ヘタリア #2 前編

―友好関係の為に―

翌日、リンセイは隣で寝ている友人の姿を見て、完全に目が覚めた
もう腕は解かれていたので、早々にベッドから抜け出し、まだ眠っている友人を見下ろした

昔の面影が残っている、と言うか、ほぼ昔のままの寝顔だった
裸で相手に抱きつけるその感性は昔からよくわからなかった
そこは、改善しておいてほしいと思うところだったが、
彼は昔のままなんだという、安心感を覚えているのも事実だった

僕は、結構変わってしまったと思う
外見上だけでは気付かない変化が
その部分を見れば、臆病な彼はすぐさま白旗を上げて撤退すると思う
今は変わってしまった部分の片鱗も見せぬよう、注意して行動しないといけない


リンセイが考え事に没頭していると、イタリアがもぞもぞと動いた
どうやら目を覚ましたようで、ぼんやりとした目でリンセイを見上げた

「リンセイ、おはよ〜」
起きて早速、イタリアがリンセイに抱きつこうとベッドから下りようとした
リンセイはすかさずイタリアの両肩を上から押して、立ち上がるのを防いだ

「先に服を着てくれ、僕は外を眺めてるから」 また溜息混じりでそう言うと、リンセイはイタリアの姿を見ないように窓際へ移動した
イタリアは裸になっても、裸を見せても何とも思わないだろうが、リンセイはそういうわけにはいかなかった
いくら友という関係でも、その裸体を見る趣味はなかった


そろそろ着替え終わったかと思い、リンセイはちらっと後ろを見てみた
すると、すぐ間近にイタリアが接近していたので、リンセイは思わずのけぞった
ちゃんと、服を着ていてくれたのが幸いだった

「リンセイ、おはようのハグであります〜」
イタリアがまだはっきりとしていない口調でそう言うと、リンセイに抱きつき、両頬に一回ずつキスをした
「イ・・・イタリ・・・」
突然そんな事をされて驚き、とっさに遠ざけようかと思ったが、これはイタリア式の挨拶なのだという事を思い出した
そういえば、昔から出会うたびにこういった挨拶をしていた気がする
あれは幼い頃だったからよかったものの、今となってはやはり軽々とは受け流せない行為だった
あまり動揺した様子を悟られたくないと思ったリンセイは、イタリアの背中を軽くぽんぽんと叩いた

「はいはい、お早うイタリア。今日は確か、友達を紹介してくれるんだろ?
そろそろ、その友達の所に行きたいんだけど・・」
太陽は、そろそろ真上に上る頃だった
二人が起きた時間は、すでに昼に近く、これにはリンセイが驚いた
そんな時間まで眠るなんてよほど疲れていたのかと、こんな時間まで眠っていた自分に驚いていた
勿論、イタリアにとっては普通の事かもしれなかったが

「あ、そうだね〜。それじゃあ、パスタ食べてから行こ!」
イタリアは昨日と同じく、リンセイの腕を引っ張った
そんな様子を、まるでまだ子供のようだなと思いつつ、リンセイは引っ張られるままイタリアについて行った




お勧めのパスタ店で昼食を終えた二人は、とある国へ来ていた
イタリアの国の雰囲気とはがらりと変わり、見た事のない建物が目の前に建っていた
木枠の扉に、瓦張りの屋根、家の周りは低い石垣で囲まれていた
少し強い兵器でも持ってくれば、簡単に押し入れそうな感じがあった
リンセイがその建物をしげしげと眺めていると、イタリアは玄関口の扉を数回叩いた

「こんにちはー。日本ー、いるー?」
イタリアが扉に向かって呼びかけると、ほどなくして扉が音を立てて横に開いた

「イタリア君、何か御用事ですか?」
そこに出てきたのは、黒髪の青年だった

「うん、リンセイに日本を紹介したかったんだ。
リンセイ、ここにいるのが日本だよー」
日本と呼ばれた彼は、確かにちっちゃいが、かわいいという印象はあまりなかった
真っ直ぐな眼差しが、凛とした雰囲気を持っているように見えた

「今日は、日本さん。貴国の文化を学ばせていただきたく・・・」
「もー、固い挨拶はいいから、日本、おじゃましていい?」
「あ、はい、どうぞ。私も、イタリア君のお友達に興味がありますし」
日本は快く了承し、二人を部屋へ招いた



