ヘタリア 番外イタリア編#3

―告白の結末―

僕が目を覚ましたのは、ベッドの上だった
昨日、どこかから記憶があやふやになっている
珍しくイタリアが隣にいなかったので、どこへ行ったのかと僕はベッドから下りた

そこで、異変に気付いた
そして、僕はすぐにベッドへ潜り込んだ
毛布の中を探ってみるが、何も無い
僕は毛布を体に巻きつけ、周囲を見渡した
床にも、何も落ちていない
僕が焦っていると、奥の部屋からイタリアが顔をのぞかせた
すると、イタリアは血相を変えて僕のところへ走り寄り、ベッドに飛び乗ってきた

「わわっ、イ、イタリア・・」
イタリアに抱きつかれ、僕はまた慌てた
イタリアは、服を着ていた
しかし、僕は全裸だった
いつもと逆の立場に置かれ奇妙な感じがしたが、今はなぜ自分が全裸なのかという疑問で一杯だった

「リンセイ大丈夫?頭痛くない?体だるくない?」
イタリアが、とても心配していると言いたげな表情で僕の顔を見上げた
昨日、僕は何か心配されるようなことをしでかしただろうか

「イタリア・・・何で、僕は裸なんだ?」
寝起きの頭では思い出せそうになかったので、まず一番の疑問を尋ねた
「覚えてないの?リンセイ、昨日お風呂で急にぐったりしちゃって・・・
俺、急いでベッドに運んだんだ」


そう言われると、そうだった気がする
昨日はイタリアとテーマパークに来て、ホテルに泊まって、一緒に風呂に入って・・・
そこまで思い出しだところで、僕の息は詰まった

昨日、僕は浴槽で、イタリアに告白された―――
そのときの状況を鮮明に思い出すと、それだけで狼狽してしまいそうになる
とても深いキスをされ、告白され、そこからもう記憶がない
おそらく、動揺しすぎて、混乱して、焦って、そしてのぼせてしまったのだと思う


「すっごい心配したよ・・・うなだれたまま、動かなくなっちゃったんだもん」
「そうか・・・運んでくれたのか。ありがとう」
僕は良いことをした子供を褒めるように、頭を撫でた
イタリアは嬉しそうに笑い、その笑顔がまた子供を連想させた

「イタリア、服を取ってきてくれないか?」
何にせよこのままでいるわけにはいかないので、僕はそう依頼した
「え?俺、別に気にしないよー」

「・・・僕が気になるんだ」
そう言って頼むと、イタリアは浴室へ服を取りに行ってくれた
イタリアは、僕が裸で歩いたって気にしないかもしれないが
僕は人前でそんな恰好になることは、なるべく避けたかった
自分を防護するものがないと不安でもあったし、それ以前の問題もあった



「リンセイ、持ってきたよ」
イタリアは両手に持っていた僕の服を、ベッドの上に置いた
「ありがとう。じゃあ、着替えるから少しの間他の部屋へ行っててくれ」
「えー」
僕は当たり前のことを言ったつもりなのに、イタリアは不満そうな声を出した

「・・・他の部屋へ、行っててくれ」
僕はもう一度、協調するように言った

「リンセイ、照れ屋さんなんだね」
イタリアが、悪気も無く言った
それについては、否定できなかった
確かに僕は人見知りするところがあるし、イタリアほどオープンではない
僕はいいかげん服を着たかったので、無言の眼差しで訴えた
イタリアはそれを察してくれたのか、別室へ移動していった

イタリアになら、今更、肌を見られたって恥じることはないのかもしれない
実際、僕は昨日イタリアを突っぱねることはなかった
それに、浴槽の中で素肌に手をまわし、抱きしめていた
僕はもう、完全にイタリアを受け入れているのかもしれない

僕は、イタリアをどう思っているのだろうか
友達か、親友か、それとも、恋人か
その境界線がわからない
自分のことなのに、こんなに不明瞭なことはなかった




着替え終わると、僕はイタリアと一緒に家へ帰った
道中、昨日のことで何か尋ねられるかと少し緊張していたが、家に着いてもイタアリアは何も聞いてこなかった
それをいいことに、僕からもそのことについては何も言わなかった


僕は、色恋沙汰には疎いほうだ
さんざんアプローチされてきても、昨日告白されるまで知らぬ振りをしていた
だけど、これからはもうとぼけてはいられないと思う
告白の言葉を聞いた後でも、僕がイタリアの行為に抵抗を示さなかったら
だけど、それが僕がイタリアのことを愛しているという確固たる証明にはならないと感じていた

僕は、イタリアを悲しませたくないと思っている
だから、拒否しなかったのかもしれない
僕がイタリアを受け入れることで、彼が喜んでくれるのならそれでいいと思い、大人しくしていたのかもしれない
ここでもやはり、自分の感情がよくわからなかった




「楽しかったね〜。俺、リンセイと行けてすっごく嬉しかったよ!」
家に着くなり、イタリアは満面の笑みで言った

「ああ。僕も・・・」
僕も楽しかったよと言おうとしたとき、黒電話の鳴る音が部屋にけたたましく響いた
僕は、うっかり反射的に受話器を取ってしまった

「はい。・・・あ、すみません、イタリアにかわります」
そう言って受話器を渡そうとおもったとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた

