(ノスフェラトゥの擬人化×ZEROのサイファーです
シリーズ違う二人ですが、気にしたら負けです←)
エースコンバットZERO1(前編)


漆黒の機体、CFA-44ノスフェラトゥ。
本来ならば、ブレイズの手にあるその機体は、今、サイファーの手元にあった。
戦況が一時安定したときに、タリズマンの元を訪れ
そこで目にしたその機体に、目を奪われたのが始まりだった。

特に注目したのは、特殊兵装のADMMで。
一気に12個もの目標をロックオンできるその機能は、とても魅力的なものだった。
そして、その後、サイファーは無理を言って、半ば無理矢理ノスフェラトゥを借りてきていた。

「ムリ言って借りてきたけど・・・まあ、何か言ってきたらそのときはそのときだ。よろしくな、ノス」
サイファーは、機体を軽く掌で叩く。
その瞬間、ノスフェラトゥからは、妙に生々しい冷たさが感じられた。
サイファーは反射的に手を離し、機体に目をやる。
他の機体より優れているであろうことはわかっている。
その他に特別なところがあるとすれば、特殊兵装くらいだと思うのに。
サイファーは、自分の目の前にある機体から、どことなく異様な雰囲気を感じていた。

「何してんだサイファー、行くぞ!」
遠くの方から呼びかけられ、はっと我に返る。
「あ、ああ。すぐ行く」
サイファーは急いで、ノスフェラトゥに乗り込んだ。
そのとき、そこでもまた違和感を覚える。
機体の中の、空気がやけに冷たくて、まるで、冷やかな眼差しを向けられているような寒気を感じていた。
いくら違和感を覚えていても、発進しないわけにはいかない。
たぶん、これもこの機体が持つ特性なのだろうと、サイファーはそれ以上気にしなかった。

「行くぜ、ノス」
席につき、操縦桿を握る。
漆黒の機体が、空へと飛び立った。




慣れない機体を使ったが、サイファーの戦果はかなり上々だった。
戦闘には直接関係のないシンボルの破壊はもちろん。
特殊兵装ADMMのおかげで、敵機も効率よく撃破することができた。
仲間もその機体性能には驚き、戦果も褒められ、サイファーは上機嫌になっていた。

翌日も、サイファーはノスフェラトゥで飛ぶことにした。
やはり、どこか生々しい冷たさと違和感はあったが。
機能の戦果を思うと、そんなものは気にならなくなっていた。
「よし、今日も稼ぐぞ!ADMMがあれば、すげー有利だもんな」
サイファーが意気込んで操縦桿を握った、そのとき。

(全て、焼き払ってやればいい)

「え?」
機械音かと一瞬思ったが、まるで人の声のような音が聞こえた気がした。
「混線か?」
電波の影響かと、無線に耳を澄ましてみる。
けれど、そこからは何も聞こえなかった。

「・・・ま、いいか。今日もよろしくな、ノス」
上機嫌になっているせいか、サイファーはまるで友人に語りかけるかのように呼びかける。
もちろん、反応があるはずはなかったが。
機体が発進し、最高速度に達するまでの時間が、昨日よりもどことなく早まっている気がしていた。




その日の戦果も満足のゆくもので、サイファーはまた機嫌良く帰還した。
だが、機体の性能が良すぎて興奮ぎみだったからか、体には倦怠感を覚えていた。
なので、翌日は休息を取ることにしたのだが。
基地内でのうのうと昼寝をするというわけではなかった。

爆撃音や、緊張感からはかけ離れた、穏やかな空。
サイファーはノスフェラトゥと共に、ゆったりと飛行を楽しんでいた。
いずれ、タリズマンの元へ帰さなければならない。
そのことを思うと、飛ばないでいる日があるのは勿体なく感じ。
基地内で寝るよりも、ゆったりと飛べば休息にはなるだろうと、サイファーは悠然と空を飛んでいた。

