妖魔の森10


食後のケーキは綺麗に平らげられ、後片付けも終わる。
夜はあまりすることもなく、入浴したらもう寝るだけとなり、ユノは約束通りアゼルの部屋へ行こうとした。
けれど、その途中で、ふと入浴後の体温がなかなか下がらないことに気付く。
普段なら、数十分もすれば平熱に戻るはずだが、それが遅い気がする。
入浴剤でも入っていたのだろうと、あまり気に留めずユノはアゼルの部屋へ赴いた。

「よく来たね。さあ、おいで」
部屋に入るなり、アゼルがベッドに座って手招きする。
ユノが隣に腰掛けると、アゼルはすぐその肩に腕を回した。
そのとき、体がわずかに引き寄せられただけなのに、心音が高鳴る。
それに伴い、体温がさらに上がっていって、体の調子がおかしいのは、明らかだった。


「あの・・・アゼル様、僕、風邪をひいているかもしれません。体が少し熱いんです」
「風邪?」
アゼルは、ユノの額に手を当てる。
そうして触れられていると、ますます熱が上ってゆくようだった。

「風邪を移しては申し訳ないので・・・自室に戻ったほうがいいでしょうか」
「いや、これは風邪じゃないよ。体温は平熱みたいだからね」
だったら他の病気なのだろうかと、ユノは不安気な表情をする。

「大丈夫、君の反応は病気じゃないよ」
アゼルはユノの頬に手を当て、ゆっくりと撫でる。
ユノは心地よさを覚え、わずかに息を吐く。
その吐息に熱っぽさが感じられると、アゼルは口端を上げた。


「君がケーキに入れた液体、あれは料理に使うものではないんだよ」
「え・・・?」
そう言いつつ、アゼルはユノの肌を撫で、寝具のボタンを外す。
ユノは危機感を覚えたが、なぜか抵抗する気が起きなかった。
まるで、熱が羞恥心を覆い隠してしまっているようで。
服の前がはだけ、肌が露になっても、ユノはアゼルを見上げたままでいた。

「あの液体はね、興奮作用があるんだ。
でも、妖魔に効き目がないから放置していたんだけれど・・・君には、効果的だったみたいだね」
「興奮・・・」
ケーキに使った液体は媚薬だったと、衝撃的なことを言われたが、ユノには驚く余裕がなかった。
上半身の服が取り払われ、心臓の辺りをアゼルの長い指がなぞる。
寒気が背筋を走ったが、反対に鼓動が強くなっていって、思考の動きはだんだんと鈍くなるようだった。

アゼルの指は上へ行き、ユノの唇へ触れる。
爪先でくすぐると自然と隙間が開き、その中へ指を滑り込ませていた。
「は・・・」
傷付けないよう、アゼルの指がやんわりと舌へ触れる。
恥ずかしいことをされているのに、ユノはブラウニーを食べたときのように目を細めていた。


「ユノ、どうしてほしい・・・?」
返事を聞くために、アゼルは指を抜く。
そこに絡み付いた液は、自らの舌を這わせて拭っていた。
それがとても艶かしく見えて、目が離せなくなる。
じっと見詰めていると、とある感情が沸き上がってきて、ユノはほとんど無意識の内に答えていた。

「・・・抱いて、下さい・・・・・・アゼル様の、その腕で・・・」
口から、勝手に言葉が紡がれる。
それは、とても恥ずかしい願いだったけれど、言わずにはいられなかった。
アゼルは妖しく笑い、ユノの顎に手をかける。

「ふふ、君の欲が昇華されるまで、何度でも抱いてあげるよ」
その抱くとは、ただ抱き締めるということではないとわかっている。
もはや、理性が侵されていて正常な判断ができないでいた。
アゼルはユノの体を持ち上げ、ベッドに横たえる。
そして、上半身だけでなく下半身の服も取り払い、素肌を露わにさせていった。
身を隠すものがなくなっても、ユノは抵抗しない。
ただ、かすかに残っている羞恥心が、アゼルと視線を合わせることを躊躇わせていた。


