妖怪達との奇妙な暮らし ユーティス編5


長い休みが終わり、いよいよ大学生活が始まる。
片道30分はかかっても、街を往復していたおかげでさほど苦じゃない。
時間ギリギリになってしまったけれど、入学式を終え、カリキュラムの説明に入る。
授業の単位、内容の説明などがある中、一番気になったのは学費だった。
公立とはいえ、学費は高校とは比べものにならないくらい高額だ。
これからどんなバイトをして賄おうかと、説明をそっちのけで考えていた。

今日は午前中だけで終わったので、まかないのためにアパートへ帰る。
本日のメニューから食べたいものを書き、カウンターに置いておくだけで運ばれてくるから、とても都合がよかった。

「おかえり。大学はどうだった?」
「広々してて、良い雰囲気だったよ」
帰ってきたとき、鏡のおかえりという声があるだけで、安心する。
異常なところがある自分でも、見捨てられていないと思わせてくれるから。

「椎名、お帰り。疲れていないかい」
「大丈夫です、今まで何回も往復して・・・」
言葉が終わる前に、ぐーっと、腹の音が鳴る。
あ、と思ったときには鏡もユーティスも笑っていた。
そこで、ユーティスにそっと頬に掌を添えられる。
一瞬どきりとしたけれど、一撫でして離された。

「食堂へ行っておいで。今日の料理も絶品だったよ」
「あ、は、はい」
仕事があるのか、ユーティスは外へ出て行く。
その様子を、鏡がじっと見ていた。

「ユーティスと、仲睦まじくなったんだ?」
「え、あ、その」
「大切な相手がいるって、いいことだよ」
鏡は何もかもわかっているような、そんな感じがする。
その上で、にこやかに笑いかけてくれることにほっとしていた。


それからの生活は、とたんに忙しくなった。
新しいバイトに、授業の予習復習と、自由時間は格段に減った。
そして、ユーティスと接する時間もほとんどなくなる。

以前は、平日も休日も、誘われればいつでも了承できた。
けれど、お互いの自由時間が合致することはなく、ずるずると日が過ぎていく。
大学生活とバイト三昧に明け暮れて、早一ヶ月。
霊感を悟られることなく、人間関係も良好で、どちらも充実していた。

けれど、不安感が胸の中にある。
このまま、ユーティスと接することができないでいたら、疎遠になってしまうのではないかと。
お互いの拠り所離れようとしていることが、不安でたまらない。
失ってしまったら、どんなに充実した生活でも埋められない穴が空く気がしていた。


今日も授業とバイトで疲れ、睡魔に襲われる。
早くさっぱりして寝ようと、温泉へ向かう途中でユーティスと鉢合わせた。
「椎名、疲れているときにすまない。少しいいかな」
「はい、いいですよ」
疲労感を押さえ込んで、無理矢理笑顔を作る。

「実は、私の全国ツアーが決まったんだ。強行されたに近いけどね」
「全国、ツアー・・・・・・よかったじゃないですか。
ユーティスさんの歌を、もっと多くの人に聞いてもらえますね」
喜ぶべきことだけれど、返事に間が空く。

「・・・数ヵ月間、帰って来られなくなると思う」
数ヵ月、という言葉に、唇を噛む。
今は、接することが少なくなったとはいえ、挨拶や軽い会話程度はできた。
けれど、全く会えなくなってしまったら、お互いの存在が薄れてしまうかもしれないということが、怖かった。

「・・・その前に、私は君の存在を刻み付けておきたい。お互いの心身に」
意味が分からずに呆けていると、指先に首筋を撫でられる。
その瞬間、もしやという考えが浮かんだ。
「え、と、つまり、それは・・・」
「来週の日曜日、君の時間を私にくれないか」
返事をする前に、唾を飲む。
首を縦に振れば、たぶん、おそらく、今まで以上の関係になる予感がした。

「に・・・日曜日、ですね。・・・何もないですし、わかり、ました」
ユーティスの申し出を、断る理由なんてない。
ぎこちなく返事をすると、軽く頭を撫でられた。
「ありがとう。楽しみにしているよ」
ユーティスが横を通り過ぎ、風が吹く。
振り向いたとき、その姿はもうなくなっていた。




