NO.6 番外 ネズミ、紫苑編#4 前編


―全てを・・・―


流星は、ネズミの家に来ていた
家に呼んだのは、ネズミだった
流星の様子からあることを悟ったネズミは、暖房器具のある温かい部屋へ来るように提案していた

部屋には、紫苑も居る
三人は、これがいつものポジションというように、ベッドに並んで座っていた

「紫苑、ネズミ。・・・君達は、僕を受け入れるって・・・そう、言ったよな」
流星は、緊張と不安が入り混じった表情で呟いた

「うん。ぼくは、いつだってきみのことを受け入れてるよ」
紫苑は、流星に優しく微笑みかけた
ネズミは、黙って頷いていた

「僕は・・・それを示してもらうために、ここに来た」
今から自分がとる行為は、彼らを遠ざけてしまうものかもしれない
けれど、その行為の果てに得るもののために
他者を受け入れることができなくなってしまった自分を、変えるために
そうして決意して、ここに来た

彼等は絶対、信頼してもいい存在なのだと
頑固な自分に、示すために


「示すって・・・どうやって?」
紫苑の問いに流星は答えず、上着を脱いだ

「流星?」
突然の行動に、紫苑は不思議そうに尋ねた
ネズミは、ただ黙って諦観していた
続いてシャツのボタンを外し、胸部をはだけさせる
男であることを示すその部分を、二人に見せるように
紫苑は、流星の行動の意図がわからず、目を丸くして驚いていた

流星は次に、ベルトへと手を伸ばした
そこで少し、手が震えた
それでも、手に力を入れてその震えを抑え込み、金具を外した

「り、流星・・・」
紫苑も流星が何をする気なのか感づいたのか、焦りを見せた

流星は答えず、ズボンに手をかける
しかし、手はそこで止まった
羞恥心とプライド、そしてもう一つの要因が手を止めていた


ここで沈黙しているわけにはいかない
手を動かし、行動しなければならないのに
それなのに、ぴくりとも動いてくれなくなった
早くここから手を退けろと、脳がそう命令する

でも、そうするわけにはいかない
尻込みしてしまったら、ここへ来た意味がなくなる
もう少しで、自分の全てをさらけ出せるのに
どうしても、それができない

そんな自分に、苛立ちを覚える
しかし、いくら苛立っても状況は変わらない
手は、ずっと動かなかった


そうしていると、だんだんと心音が不規則になり、締め付けられる痛みを感じた
二つの意思の間の葛藤が、緊張感を仰ぐ
その異変に気付いたのか、紫苑が流星の腕を掴んだ

「流星、きみが何をしようとしているのか、だいたい察しはついたけど・・・
そんなこと、むりにしないほうがいい」
心配そうな表情で、紫苑が流星の顔を覗き込む

「・・・・・・無理にでもしないと・・・そうでもしないと、僕は・・・」
そこで、ずっと諦観しているだけだったネズミが動いた
ネズミは流星の肩を強く押し、仰向けになるよう押し倒した

「あ・・・」
緊張で強張っていた体は簡単に倒され、二人を見上げる形になった
ネズミは流星を見下ろし、緊張を解くかのようにその頬に手を添える
紫苑は、流星の手をそっと握っていた

「流星・・・任せられるか?おれたちに・・・」


その言葉の意味は、ここにいる全員がわかっていた

流星は、恐れを感じていた
自分をさらけ出してしまえば、二人が離れて行ってしまうのではないかと

首を横に振れば、今までどおりの関係を保ってゆける
しかし、それはただ逃げるだけだ
この二人には、全てを知ってほしい

流星はネズミの問いに、小さく頷いて肯定した
ここから先のことを、二人に委ねると


「・・・わかった」
ネズミは、流星の下肢へ手を伸ばす
どうしても不安になってしまう顔を見られたくなくて、流星は強く目を閉じた

下半身を隠す衣服が、ゆっくりと下がってゆく
流星は息を呑み、掌に爪を食い込ませる
紫苑は両手でその手を掴み、少しでも安心感を与えようとする

そして、下肢が外気に触れた

「っ・・・」
温まった部屋の外気にさらされ、どっと緊張感があふれてくる
二人は、どんな顔をして自分を見ているだろうか
驚愕か、嫌悪か
目を開けて、その表情を見るのが怖い
流星は、羞恥からではない心音の高鳴りを感じていた