じっとしていると、アゼルの指が下肢の窪みへ触れる。
繊細な部分に冷たい爪先を感じ、ユノの肩が一瞬震えた。
「私の爪だと君と傷付けかねないから、違うものを使わせてもらおうかな」
アゼルが輪を描くように人差し指を回すと、その中心に鶏卵より一回り小さい球体が表れた。
ユノが不思議そうに見ていると、球体がゆっくりと飛び、爪先が触れた箇所へ下りて行く。
まさかと思い身を固くしたとき、その球体が窪みの中へ入ろうとした。

「い、っ・・・う」
以前も感じたことのある独特の痛みに、ユノは顔をしかめる。
窪みは身を守ろうと収縮したが、球体は反発をものともせずに、徐々に身を埋めていく。
反射的な抵抗は虚しく、球体は完全にユノの体内へ侵入していた。

「あ、あ・・・」
球体の動きは止まらず、まだ奥へ進み続ける。
体は異物に反応して縮まるけれど、それが余計に球体の存在を感じさていて、ユノは声を上げていた。

「妖気の塊はね、何も攻撃だけに使えるものではないんだ。
これで君の奥行きがわかるし、ついでに解せるしね」
アゼルがもう一度円を描くと、もう一つ球体が表れる。
それは宙を飛び、再びユノの窪みへ埋められていった。
「う、うぅ・・・っ、ぁ・・・」
まるで、卵を生み付けられている気がして、ユノは歯を食いしばって耐える。
なすすべもなく球体を飲み込んでしまうと、異物感が増した。


球体は収縮する体内を押し広げ、徐々に奥へと入り込む。
その動きが止まり、少し息を吐いたとき、目の前には無数の球体が浮かんでいた。
ユノは流石に怯えたが、ベッドの上から逃げ出すことはできない。
感情に反して、体は刺激を求めていた。

アゼルが指を軽く曲げると、球体が次々と窪みへ移動していく。
一つ、また一つと自分の中にそれが埋められてゆくたびに、ユノは手を握り締めていた。
腹部が圧迫されて、苦しくなってくる。
このまま、内壁が破られてしまうのではないだろうか。
ユノは恐怖を感じたけれど、体は抵抗を示さない。
薬の効果で理性と本能が乖離していて、気がおかしくなってしまいそうだった。

「奥行きはこれくらいなんだね。少し、解すよ」
アゼルが掌を返すと、制止していた球体がユノの中でうごめき始めた。
「あっ・・・!?う、や・・・っ!」
ほとんど隙間のない空間で球体が擦れ合って、内壁を広げようとする。
激しくはないが、バラバラに動くものに不規則な刺激を与えられて。
窪みがいくら収縮しても、球体の動きを止めることはできなかった。

「あ、う、あぁ・・・」
強い悦楽に襲われ、喘ぎを抑えられない。
もう達してしまいたいと求める一方で、得体の知れないものに侵されている恐怖が入り混じっていた。
「も、う・・・やだ・・・っ」
感情が混乱して、錯乱してしまい、目頭から涙が流れ落ちる。
荒い息も絶え絶えに声を振り絞ると、急に球体の動きが止まり、一瞬でそれらが消え去っていた。

「ごめんね、私も興奮して調子に乗ってしまったみたいだ」
アゼルは、ユノを労わる様にそっと頬を撫でる。
さっきまで怯えていたけれど、優しげな手つきにユノの恐怖感は少しずつ消えていった。


「ユノ、妖魔になりたくはないかい?」
「妖魔に・・・?」
「そう。神器は使えなくなるけど、自分しだいで色々な力が扱えるようになるよ」
その誘いかけは、武器を失ったユノにとってとても魅力的だった。
防護壁を張ってくれる腕輪は使えなくなっても、特別な力があれば刈りのときカイブツの役に立てる。
人と妖魔の違いは、神器を使えるか使えないか。
それならば、神器に頼る人間より妖魔の方が良い気がしていた。
妖魔になれば、確実に人の世界には戻れなくなるけれど。
この森に馴染んだのだろうか、ユノにとってそれはささいなことにしか感じられなかった。

