NO.6 短編、ほだされれる感情
(感情の抑制の続きです)


流星がネズミの家で目覚めたとき
まだまわされている腕は解かれておらず、流星の身動きを封じていた
一晩中腕をまわしていたら疲れるだろうにと半ば呆れたが、同時に安らぎを覚えていたのは事実だった

「起きたか」
腕の中で流星が動いたことに気付いたのか、ネズミが声をかけた

「おはよう。・・・もしかして、君はとっくに起きていたのか?」
「ああ、結構前にな」
その答えに、流星は昨日感じた感情を再び感じていた
起きていたのなら、さっさとベッドから出て仕事にでも行けばいいのに
こうして傍について、相手が起きるのを待ち続けているなんて、まるで・・・
流星はそのとき思った自分の考えが信じられず、思考を遮断した

「あ、腕、疲れただろ。もう僕、起きるから」
少し慌てた様子で流星はネズミの腕を解き、ベッドから下りて立ち上がった
さっきまでの状態がまるで恋仲同志のように思えたなど、口が裂けても言えなかった
あっさりと腕を解いたネズミだったが、流星が離れるとその後を追って立ち上がった
そして、あまり距離が開かない内に流星の腕を取った
流星はとたんに硬直し、その場で足を止めた

「流星」
名を呼ばれたが、振り向きざまに昨日のようなことをされるのではないかと、流星は慎重に振り返った
「あんたの家に行きたい」
ネズミは、流星と視線を合わせて言った
「僕の家に?」
流星は、なぜわざわざ暖房器具もない寒い家にネズミが来たがるのかわかっていなかった

「いいけど、寒いぞ?防寒用具といえば、毛布ぐらいしかない」
「風呂があるだろ。それで充分温まる」
その言葉に、流星は納得した
ネズミの家には浴槽がなく、全身を充分には温められない
だから、一度じっくり湯に浸かってみたいのだと、そう思った

「夜に、行ってもいいか」
だから、ネズミがそうして時間指定をしても、流星はなんら訝しむことはなかった

「ああ、構わない。風呂に湯を張っておくよ」
流星が了承すると、ネズミは手を離した
「じゃあ、また夜に」
手が離されると、流星は早々に家を出た
あまり長く居続けてしまうと、またほだされてしまいそうだった





そして、夜
流星がシャワーを使って浴槽に湯を溜めている途中で、ネズミは家を訪れていた
「・・・そろそろ、いい具合かもしれない。
体を拭く布は用意しておくから、冷めない内に入ってきたほうがいい」
浴槽には蓋がないので、あまり長い間温度を保ってはいられない
それも、あまり浴槽に湯を張らない理由の一つだった

「それでは、ナイトのご厚意を賜ることにいたします」
ネズミは少しわざとらしく軽いお辞儀をし、浴室へ入って行った
ネズミが出てくるまでの間流星は特にすることもなかったので、ベッドに座って待つことにした




ほどなくして、ネズミが出てきた
あまり長湯はしないのか、その時間は10分ほどだった
「じゃあ、次は僕が入ってくるから、毛布にでもくるまっていてくれ」
流星は、ネズミと入れ替わりに浴室へ入った
いつも面倒で滅多に湯を張らない浴槽に、自分もじっくり浸かりたかった



一人で風呂に入るときも、腰元の布を外すことはない
自分のコンプレックスを、体を洗うたびに見るなんて耐えられなかった
もう先にネズミが入っていたからか、浴室の中は暖かく快適だった

シャワーで体を洗い、浴槽に肩まで身を沈める
温かい湯の温度に包まれ、このまま眠れればさぞかし良いだろうなと思った


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