妖魔の森16


朝から、アゼルは怪しい薬を量産していた。
見た目は薄い水色で、ほのかに甘い香りが漂っており、美味しそうな飲料という雰囲気を醸し出している。
けれど、それは相手が快く飲んでくれるための工夫でしかなかった。
そして、朝食の時、アゼルは食卓にその飲料を出す。
コーヒーや紅茶が多い朝食時にジュースが出るのは珍しくて、ユノとカイブツは早速訝しんでいた。

「アゼル様、これ・・・」
カイブツが飲料を指差して伺うと、アゼルはにこりと笑う。
「ああ、この前、子供になった二人を見ていたら微笑ましくてね。だから、量産してみたんだ」
堂々と言われて、二人は手を止める。
美味しそうな雰囲気はあるけれど、実験台にされているのだろうかと思うと、あまり気が進まなかった。

「別に、実験体にするつもりはないよ。ただ、たまに童心に戻って遊んでみるのも楽しいものだと思ってね。
少年時代の君達は、結構楽しんでいたようだったし」
確かに、幼い時代は何を気にすることもなく、自由だった。
全てを覚えているわけではないけれど、だいぶ楽しかった印象だけは残っている。

「子供同士で触れ合った方が、気を置かなくていいんじゃないかな?
だから、二人分用意したんだよ」
そう言われて、二人は迷うように飲料を見る。
確かに、少年に戻った時はどちらかが元のままだった。

一緒に遊べれば、もっと楽しいひと時を過ごせるかもしれない。
そうして、カイブツが先にコップを取り、中身を一気に飲んだ。
ユノは目を丸くして、カイブツとコップを交互に見る。
その後、覚悟したようにコップを取り、同じく一気に飲み干した。


その薬は即効性があり、食後ほどなくして効果が表れた。
特殊な繊維で作られた服は体と一緒に縮み、背丈がどんどん低くなっていく。
ほどなくして、二人は以前と同じく幼い少年になっていた。
「ふふ、かわいらしい。そうだ、ユノ、ちょっとおいで」
アゼルに手招きされて、ユノは素直に近付く。
カイブツは、アゼルがユノに何かを耳打ちしている様子を、不思議そうに見ていた。

それが終わると、ユノはすぐにカイブツの隣に並ぶ。
そして、二人はちらと顔を見合わせて食堂を出て行った。
その後、少し間を空けて、こっそりと後ろから見守るように距離を置いてアゼルも外へ出る。
二人は森に入る前に、どこへ進もうかと左右を見渡していた。

「あそんでいいって言われたけど・・・ユノ、どこ行こうか・・・?」
「こっち」
何か思いついたのか、ユノはカイブツの手を引っ張って行く。
普段とは立場が逆転していて、観察対象にはうってつけだった。

ユノがカイブツを引っ張って行った場所は、いつか訪れた洞窟だった。
降り注ぐ柔らかな光は前のままで、美しい風景が広がっている。
カイブツがきょろきょろと辺りを見回していると、ユノがまた手を引いた。
「ひなたぼっこ、しよ」
「あ、う、うん」
二人は、よく陽の当たっている草原に座る。
ほのかに温かい光に照らされると、気持ちが和んでいた。


特別に盛り上がる会話はなくても、気まずくはない。
お互い、傍にいるだけでも安らいでいた。
「ね、ねえ、ユノ・・・」
「なに?」
カイブツは、何かを言いかけて言葉を止める。
言いにくいことを言おうとしているのだと、とてもわかりやすい反応だった。
カイブツは、ユノと目を合わせたり逸らしたりと落ち着きがない。

「ひっつきたいの?」
もしかしてと思い尋ねると、カイブツは恥ずかしそうに頷く。
すると、ユノはすぐに距離を詰め、カイブツのすぐ傍に座った。
その瞬間、肩がわずかに震えたのが伝わってきて、友達なのに何を遠慮しているのかと、ユノは不思議に思う。

「ひっつきたくないの?」
「そ、そんなことない!そんなことないけど・・・」
カイブツの言葉は歯切れが悪く、どこか遠慮しているようなところがある。
気兼ねなく接したいのに、ユノはじれったかった。
そんなとき、アゼルから耳打ちされたことを思い出す。
カイブツはしたいことがあるはずだから、それを聞き出して、行動に移せばいいんだと。


