妖怪達との奇妙な暮らし 安芸編5


先に入浴したはいいものの、昼間の気疲れがあってうとうととしてくる。
入れ替わりで安芸が温泉に入っている間に夕飯を食べると、眠気はさらに増した。
自室に行くと寝てしまいそうなので、安芸の部屋へ行く。
そこにはすでに布団が敷いてあり、緊張感で目が覚めるかと思いきや
横になったらすぐに寝付いてしまいそうだった。

「椎名、まだ起きておるか」
ぼんやりしていたところで声をかけられ、はっとする。
「お、起きてまふ」
眠気と緊張感で、語尾がおかしくなる。
安芸は元の艶やかな着物を着ていて、化粧もしていた。
隣に座り、腕が触れ合う。

「少し、目を閉じておれ」
閉じれば寝てしまいそうだけれど、言われた通りにする。
ふわりと、竹の香りがしたかと思うと、口に柔らかなものが触れていた。
「ん・・・」
見えていなくとも、触れ合っていることを感じると気が安らいでいく。
このまま眠れたらどんなに幸せだろうかと思ったとき、身が離された。
虚ろげな目を開くと、安芸の化粧は取れていて、服は薄布に変わっていた。
この姿だと、九本の尻尾がよく映えていて、つい目が行く。


「そなたは、わらわの尻尾に夢中なのだな」
安芸が尻尾を揺らし、腰元へ巻き付けてくる。
「あ・・・」
ふんわりとしたその感触に、触れずにはいられない。
一本を掴んで指をくぐらせると、上質な毛皮に包まれてうっとりと目を細めた。
尻尾は、質感を存分に味あわせるよう、腕や首にもやんわりと巻き付いてくる。
心地好くて、いよいよ眠気に抗えなくなっていた。

「だいぶ、眠たいようだな」
「すみません・・・安芸さんの体温を感じていると、安らいで・・・」
ふいに、肩を押されて体が後ろへ傾く。
そっと布団の上へ横たえられ、腹部の辺りが尻尾に覆われた。

「今日のところは眠れ。行為の途中で中断されるのはご免だからな」
「ありがとう、ございます・・・」
お言葉に甘えて、目を閉じる。
最上の毛布をかけているようで、とても温かい。
細い指に髪の毛を撫でられると、ものの数分で寝息を立てていた。




安芸の尻尾騒動があってから、仕事は格段に増えた。
和風モデルだけでも珍しいのに、尻尾まで加わったら他に同じモデルはいなくなる。
新たな出版社からも声がかかり、1日に事務所をはしごすることは当たり前だった。
最近は付き人として着いて行くだけでなく、スケジュール管理も任されるようになる。
1日にあちこち行くのは結構疲れて、帰って来てほっとするとまた眠たくなるのだった。
忙しい毎日になったけれど、いつも安芸の傍にいられるから苦にならない。
けれど、安芸はたまに尻尾を不機嫌そうに強く揺らしたり、眉根を寄せたりしているときがあった。

「安芸さん、疲れているんですか?」
「いや、そうではない。・・・そうではないのだ」
もどかしそうに、言葉を言いよどむ。
撮影が始まってしまうと、詳しく聞く暇はなかった。

アパートに帰ってきて、人目を気にする必要がなくなると、尻尾が大きく揺れる。
明らかに、何かにいらついているようだった。
「椎名、今日も疲れたか」
「そうですね、よく眠れそうです」
何気なく答えると、安芸は眉根を寄せる。

「明日、明後日のスケジュールはどのようになっている」
「えーと、明日は2社で撮影とインタビュー、明後日は3社で撮影です」
「全てキャンセルする」
見た目以上に疲れているのかと、目を見開いて安芸を見る。

「やっぱり、安芸さん疲れていたんですね。わかりました、連絡してみます」
すぐに携帯を取り出して、次々に連絡を取る。
いきなり仕事をキャンセルするのは申し訳ないけれど、安芸の為なら躊躇わなかった。

「全部キャンセルしておきました
皆さん、安芸さんのハードスケジュールを知っているから、あまり文句を言われなくてよかったです」
「すまんな。・・・そなた、今日は早く寝て、明日は余計な場所へ出かけず、体力を温存しておくように」
「はい、僕もゆっくり休ませてもらいます」
そのときは、パートナーの身を案じてくれているのだと、素直に返事ができた。


翌日は、久々にゆったりとした時間が過ぎていった。
朝は二度寝をして、落ち着いて朝食を食べて、のんびりとする。
安芸は寝ているのか、昼食の時間になっても姿が見えなかった。
仕事が始まったら、また傍にいられるのだから今日くらいはいいだろうと、自室で音楽を聴いて過ごす。
隣に安芸もいれば、さらに幸せになるとは思うけれど
部屋に詰めかけることはせず、一人でいた。

