強制的な欲情 中編

翌日の夜、言った通りネズミがやって来た
手土産を持ってくるとか言っていたが、特にそられしき物は見当たらなかった
別に期待していたわけではないので、ネズミを椅子に座らせ、スープの入った皿をテーブルの上に置いた

それは、赤々としたトマトベースのスープだった
中身は、時間をかけたという事もあり、鶏肉や人参、じゃが芋など具がたっぷりと入っていた
他におかずはなかったが、一回お代りすれば十分な量だった

「へー、結構なもんだな」
その見栄えでもう関心したかのようにネズミが言った

「まあ、時間かけたからな。味は保証する」
流星は自分の分のスープもテーブルに置くと、今度はスプーンを取りに台所へ戻った
その時、ネズミはポケットから小瓶を取り出した
そして、瓶の中の白い錠剤を一粒、流星のスープの中に入れた
熱に反応を示しているのか、錠剤はみるみる内に溶けてなくなってゆく
丁度、流星が戻ってきた時、それは跡形もなくなっていた

流星はネズミのした事などつゆ知らず、スプーンを手渡し、スープを飲み始めた
ネズミはその流星の様子をうかがいつつ、自分もスープを飲んだ


「・・・旨いな、紫苑が絶賛するのもわかる」
濃厚なトマトのスープと切り揃えられた具材は、お互い調和し、両者の味を邪魔していない
かなり煮込んだのか、具材の一つ一つにもトマトの味がしっかりとついていた

「お褒めに与り光栄です、殿下」
流星が珍しく、冗談めいた口調で言った
自分の得意分野を褒められ、気分が良かった
ネズミがその珍しい冗談に、ふっと笑うと、流星も自分の発言に少し口端を緩ませた




それから、お互い一回ずつお代りをして食事を終えた
流星が食器を片付け戻ってきた時、ネズミはじっとその様子を見ていた

「・・・ネズミ、どうかしたか?」
少しの変化も見逃さないように観察されている気がして、思わず尋ねた
すると、ネズミは無言で立ち上がり、流星の腕を取った

「っ・・!?」
その瞬間、その腕が反射的に跳ねた
驚いたわけではないのに、腕だけが勝手に反応したような感じがした

「・・・流星、こっちに来い」
ネズミはその腕を引き流星を立ち上がらせると、ベッドへ座るように誘導した
今の自分の反応がおかしいものだと察知して、心配でもしたのだろうかと思ったので、流星は大人しかった

流星はベッドに座った時、再び異変に気付いた
いつもより、少し体が熱い気がする
体調を崩しているわけではないのに、不思議と体だけが熱い

心臓が、血流を早く流そうと強く脈打つのがわかる
食後に、こんな状態になった事はない
もしかしたら、自分の気付かない内に、病気にでもかかったのだろうかという考えが脳裏を横切った


「効いてきた・・みたいだな」
ネズミは、ほのかに赤らんでいる流星の頬を見て言った

「効いてきたって、何・・・っ、あっ・・」
ふいに、ネズミの指先が流星の首筋をなぞった
すると、とたんに流星の肩が跳ね、口からはやや上ずった声が発されていた

そこで、流星は今の自分はやはりどこかおかしいと確信した
首筋に触れられた程度で声を上げてしまうほど、自分は忍耐弱くはない
首筋を撫でた手が、滑らかな手つきで耳朶に触れる

「っ・・ぁ・・・」
その指先になぞられるだけで、たったそれだけの行動で声が発される
指先から感じる相手の温度を、いつもより敏感に感じ取っている自分がいる
流星は、そんな自分に驚きを隠せなかった

たまらずその手を払い退けたとたん、ネズミが首筋に顔を埋めた
何かされる前に押し返そうと思ったが、首にかかる息だけで力が抜けていく感覚がする
そんな状態では、相手を突き飛ばすなんて力技はできなかった
それをいいことに、ネズミはその首筋に軽く舌を這わせた

「あ・・っ・・・ぅ・・」
柔らかい物が首筋を這っている感触に、やはり声が発される
とっさに奥歯を噛み締め、声を出すまいとしても駄目だった
行きどころのない息と言葉は、自分の意思を無視して発されてしまう

その状態のままネズミが前へ体重をかけると、流星はその負荷を支えられずに後ろへ倒れた
すると、ネズミは間髪入れず、流星に深く口付けた
流星は目を強く閉じ、今から与えられる感覚に耐えるべく、体に力を込めた
勝手に開いてしまった口はネズミのものを受け入れ、自分から動きはしないが抵抗する事もしなかった

「は・・・っ・・・あぁ・・・」
柔らかな感触を口内に感じる
それの動きは激しくなくとも、どんどん体に熱が溜まってゆく
自分の体の異変と、急にこんな事をしたネズミの意図がわからず、流星は狼狽していた

合わさっていた個所が解放されると、流星は息を荒げた
体の熱のせいで息のリズムがおかしくなり、思考もうまく働かなくなっている

「な・・・んで、いきなり、こんな事を・・・」
息をついた間に、何とか言葉を紡いだ

「あんたが、おれを求めるようにするためだ」
「求める・・・だと・・・?」
自分から相手を求める事なんて、滅多にしなかった
それは相手に甘える行為を、自分のプライドが許さなかったからだった