「流星」
優しげな紫苑の声が、耳に届く
しかし、目を開くことができない
嫌悪の眼差しを向けられていたらどうすればいいのかと
今の流星にあるのは、恐怖心だけだった

「・・・流星」
今度は別の、優しい声が聞こえてくる
その声と共に、温かな手が髪を撫でる
その手は頬へ首へと、優しい愛撫を繰り返す

安心感を与えてくれるような、心地良い温もり
不思議と、緊張感が解けてゆく

「大丈夫だよ」
紫苑が、勇気づけるように声をかける
その声には、驚愕も、嫌悪も感じ取れなかった
頬を撫でる手に、優しい声に
流星は、薄らと目を開いた


ぼんやりと、二つの影が見える
徐々に目を開き、はっきりと二人が見えるまでになる
その表情は―――とても、優しかった

流星は驚きのあまり声さえ発することができず、ぽかんと口を開けていた
どうして二人がそんな表情をしているのか、理解できなかった
でも、理解できずとも、とても大きな安堵感を覚えているのは確かだった


ネズミはふっと笑み、身を屈める
そして、ぽかんと開いたままの口に、そっと自らを重ねた

いつもなら、羞恥を感じて仕方のない行為
しかし、流星はゆっくりと目を閉じ、ネズミを受け入れた

「ぁ・・・」
開いている箇所から、柔らかなものが進んでくる
それにも、抵抗しなかった
相手が受け入れてくれたのなら、自分も受け入れたいと
そんな思いが、胸の内にあった

今度は、さっきとは違う心音の高鳴りを感じる
緊張感からではなく、もっと温かなものによる高鳴りを


ネズミが身を離すと、次は紫苑が身を重ねる
流星はじっと動かず、受け入れ続けていた

今も、ずっと感じている
この安心感と温かさは、一体何なのか
流星は口付けのさなか、そんなことをぼんやりと考えていた

けれど、答えは出なかった
たとえ答えが出なくとも、この幸福を感じていられればそれでよかった


ネズミに比べると控えめな口付けが終わり、紫苑が身を離す
流星はゆっくりと目を開き、二人を見た

「・・・君達は、受け入れてくれるのか・・・こんな体の、存在を・・・」
答えは決まっていたかのように、二人はふっと微笑んだ

今まで向けられていた視線とは違う
とても優しい眼差しを、二人は向けてくれている
もう、二人を疑う要素はなくなった
信じてゆける、この、本当の友を・・・


「あ・・・あの、もう、戻してもらってもいいか・・・ズボン・・・」
自分の今の状態を思うと、再び顔に熱が上る
自分では手の届かない位置にそれがあるため、戻そうにも戻せなかった

流星はそう頼んだが、二人は沈黙していた
どうしたのかと不思議に思った流星は、これ以上さらしておくのも何なので身を起こそうとした
しかし、ネズミが流星の肩を抑えつけて阻んだ

「ネ、ネズミ・・・?」
流星はわずかな危機感を覚えたが、それは微弱なもので、相手を突き飛ばすには至らなかった
ネズミは片手で流星の肩を抑えたまま、もう片方の手を露わになっている下肢へ伸ばす
そして、最も下方にある箇所へ、その指が触れた