「僕・・・」
ユノがぽつりと呟き、沈黙する。
その間は、自分に最後の問いかけをしているようだったが。
それでも、答えは変わらなかった。


「僕・・・妖魔になりたいです」
答えを聞いたとたん、アゼルは身を下ろし、ユノに口付けていた。
完全に唇を多い、呼気の全てを取り込もうとする。
そこにはアゼルの欲望が感じ取れたけれど、その行為は荒々しいものではなくて、ユノは自然と目を閉じていた。

長い口付けの後、アゼルが身を離し、両手でユノの頬を包む。
慈しんでもらえているようで、ユノは見惚れるようにアゼルを見詰めていた。
「妖魔になる方法はいくつかあるけれど、手っ取り早いのはね・・・私のDNAを取り込むことだよ」
それを聞き、これから何をされるのか察してしまう。
けれど、球体がなくなったときから体は中途半端に疼いていて、何かを求めるように時たま縮こまっていた。

「ユノ、いいのかい?」
妖魔になってもいいのかと、行為を進めていいのかという問いに、ユノは小さく頷く。
すると、服をほとんど乱さぬまま、アゼルは自身のものをユノの窪まりにあてがった。
指とも球体とも違うものを感じ、反射的に強く目を閉じる。
すると、アゼルは安心させるようにそっと髪を撫でた。


何度もそうされると、しだいに強張りが緩和されてきて、ユノは一瞬力を抜く。
そのとき、窪みにあてがわれていたものが、身を進めてきた。
「あっ、あぁ・・・!」
アゼルはユノの窪みを開き、熱を帯びた物で中を侵していく。
そこは球体にかなり解されていて、ほとんど痛みはなかったけれど。
それだけ他の感覚を鮮明に感じてしまい、ユノは思わず声を上げていた。

無理にする気はないのか、窪みが収縮すると、アゼルの動きが止まる。
そして、緩んだわずかな隙に、奥を侵していく。
それが最奥へ辿り着かない内に、ユノは自分の気がどうしようもなく昂るのを感じていた。

「あ、ぁ・・・っ、アゼル様・・・僕、もう、駄目です・・・っ」
「我慢しなくてもいいよ。体が感じるままに、素直に反応していればいい」
アゼルがさらに身を進めると、ユノの抑制はもう効かなくなっていた。

「あ・・・は、ぁ・・・っ、あ・・・!」
優しく言われると、もう耐えようとする気がなくなって。
上ずった声を発した後、ユノは自らのものから白濁を流していた。
窪みがしきりに収縮し、中の物を圧迫しているはずだったが。
アゼルは顔色一つ変えず、達したユノを好奇の目で見ていた。

「あ・・・ぁ・・・」
欲を解放したユノは、一気に脱力する。
けれど、以前とはどこか体の様子が違う。
まだ、自分の中に、熱がくすぶっている。
その熱は、再び解放させてほしいとしきりに疼いていた。

「ああ、やっぱり、一回だけでは満足できていないみたいだね」
アゼルが白濁に濡れたものへ触れると、ユノの体が跳ねた。
「さっきも言った通り、何度でも抱いてあげるよ。君の欲が昇華されるまで・・・」
「アゼル、様・・・」
ユノは虚ろな眼差しをして、アゼルの背へ腕を回していた 。




あれから何回、達したのだろうか。
気付いた時には外が明るくなっていて、隣にアゼルはいなかった。
服は乱れておらず、白濁の匂いも感触も感じない。
昨日の事は夢だったのだろうかと思ったけれど、体を起こすと腰に鈍い痛みが走った。

薬の副作用だろうか、抱かれていた時のことがあまり思い出せない。
球体に解され、アゼルを受け入れたところまでは覚えていても、それから先はおぼろげだ。
自分の体を見ても何ら変化はなく、妖魔になりたいという願いが叶えられたのかもわからない。
腕輪に手をかけてみても外れる気配はなくて、まだ人間でいるのだと察した。

後々、何か変化が表れてくるのか、それともアゼルは達しなかったのだろうか。
まだ体にあまり力が入らなくて、ユノは再び目を閉じる。
布団を引き寄せると、そこにはまだ温もりが残っているようで、心地好かった。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
やや尻切れな感じですが、ここで区切ります。
本当は、カイブツとアーッさせた時点で終わろうと思っていたのですが。
折角のファンタジーなので特殊なものが書きたいな・・・
と、どうしようもない脳が主張していたもので←