それから、日曜日のことで頭がいっぱいだった。
一緒に過ごせるのは、もちろん嬉しい。
けれど、自分の精神はまだまだ大人になりきっていなくて、緊張感も大きい。
授業中も、バイト中も、日曜のことを考えては高揚と緊張を繰り返していた。

そして、あっという間に日が過ぎて日曜日がやってくる。
何が起こるのかと、朝から緊張ぎみだったけれど、最初は一緒に朝食を取っただけだった。
午後は、カラオケへ行き、ずっと歌い続ける。
お互いの声を記憶に残し、いつでも思い起こせるように。

充実した時間は過ぎるのが早く、やがて夜になる。
それぞれ分かれて入浴し、後は眠るだけとなってしまう。
ユーティスの部屋でベッドに座り、軽く肩を触れさせていた。

「今日はありがとう。とても、充実した時間を過ごせたよ」
「そんな、お礼を言うのは僕の方です」
とりとめのない会話を交わす、これだけでも十分に幸せなはず。
けれど、長い時間を共に過ごしたというのに、満たされないものがあった。

「明日は、学校かい」
「はい。ユーティスさんも、仕事ですよね・・・」
お互いが、どこか遠慮して迷っている。
このまま、もう眠ることになるのだろうか。
それで数か月間も離れてしまうのは、心残りがありすぎた。

しばらく黙ったままでいると、ふいに肩を抱き寄せられる。
抗うことはなく、遠慮なくよりかかった。
「・・・最近、どんなに歌っても満足できないんだ。以前は、こんなことはなかったというのに」
「そう、なんですか」
平坦な返事しかできない自分がもどかしい。


また、会話に間が空く。
やがて、腕が離されてしまった。
「明日が早いのなら、もう眠るといい」
突き放されてしまう。
そう感じたとき、反射的にユーティスの腕を掴んでいた。

「満たされないものがあるのは、僕も同じなんです。
貴方と一緒にいるだけでも、幸せですけど、僕は・・・」
続きを言う前に、背に腕が回される。
引き寄せられ、至近距離で視線が交わった。

「一度解放してしまったら、押し止めることはできない。それでも、君は許してくれるのかい」
確固たる欲望があると告げられ、息を飲む。
緊張はしている、けれど嫌悪はない。
望んでいるのは、自分も同じなのだから。


「・・・授業は、一回遅刻したくらいで、退学になんてなりません。
・・・このまま、眠りたくない、です」
とうとう、自分からもユーティスを求める。
とたんに、距離がさらに詰まり、唇が重ねられた。
静かに目を閉じ、その感触と体温だけを感じる。
掴んだ腕はまだ離されず、この温もりを求めてやまなかった。

しばらくは、やんわりと重ねられたままでいる。
やがて離されると、自然と吐息をついていた。
すると、すぐに同じ箇所が塞がれ、柔らかな感触を中に感じた。

「は、んん・・・」
息継ぎをしようとしたところで舌を差し入れられ、呼気が入り交じる。
それは、舌先から表面をゆっくりとなぞっていく。
一瞬だけ身震いしたけれど、頬は徐々に熱くなった。
奥まで差し入れられ、舌が少しずつ?き乱される。

「は・・・あ、ぅ・・・」
艶めかしい感触に、喉の奥からくぐもった声が出る。
そうして翻弄されている間に、ユーティスの片手が服のボタンを外していく。
肌着を隔てているはずだけれど、指が胸部に触れると心音が反応していた。
そこで、やっと呼吸が解放される。
間に伝う細い糸が、とても淫らなものに見えて仕方がなかった。

「肌着を、切ってもいいかな。弁償するから」
「は、はい、いいですよ、安物です、から」
裏返った声で返事をすると、肌着が真ん中から割かれていく。
はらりと薄布が落ち、上半身を隠すものは何もなくなった。

指の腹が、鎖骨から胸部を撫でていく。
心臓の辺りに掌が添えられ、鼓動が伝わった。
肩をそっと押され、無抵抗のまま体が後ろに倒れる。
隻眼に見下ろされ、その視線を感じるだけで胸の内が温かくなった。

「怖くて、緊張しているのかな」
「いえ・・・緊張はしていますが、怖くはないです」
正直に即答すると、ユーティスはやんわりと笑う。
「じゃあ、感じてくれているのかな・・・」
胸部の手が、少しずつ下ろされていく。
腹部のさらに下にある、下半身の中心に添えられ、息が止まった。