「カイブツ、したいことある?」
「し、したいこと?・・・ある、けど・・・」
「なに?」
ユノは身を乗り出して、積極的に聞き出そうとする。
距離が縮まって、カイブツは思わず地面に目を向けた。
ユノが根気よく言葉を待っていると、もごもごと何かが呟かれる。

「ち・・・ちゅ・・・」
「なに?」
もう一度訪ねると、カイブツは意を決したように口を開いた。
「ユ、ユノ・・・ユノと、ちゅーしたい・・・っ」
絞り出すように声を発し、カイブツは顔を真っ赤にする。
そんな様子がおかしくて、ユノは軽く笑った。

「ん、いいよ」
「え、え、いいの・・・?」
カイブツがぱっと顔を上げて問い返そうとしたとき、言葉が止まる。
ユノはほとんど躊躇うことなく、カイブツが望むことをしていた。
「ぅ、ん・・・」
柔らかいものが触れ合って、ユノはどこかで感じたような、温かなものを覚える。
恥ずかしい思いはほとんどなくて、友達がしてほしがっているのならと、行動に移していた。


それほど長くは触れず、ユノは数秒ほどで離れる。
カイブツは頬を染めて、ぼんやりとした表情でいた。
「これでいいの?」
「う、ん・・・」
恥ずかしかったのか、カイブツはもじもじとしている。
たまに、口をぱくぱくと開いていたけれど、言葉が発されることはなかった。
ユノは焦らず、カイブツに寄り添ったまま日向ぼっこを続ける。
けれど、しばらく経ってもカイブツはものを言わずに終わった。

ぽかぽかと体も暖まり、二人は城へ帰る。
そこで、アゼルを見つけると、カイブツはさっと駆け寄った。
取り残されたけれど、あまり執着はせずにユノは他の部屋へ行く。
「アゼル様・・・おれ、ユノと、もっとなかよくなりたい・・・だけど、うまく言えないんだ」
「君は口ベタだからね、じゃあ、良い物を貸してあげるよ」
アゼルは怪しい笑みを浮かべて、カイブツを研究室へ招いた。




そうして、夜、ユノはいつもより広く感じるベッドで眠りにつこうとしていた。
その前に、扉が軽く叩かれて、カイブツが顔を覗かせる。
「あの、ユノ・・・」
「どうしたの?」
カイブツは、少し遠慮がちに部屋へ入る。
その手にピンク色の球体を持っているのを、ユノはじっと見ていた。
結構大きく、両手で抱えてベッドまで持って来る。

「それ、なに?」
「えっと・・・アゼル様が、これ使えばユノともっとなかよくなれるって」
「ふーん・・・」
これでボール遊びでもするのだろうかと、ユノは球体に触ってみる。
ふにゃふにゃとしていて、ほんのりと温かくて、手触りは良かった。
すると、突然球体が震えて、球体が変形する。
そこからはピンク色の触手が伸びて行き、二人の腕に絡みついた。
ユノは目を見開き、羽を鋭くする。

「あ、あ、だいじょうぶ、アゼル様、こわいものじゃないって言ってたから」
切られてしまうと焦り、カイブツはとっさに止める。
「・・・わかった」
ユノは羽を戻し、抵抗しないようにする。
触手はするすると伸びて行き、服の隙間に入り込んできた。
本当に大丈夫なのだろうかと、ユノは少し怖くなる。
けれど、カイブツも抵抗しないでいたので、同じようにじっとしていた。

触手は器用に動き、二人の服をはだけさせていく。
上半身の服がほとんど脱げ、動きやすくなると、細い体にも絡んできた。
「ん・・・っ、何か、へん・・・」
胸部や腹部の辺りに触手がまわされると、ユノは不思議な感覚を覚える。
冷たくないし、痛くもないのだけれど、何か他に感じるものがあった。
カイブツも同じ状態になっていて、頬を紅潮させている。


「カイブツは、いやじゃないの・・・?」
「う、ん・・・はずかしい、けど・・・いや、じゃない・・・」
幼いながらも逆らえない感覚があって、カイブツはされるがままになっている。
カイブツが嫌がっていないのなら、触手を拒む理由はなかった。
そのまま任せていると、矛先は下半身へと向かう。
柔らかいものは中へするりと入り込み、足にも絡みついていく。
そして、衣服がずらされ、腹部のすぐ下にあるものが撫でまわされた。