案外時間はあっという間に過ぎて行き、夜になる。
夕食を食べて温泉に入ろうとしたところで、安芸に呼び止められた。
「今日は、よく休めたか」
「おかげさまで、のんびりできました」
「そうか。なら、入浴後はわらわの部屋に来ることだ」
それだけ言って、安芸はどこかへ行ってしまう。
もう少し話したかったけれど、とりあえず温泉へ向かった。

ゆったりと温泉に浸かった後、安芸の部屋へ向かう。
布団がなかったので敷こうかと思ったとき、扉が開かれた。
「あれ、もう安芸さんも温泉に入ってきたんですね」
メイクは取れていて、服も薄布だけになっている。
安芸は扉に鍵をかけ、すぐ傍まで来る。
尻尾は、焦っているように左右に揺れていた。


「安芸さん、メイクをしていないから落ち着かないんですか?」
「そうではない。・・・わらわは、ずっと望んでいた、この姿と性質を受け入れてくれる相手を」
安芸の腕が背中に回り、距離がさらに狭まる。
いつになく真剣な表情が目の前に合って、一瞬どきりとした。

「今からすることは、完全にわらわのエゴだ。そなたが拒んでも、恨みはせん」
「え、と、することって・・・」
安芸の顔が近付き、口端に唇が触れる。
目を丸くしたときには、唇は耳へと移動していた。
耳朶を挟まれ、心臓が跳ねる。

「ずっと、堪え続けていたが・・・わらわにも、欲求はある。募り募った欲望が」
「安芸、さん・・・」
言葉と共に吐息がかかり、熱が伝わる。
この瞬間、安芸が何を望んでいるのか、察してしまう。
戸惑いがあるのは確かだけれど、跳ね退ける気は少しも沸いてこなかった。

「どうしても、着飾った姿の方がよければ着替えてくるが・・・」
「いえ、そのままの姿がいいです。・・・今のままでも充分、どきどきしますから」
安芸が耳元から顔を退け、真正面で視線が交わる。
この美しい人の指に触れられたい、尻尾の柔さを感じたい、こうして見詰められていたい。
どちらともなく唇が重なり、静かに目を閉じた。


布団の上に座り、どうしていいかわからず正座して硬直する。
「わらわの上に乗るといい」
「え、は、はい」
同じく座っている安芸の足をまたぎ、上に乗る。
「体重をかけても構わん。そなたの重さなど真綿と同じようなものだ」
重々しい鞄を軽々と持っていたことを思い出し、遠慮なく腰を下ろす。
安芸を少し見下ろす形になり、バランスをとるよう肩に手を置いた。

「この態勢なら、そなたの表情が見やすいな」
「そう、ですね。僕も、安芸さんの顔が間近で見られますし」
お互いに向き合えるのはいいものの、下半身が密接になっているのが気にかかる。
安芸は構わず、寝具のボタンを外しにかかった。
一つ、二つと外されてゆき、前がはだける。
指の腹が胸元を撫で、吐息を吐いた。

「若い者の肌は触り心地がいい」
「そ、そう、ですか」
長い指に撫でられ、どぎまぎする。
緊張して、両手を強く握っていた。

「体が強張っておる。怯えているのか」
「怖くはないんですけど・・・初めての、ことなので」
恥ずかしながら言うと、安芸の尻尾が前に回ってきた。
ふわふわとした感触が肌をなぞり、腹部をくすぐる。

「あははっ、あ、安芸さん、くすぐったいです」
強張りを解そうとしてくれているのか、尻尾は胸部や肩の辺りでも動く。
たまらず、一本の尻尾をやんわりと抱きしめた。
「僕、安芸さんの尻尾好きです」
「こら、好いているのは尻尾だけか?」
ふいに、尻尾の先が胸部の起伏に触れる。

「あ・・・」
敏感な個所に触れられ、思わず肩が震えた。
上質な毛並みに撫でられ、くすぐったさ以外のものを感じてしまう。
「そんなにこの尻尾を好いているのなら、存分に愛撫してやろう」
ズボンがずらされて、慌てて尻尾から手を離す。

「あ、安芸さん」
「この先の行為を、もはや止められると思わんことだ。嫌なら、最初に拒んでおくべきだったのだ」
「・・・いえ、嫌なわけじゃなくて・・・ちょっと、焦っただけで・・・」
言葉の途中で、尻尾が下腹部の方へ移動して行く。
どきりとしたときには、毛先が中心へと触れていた。