「あ、あの、ユーティスさんは、服を着たままなんですか」
「ああ、私だけこのままでは不公平だね」
ユーティスは一旦手を引き、上着を取る。
シャツのボタンが外れ、前がはだけると、思わず注視していた。
シャツも取り去られようとしたところで、急に惜しくなる。
「あの・・・そ、そのままでいてください。何だか、格好いい、ですから」
ユーティスは一瞬だけ目を丸くして、すぐに微笑む。

「ふふ、君が望むのなら、こうしておこうか」
ユーティスが身を下ろし、素肌を重ね合わせる。
直に伝わる体温が心地よくて、目を細めていた。
頭を優しく撫でられると、背に腕を回したい欲求にかられる。
腕を持ち上げかけたけれど、羞恥心が邪魔をしてできない。
ユーティスはわずかに動いた腕を見ると、首筋に唇を寄せて吐息を感じさせた。

「あ・・・」
温かな空気に、溜め息が漏れる。
吐息はすぐに柔い感触に変わり、動脈の辺りを撫でた。

「あ、う・・・」
ぞくりとして、シーツを掴む。
首筋がしっとりと濡れていくと変な発声をしてしまいそうで、深く息を吐いて堪えた。
舌が這う感触だけではなく、たまに、皮膚が吸い上げられる。
唇が離れるときの軽い音が、耳に残って仕方がなかった。

その感触は、胸部へと下がってゆく。
滅多に露出されない箇所に触れられ、シーツを掴む手に力が入った。
心臓の鼓動を確かめるように中心を撫で、右へ動いてゆく。
それが小さな起伏へ触れたとたん、体が震えた。
一時は動きが止まったものの、舌先が起伏を軽く撫でる。

「あ、ぁ、う」
息をつくと同時に、声が出てしまう。
首筋よりも感じるものが強くて、熱が下半身に集中するのを止められない。
くすぐるような、そんな微かな触れ方でも、体は確かに反応していた。

止めようがない熱が、下肢に溜まる。
もう、前がきつくなり、苦しくなってきていた。
感じていることを察し、ユーティスが身を起こす。

「嬉しいよ、君が反応してくれて・・・」
確かめるように、指が下肢の中心を触る。
唾を飲んだときには、ズボンがずらされていっていた。
息を深く吐いても、高揚は抑えきれない。
とうとう、下半身を隠すものもなくなり、完全に無防備になった。


「ここまできても、抗おうとしないんだね」
「ここまできたからこそ、です・・・」
全てを露わにしても、隠そうともしない。
この相手に身を委ねたかった。
両親以外の、新しい拠り所を得るために。

手が太股を伝い、下肢の中心が包まれる。
「は、あ・・・っ」
息を吐くと同時に、声が裏返る。
指の腹が、その身を下から上へとなぞりあげていく。

「あ、あ・・・う」
裏側を撫でられて、びくりと体が震える。
あられもない姿を見られて、触れられて、恥ずかしいはずなのに、顔を背けることはしない。
本能が、この触れ合いを望んでいるのだと訴えるように。
「あまり撫ですぎると、達してしまうね」
ユーティスは手を離し、さらに下方へと持っていく。
そして、後ろの窪まりへ、指先をあてがった。

「そ、そんなとこ、触るんですか」
「そうだね。ここが、一番感じられる個所だから・・・」
呟きと共に、指先が埋められる。
「ああっ・・・」
とたんに、今まで以上の悦楽が走り、声が上がる。
指は一旦止まったものの、ゆっくりと中へ進められていった。

「あ、ああ、ぅ・・・」
わずかに埋められるだけでも、声が抑えられない。
ものを受け入れたことのない個所は、しきりに収縮して拒もうとする。
けれど、ずっと縮まっていることはできなくて、緩んだ瞬間に奥へ進められる。
細い指だけでも感じるものは強くて、息を荒げていた。


とうとう、指が奥まで埋められて、動きが止まる。
自分の中の異物感に、肩で息をして堪えていた。
ここから、どうされるのだろうかと思っていた矢先、また、窪みに指が触れる。
そして、それは同じように中へ納まってゆく。
「んん、あ、ぁ・・・」
圧迫感が増し、また喘いでしまう。

