妖魔の森7


一度は王都に帰還したユノだったが、アゼルに連れられて再び森へ帰って来た。
森の静けさ、澄んだ空気、かすかな妖魔の気配でさえも居心地が良い。
アゼルが住処の前へ着地し、ユノを下ろす。
すると、すぐに誰かが慌ただしく駆けてくる足音がした。

「ユノ!」
名前を呼ばれて声の方を向くと、カイブツが思い切り飛びついて来た。
「カ、カイブツ」
思い切り抱きつかれて、ユノが後ろへよろける。
倒れそうになる体を、アゼルが手を添えて支えた。

「良かった、戻って来てくれて・・・アゼル様、ユノを取り戻してくれて、ありがとう」
「まあ、いい運動になったよ」
王都へ来たからには、大勢の兵士を相手にしたはずなのに。
それを、運動で片付けてしまうところが驚異的だった。

「ユノ、ユノは人の世界より、俺達を選んでくれた。もう、ずっとここに居るんだろ?」
ユノは少し言葉に詰まったが、カイブツの期待の眼差しを目の前にして断れるはずはなかった。
「・・・アゼル様が、許してくれるなら」
そう聞くと、アゼルは優しくユノの頭を撫でた。
それが了承の合図だとわかったのか、カイブツは嬉しそうにユノの首元へ擦り寄る。
さらさらとした感触が気持ち良くて、ユノはカイブツの髪に頬を寄せていた。




そうして、また元通りの生活が始まったが。
その前に、ユノはどうしてもアゼルへの償いをしておきたかった。
何かしなければ心苦しくて仕方がなくて、カイブツが寝静まった後、ユノは研究室を訪れていた。
ちょうど一息ついたところだったのか、アゼルは椅子に座って液体を眺めている。

「アゼル様、あの・・・僕、償いをさせて下さい」
「おや、自分から来るなんて礼儀正しい子だ。さて、どうしようかな」
何をさせようか考えているのか、アゼルは研究室の中をうろつく。
その足がガラスケースの前で止まったとき、ユノは嫌な予感がした。

「じゃあ、この子を使わせてもらおうかな。やっぱり、誰かで試してみたいしね」
アゼルがガラスケースに手を入れ、中のものを取り出す。
それは、以前に見たものと同じような触手だった。
改良されたのか、中央の蕾から生えている触手は人の指ほどに細くなり、本数が多くなっている。
ユノはたじろいだが、償いをしたいと言ったのは自分だ。


「・・・わかりました」
嫌な表情は隠せなかったが、一歩近付く。
アゼルが手を離すと、触手が地を這ってユノの足に絡みついた。
「いっ・・・」
細い触手は柔軟に動き、ズボンの裾から中へ入り、上へ伸びて行く。
うまく関節が固められて立てなくなり、ユノは床に膝をついた。

剣を持っていたら反射的に切り落としていたところだが、生憎王都で没収されている。
抵抗しないでいると、触手が太腿まで上り、中心へ触れようとする。
ユノははっとしたけれど、アゼルの視線を感じると手が動かせなかった。
これは償いなのだから、どんな違和感を覚えても耐えなければならない。
そして、触手は下着の中へも入り込み、中にある物へ触れた。

「っ、あ・・・!」
思わぬ声が出てしまい、ユノは驚いて口をつぐむ。
それは普段より高くて、発するだけで羞恥を覚えるようだった。
触手は下肢に絡みつき、もっと刺激しようとゆっくりと動く。
滑らかに這わされるものに息が荒くなって、口を開かずにはいられなかった。
そうすると、また高い声が発されそうになってしまう。
何とか耐えていたが、その分呼吸は不規則になっていった。

触手が動くと力が抜けていって、ユノは膝立ちもできなくなり、その場に座り込んだ。
すると、触手は一旦動きを止め、上半身の服の中に侵入していく。
腰回りや胸元に巻き付かれると、むずむずとした感覚がする。
そこはくすぐったいだけだったが、それが胸部の一部分へ触れると、とたんに体が反応した。

「う、ぁ・・・」
胸元にも敏感な個所があるのか、先と同じような声が出る。
先端部分でいじられると、背筋に寒気が走った。
刺激を受けると、だんだんとズボンが苦しくなってきて。
まるでその圧迫感を悟ったように、触手は器用に動いてズボンを下ろし始めた。
座っているので苦戦しているようだったが、少しずつ下肢の服がずらされていく。
太腿まで下ろされると、下肢が露わになり。
自分のあられのないものが曝され、ユノはアゼルを見られなくなって俯いた。


「駄目だよ、顔を見せてくれないと」
アゼルがユノに歩み寄り、顎を持ち上げる。
触手に侵され、感じている表情を、アゼルは興味深く観察していた。
目がやや虚ろになり、肌が紅潮し、確実に悦楽を覚えているのだとわかる。
そんな姿を見ると、欲望が渦巻き始める。
この少年が、もっと乱れて行く様子を見ていたいと。