一人で耐えて耐え抜いて生きてきた流星にとって、他者に甘え求めるなどという行為は恥以外の何物でもなかった
触れられる事は拒まないが、触れる事を拒む
ましてや、こんな状況で相手を求めるなんて事は、強い羞恥があった

「あんたのスープに、媚薬を入れさせてもらった。体の熱は、そのせいだ」
ネズミは単刀直入に言った

「媚薬・・・!?」
その言葉に、流星はまた驚いた
性欲を活性化させるその薬を飲まされ、今その効果を実感しているなんて、信じられなかった
だが、この異様な熱はそのせいなのかと、納得せざるをえなかった

それと同時に、腹が立った
薬を使ってまで相手を翻弄しようとする、まるで使魔さんのような事をネズミがした
そんな手口を彼が使った事に、憂いと怒りを感じた

「そんな薬を使ってまで、僕と性的行為をしたいのか!」
未だにやや激しい息を堪え、流星は声を荒げた
その行為をしたいのなら口で言えばいいのに、薬に頼ったネズミに憤りを感じた

「・・・あんたの言う、性的行為はただの手段だ」
張り上げられた流星の声をよそに、ネズミは平然として言った
欲情してほしいと言われても、その原理がわからないのだから、どうにもできない
相手から触れられる事でしか、その欲情するという方法を流星は知らなかった

「おれは、あんたの肌の感触に、発される声に、警戒を解いた眼差しに、欲情してる。
そして、あんたを求めてる」
「な、何を言い出す・・・そんな事で、僕が気分を良くするとでも思ったか」
そんな、相手を誘惑するような事はした覚えがない
自分がネズミに見惚れそうになる事はあっても、その逆はありえない
特に際立ってひいでている所といえば、羞恥心とプライドぐらいのもの
他者を欲情させるような魅力は持っていないと、自分が一番よくわかっていた

「これは、おれの本音だ。
おれは、あんたからもおれを求めてほしいと思ってる」
「・・・・・・嫌だ」
ネズミを拒んでいるのではなく、薬に任せた感情で動くのが嫌だった
それに、たとえ薬が入ってなくとも、それはとうてい無理な話だった
この、自分の強い羞恥心とプライドを跳ねのけるよほどの事がなければ、他者を求める事はありえない


流星はベッドから下りようと、体を傾けた
だが、そう簡単に逃がしてくれるはずはなく、ネズミに両肩を抑えつけられた
そして、ネズミは再び流星に深く口付けた
今度はさっきのような優しいものではなく、相手を渇望するような激しさを兼ね備えていた

「は・・・あ・・・っ・・・」
ネズミは自分の欲に任せて舌を絡め、流星の苦しそうな呼吸をよそに、水音をたてて口内を荒らした
流星が抵抗できないその内に、ネズミの手は相手の上着を取り去り、シャツのボタンを外していく
胸をはだけさせたところで、ネズミは絡めていた物を離した

「っ・・・は・・・」
舌が絡められていた余韻が残っているのか、流星の息は落ち着かなかった
その様子を見たネズミは、露わにした箇所に触れるまでもないと思ったのか、流星のズボンのベルトを外しにかかった

「や・・・めろ・・・」
荒い息を交えながら、抵抗の言葉を示した
抵抗しようとするのは言葉だけで、体には相手の手を退けるだけの力が入らない
そんな弱い声だけでネズミが止まるはずはなく、早々にベルトを外すと、ズボンにも手をかけた

「嫌だ・・・」
拒絶の言葉を発しても、どうにもならない
ただ、自分の服が取り去られてゆく事を感じているしかなかった
そして、自分が身につけている物は、中途半端にはだけているシャツだけになったのがわかった
そこから間髪入れず、ネズミは指を一本、露わになった流星の中へ埋めた


「っあ・・・!」
空気が一気に逆流して、吐き出される
自分の中に入ってきた異物に強く反応し、全身に力が入る
その指はわずかに埋められているだけだというのに、呼吸が荒くなってゆく
ネズミはそのまま指を動かさず、二本目も同じように中へ埋めていった

「あ・・・あ・・・っ・・・!」
反射的に、シーツが強く掴まれる
その二本の指だけで、埋められているネズミの指は濡れてきていた
後ろはかなり慣らさないと濡れてこないものだが、今の流星の体は敏感に反応しすぎていた
ネズミは指を引き抜くと自分も服を脱ぎ、その液を自分のものに絡めた


「流星・・・おれが、欲しいか・・・?」
ネズミは、相手を誘いかけるような妖艶な眼差しを向けながら、問いかけた
だが、流星から発されるのは荒い息だけで、答えは出てこなかった