「少し苦しいかもしれないけれど、堪えてほしい。これから先の痛みを、緩和させるためだから・・・」
「は、い・・・」
か細い声で返事をすると、体の奥が開かれていく。
傷付けないようにしてくれているのか、動きはゆっくりとしていた。
ユーティスも切羽詰っていると思うのに、慎重にしてくれている。
そんな慈愛に、応えたかった。


だんだんと、体が刺激に慣れてきて、声が安定してくる。
指が慎重に引き抜かれると、急に刺激がなくなってまた収縮した。
けれど、完全には縮まりきれない。
開かれた個所は、むしろ異物を求めて弛緩していた。

「辛くはないかい?喉が渇いていたら、水でも持って来ようか」
焦りや欲を感じさせない、いつもの口調。
労るように頭を撫でられると、どっと安心感が溢れた。

「大丈夫です・・・痛くとも、苦しくともありません、だから・・・」
そこまで言って、言葉が終わる。
変なところで羞恥心が残っているのか、求め訴えることはできない。
けれど、ユーティスは続きを察したようだった。

「君が感じている姿を見ると、私も興奮してしまうな」
「み、見苦しい姿と、聞き苦しい声ですけど・・・」
「そんなことはない。普段では見られない紅潮した顔と、滅多に聞けない上ずった声も、良いものだよ。
もっと、乱してしまいたくなる・・・」
「え、あ・・・」
熱烈な台詞に慣れていなくて、戸惑う。

ユーティスは手を退け、手つかずのままだった衣服をはだけさせる。
そして、さっきまで指を感じていた箇所に、違うものが触れた。
熱を持ったものがあてがわれ、一瞬息が止まる。

「息を吐いて、力を抜いていた方がいい・・・」
未だに口調は優しくて、言われた通りに息を吐いて深呼吸する。
そうして気が緩んだとき、下肢に当たっているものの切っ先が、そこへ埋められた。

「ぅ、あぁ・・・っ」
わずかに進んできただけなのに、指とは比べ物にならない圧迫感に襲われる。
窪まりはしきりに収縮し、必死に相手を拒もうとしていた。
拒否反応を感じたからか、無理に進んでくることはなく、そこに留まる。

「少しずつ、進めていくから・・・決して、傷付けることはしない」
その言葉は、相手への労りでもあり、決意のようでもあった。
自分の欲望で、相手を屠ってしまわないように。
誓いの言葉を信じ、大きく息をついて体を落ち着ける。
そうして収縮が緩和すると、切っ先が身を埋めてきた。

「あぁ、う・・・っ」
自分の中が開かれてゆく感覚に、声が裏返り、全身に力が入る。
抵抗があると、ユーティスはすぐに動きを止めた。
「っ・・・君にばかり我慢させるのは、申し訳ないね」
シーツを握ったままの手が上へ持ち上げられ、ユーティスの背へ誘導される。
同時に、また、下肢の圧迫感が増した。

「ぅ、あ・・・」
両腕は背中にしっかりと回され、シーツの代わりにシャツを掴む。
力を込めるとユーティスを引き寄せてしまい、自分からも求めているようになっていた。

「思いきり爪を立ててくれればいい。君の痛みが少しでも緩和されるのなら、血が滲んだって構わないから」
抑制を取り払うよう、ユーティスが深く腰を落とす。
「あぁ、あっ・・・」
中を侵されると、遠慮なんてしていられなくなる。
必死にユーティスの背にしがみつき、爪先まで力を込めていた。


やがて、動きが止まり、下腹部が触れ合う。
体温がやけに熱くて、ユーティスも欲を覚えていることを実感した。
もう窪みを閉じることはできなくて、奥の奥までその身を感じている。
お互いの距離は完全になくなり、完全に密接になっていた。

「苦しくないかい・・・」
「っ・・・大丈夫、です。それよりも・・・熱くて、仕方がない、です」
心臓の鼓動と同じリズムで、中にあるものが脈打っているのがわかる。
本能的に、ユーティスに回されたままの腕に力を込めていた。

このまま、繋がり合っているのもいいのかもしれないけれど
高まりきった欲は、もはや抑えられない。
望んでいるのは、さらなる刺激による昇華だった。

言葉にして伝えなくとも、欲求が伝わる。
ユーティスは手を下方へやり、起ちきっているものを指の腹で撫でた。
「や、あぁっ・・・」
刺激に悦ぶように、触れられたものが震える。
同時に、後ろの窪みが無理矢理縮もうとすると、ユーティスがわずかに息をついた。