「リンセイ。明日、遅くとも明後日には国へ帰って来い」
挨拶もままならないまま、そんなことを言われた
受話器から聞こえてきたのは、自国の上司の声だった

「上司・・・もう、帰っていいのですか」
僕は、こんなに短い処分もあるものなのかと驚きつつ問いかけた

「明日か明後日だ、いいな」
強調するように、上司は繰り返した
そこには、有無を言わさぬ絶対命令の響きがあった

「・・・はい、わかりました」
了解の言葉を言うと、すぐに電話は切れた
僕は受話器を置いて、イタリアに向き直った



「突然だけど・・・明日か明後日に、帰らないといけなくなった」
それを聞いたとたん、さっきまでにこやかだったイタリアの表情が曇った

「・・・そっか」
イタリアは駄々をこねることもなく、一言そう言った
僕は、その一言がとても切なく感じられた

イタリアは、そのまま沈黙していた
そんなにショックを受けている様子を見ると、上司の命令なんて無視してしまおうかなんて考えが脳裏をよぎる
でも、これが永久の別れというわけではないのだから、そんなに悲しむ必要はないのにとも思う
僕は落ち込んでいるイタリアを慰めようと、頭を撫でようとした
しかし、その手が途中で強く掴まれたので、僕は目を丸くしてイタリアを見た

「リンセイ、明日は俺と一緒にいて。帰るのは、あさってにしてほしい」
僕を見るイタリアの目は、何かを決心したかのように真っ直ぐだった

「わ、わかった」
いつもとは違うイタリアの雰囲気に気押され、僕はすぐに返事をした
「約束だよ。明日は、ずっと俺と一緒にいてね」

念を押すように、もう一度言われた
僕は頷き、約束した
実のところ、イタリアにこう言われなくても帰るのは明後日にするつもりだった
一緒にいたいという思いは、僕も同じだったから





そして、翌日
イタリアは何か特別なことをするわけでもなく、普通の日常生活を僕と共に過ごしていた
僕は何かを期待していたわけではないので、イタリアと共に居られるだけで十分だった
心なしか、いつもより早く時間が過ぎてゆく気がした
そのとき、僕は明日の別れが、今から名残惜しく感じられていた



夕方になると、イタリアがせわしなく動き始めた
しきりにクローゼットを開けたり閉めたりして、何かを探している様子だった

「イタリア、何をしてるんだ?」
僕が尋ねると、イタリアは返事のかわりに一着の黒いスーツを手渡してきた

「リンセイ、すぐにこれに着替えて!」
突然そんなことを言われ、僕はわけがわからなかった
だが、イタリアの声にはまたいつもと違う雰囲気を感じた
僕はまたもやその雰囲気に気押され、とりあえずそのスーツに着替えることにした


「イタリア、これでいいのか?」
僕は滅多に袖を通さないスーツに着替え、変なところはないかと尋ねた
いつの間にかイタリアも着替えていたようで、同じようなスーツを着ていた
服が変わるだけで、イタリアの印象が大人びて見えるのが不思議だった

「わぁ、リンセイすごくかっこいい・・・。それじゃあ、行こ」
イタリアは何の説明もなしに、いきなり僕の手を引っ張った
僕は、今日はずっとイタリアと一緒にいると約束したのでそのまま大人しく引っ張られていった




着いた場所は、とても上品そうなレストランだった
イタリアは常連なのだろうか、中へ入ると店員がうやうやしくお辞儀をして招いた
しかし、夕食時だというのに客が一人もいないのが妙だった

「今日、貸し切りなんだ〜」
僕が質問する前に、イタリアがその答えを言った
もしかして、僕が明日帰るからわざわざ貸し切りにしてくれたのだろうか
二人きりで、時間を過ごすために
イタリアは僕の手を引き、中央のテーブルに席を取った
周囲にある何十席もの空席を見ると、何だかとても贅沢をしている気分になった

「リンセイが帰っちゃうって聞いて、俺、すぐに準備したんだ。
今日は、いい雰囲気のとこで二人になりたかったから」
そこで僕は、イタリアは特別な思い出を作りたがっているのかもしれないと思った
僕はふっと笑い、イタリアの頭を撫でた

「ありがとう、イタリア。・・・嬉しいよ」
僕はもう、こうして頭を撫でることが癖になってしまっていた
店員が料理を運んできたところで、僕はぱっと手をどけた
運ばれてきたのは、自国では見た事のない、鮮やかな色どりの前菜だった

「おすすめのコース料理だから、どれもおいしいよ〜。いただきまーす」
イタリアはフォークを手にとって、早速食べ始めた
僕も、いただきますと言って、料理を口に運んだ


運ばれてきた料理は、どれも絶品だった
流石本場と言うべきか、特にパスタの美味しさは格別だった
イタリアも、満足そうに微笑んでいた
そんなイタリアの何とも幸せそうな笑顔を見ることが、僕にとっての幸せだった
デザートを食べ終えた頃には、すっかり満腹になっていた



「料理、すごくおいしかったよ。ありがとう、イタリア」
「うん。俺もうお腹いっぱ〜い」
それならそろそろ帰ろうかと、僕は席から立ち上がろうとした

「あっ、待って待って、リンセイに渡したい物があるんだ」
イタリアがそう言ってきたので、僕は椅子に坐り直した
そして、イタリアは内ポケットから小さな箱を取り出した
その中身が何なのかなんて、僕には想像もつかなかった
イタリアはその箱を掌に乗せ、中身が僕に見えるように蓋を開いた


「・・・・・・指輪?」
箱の中にあったのは、小さなダイヤモンドが輝く指輪だった
照明の光が反射して、何とも美しかった
僕は、なぜイタリアが指輪を渡したがっているのか、まだわからなかった
だから、僕は次に発されたイタリアの言葉に絶句した
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