありません。
ですが、いかがわしい気持ちが湧き上がってきたら書く・・・と、思います。

それでは、長々とお付き合いいただきありがとうございました!