それでも愛撫は止まらず、全体に、まんべんなく指が這わされる。
特に先端を撫でられたときの悦は強く、すぐに先走った液体が漏れ出していた。
乳白色の液体は卑猥な感触を伴い、愛撫を助長する。
激しくはないのに、下から上へなぞりあげられると、全身が震えた。

「残しておきたいんだ・・・君の体に、記憶に、鮮明に残るものを」
肉体的にも、精神的にも、相手のことを忘れられなくしたい。
自分から、離れて行かないようにするために。
そんな願望を抱いているのは、同じだ。
数か月間離れても薄れない、強烈な思い出を作りたがっていた。

「ユーティス、さん・・・っ」
求め訴えるように、その名を呼ぶ。
手の動きは、望みに応えてくれる。
艶めかしい感触と共に、そそり立つものの先端をしきりに弄り、欲を引き起こさせる。
一撫でされるたびに窪みは収縮しようとし、ユーティスを締め付け、お互いに快感を与えていく。
一時も止むことない愛撫に、もう限界で
何度目かの往復運動の後、びくりと、体が跳ねた。

「ああ、あ・・・っ、ユーティス、さ・・・は、う、あ・・・!」
突発的に、触れられているものの先端が、かっと熱くなる。
次の瞬間には、先程よりもだいぶ多い白濁が、ユーティスの手に零れ落ちていた。
同時に、後ろの収縮運動が激しくなる。
相手を圧迫することが止められなくて、縮こまるたびに中の存在感をはっきりと感じていた。

「っ・・・椎名・・・!」
呼応するように、ユーティスが中で脈動する。
そして、粘液質な感触が、そのまま注がれていた。

「あ、あ・・・う・・・」
生暖かくて卑猥な液体が流れ込み、頭の感覚が麻痺していく。
収縮がおさまると、ユーティスが徐々に身を引いていく。
反射的に筋肉が縮んだけれど、締め付ける力はなかった。
身が抜かれると、注がれた液がわずかに漏れる。
けれど、大半は体の奥に取り込まれ、感触の余韻を残していた。

欲が昇華されて、肩で大きく息を吐く。
気を落ち着けようとしているとき、ふいに、頬に唇の柔らかさを感じた。
数秒間が空き、首や耳元へも触れていく。
先の行為の労りや慈愛が含まれているようで、心地よくなっていた。

「体は痛まないかい、少し快復したら、水を・・・」
首を横に振り、気遣わなくていいと示す。
「このままで、いてください・・・もう少しだけ・・・」
まだ、共に余韻を感じていたい。
少しでも長く、側に居続けたい。
そう望むのは、依存してしまったからだと思った。

自分から、ユーティスに腕を回して寄り添う。
新しい拠り所にすがりついていのだと、確認するように。




翌日は、同じベッドで目を覚ました。
朝起きてすぐにユーティスの姿があることが、とても嬉しい。
着替えるために一旦は部屋を移動したものの、すぐに玄関先で合流する。
まだ時間が早いからか、周囲はしんとしていた。

「起きて間もないけれど、私はもう行かなければならないんだ」
「はい、わかっています」
お互いの声に、悲壮感はない。
距離を詰めると、いつものように頬へ手が添えられた。

「たまに、電話をするよ。声が聞けるだけでも、きっと私は安心する」
「ありがとうございます。僕も、きっと同じです」
そっと、ユーティスの腕を掴む。
すると、すぐに体が抱きすくめられた。
躊躇いなく寄り添い、目を閉じる。
相手の温もりだけを感じるように。

暫くの間、お互い黙って身を委ねたままでいたけれど
ユーティスの腕が緩んだところで、素直に離れた。
頭を一撫でした後、ユーティスが背を向ける。
その背を追いかけ、すがりつくことはしなかった。

長い間離れていたら、お互いに新しい相手を見つけてしまうかもしれない。
けれど、体に刻み付けられた感覚がそれを許さないだろう。
昨晩のことは、相手の為ではなく、自分から離れられなくするための行為でもあった。
察していても、受け入れていた。
依存させたいがための行為の中に、胸を温かくさせる感情があると、そう信じていたから。
少なくとも、自分には。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
主人公視点で書くと心理描写も結構入るので、長々としてしまいました。
お互いに依存できるものを求めた話・・・ですが、甘々な感じにおさまった気がします。