「・・・!」
流星ははっと息を飲み、驚愕の表情でネズミを見た

「あんたも、受け入れてくれるか・・・?」
驚きのあまり、一瞬息が詰まる
こんな体をした自分が求められていることが、信じられなかった

「無理にはしない。でも・・・ぼくらを、受け入れてくれるのなら・・・」
恥じらっているのか、紫苑は顔を赤らめて声を小さくした


まさか、そんな行為を求められるとは思っていなかった
許してもいいのだろうかという疑念が浮かぶ
けれど、二人を拒む理由は見つからなかった
僕はどこかで、二人を受け入れたいという思いを感じている
信頼できる、この二人を


「・・・君達は、僕を受け入れてくれた・・・」
流星は、二人に伝えるように
そして、自分に言い聞かせるように言う
自分の羞恥心とプライドが、二人を拒まぬように

「だから・・・僕も、君達を・・・受け入れたい・・・」
流星がそう答えた途端、紫苑はその口を塞いでいた

もう、後戻りはできない
しかし、後悔はしていなかった
僕はこの温もりを、心地良いものだと感じていたから


そして、口付けのさなか、ネズミが触れていた箇所に、ふいに指を埋めた

「ん・・・っ!」
突然、下肢に感じた感覚に、流星の喉の奥から声が出そうになる
紫苑は、その声を解放させるように、自身の舌を流星の口内へ滑り込ませた
もう、抑制がかかっていないのか、紫苑の行動は大胆になっていた
紫苑が流星の口を開かせたのを見ると、ネズミは自らの指を奥へと進めた

「あ、っ・・・んん・・・!」
口内に感じる柔らかなものと、下肢に感じる刺激に声を抑えられない
羞恥を感じても、どうにも抑えられない声が発されてしまう

声と共に上ってくる熱
それは羞恥を伴うものでも、拒むべきものではなかった


紫苑が身を離した瞬間、ネズミはもう一本、流星の中へ指を挿入する

「あ、ぁ・・・っ」
流星はたまらず、紫苑を目の前にしながらも声を上げてしまう
紫苑は、流星が顔を背けないよう両手で頬を包んでいた

「流星・・・すごく、可愛い・・・」
それは、流星にとって好ましくない言葉だと知っていても
ほとんど無意識の内に、紫苑はそう言っていた

いつもの凛とした表情からは考えられないような、紅潮した頬
プライドの高い相手からは聞けないような、あられもない声
それらを形容する言葉が、紫苑の口から反射的に零れていた

「そんな褒め言葉・・・っ、嬉しくない・・・」
流星はやはり抵抗があるようだったが、嫌悪感は覚えていなかった
嫌み事ではない、本心からの言葉だと察しているからかもしれない

「ふふ・・・高貴なナイト、もっと、乱してさしあげますよ・・・」
ネズミはにやりと笑い、指を軽く曲げ、そして動かす

「ぅ・・・っ、ぁ・・・」
流星は声を抑えようとするが、荒い呼気と共にどうしても声が漏れ出してしまう
ネズミの言葉に羞恥を感じても、反発できない
流星は、与えられる感覚に身を任せているしかなかった

下肢の指が動かされるたびに、液の絡む音が耳に届く
それは、流星だけではなく、紫苑にも昂りを与えていた


「流星・・・ぼくも、きみを満足させてあげたい・・・」
紫苑は、自分の手を流星の下肢へと伸ばす

「っ、紫苑・・・」
もしかしたらコンプレックスに触れられるのではないかと思った流星は、不安そうに名前を呼んだ
そんな不安を察したのか、安心させるよう紫苑は優しく笑いかけた

「大丈夫。触れるのは・・・ネズミと、同じところだから・・・」
「えっ・・・」
流星が何かを言う前に、紫苑は触れていた
そして、ネズミの指が入れられているその箇所へ、自分の指をゆっくりと埋めていった

「あっ・・・ぁ・・・」
自身の中の圧迫感が増し、流星は身を震わせる
ネズミは一瞬驚いた表情をしたが、抗議をすることはなかった

別々の指が、流星の中を掻き乱す
内部でばらばらに動くものに、流星の呼気はますます荒くなっていった
それを見て、もう解すのは充分だと思ったのか、ネズミは動きを止め、指を抜こうとした
けれど、紫苑がその腕を掴んで阻止した