「ひゃっ」
下半身に触れられ、ユノはびくりと肩を震わせる。
「あぅ、ぅ・・・」
カイブツは感じるものがあるのか、声にならない声を発している。
触手は滑らかに動き、二人の全身を這いまわっていた。

「あ、ぁ・・・やっぱり、へん、だよ・・・っ」
撫で回されると、体がどんどん熱くなる。
特に、下肢の中心で動かれると気が落ち着かなくなっていた。

「おれも、すごくどきどきする・・・」
触手が少しでも動くと、吐息や喘ぎが抑えられない。
未知の感覚に翻弄されるがままに、二人は息を荒くしていた。
今や、触手は全身に絡み付いていて、意思を持っているかのように動いて相手を蹂躙する。
柔らかな弾力はどこか人肌に似ていて、気を高まらせていく。
時間が経つごとに高揚感は増してゆき、思考を麻痺させていった。


「ユノ・・・ユノ、ほしい・・・」
「ほしいって、なに・・・?」
答える前に、カイブツはユノににじり寄って、唇を重ねた。
熱を帯びた吐息を欲するように、そこを覆う。
重なるだけでは足りずに、唇で優しく食むと、触手以上の柔らかさが伝わった。

「は、ん、カイ、ブツ・・・」
息を乱しつつ、無意識に名前を呼ぶ。
それは、まるで触手よりもこの口付けを求めているようだった。
呼び掛けに応えるよう、カイブツは舌を伸ばしてユノに触れる。

「ん、ぁ、ぅ・・・」
舌同士が触れ合い、ユノは熱っぽい吐息を漏らす。
強い高揚感が、カイブツの羞恥心を薄れさせていて
何かに背を押され、ユノの口内に触れ続けていた。

上も下も愛撫されて、気がおかしくなりそうになる。
幼い体には激しすぎる刺激に襲われて、下半身がどうしようもなく熱くなっていた。
それでも構わず、カイブツは突き動かされるがままにユノに覆い被さり、
舌を絡ませて、お互いの液を交わらせていく。
同時に、触手がカイブツに同調するように動き、ユノの下肢を完全に包み込んだ。

「は、や・・・あぁ、だめ、っ・・・」
弱い箇所の全てに触れられ、全身にいっそう強い感覚が駆け巡る。
上ずった声に驚いてカイブツが離れた瞬間、ユノの小さなものから白く濁った液体が溢れ出していた。
触手は液を素早く吸収し、その身に取り込む。
そして、まだ欲を抱いたままでいるカイブツのものへ愛撫が集中した。

「ふぁ、ああっ・・・やぁ・・・っ!」
カイブツのものも、ユノと同じく高まりきっていて
しきりに絡みつかれると、高い声を発して達した。
白濁は一瞬で触手に拭われ、カイブツは身震いする。
目的を達成したのか、触手は元の丸いボールのような形状に戻り、ころころと勝手に転がって行ってしまった。


二人は脱力して、ぐったりとベッドに横たわる。
乱れた服を直す気力もなく、お互いに身を寄せ合っていた。
「なんか・・・つかれた」
運動した後とは微妙に違う疲労感があって、まだユノの息が荒い。
「でも・・・どきどきして、あったかくなって・・・ユノにさわれて、うれしかった・・・」
先の光景を思い出すと、今度はユノが照れる。
確かに、カイブツと触れ合っているときは嫌ではなかったし
もっと求めたくなるような不思議な熱に包まれていて、拒否感が沸いてこなかった。

「何だか・・・ユノと、なかよくなれた気がする・・・」
「ぼくとカイブツは、もうとっくになかよしだよ?」
「ありがと・・・でも、もっと、なかよくなりたかったから」
それは、少年のままでは言い表せない願望だった。
カイブツは、甘えるようにユノの首元に身を寄せ、腕を回す。
ユノもカイブツの背に手を添えたけれど、抱きしめられている立場なのは自分のような気がした。
それでもいいかと、ユノは身を預けるように目を閉じる。
カイブツとなら、また、どきどきすることをしてもいいと、そう思いながら。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
だいぶ危ないネタでお送りしました、全ては友人とのチャットで生まれた産物。
書いてて(*´Д`)←こんな顔になったのはもう私の脳がやばい証拠。