「顔は上げておくんだよ」
これから先、何をされるのかわかっていないユノを安心させるように笑いかける。
手を離して距離を置くと、触手が下腹部へ伸びて行き、ユノの後ろにある窪みへ触れた。

「ひっ、な、何・・・」
「カイブツの相手をしてあげるんだったら、慣らしておいた方がいい」
窪みの付近にある触手の先が、そこへ入って来る。
とたんに、全身に刺激が走り、ユノは驚いて目を見開いた。

「あぁ、あ・・・!」
そこに何かを受け入れたことなんてなくて、強く体が反応した。
何とか抵抗しようとして反射的に内部が収縮するが、少しずつ触手が奥へ侵食してくる。
中を犯されると、体がおかしくなってしまいそうになって。
もう口を閉じていることはできなくて、ユノは荒い息の合間に小さく喘いでいた。



やがて、慣れてきてしまっているのか、触手が入ったままでも声がおさまってくる。
これで終わってほしいと思ったが、今度は新しい触手が中へ入ってきた。
「やっ、あ・・・」
また強い感覚に襲われ、あられもない声をあげてしまう。
自分の内側が開かれてゆき、擦られると体が震える。
何とか動きを止めようと力を込めても、触手の存在を感じやすくなり、声が高くなるだけだった。
何かの液が出ているのか、後ろから粘り気を帯びたものが漏れ出す。
それは動きを滑らかにさせ、触手が中で前後に動き出した。

「ひ、あぁ、あ・・・っ」
二本の触手が、自分の中でうごめいていると思うとぞっとしたが。
それ以上に、解され、開かれて行く感覚が強くて、おぞましさを忘れてしまう。
後ろの触手が進む同時に、今まで制止していた前のものも動き出す。
前の触手に絡みつかれている物はもう起ちきっていて、熱くなっていた。


初めての行為で完全に蹂躙され、ユノの目頭に涙がにじむ。
ここから先、行為がまだエスカレートするのかと、不安で仕方がなかった。
怯えが瞳に映っている事に気付き、アゼルはユノに歩み寄り、落ち着かせようと頭を撫でた。

「大丈夫、もうすぐ何もかもを忘れるほど気持ち良くなれるよ。
そうだ、これが終わったらいいことを教えてあげる。だから、もう少しだけ・・・ね」
唯一の優しい愛撫に、ユノの恐怖心が少し和らぐ。
不安の色が軽減されると、アゼルは邪魔にならないよう退く。
すると、触手の中心にある蕾が開き、起ちきっているユノのものを包んだ。

「あ・・・っ、あ・・・!」
蕾の中は人の肌のように柔らかく、それがもぞもぞと動くと、まるで全身を撫でられているようになった。
後ろにはもう一本触手が入り込み、中を圧迫する。
わずかに痛んだが、包まれているものの愛撫のせいで、淫らな感覚しか感じられない。
もう、息を吐くときも、吸うときも絶え間なく喘いでしまう。
中が粘液質な液体と共に侵され、前は完全に咥えられ、体にも絡みつかれている。
刺激が強すぎて、昂りがどうしようもなく強まっていって。
気がおかしくなってしまうと感じたとき、蕾がふいにうごめき、何かを吸い出す様に収縮した。

「や、め・・・っ、あ、あぁ・・・!」
上ずった声が抑えきれなくて、ユノの全身が震える。
窪みが触手を締め付けるように収縮し、自分が何に侵されているのか思い出してしまう。
同時に、蕾に包まれている物から白濁が解放され、それは全て蕾の中へ吸い上げられていった。


満足したのか、触手が離れる。
中の異物が抜かれるだけでもユノは身震いし、圧迫感がなくなると大きく息を吐いた。
液は一滴残らず吸われ、もう淫猥な感触はしない。
解放されたが、ユノは激しい運動をした後のように脱力し、動けないでいた。

「お疲れ様、お陰で濃い遺伝子が手に入った。それに、とても良い表情も見られたしね」
「う・・・」
声を聞かれ、顔も見られていたと思うと、今更羞恥心が湧き上がってくる。
ユノは脱力感を覚えながらものろのろと手を動かし、乱れた服を直し始めた。
触手が抜かれても、圧迫されていた箇所がまだ開かれているようで落ち着かない。
何とか服を着られたが、腰に力が入らなくて立ち上がれなかった。

「私の部屋へ行こうか。寝物語に、君とカイブツのことを聞かせてあげるよ」
動けないままでいるユノを、アゼルが抱き上げる。
触手にはなかった相手の体温にほっとしてしまって、ユノは無意識の内に身を寄せていた。




アゼルの寝室は広く、ベッドは二人寝てもスペースが有り余っていた。
眠らないと言うのは本当なのか、使用感がなく、新品のような清潔感がある。
ベッドに下ろされると、ユノは生地の柔らかさに目を細めた。

「あの、僕とカイブツのことって、どんなことなんですか」
眠る前に、カイブツのことならどうしても聞いておきたくて、話をせかす。
アゼルはユノの隣に寝転がり、遠くを見た。