「あんまり・・・その、負担になるようなことは・・・しないほうが、いいと思う。
・・・初めてだと思うし・・・」
紫苑は、今でさえ荒い息を吐いている流星に、あまり大きな負担を与えたくなかった
ネズミは訝しそうな表情で紫苑を見たが、小さく溜息をついただけで逆らわなかった
行為に慣れていない相手に、二人でするのは酷だと思ったのかもしれない

「終わった・・・のか・・・」
動きが止まったのでもう満足したのだろうかと、流星は二人の方を見た

熱を帯びた吐息が止まらず、羽織っているものははだけたシャツの一枚だけだというのに体が熱い
二人に触れられたことで、体の内には熱がこもっている
それを解放させなければならないと、本能が訴えている
しかし、流星はどうすればいいのかわからないでいた


「紫苑・・・ネズミ・・・・・・どうにか、してほしい・・・熱いんだ・・・」
早く解放してほしいと、そんな気持ちが急くばかり、流星は口走っていた
まるで相手を求めるような、滅多に聞けない言葉が二人に届く
その瞬間、二人は自分の眼下にいるこの相手を達させたいと、そう強く思った

「流星・・・もうすぐ、満足させてあげられるから・・・」
紫苑は流星の言葉に答えるように、自身の指をもう一本、慎重に挿し入れた

「は、ぁ・・・っ、あ・・・!」
ふいに増した感覚に、上ずった声が発される
解されているとはいえ流石に狭いのか、紫苑はゆっくりと指を埋めていった
そして、それが根元まで埋まったのを見計らい、二人は少しずつ動かし始めた

「あっ、ぅ・・・は、ぁ・・・っ・・・」
自身の中が広げられ、乱されてゆく
初めて感じ、湧き上がってくる悦に、流星は耐え得る術を持っていなかった
熱を解放してほしいと思う一方で、耐えるかのようにシーツが握りしめられる
だが、その抵抗はほとんど意味を成さなかった


「ああ・・・ナイト、こんなにも乱れて・・・とても、官能的ですよ・・・」
ネズミはうやうやしく、それでいて何かに酔いしれているような、そんな口調で語りかける
そんな言葉の恥ずかしさも、今の流星はほとんど感じなかった

「・・・紫苑・・・・・・ネズミ・・・っ・・・」
無意識の内に、流星は二人の名を呼んでいた
求めるように、そして、懇願するように
ただ名を呼ばれただけでも、二人は瞬間的な心音の高鳴りを感じていた
求められていると、実感した瞬間だった
そして、その瞬間
指の動きはふいに荒くなり、流星の奥を掻き乱した

「あぁっ・・・!あ、ぅ・・・っ、あぁ―――!」
ばらばらな動きに内部を乱され、流星は発したことのないような声を上げた
体が一瞬痙攣し、全身に力が込められる
それは二人が挿入している箇所も例外ではなく、それらは強く、締め付けられた

締め付け、収縮するごとに、二人の指の感触をはっきりと感じてしまう
その反応を抑えることはできず、流星は収縮と弛緩を繰り返しながら、体が落ち着くのを待つしかなかった



「は・・・ぁ・・・っ、は・・・」
収縮も弛緩もしなくなった体は、一気に脱力した
それを確認して、反応していた箇所からゆっくりと、一本一本指が抜かれてゆく
流星はその感触にも身ぶるいしたが、もう先程のような強い感覚が襲ってくることはなかった


自分の中にあったものがなくなると、流星は大きく息をついた
感じたことのない独特の虚脱感を覚え、体を動かせなかった
そんな流星を見下ろす二人は、おぼろげな眼差しと、悦の余韻を感じているその表情に、しばしの間見惚れていた

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