「あ、っ・・・」
やんわりとした愛撫に、変な声が漏れる。
とっさに口を閉じると、その個所は数本の尻尾に完全に包まれた。
「は・・・う・・・」
優しい触れ方に、うっとりと目が細まる。
一本が少し動かされると、ぴくりと身が震えた。

「ふふ、感じておるのか」
「う・・・」
触れられるさなか、自分の頬だけでなく、下半身の方にも熱が溜まるのを感じる。
美しい毛並みに撫でられて、反応してしまう。
徐々に息が深くなり、もうごまかしようがなくなってしまった。


「そなたが熱くなっているのがわかる・・・心地良い温度だ」
「うう・・・恥ずかしい、です」
「こんなにも頬を赤くして。可愛らしい男(おのこ)よの」
安芸の掌が、頬を包み込む。
しなやかな肌触りに、ふっと息を吐いていた。

「これから、もっと熱くなるだろうな。頬だけでなく、全身が・・・」
ゆらゆらと動く尻尾が後ろに回り、下方の隙間へ潜り込む。
「ひゃっ、あ、そ、そんなとこ・・・」
狭い隙間で、尻尾がなだらかに動く。
感じているのは、くすぐったさよりもはるかに強い感覚だった。

「そ、そんなとこ、触ったら、汚れます・・・っ」
「そうか。尻尾が嫌なら別のもので触れるとしよう」
ふわふわとした感触がなくなると、安芸がそこへ手を伸ばす。
はっとしたときには、同じ隙間へ細い指が入り込んできていた。
そして、さらに奥の窪まりへと、指先が埋められる。

「あ、っ・・・ぁ」
ものを受け入れたことのない個所への刺激に、声が上ずる。
指は遠慮なく奥へと進められ、ぞくぞくとした感覚が背筋に走った。
「や、う、ああ・・・」
「感じるままに声を上げていればよい。ゆるりと解してやろう」
指が、もう一本奥へ埋められる。
「ああっ、安芸さん・・・っ」
たまらず、肩にしがみつく。
長い指に、自分の中が開かれていく感覚に、恥も忘れて喘いでいた。


やがて、体が刺激に順応してくる。
喘ぎが小さくなってきたところで、指が抜かれた。
「あ、う」
今までずっと入っていたものがなくなり、窪まりが緩く収縮する。
肩で息をしていると、ふいに華奢な腕に抱き寄せられた。
お互いの体温が熱くなっていて、うっとりとする。
けれど、自分の下腹部に当たるものがあって、はっとした。

「そなたが、あられもない声を出すからだ・・・」
「え、え・・・」
妖艶な眼差しに、射止められる。
欲を帯びている瞳に、一瞬にして捕らわれていた。

「この身を沈めたい・・・最も熱を感じられる、そなたの個所へ」
片腕と、数本の尻尾に支えられて体が浮く。
安芸が自分の服を乱すと、当たっていたものが露わになる。
改めて性別を目の当たりにしても、もはや、抵抗する気は微塵もなかった。

腰が浮き、先まで指が入っていた個所に、安芸のものがあてがわれる。
息を飲んだときには、腕の力が緩められ、身がわずかに沈んでいた。
「ああ、っ・・・!」
悦楽だけではない、圧迫感に痛みを感じて声が上がる。
熱を帯びたものが入り込んでこようとするけれど、急に怖くなる。
足で体を持ち上げようとしても、留めるのが精いっぱいだった。

「すまないな・・・こんなところだけ雄々しくて。あまり痛むのなら、無理にする気はない」
尻尾に、体が持ち上げられる。
少し楽になったけれど、安芸の表情が曇っている気がして、切なくなった。
今更、後には引けない。
この人の何もかもを受け入れたい。
痛みに怯む気持ちを抑え、逆に自分から身を下ろしていた。

「っ、ぅ・・・」
「椎名、無理をするでない」
労わるように、ふわふわとした感触が背中を撫でる。
「大丈夫、です。僕・・・受け入れたいんです、安芸さんを、全部・・・」
女性と見紛うほどの美しさがある、けれど性別は違う。
それでも、安芸に惹かれ、触れたいと思った。
この行為の果てには、全てを受け入れた証明になると、そんな気がしていた。
もはや躊躇いはなくなったのか、体が、ゆっくりと落ちていく。