日本の家の中は独特の雰囲気があり、やはり見た事のない作りが多かった
こうして通された、畳張り、という部屋も他国の作りとは明らかに違っていた
どうやら日本というのは、独自の、そして独特な雰囲気を持っている国のようだった
だがそれは嫌なものではなく、静かで落ち着きのある、イタリアとは正反対のような国だった
そんな国がどうしてイタリアと仲が良いのか疑問に思ったが、相反しているからこそ惹かれるところがあったのかもしれない

リンセイが辺りを観察していると、日本がお茶を持ってきてくれた
丸い机の上に置かれた、そのお茶が入っている器までも独特だった
三人分のお茶を置くと、日本はリンセイの正面に座った
ぴんと伸びた背筋が、さらに凛とした雰囲気をかもし出していた

「では、改めまして・・・私は、日本と言います。リンセイ君の事は、イタリア君から噂を伺っていますよ」
こっちが小国だというにもかかわらず、とても丁寧な口調だった
そのせいか、自分の正面に座る相手がとても大人びて見えた

「こんな小国の噂に耳を傾けてくださって、恐縮です」
相手の敬語につられて、自然と口調が丁寧になる
形式や礼儀を尊重する国にとっては印象が良くなり易い言葉を選んでいるので、
まさにこの日本という国にはうってつけかもしれなかった

「それで、イタリア君とは・・・・・お付き合いされているのですか?」
「え・・・」
どうやら、イタリアが言った初恋の人という言葉を真に受けているようだった

「それは、小さい頃の話で・・・」
「そうだよー。昨日は、一緒に寝たんだよね」
イタリアが、リンセイの言葉を遮るようにして同意を求めた
一緒に寝た事は事実だが、今そんな事を言えば誤解されるのは目に見えていた
日本が小さく「やはり・・・」と呟いたのを聞き、リンセイは慌てて否定した

「つ、付き合いって言うのは、友達付き合いのことで、
一緒に寝たっていうのは、本当にただ寝ただけです!いかがわしい行為は、一切していませんから」
必死で否定しているリンセイを見て、日本はくすっと笑った
それはほんの一瞬の笑みだったが、リンセイにはその表情がとても印象に残った
真面目そうな外見から一変したその笑みが、可愛らしいと思えた
だからイタリアは日本の事をかわいいと言ったのかと、納得がいった

「ねーねー日本、リンセイにいろいろ案内してあげてよ」
イタリアは、自分では気付きもしないだろうが、リンセイにとってとても都合の良い発言をした
イタリアがこうして率先して相手を促してくれる事は、相手にむやみに警戒心を与えない良い方法だった

「そうですね。折角いらしてくださったことですし、観光名所でも御案内しましょう」
「ありがとうございます。この国は珍しい物が多そうなので、楽しみです」
観光案内をされつつ、国の風土や戦力を調べる事
それには周囲をかなり注意深く観察していかなければならないので、イタリアの時と同じくまた疲れそうだった
そして、上司の命令などなく、本当に観光目的で国々を回れたらどんなにいいだろうかと、そんな事を思っていた




それから、三人は数々の物珍しい名所や風土を見て回った
そして、日本の家に帰って来た頃にはリンセイだけではなく、三人とも疲れ果てていた
日本は、いつもよりテンションの高いイタリアに、何かと注意したりして疲れ
イタリアは、はしゃぎすぎて疲れ
リンセイは、少しでも多く日本の情報を集めておこうと気を配りすぎて疲れていた

だが、おかげで日本がどれだけ目まぐるしい成長を遂げてきたのかということや、独特な娯楽文化の多彩さを知ることができた
ここも、軍事力的には不安があるところだったが、日本独自の雰囲気に興味を抱いていた
そして、もしこの国が敵国になったとしても、攻め滅ぼしてしまうのは惜しいと思った


「今日は疲れたね〜。日本、俺達泊まっていってもいい?」
相手を疲れさせた張本人が、遠慮なく言った

「いいですよ。お疲れでしたら、露天風呂にでも入りましょうか」
「うん!みんなで入ろ〜」
「み、皆で・・・か」
昨日の今日で、二回も友人の裸体を見る事になるとは思わなかったが
ここでむやみに断るのも悪いと思い、リンセイはあまり気が進まないまま、その露天風呂というものに入ることにした

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