「雲一つない空って、まさにこのことだな。飛びやすくていいな、ノス」
無線が繋がっているわけでもないのに、サイファーはまるで誰かに語りかけるように言う。
最初は気になった機体の違和感にも、もはや慣れて。
むしろ、まるで生命を帯びているような冷たさに、友好的に振る舞えるようになっていた。
機体の性能が良く、上々の戦果が上げられるので、上機嫌な気分が言葉を軽やかにさせていることもあるが。
ノスフェラトゥを操縦していると、不思議と気分が高揚し、語りかけてしまうことがあった。

「あーあ、このままタリズマンが何も言ってこなきゃいいんだけどな。そうすれば・・・」
そうすれば、ずっと共に空を飛んでゆける。
そう続けようと思ったが、サイファーは言葉を呑みこんだ。
ここに他の誰かがいるわけではないのだから、抑えることはないのだが。
なぜか、妙な照れくささを感じ、とっさに口をつぐんでいた。

(クク・・・)

「・・・ん?」
わずかに、含み笑いのような音が聞こえた。
無線の電源は切ってあるし、周囲に他の機体の影はなく、人の声が聞こえるはずもない。
しかし、今、小さな嘲笑が聞こえた。
誰もいないはずの、この空で。

「俺・・・かなり疲れてんのか・・・?」
幻聴が聞こえたことは、前にもある。
それも、この機体に乗っているときだった。
やはり、思った以上に疲れているのかもしれない。
まだ物足りなさはあったが、これ以上幻聴が聞こえたらまずいかもしれないと、サイファーは基地へ戻った。




それから、基地に戻ったはいいものの、空を飛んでいない時間は、とても長く感じるものだった。
早く体を回復させ、明日はまた飛ぼうと、サイファーはいつもよりも早く自室で眠った。
しかし、だいぶ早くベッドに入ったせいか、夜中にふと目を覚まし、そのまま目が冴えてしまっていた。
こんな時間では、誰かと話すこともできない。
暇を持て余したサイファーは、とある事を思い、部屋を出た。

暗い廊下の先を進み、向かったのは、機体が収納されている格納庫だった。
部屋でじっとしているよりは、機体の様子を見ておこうと格納庫に来たサイファーだったが。
明かりを点けて、目を丸くしていた。

「え・・・」
思わず、口が開けっぴろげになる。
収納されているはずのノスフェラトゥは、そこになかった。
「どういうことだ・・・?」
自分が休息している間に、タリズマンが取りに来たのだろうか。
それでも、何も言付けがないのはおかしい。
けれど、漆黒の機体は、まるで闇に溶けてしまったかのようで、何の痕跡も残っていなかった。

もしかして、優れた機体性能を羨んだ何者かに盗まれたのだろうか。
整備のためにどこかへ移動させられただけかもしれないが、不安になった。
「・・・ノス」
ほとんど無意識の内に、ぽつりとその名を呟く。
今すぐ基地内を探し回りたい衝動にかられたが、こんな時間にうろうろするのも怪しまれる。
サイファーは小さく溜息をつき、部屋へ戻ろうとした。


『俺を探しているのか?』


突然、背後から何者かの声が聞こえてきた。
「誰だ!?」
聞き慣れない声に、警戒心を含めて呼びかける。
こんな夜中の格納庫に、一体誰がいるというのだろうか。
サイファーは、薄暗闇へ目を凝らした。

『クク・・・』

今度は、どこか冷やかな嘲笑が聞こえてくる。
その瞬間、サイファーは自分の耳を疑った。
それは、昼間に聞いた幻聴と同じもので、驚きのあまり、その場から動けなくなっていた。
闇の中から、何者かが近付いてくる。
その姿はしだいにはっきりとし、ほどなくして全貌が露わになった。