欲に任せた答えならば、すぐに相手を求めるだろう
その相手からしか与えられない欲を注いでほしいと、懇願するだろう

だが、流星は薬を忍ばせた相手を誰が求めてやるものかと、半ば意地になっていた
ただでさえ強い羞恥心とプライドに意地も加わって、流星は無言で頑なな意思を主張していた
口から発されるのは荒い息だけだと察したのか、ネズミは液をつけた自分のものを流星の中へ進めた

「あぁっ・・・!は・・・あ、あ・・・っ」
わずかにそれが埋められた瞬間、流星はいっそう甘く荒い声を上げた

粘液を纏ったものは、滑るように、だがゆっくりと身を進めてくる
呼吸がうまくできなくなり、吐かれる息と共に喘ぎが漏れる
そのせいで有り余る力を、ネズミの背に腕をまわして開放したかった

だが、それではまんまとネズミの思い通りになってしまう事になる
だから流星は必死にシーツを掴み、確固たる意地を保っていた
ネズミはあえて流星を達させないように、慎重に自身を進めて行った

「ぅ・・・っ、あ・・・ぅ・・・」
流星も簡単には欲に呑まれはしまいと、シーツを掴み耐えていた
そして、その動きが止まったところで、お互いの下腹部が触れ合った
中にあるものが動かなくなったとはいえ、気を抜くと抑圧しているものが解放されてしまいそうだった


ネズミは前の方に体を倒すと、中途半端にはだけていた流星のシャツを取り去った
そして下腹部を触れ合わせたまま、露わになった胸の起伏している部分を指先で撫でた

「っ・・・あ・・・ぁ・・・」
指先が軽く触れる程度の刺激だけで、流星の下腹部は敏感に反応を示した
一瞬、筋肉が収縮し、ネズミを締め付ける
ネズミは熱い吐息を吐くと、さらに体を前に倒し、荒い息をしている流星に口付けた

「ん・・・は・・・ぁ、あ・・・っ」
荒い呼吸に口を閉じられず、ネズミの舌を妨害するものは何もなかった
そしてネズミは流星の舌を巧みに絡め取ると、それを自分の口内へ引き入れた

「んん・・・っ・・・!は・・・」
抵抗する余裕が無く、流星はそのままネズミの口内で絡め取られた
ネズミが自分の口内へ引き入れた物を甘噛みすると、お互いの熱い吐息が混じり合う
それが解放された時、唇の端から糸が伝った
伝った糸を舐めとられただけでも、流星は喘ぎを漏らした


流星の体はネズミの動作全てに反応し、そのたびにシーツにしわが寄った
ネズミは自分の唇を軽く舐めると、再び流星の胸の起伏を指先でもてあそんだ

「あっ・・・!は・・・っ・・・あ・・・ぁ・・・・・・っ」
中に入っているもののせいもあってか、与えられた刺激に流星は上ずった声をあげた
どこかに触れられるたびに下腹部が熱を帯び、限界が近付いている事を示す
もう少しでも奥に詰め寄られれば、抑制が解放されてしまうのを自分で感じ取れるほどだった

そこで、わずかにネズミが身を引いた
わずかに圧迫感が退いた事に、流星は息を吐いた
だが、その一瞬の安堵感が仇となった
ネズミは流星が大きく息を吐いた瞬間、触れていた起伏に舌を這わせた

「あぁっ・・・!は・・・あ・・・!」
流星は、柔らかいその感触と、絡みつくような液の感触に、いっそう甘い声をあげた
シーツを掴む手にはさらに力が込められ、握り締めた掌には仲介物があっても爪痕がつくほどだった
そして、ネズミがふいに起伏を吸い上げた時、流星の抑制していたものが、解放された

「うぁあ・・・っ・・・は・・・ぁっ、ああっ――!」
与えられた刺激に、流星はなすすべもなく限界を迎えた
とたんに物が入れられている箇所の筋肉が収縮し、中の物を締めつける

「っ・・・!」
ネズミは自分も達する直前に、入れていたものを途中まで引いた
そして、もうすぐ完全に引き抜かれるというところで達し、流星の中に熱い液が流れ込んだ

「・・・・・・あぁ・・・っ・・・」
ネズミが自身を全て引き抜くと、そこには混じり合った液が絡みついてきていた
流星は、達した余韻で目が虚ろになり、体には倦怠感がまとわりついていた

だが、自分は薬の誘惑に屈する事無く、行為を終える事ができた
決して相手を求める事無く耐えきった事に、流星は安堵していた
それは、行為を終えた事に対してではなく、自分の誇りを保つ事ができた事に対する安堵だった


たいてい、達した後は、だんだん呼吸が落ち着いてくるのが一般的だった
流星は、この荒い息が治まったら、ネズミに皮肉の一言でも言ってやろうと考えていた
だが、ここでもまた自分の体に異変があった

落ち着いてくるはずの呼吸は乱れが治まらず、まるでまた達する前に戻ってしまったかのように激しい
ネズミのものが引き抜かれた箇所が、疼いている
まるで、まだ欲が足りないと主張しているかのように
その疼きはたちまち欲を掻き立て、再び流星の体の中に熱を蓄積していっていた

媚薬の効果は、まだ続いていた

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