「それは、口で言うより見た方が早いね。良い夢を見せてあげるよ」
アゼルは、ユノの髪をそっと撫でる。
そうされると、急激に眠気がやって来て、一気に瞼が重たくなった。
話を聞きたいのに、睡魔に抗えない。
目を閉じると、ユノはほどなくして寝息をたて始めていた。


再び目を開けたとき、ユノは森の前にいた。
木々がやけに高く見え、自分が子供の姿でいることに気付く。
森へ来たことはあるはずなのに、なぜかきょろきょろとして辺りを見回していた。
自分の体のはずなのに、足が勝手に動いて森へ入って行く。
木陰は涼しくて、葉が風で擦れる音は聞き心地が良い。
快適な空間をもっと味わいたくて、歩みはどんどん進んで行った。

「おやおや、子供がこんなところまで来ては危ないよ」
静かな空間で話かけられて、ユノははっと振り向く。
いつの間にか、目の前には今の姿と変わらぬアゼルが立っていた。
ユノはその相手を奇妙な人間だと認識しているのか、呆然と見上げている。
「それにしても珍しい。どこから来たのかな?」
「あっち」
ユノは、今来たばかりの道を指差す。

「森の側に住んでいるなんて、物好きだなあ。ここの空気が気に入ったのかい?」
ユノがこくりと頷くと、アゼルは機嫌良さそうに笑った。
「君は、なかなか面白い性質を持っているのかもね。そうだ、少しだけ血をくれないかな」
友好的な雰囲気を崩さぬまま、アゼルが注射器を取り出す。
鋭利な針を見たとたん、ユノは目を見開いて後ずさっていた。

「人がする注射よりは痛くないよ、たぶん。だから、少しだけ・・・」
「やだっ!」
ユノは叫び、すぐに駆け出して元の道へ戻る。
けれど、通ってきたはずの帰り道は木々に塞がれていた。
少しも隙間がなくて、おろおろと左右を見渡す。
その間にアゼルが背後に回っていて、ユノが振り返ったときには、首の辺りに針が刺さっていた。


「い・・・!」
注射器の中に血液が溜まると、すぐに針が抜かれる。
ほとんど痛みはなかったけれど、驚きのあまり言葉が言えなくなっていて、。
無理やり嫌なことをされて、じんわりとユノの目が潤んできていた。
帰り道がなくなった不安感も相まって、小さくえづく。

「う、う・・・わああああー!」
涙は長く堪え切れず、感情がはち切れた。
鳴き声に反応するように、木々がざわざわと鳴る。
「ああ、ごめんよ。驚かせてしまったね」
アゼルは注射器をしまい、ユノの頭をよしよしと撫でる。
見ず知らずの相手なのに、その手つきが優しくて、少しだけ涙がおさまっていた。

「どうか、この森を嫌いにならないで。ここに君を襲う者はいないようにしてあげるから」
アゼルはしゃがんで、ユノと目線を合わせる。
そして、その身を引き寄せて、額に軽く口付けた。
何だか温かくて、ユノはじっとしている。
アゼルが離れると、木々がさっと道を空けた。
ユノははっとして、素早く腕から逃れてその場から走り去る。
そこで映像は途切れ、何も見えなくなった。


『その後、私はカイブツを作ったんだよ。君のDNAからね』
『僕の、血から・・・』
『そう。兄弟みたいなものだから、君を一目見たときから惹かれていたんだろうね』
兄弟だから、惹かれていた。
カイブツに慕われていたのは、他に特別な理由があったからではない。
好きだと言ったのは、本人が自覚していなくとも、兄弟として好きだということだったのだ。

『このことを、カイブツは知っているんですか』
『いや、教えてないよ。その方が、自分の気持ちに正直になれると思ったからね』
まるでカイブツを気遣っているようだったが、面白がっているに違いない。
アゼルの表情は、楽しみを抑えきれないように口角が緩んでいた。

『君はどうする?カイブツから大胆不敵なことを求められたら、受け入れてあげるかい』
ユノは、すぐに答えられなかった。
正直に言うと、次に求められたら、応じていただろうと思う。
けれど、カイブツは、自分の抱いている想いが兄弟愛であり、恋愛感情ではないと知ったらどうするだろうか。
事実を知った今、教えた方がいいとは思う。
それでも、カイブツが心変わりをしてしまうのではないかということが怖かった。

『ここから先は君達に任せるよ。でも、なるべく早くした方がいい、慣らした意味がなくなるから』
ユノは先の出来事を思い出してしまい、とたんに頬が熱くなる。
『も、もう寝ます、お休みなさい』
寝ているはずなのに、つい素っ頓狂なことを言ってしまった。
『ふふ、今日は一晩中傍に居てあげるよ。安心してお休み』
その言葉を最後に、ユノの意識は完全に途切れた。




―後書き―
読んでいただきありがとうございました!
やーっと書けた念願の触手です←
兄弟設定なんて今更ですが、最初から考えていた設定をどう入れようかと悩んでいる内にこんな形になりました。
突発的な感じがいなめませんが、触手で全精力使い果たした感じです。