「・・・お前・・・!」
相手の姿を目の当たりにした瞬間、サイファーは言葉を失った。
漆黒の服に、鋭い目、ヘアアクセサリーにしては、大きな装飾品。
それは、まるで機体の羽のようで、思い出さずにはいられなかった。

自分が探し求めている、漆黒の機体を。
目の前に対峙している何者かと、視線が交差する。
鋭く、冷やかな眼差しを見た瞬間、サイファーはまた思い出していた。
漆黒の機体に触れたときの、あの冷たさを。

「・・・ノス・・・?」
信じられないと思いながらも、その名を呟く。
今、目の前にいるのは人で、機体ではない。
なのに、その人物はノスフェラトゥと似ているところが多すぎていた。

相手は、サイファーの方へ歩み寄る。
警戒して、距離を取ってもいいはずだったけれど、サイファーはその場から一歩も退かなかった。
近付いてくる相手は、冷やかな雰囲気は持っていたものの、敵対心は感じられない。
目の前まで来て、歩みが止まる。
すると、相手はふいにサイファーの腕を取り、その手を自分の肩口へ押し付けた。

「っ・・・!?」
サイファーは、またもや目を見開いた。
掌に触れた、冷やかな感触と、感じたことのある冷たさ。
それは、ノスフェラトゥに触れたときと、全く同じものだった。
そして、腕を掴んでいる手からも、その冷たさは感じられていた。
やがて腕が離され、サイファーはゆっくりと手を引く。
そのときの表情は、幽霊でも見たような驚愕が含まれていた。


「・・・ノス・・・」
もう、問いかけるような疑問詞は付けなかった。
自分が触れた感触は、漆黒の機体のものに間違いないと感じたからだった。
相手は、それを肯定するように、口端を釣り上げて微笑した。
「何で・・・いや、俺・・・夢見てるんだ、きっとそうだな。
疲れてんだ、お前に乗りすぎて。だから、こんな夢見てるんだろ?」
サイファーの口調は、相手に問いかけながらも、まるで自分自身に言い聞かせているようだった。

『夢だと言うのなら、そう思っていればいい』
昨日の昼間に聞いた、幻聴と同じ声が聞こえてくる。
疑いようもなく、それはノスフェラトゥのものだった。
「・・・・・・何で、人型になってんだ?」
少し気を落ち着かせてから、まず一番の疑問を問いかける。

『お前が、俺を望んでいたからだ』
そう言われ、サイファーは格納庫に来たときの自分を思い出す。
ノスフェラトウがいないと思った瞬間、不安感に囚われていた。
それは、その物を求めていることとそう変わらないこと。
そんなことを思うと、どこか照れくさくなっていた。

「い、いや、毎日乗ってれば夢に出てくることはあるかもしれないけどな。
・・・そもそも、俺は、何でノスが人型になってるのか知りたいんだよ」
サイファーは少し焦り、再び問いかけた。
夢に出てくるのであれば、機体の形で出てこなければおかしい。
人型になった姿など、一度も想像したことがないのだから。

『俺にも、原因はわからん。タリズマンの元に居たときでさえ、こんな姿になったことはない』
自分の元に来たから起こった、例外的な現象。
それは、自分がこの機体にとって、特別な位置にいると、そう思わせてくれるようだった。
しかし、これは夢なのになにを考えているんだと、サイファーは思い直す。
たぶん、最近はノスとばかり接していたから、人付き合いに飢えているのだろう。

「・・・じゃ、じゃあ、俺は部屋に戻って寝るから。
お前は・・・どうすんのかわかんないけど、機体に戻っておけよ」
夢だと言い張っておきながら寝ると言ってしまい、サイファーは自分で思っている以上に混乱しているようだった。
『待て』
きびすを返そうとしたところで、呼び止められる。

『明日も、空を飛べ』
有無を言わせぬ命令口調。
気に食わなかったけれど、こんな夢を見ては、飛ばなければやっていられない。
サイファーは一言、「ああ」と返事をして、今度こそ自室へ足を進めた。




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