「ああ・・・椎名・・・」
安芸の声が細くなる。
少し進むだけでも痛みが走ったが、もはや拒む意思はなかった。
慎重に、安芸のその身を埋めていく。

「は、っ、ああ、ぁ・・・」
たまらず、安芸の尻尾を力強く握ってしまう。
癒すように背を撫でられると、少し楽になって息を吐く。
徐々に、少しずつ身が落ちていって、とうとう下腹部が触れ合った。

「あ、ああ・・・」
自分の最奥に安芸を感じて、目が虚ろになる。
傍で感じる熱い吐息に、脳が痺れるような感覚にとらわれた。
「そなたの鼓動も熱も、感じられるのはわらわだけだな」
「こんなの、したことないです・・・心臓早くて、熱くて、どうにかなりそうで・・・」
下腹部から、お互いの体温が交わる。
それは何とも心地よかったけれど、それ以上に感じるものが確かにあった。


「感じているものを抑制する必要はない、もはや、何かを隠しだてする仲でもないだろうに」
ふいに、安芸の尻尾が高まりきっているものをくすぐる。
「わ、あ、安芸さん・・・っ」
敏感になっているものは、少し触れられただけでも全身が震える。
二本の尻尾に愛撫されるとたまらなくて、息が荒くなった。
撫でられると、もう、頭がぼんやりとして何も考えられなくなる。

「愛らしい表情をする。見せつけられては、わらわも限界だ」
安芸の尻尾が、下肢の昂りを丁寧になぞり上げる。
「ひぁ、あ・・・っ」
弱いところにも毛先が触れて、堪えるように力が入る。
後ろが縮こまると自分の中にある安芸の存在を感じて、どうしようもなく高揚していた。

「椎名・・・そなたの欲を感じたい、わらわに抱いている感情を吐き出しておくれ」
尻尾に、下半身が撫でまわされる。
腰元も、腹部も、起ちきっているものも。
柔らかな毛並みに包まれ、優しく触れられただけでも悦楽がつのっていく。
「ふ、ああ・・・や、あ・・・」
もう、安芸から与えられる柔さしか感じられない。
丁寧になぞられる中で、自分の裏側に触れられたとき、もう駄目だった。

「安芸さん・・・っ、ああ、あ・・・!」
激しくされなくとも、びくりと体が震える。
下肢が一気に熱くなって、欲が溢れ出す。
同時に、安芸を受け入れている個所が強く縮こまった。
固いものを感じて、たまらず安芸にしがみつく。

「ああ、椎名・・・!」
安芸の声が、まるで女性のように高くなる。
その声にどきりとした瞬間、自信の中に安芸の欲が流れ込む感触がした。
粘液質で、卑猥な感覚に身震いする。
けれど、この人のものだと思うと嫌悪感はまるでなかった。

虚ろな眼差しで、安芸に体重を預ける。
すぐ傍で熱っぽい吐息が感じられて、同じように悦んでいたのだと思うと嬉しくなった。
「わらわだけを見ていてくれるか・・・これから先、ずっと・・・」
誘い掛けるような、懇願するような視線が向けられる。
「はい・・・僕、安芸さんに魅了されたい・・・」
そう答えると、すぐに唇が重なり合う。
言われなくとも、すでに目が離せなかった。
赤く染まった頬、熱っぽい息づかい、色っぽい眼差しに、心はとっくに魅せられていた。





翌日、ふわふわなものを感じつつ目を覚ます。
体には安芸の尻尾が巻き付けられていて、とても温かい。
そして、見上げると、ノーメイクの安芸の顔があった。
寝顔が綺麗で、じっと見詰めずにはいられない。
熱視線に気付いたのか、安芸が薄らと目を開ける。

「あ、おはようござ・・・」
言葉の途中で、尻尾と細い腕に抱き寄せられる。
「わらわのものだ、椎名・・・その心に、他の誰も入り込ませはせぬ」
熱烈な口説き文句に、胸が躍る。
たまらず、安芸を抱き返していた。

「・・・安芸さん、僕はもう、とっくに夢中です・・・。
だって、安芸さんは・・・どんな男性よりも、女性よりも美しいですから」
思い切って恥ずかしいことを言ったが、返答は寝息だけだ。
ほっとしたような、残念なような気持ちになりつつ、同じく目を閉じた。
お互い、異端な存在。だけど、受け入れられる。
傷の舐め合いなんかじゃない、温かな気持ちが、この人の傍に居続けたいと思わせてくれる。
ふかふか尻尾で、中性的で、誰よりも綺麗なこの人の傍に。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
安芸編もいかがわしい感じで一区切り、ふわふわ尻尾で撫でまわさせてみたかった←
中性的というより、ぱっと見女性。不思議な雰囲気の属性が書けて楽しかったです。